首都圏住民3,300万人の食を預る台所、東京都中央卸売市場築地市場。「老朽化」や「手狭」を理由に、築地市場を江東区・豊洲に移転させる計画が浮上、2012年をめどに移転が決定したのが2001年。しかし2014年現在、未だに工事着工には至っていない。
1月14日、細川護熙元首相が小泉元首相の後ろ盾を受け、「脱原発」を掲げての立候補を表明した。これによって、大手メディアは一気に都知事選の争点を「原発」へと収斂させ、2020年に開催される「オリンピック」と並んで、有権者の注目を集めている。しかし、都民の生活に直結している、築地市場の問題をよそに、原発やオリンピックに沸き立つ都知事選を、冷めた目でみる都民も少なくない。
2011年都知事選では争点に
実は2011年の都知事選では、築地市場の移転問題は選挙の争点になっていた。移転先の豊洲の予定地に、土壌汚染が見つかっていたからだ。主要候補者の中で唯一、移転を支持していた石原慎太郎氏が当選。土壌汚染に対する世論の懸念を払拭するため、石原氏は「専門家から意見を聞く」と公言し、石原都政下で、豊洲予定地の汚染対策が実現したのである。
ベンゼン、国の基準4万3000倍の汚染
新市場予定地は、東京ガスの工場跡地だったこともあり、深刻な土壌汚染が発覚した。ヒ素やシアン(青酸カリ類似物質)といった有害物質が確認され、発癌性ベンゼンにおいては、国の環境基準の4万3000倍。日本の土壌汚染の歴史上、最大の高濃度であると言われている。
何度も言うが、首都圏3,300万人分の食を預る場所で、である。
秘密裏に進む汚染調査と対策工事
住民に情報を開示せず、物事を強行に進めるのは国や行政の常套手段だが、築地移転問題についても同じだ。東京都は知的財産保護等の理由で、土壌汚染についての検討内容を非公開にしてきた。
東京都、汚染を知っていて土地を購入していた?
来年度をめどに土壌汚染対策工事の完了を宣言している東京都だが、移転に反対し続けてきた一級建築士の水谷和子氏は、都の汚染対策を不十分だと指摘する。水谷氏は、独自の調査で、「汚染は、地下深くまで達していない」とする都の主張に対し、有害物質は深い地層まで突き抜けていることを明らかにしたのだ。
そもそも、都は汚染や地層の状況を調べるために採取した、ボーリングコアサンプル(採取された土壌)を、廃棄しようとしているという。このサンプルの分析結果を元に土壌汚染対策は行われており、廃棄されてしまえば、土壌対策が妥当かどうか判断することができない。開示を拒否する東京都に対し、「築地市場移転問題原告団」は、コアサンプル差止め訴訟を起こしている。
水谷氏もメンバーの一人である同原告団は他にも、石原慎太郎元知事の賠償責任を問う「公的返還請求訴訟」を起こしている。汚染の事実を知りながら、財産価格審議会を欺き、高い価格で用地を購入したことに対し、都の損害分を返還するよう求めるものである。
廃業に追い込まれる仲卸業者300軒
築地移転の問題は、他にもある。
築地市場にある仲卸事業者の数は現在、約700軒。これらの多くは仲裁零細企業だ。市場関係者は、約半数の卸売業者が、移転に伴い廃業に追い込まれるだろうと懸念している。その理由は、移転先の場所代や設備投資は自己負担となっているからだ。事業者が廃業すれば、多くの労働者が失業することになる。しかし、東京都はこれに対し何の対策も打ち出していない。
新知事は、情報公開と説明責任を
都の隠蔽体質を強く批判するのは、移転問題に精通する、東京中央市場労働組合書記長の中澤誠氏だ。中澤氏に、都知事選について話を聞いた。
「新しい都知事には、民主主義にふさわしい都政運営を求めます。そのためには、『情報公開』。新市場の施設使用料についてすら、未だにちゃんとした説明がなされていない。土壌汚染に至っては、隠蔽三昧です。
つまり、築地市場の移転については、我々都民には、判断する材料すら与えられていない。無駄な時間とお金が費やされ続けています。
前都知事の猪瀬直樹氏は、私たちの公開質問状に回答しないまま、辞任しました。十分な情報公開をする知事を求めます。今、都知事候補者宛の質問状を準備中です」
中澤氏は、説明責任を果たす人物が知事になれば、築地市場の移転計画や中止になるのではないかと予測する。裏を返せば、それだけ穴の多い計画が無理やり強行されているということだ。
各候補者の「築地移転」政策
都民の食と安全、そして雇用に生活をこれだけ直撃する問題を抱えていながら、都知事選の争点になっていないが、言及している候補者もいる。
宇都宮健児候補と田母神俊雄候補だ。
田母神氏は政策集の中で、「築地市場は、都民や業者の安全を確保しながら移転を推進します」と移転に賛成している。豊洲の土壌汚染についてどのように考え、その汚染から我々都民の「食の安全」をどう確保するというのだろうか。具体的な中身を知りたいところだが、驚くべきことに、政策集に書かれているのは、上記の1行のみである。
他方、これまでもこの問題に関わり続けた宇都宮氏は2012年の立候補時と同様、移転見直しを明言。徹底した土壌汚染調査と、築地市場で働く人からの意見聴取を踏まえ、移転の是非を改めて判断すると説明している。
一方、舛添要一氏は立候補を表明した記者会見では、築地に関しては言及していない。細川護熙元首相についても、基本政策の中に築地の文字は見当たらない。
尖閣諸島購入という負の遺産を残した石原知事の、もう一つの置き土産である、豊洲予定地。IWJは、この都知事が、食の安全や文化に大きく関係するこの問題を、TPPの視点からもどう受け継ごうとしているのか、今後各候補に取材し、各人の姿勢を明らかにしていきたい。
都知事選前に経緯や問題点がコンパクトにまとめられた【築地移転問題】記事― 2014/01/20 【東京都知事選】3,300万人の首都圏の台所が汚染だらけの豊洲に移転~選挙の争点にならない「築地移転問題」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/120599 …
宇都宮氏は2012年の立候補時と同様、土壌汚染調査と、意見聴取を踏まえ、移転見直しを明言。