「この世は生きるに値すると、伝えなければならない」──。 2013年9月6日(金)14時、東京都武蔵野市のホテルで、アニメーション映画監督の宮崎駿氏が会見を開き、公開中の最新作『風立ちぬ』をもって長編映画の制作から引退することを宣言した。これにより『風の谷のナウシカ』(1984年)、『となりのトトロ』(1988年)、『もののけ姫』(1997年)など数多くの名作を世に送り、日本のアニメーション映画を長年牽引してきた巨匠の引退が正式に伝えられた。スタジオジブリの星野康二社長の進行で、鈴木敏夫プロデューサーの同席のもと、宮崎氏は自身の心境を語った。
- 出席者
宮崎駿氏(アニメーション映画監督)
鈴木敏夫氏(株式会社スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー)
星野康二氏(株式会社スタジオジブリ 代表取締役社長)
宮崎氏は「何度も辞めると騒ぎを起こしてきた人間なので、『どうせ、また』と思うかもしれませんが、今回は本当です」と、会見の冒頭に宣言した。鈴木氏は「『風立ちぬ』がいろいろな方から支持されている時に、引退を決めたのは良いこと」と述べた。また、今後のスタジオジブリに関しては、「現在、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』を制作中で、11月23日に必ずお届けする。また、来年の夏を目指して、もう1本制作中だ」とし、世間の不安の声を払拭した。
宮崎氏は「今後も車が運転できる限りは、毎日アトリエに行く。前からやりたかったこと、やらなければいけないことを、やっていこうと思う」と述べたが、具体的な内容は「約束ができないので」と明示しなかった。しかし、長編アニメーションに関しては、「もし、やりたいなと思っても、年寄りの世迷い言として片付けようと思っている」とし、完全な引退を強調した。また、続編が期待されていた1984年公開の『風の谷のナウシカ』についても、「続編はありません」と明確に述べた。
スタジオジブリの今後について、宮崎氏は「若いスタッフから、こういうことがやりたい、と声が上がってくることを期待している。僕らが30才、40才の時、『やっていいんだったら、何でもやるぞ』という覚悟で作品を作ってきた。鈴木さんは(若手の企画を)門前払いするような人ではありません」と、スタッフたちへエールを送った。
宮崎氏は引退理由として、「『風立ちぬ』の制作に5年かかったので、もし、次をやることになれば7年かかる。机に向かって集中できる時間が年々短くなっている」と加齢を原因に挙げた。健康状態に関しては、「映画を1本作るとヨレヨレになる。しかし、ちょっと歩けば元気になる」と述べ、体調不良が原因ではないことを示唆した。
記者からの、「作品を通して伝えたいメッセージは」という質問に、宮崎氏は「児童文学の多くの作品の影響を受けて、この世界に入った人間なので、『この世は生きるに値する』と伝えるのが、自分たちの根幹になければならないと思ってきた。それは、今も変わっていない」と答えた。
個々の作品に関しては、「自分のメッセージを込めようと思ったら、映画は作れない」と説明。その一方で『風の谷のナウシカ』について、「この時代の日本は、高度経済成長期で浮かれていた。自分はそれに対して、頭にきていた。でなければ、ナウシカなんて作らない」と力を込めた。
さらに、『風の谷のナウシカ』と、それ以降の、日本のバブルが弾けるまでの3つの作品、『天空の城ラピュタ』(1986年)、『となりのトトロ』(1988年)、『魔女の宅急便』(1989年)を振り返って、「経済は賑やかだけど、心の方はどうなのか。そういうことを巡って、私は生きていたんです」と、基本的な理念があったことを語った。
宮崎氏の社会的影響力は引退後も大きいと見られているが、「文化人にはなりたくない。私は町工場の親父。それは貫きたい」と何度も繰り返した。「私が仕事をするというのは、テレビも観ない、映画も観ないということ。ラジオは朝聴くが、新聞はパラッと見る程度で(社会情勢が)良くわからない。発言権は、私にない」。
スタジオジブリが発行する小冊子『熱風』2013年7月号の憲法改正特集で、「憲法を変えるなどもってのほか」と題した談話を寄せたことについて、宮崎氏は「自分が思っていることを話した。『あれはダメだよ』とか、そういう(ラフな)感じでしゃべっていたので、ああいう形になった。では、今後も発信し続けるかといえば、文化人ではないので、その範囲で留めていようと思う」と述べた。
また、『熱風』で憲法改正を取り上げた経緯については、「鈴木さんが、中日新聞で憲法について語った後(2013年5月9日の中日新聞で「平和をもたらした憲法9条をもっと世界にアピールすべきだ」と主張)、彼に脅迫が届くようになった」と明かし、「冗談だが、鈴木さんが刺されるかも、という話があり、知らん顔をしてるわけにもいかないから、僕も憲法について発言した。高畑監督にも原稿をお願いし、『3人いると標的が定まらないだろう』などと言って」と冗談まじりに説明した。
宮崎氏は「『風立ちぬ』の後、どう生きるかは、まさに日本の問題」と述べ、「この間、青年が訪ねてきて、『風立ちぬ』の最後の、カプローニと二郎が丘を下っていくシーンについて、『この先、何が待っているかと思うと、本当に恐ろしい思いで見ました』と言う。びっくりするような感想だったが、それは、今日の映画として受け取った、ということだろうと納得した。そういうところに私たちはいるのだ、ということだけは、よくわかった」と語った。そして、「本当に長い間お世話になりました。もう二度とこういう(会見を開くような)ことはないと思います。ありがとうございます」と締めくくった。
配信ありがとうございます。
堀田さんの路上の人 ” キリストは笑ったのかどうか。 ”
この世はひどすぎる。君はこの世で生きるには気立てが良すぎる。
子供たちに、この世は生きるに値するんだ。ということを伝えるのが自分たちの仕事の根幹。
時代に追いつかれて追い抜かれたという感じ。
渦中の人は気がつかない。 なんという存在感のなさだろう。
宮崎監督、”なんという存在感のなさだろう。”
これから、子供たちにこの世は生きるに値するんだ。ということを伝えていくには、
自分はどうしたもんかと、頭を抱えます。