【IWJブログ・TPP特別寄稿vol.9】「TPP交渉参加承認を得るためにルール交渉権を放棄することは本末転倒であり、国権の放棄でしかない」 ~福田泰雄 一橋大学経済学部教授 2013.7.25

記事公開日:2013.7.25 テキスト
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特集 TPP問題

 7月23日、日本はいよいよTPP協定交渉に参加しました。現在「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」に賛同されている大学教員の方々は、870名を超えます。しかし、「大学教員の会」の活動および賛同者の主張について、他のメディアではほとんど取り上げられていないのが現状です。IWJは、こうした知識人の方々の声を、少しでも多くの人に伝えたいと考え、寄稿をお寄せいただけるようお願いしております。


※赤旗日曜版に掲載されたものを転載致しました。

 日本のTPP(環太平洋連携協定)交渉への参加承認をめぐる事前協議は2012年2月に開始され、TPP交渉を主導する米国との協議が2013年4月12日にまとまり、その後4月21日までに残り10ヵ国との間についても合意が成立しました。

 これまで安倍政権は、TPP交渉での貿易ルール作りに交渉力をもって参加し、日本の国益を実現すると再三にわたり表明してきました。しかし、事前協議の結果は、そうした安倍政権の主張が何の根拠もなく、空絵ごとであったことを改めて示すことになりました。つまり、参加をめぐる事前交渉の段階において、日本政府はTPP交渉参加と引き換えに、そもそものルール交渉権を限りなく放棄することに同意しました。

 第1に、カナダ、メキシコ両国は、昨年6月に事前協議を経てTPP交渉への参加承認を受ける際、すでに交渉を開始している米国他8ヵ国の間で「合意された条文は原則として受け入れ、再交渉はできない」等とする不平等な条件を呑まされました。

 一方日本の参加承認に際しても、「他の参加国が進捗中の交渉に参加した時と同様に、妥結に向けて交渉が引き続き速やかに進められるような方法により、日本の参加プロセスを完了させること」が「全会一致により合意」されています(「TPP閣僚会議会合に関する共同声明」2013年4月20日)。従って、カナダ、メキシコと同様、日本もまたすでに合意された貿易ルールを自動的に受諾することになります。

 年内交渉妥結が目指されている下で、次回の交渉は7月15日から始まり10日間ほどの見込みといわれています(『日本経済新聞』5月8日)。米議会の90日ルールによる最終承認は7月下旬にずれ込むことを考えると、またWTO交渉と異なりTPP交渉は非公開で行なわれていますから、日本は交渉最終盤に単にメクラ判を押しに交渉参加することになります。

 第2に、日本政府は米国との事前協議において、いくつかの重要な分野でのルール交渉権の放棄を呑まされました。政府はコメ、小麦等の重要5品目を「聖域」として、関税撤廃の例外品目とする方針を表明していました。しかし、政府は、「すべての品目を交渉対象」とし、その上で自由化に向け「高い水準かつ包括的な合意」を目指すことに同意し、「聖域」ルール作りを事実上断念しました。

 第3に、自動車、かんぽ生命、ゆうちょ銀行に関して、政府は米国の要求を受け入れ、TPP交渉の場でのルール作りを事前に放棄しました。第4に、政府は、「保険」、政策決定過程の「透明性」、「投資」、「知的財産」、規制「基準」、「政府調達」、「競争政策」、日本郵政の国際「急送便」、食品添加物、ゼラチン、残留農薬等に関わる「衛生植物検疫」、これら9分野の非関税措置に関して、企業の知的財産については保護強化に向け、他の分野については規制緩和・市場開放に向け、TPP交渉に加え新たに日米二国間協議を行うこと、しかもTPP交渉終結までに合意を実現することに同意しました。

 政府は、二国間協議に比べて多国間交渉の方が日本の主張を通しやすいと主張してきましたが、あっさりと米国との二国間協議を受け入れました。過去の日米交渉の経験からすれば、非関税措置についての日米交渉は、これまでの日本国内ルールのさらなる後退、解体を迫られるのは必死です。

 今日、貿易ルールは、企業のビジネス機会にとって、また国民の生活権を守る上で極めて重要な意味を持ちます。TPP交渉参加承認を得るためにルール交渉権を放棄することは本末転倒であり、国権の放棄でしかありません。

(福田泰雄 一橋大学経済学部教授)


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