日本時間2月23日未明、安倍総理とオバマ大統領による日米首脳会談が行われた。安倍総理は会談後の記者会見で、TPP=環太平洋経済連携協定について「『聖域なき関税撤廃』が前提ではないとの認識に立った」と表明した。ところが、首脳会談の後に発表された共同声明には「全ての物品が交渉の対象とされる」との記載がある。これは、例外を求めた「聖域なき関税撤廃を前提とする限りTPP交渉参加に反対する」という自民党の方針と著しく矛盾をきたしている。安倍総理は、帰国後、与党である自民党と公明党からの一任を受けたうえでTPP交渉参加に向け「早い段階で決断したい」と述べたが、言葉上でのごまかし重ねて米国の言いなりになっただけとの批判は免れようがない。
「聖域なき関税撤廃が前提ではない」と「全ての物品が交渉の対象とされる」の矛盾
TPPは関税の例外なき撤廃と自由化が原則である。自民党はコメなどを例外品目扱いとすることを求めてきたし、それが可能であるとJAなど国内の支援者に向けて説明し、必ず守ると約束してきた。しかし、そうした「公約」は反故にされる可能性が高まった。大手メディアは一様に、会談後に発表された共同声明の「交渉参加に際し、一方的にすべての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」という部分のみを取り上げ、「首相、TPP交渉参加表明へ」(朝日新聞 2月23日 記事サイト削除)などと報じている。
「TPPに関する日米の共同声明」の全文は次の通り
両政府は、日本が環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉に参加する場合には、全ての物品が交渉の対象とされること、及び、日本が他の交渉参加国とともに、2011年11月12日にTPP首脳によって表明された「TPPの輪郭(アウトライン)」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する。
日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国ともに二国間貿易上のセンシティビティーが存在することを認識しつつ、両政府は、最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから、TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する。
両政府は、TPP参加への日本のあり得べき関心についての二国間協議を継続する。これらの協議は進展を見せているが、自動車部門や保険部門に関する残された懸案事項に対処し、その他の非関税措置に対処し、及びTPPの高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め、なされるべき更なる作業が残されている。
TPPは関税の問題だけではない
そもそも、TPPは関税のみの問題ではない。自民党はTPPに関し、昨年の衆院選で以下の6項目を政権公約に掲げていた。
1.政府が「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する
2.自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない
3.国民皆保険制度を守る
4.食の安全安心の基準を守る
5.国の主権を損なうようなISD条項は合意しない
6.政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる
安倍総理は関税の問題だけが解決したことで「早い段階で決断する」と述べたが、残り5項目が今後どのような扱いになるのか、会見の場で明らかにしていない。
TPPは、アメリカの民間企業が日本国政府に訴訟を起こすことを可能にするISD条項や、国民皆保険制度の廃止といった公的医療の崩壊、非関税障壁の撤廃など、国のかたちそのものを変えてしまう非常に危険な内容を含んでいる。
昨年末の安倍政権発足後、政府はTPPに関して情報を開示してこなかった。自民党内には200人を超える議員連盟「TPP参加の即時撤回を求める会」が存在しており、与野党を超えた強い反発が予想される。
会談後の内外記者会見での、自民党公約―6つの判断基準についての安倍首相の発言。
①冒頭安倍総理の発言の中で。(4分30秒過ぎ頃~)
”私は選挙を通じて
聖域無き関税撤廃を前提とするTPPには参加しない
と国民の皆様にお約束をし、
そして今回のオバマ大統領との会談により、TPPでは
聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明確になりました。
なお、大統領との会談では
私からこれ以外の私達が示していた5つの判断基準についても
言及をしました。”
②NHK記者との質疑応答の中で。
“えー、今般の日米首脳会談においては
TPPの意義や、それぞれの国内事情について
時間をかけてじっくりと議論を致しました。
私からは先の衆議院選挙で
聖域なき関税撤廃を前提とする限り
TPP交渉参加に反対するという公約を掲げ
また、自民党はそれ以外にも5つの判断基準を示し政権に復帰をした―と
そのことを大統領に説明を致しました。
国民との約束は極めて重要であると考えている
という話をしたわけであります。”
と、これだけでした。
安倍総理は“聖域なき関税撤廃を前提とする限りTPP交渉参加に反対する”という一点のみを
自身の公約としてた―という認識で、
他の5つの判断基準については自民党の公約―と、使い分けてるような表現に見えます。
で、その5つについては
”自民党はそれ以外にも5つの判断基準を示し政権に復帰をした―と
そのことを大統領に説明を致しました。”
―と、説明しただけということしか、この会見の発言からは解りません。
(冒頭発言の方も“言及しました”だけですし)
これで交渉参加するわけにはいかないだろうとも思えますが、
例によってマスコミが盛大にミスリード煽り中なので楽観は出来ませんね。
会見動画
安部総理日米首脳会談後の内外記者会見
http://www.nicovideo.jp/watch/sm20163248
2013年2月24日付けの読売新聞社説【日米首脳会談 アジア安定へ同盟を強化せよ】の小見出しを拾ってみよう。
◆TPP参加の国内調整が急務だ◆エネルギー協力も重要◆対「北」圧力を強めよ◆尖閣問題で国際連携を◆
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130223-OYT1T01092.htm
大丈夫かいな……の連発である。
まずは、TPPだ。
ことばのまやかしなどで”国内調整”などされては、たまったものではない。
何をごまかそうとしているのか、このブログ記事をしっかり読んだ上で、再配信を待ちたい。
ちなみに…。
ジャーナリスト堤未果さん( @TsutsumiMika )の22日のつぶやき
「米国では600社の企業顧問だけがTPP交渉内容をリアルタイムで読め、コメントをしたり内容改訂の権限を持っています。一方国会議員は決められた部屋で閲覧できるのみで、携帯、紙、筆記具の持ち込みと、メモ取りは一切禁止。マスコミも国民もアクセスできません」
23日のつぶやき
「(安倍首相)本人の記者会見と新聞記事を比較してみて下さい。五大紙の見出しは「参加表明」ですが総理は現時点で「参加する」とは言っていません。311後と同様、マスコミ情報は常に各社や局の立ち位置をみた判断が必要です」