築地市場の豊洲移転をめぐり、一級建築士・水谷(みずのや)和子氏と仲卸業者らが原告となって、石原慎太郎・元東京都知事に土地購入額578億円の損害賠償請求を求めた住民訴訟で、東京地裁は7月21日、原告の請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
この一審判決後、司法記者クラブで原告側による記者会見が行われた。
この訴訟は原告が、築地市場の移転自体がそもそも不要だったうえ、移転先として、東京都が東京ガスから豊洲の工場跡地を購入した際、移転を決めた石原氏が、意図的に土地汚染の事実を隠蔽し、不当に高い価格で購入したとして、責任を追及していたものである。
記者会見では最初に、原告弁護団の大城聡弁護士が、判決のポイントを指摘した。大城弁護士は、判決が、東京都の土地取得価格578億1427万8000円は、「正常価格」(汚染されない土地価格から汚染対策費を引いた額)を、156億5650万円超えるが、「較差にすると…1.37倍にとどまる」としたことを問題視。「『2~3倍ならともかく、そうでないので違法ではない』という判断だが、それでよいのか」と指摘した。「金額にすれば156億を超える金額」で、「都民の感覚とかけ離れている」うえに、地方財政法の主旨「最少の費用で最大の効果を出す」に反する無駄遣いで、法律解釈としてもおかしいと批判した。
原告の水谷和子氏は「嘘で始まり、嘘をつき続けてきた事業」と指弾。「豊洲は現在も汚染がほとんど除去されておらず、(土壌汚染対策法による)指定解除ができない状況」と述べた。そのうえで、「20年前にさかのぼれば、築地は2000億円で整備の継続が可能だったのに対して、豊洲では汚染地購入費・汚染対策費・建築工事費で計6000億円かけている」と批判し、「築地を再整備していれば何も問題なかった」と強調した。当時、「2000億円では整備継続できない」とされたが、実際は「2000億円で継続可能」という資料があったことも指摘した。また、神田市場や晴海の例などをあげて、都有地の取り引きが「うまみのある事業」だとして、築地の土地取り引きに関する疑惑を指摘した。
弁護団長の梓澤和幸弁護士は、特に、裁判所が石原元都知事を裁判に呼び出して調べなかったことに激しい憤りを見せた。
「石原氏は『自分は海馬(記憶を司る脳の部位)が壊れているから、呼んでもムダ』というが、いろんなところでいろんなことをしゃべっている」と指摘。裁判に呼び出して「あなたによって、どれだけの人が血の涙を流したか」を明らかにする必要があるとしました。「石原氏は自分で手をあげて裁判に出てくるべきであり、出ることを拒否するなら、引っ張り出すべきだ」と主張した。
数々の疑惑が指摘されるにもかかわらず、棄却された今回の裁判だが、梓澤弁護士が語ったように「11年前から続く長い闘い」であり、今後の控訴の動きを、IWJでは追い続ける。