【岩上安身のファイト&スポーツ】ボクシング村田諒太、謎の判定負けでジャッジマン2人が資格停止処分〜地に落ちたWBA、信用回復は程遠い!しかし株を上げた村田は世界から引っ張りだこ!スーパースター誕生の日は近い! 2017.5.27

記事公開日:2017.5.27 テキスト
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 ボクシング史に残る「疑惑の判定」から一週間、事態が新たな展開をみせている。

 フジテレビが仕掛けた大型ボクシング企画「ボクシングフェス2017 SUPER 2 DAYS」が5月20、21日、東京・有明コロシアムで開催され、2日間にわたり計5試合の世界タイトルマッチが開催された。

 この5つの世界戦で辛酸をなめたボクサーもいれば、勝利の凱歌をあげたボクサーもいた。日本人ボクサーは3勝2敗。2人の新たな世界王者も誕生し、日本ボクシング史に残る偉大な記録も生まれた。前座では、新たな才能の発掘もあった。日本ボクシング界が秘める、あらゆる可能性を凝縮したかのような、ボクシングファンにとっては夢のような週末だった。

 しかし同時に、ボクシング界に激震が走る「事件」も発生した。WBA(世界ボクシング協会)世界ミドル級タイトルマッチに挑んだロンドン五輪金メダリストの村田諒太選手が、圧勝と思われた試合で謎の判定負けを喫したのである。

 試合直後にはWBA会長が不可解な判定を謝罪する「異例」の事態にまで発展。WBAは5月26日、村田を敗者と判定したジャッジマン2人を6ヶ月の資格停止処分にしたと発表した。

ミドル級の世界戦に五輪金メダリストが殴り込み!村田諒太が背負う偉大なる「記録」

▲敗戦のジャッジを受け、呆然とエンダム陣営を眺める村田選手

 村田選手が臨んだ一戦は、他の世界戦と比較しても重みが違った。

 ミドル級は世界的に層が厚い。軽量級は小柄なアジアや南米のボクサーが中心だが、重量級になると、欧米を中心に体格のいいボクサーがごろごろとひしめいている。

 ミドル級は小柄な日本人には通用しない階級だというのが定説で、ミドル級王者となった日本人選手は過去にWBAの竹原慎二氏のみ。95年、竹原氏が初防衛に失敗してからこの22年間、世界タイトルマッチに挑戦した日本人選手はわずか5人しかおらず、いずれも敗れている。

 だが村田選手の場合は事情が違う。そもそも日本人が五輪のボクシングミドル級で金メダルを獲得できるなど誰が想像できただろうか。金メダルを獲得した村田選手は不敵にも、「日本人には不可能といわれていた階級だが、僕が不可能といわれたわけではない」との名言を残している。

 村田諒太は別格。そのことは村田選手自身が証明してきた。村田選手はプロ転向後も破竹の勢いで勝利を重ね、その戦績は12戦全勝9KO。特に2016年に実施した4試合での活躍はめざましく、それぞれ1ラウンド〜4ラウンド以内に相手選手をリングに沈めている。

 日本人の五輪メダリストがプロの世界タイトルを獲得した前例はない。ボクシングの日本人メダリストとしては、1964年の東京五輪で桜井孝雄選手がバンタム級の金メダルを獲得したものの、プロのリングでは世界タイトル獲得に失敗している。日本中の期待と記録を背負った村田選手はついに5月20日、プロのリングで世界の頂点に立つべく、有明のリングに上がった。

強烈な右ストレート炸裂でダウン奪取!終始試合コントロールした村田はやはり「世界」にも通用した!

▲落ち着いた様子で国歌斉唱する村田諒太選手

 村田選手と王座を争ったのはWBA世界ミドル級1位、カメルーン出身のアッサン・エンダム選手(フランス)。エンダム選手の戦績は35勝21KO2敗。自動昇格とはいえ、WBO世界チャンピオンに君臨した経験もある。昨年12月には、わずか1ラウンド22秒でKO勝利をおさめ、米主要メディアの「ノックアウト・オブ・ザ・イヤー」にも選出されている。間違いなく世界トップクラスのボクサーだ。

▲アッサン・エンダム選手

 村田選手はこれまで、世界のトップランカーとの対戦経験にめぐまれずにきた。エンダム選手と村田選手の力量差は、実際に始まるまではわからなかったが、蓋を開けてみればどうだったか。

 1ラウンド目はガードを固め、エンダム選手のパンチをブロックしつつ、ジリジリと前に出てプレッシャーをかける。様子をみているのか、エンダム選手は積極的なパンチを繰り出すが、村田選手からはほとんどパンチは出さない。会場は緊張に包まれた。

 自著『101%のプライド』で村田選手は、1ラウンド目は打たせることが多いと綴っているが、まさにその通りの展開である。パンチが一番強いのは序盤で、先にパンチに慣れておけば、「この先これ以上のパンチはこない」という心境になり、恐怖心と決別できるのだという。

 「来いや、来いや。そのうち反撃したるから」(『101%のプライドより』)

 戦略どおりの静かな立ち上がりだったが、4ラウンド目に試合が動く。村田選手最大の武器である強烈な右ストレートがエンダム選手の顔面をとらえ、ダウンを奪ったのだ。これを機に村田選手の有効打が明らかに目立ち始める。

 5回からはエンダム選手がよろめく場面も。7ラウンド目には村田選手の右ストレートが再びヒット。再びダウンかと思いきやロープに助けられ、ダウンならず。さらに2度、ダウンと見紛うようなスリップをするなど、明らかにエンダム選手は疲労していた。一方で村田選手は固いガードを崩さず、エンダム選手の攻撃をほぼ100%防ぎ続けている。

 しかしエンダム選手のスタミナも驚異的だった。エンダム選手は2012年、ピーター・クイリン選手(アメリカ)とのWBOタイトルマッチで6度のダウン喫し、2015年にはデビッド・レミュー(カナダ)とのIBFタイトルマッチでは4度のダウンを喫したがその都度立ち上がり、いずれも敗北したものの判定決着まで持ち込んでいる。

 村田選手は手数こそ少なかったものの、上下をうまく打ち分け、顔面にもボディーにも有効打を何発も叩き込んだ。エンダム選手はクリンチを使うなどして逃げつつも、手数を緩めることはなかった。しかし、その拳が叩いたのはことごとく村田選手のガードの上だった。このガードの上から打ったパンチの「手数」をどう評価するか、のちのち問題となる

「これほどひどい判定はない」ジャッジマンの不自然な採点結果にWBA会長も「怒りと不満を覚える」と明言

 KOこそならなかったものの、ダウンも奪っており、終始試合をコントロールした村田選手。テレビ中継の視聴者も含め、試合を見守ったファンの誰もが村田選手の判定勝利を疑わなかっただろう。

 しかし、判定は2−1でエンダム選手に軍配が上がった。疑惑の判定に、会場ではざわめきとブーイングが沸き起こった。長年ボクシングを観続けてきた岩上安身も観客席で、「これほどひどい判定はない」と述べ、村田選手の勝利だったと断じた。

 3人のジャッジマンの判定は、あまりにも不自然な割れ方をした。

 米国のラウル・カイズ・シニア氏が117-110で村田選手の大勝と判断。カナダのヒューバート・アール氏は115-112でエンダム選手にマーク。そしてパナマのウスタボ・パディージャ氏は、116-111と、5点もの大差でエンダム選手に軍配をあげた。

 なぜこんなにも差がつくのか。7点差で村田選手の勝ちだとする審査員と、5点差でエンダム選手の勝ちだとする審査員が混在する状態は「正常」とは言えない。

 有効打をとるジャッジマンと手数をとるジャッジマンで分かれたとの見方もある。しかし、接戦をジャッジするうえではそういった好みも反映されるだろうが、今回のように村田選手が最後まで試合を支配し、ダウンまで奪いながら「手数が優先された」というのは腑に落ちない。

 ガードの上から触れただけのパンチを「手数」を有効打としてカウントするなら、倒し倒されが醍醐味の「プロボクシング」が「タッチボクシング」になり果てることになってしまう。

 これは我々が日本人だから村田選手を贔屓にしているのではない。

 この試合はエンダム選手の母国・フランスのテレビ局「Canal+ Sport」でも放送され、ここでも118-108で村田選手勝利と目された。フランスのラジオ局「Europe 1 Sport」は、「エンダム、予想外の世界チャンピオンに」という見出しで試合を報じたという。

 もっとも重要なのは、WBAのヒルベルト・メンドサJr会長が試合終了直後にツイッターを更新し、「poor decision(ひどい判定)」「正しい判定を下すことのできないスポーツに怒りと不満を覚える」などと不満を綴っていることだ。

▲試合結果に不満を表明するWBAヒルベルト・メンドサJr会長

「WBAはエンダムと村田のリマッチを要求する」〜ジャッジマン2人が資格停止処分に!しかし判定は覆らず!?

 メンドサ会長は自身でつけた採点表も公開し、117−110で村田選手が勝利していたと主張。村田選手や帝拳ジムなどに謝罪し、「粗末な判定によるダメージをどのようにして回復すればいいのか言葉がない。私は選手権委員会に再戦を要求するだろう」と投稿した。

▲メンドサ会長はツイッターで、117−110で村田選手の勝利との見解を示した

 翌日21日には、WBAのトップページにも大々的に「WBAはエンダムと村田のリマッチを要求する」と掲載された。これは「異例」の事態である。

▲「エンダムと村田のリマッチを要求する」WBAホームページ

 だが、いくらWBA会長が「村田が勝っていた」と言ったところで判定は覆らない。WBAは村田−エンダム戦を再検証し、25日、記者会見を開いたメンドサ会長は村田選手の負けと採点したパディージャ氏とアール氏の両ジャッジを6カ月の資格停止処分にしたと発表。村田選手、エンダム選手には再試合を命じた。

 しかし、本来勝ったはずの試合を負けとみなされ、キャリアに泥を塗られるなど到底受け入れられない。WBAはリマッチではなく、まずは「無効試合」と認めるべきだ。でなければ、WBAがの信頼はいよいよ地に落ちるところまできている。

 パディージャ氏に至っては確信犯の犯行としか思えない。これまで日本人選手の試合を9度ジャッジしてきたパディージャ氏だが、一度も日本人選手に上げたことがない。

 元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者の内山高志氏は、村田選手の敗戦を受け、「不可解!?」と題してブログを更新。「俺も9回目の防衛戦で9ラウンドTKOで勝った時、ほぼワンサイドの内容だったにも関わらず、採点表見たら、二人のジャッジはフルマークだったのに一人のジャッジはドローだった事があったな( ̄▽ ̄;)」と振り返っている。

 実はこの時、2人のジャッジが9回を終えて88―82、90―78の大差で内山氏の圧勝と認めていたのに対し、85―85のドローと採点していたのが、他ならぬパディージャ氏だったのである。

(…会員ページにつづく)

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