【全文掲載】「日本政府の『抗議』は怒りの言葉が並んでいるだけで中身はなかった」〜共謀罪に懸念示した国連特別報告者が怒りの反論! 海渡弁護士は菅長官を「驚くべき無知の産物」と糾弾! 2017.5.24

記事公開日:2017.5.24 テキスト
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(文:原佑介)

 「私の書簡は、日本政府が法案を早急に成立させることを愚かにも決定した状況において、完全に適切なものだ」――。

 国連の特別報告者で、「プライバシー権」を担当するジョセフ・カナタチ氏が2017年5月22日、共謀罪法案の成立を急ぐ日本政府に強い懸念を示した。カナタチ氏は日本の共謀罪法案を国連ホームページなどで批判し、日本政府は批判について、「不適切だ」と抗議していた。

▲ジョセフ・カナタチ氏(国連人権高等弁務官事務所ホームページより)

 「共謀罪NO! 実行委員会」の代表を務める海渡雄一弁護士は5月23日に記者会見を開き、カナタチ氏による日本政府宛のさらなる反論メッセージを代読した。

▲記者会見する海渡雄一弁護士

 この日は衆院本会議で共謀罪法案が強行採決されたが、カナタチ氏は法案の成立を急ぐ政府・与党の判断を「愚か」だと酷評し、「私は安倍総理に向けて書いた書簡のすべての単語、ピリオド、コンマに至るまで維持し続ける」と改めて強調した。

■ハイライト

「国連の立場を反映するものではない」〜共謀罪法案の中身を懸念する国連特別報告者を切り捨てた日本政府の愚

 国連特別報告者のカナタチ氏は5月18日、共謀罪法案について「プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性がある」とし、日本政府の釈明を求める書簡を安倍総理宛に送付、国連のホームページでも公表した。IWJは5月20日、カナタチ氏の書簡の中身と重要性について海渡弁護士に単独インタビューしている。

 カナタチ氏の書簡に対し、日本政府は同日中に抗議に出た。共謀罪法案は「国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結するための国内法整備」であると強弁し、「貴特別報告者が我が国の説明も聞かずに一方的に公開書簡を発出したことに、我が国として強く抗議する」と猛反発。

 さらに菅官房長官は22日の会見で、カナタチ氏の指摘は「不適切」であるとし、「特別報告者という立場は独立した個人の資格で人権状況の調査報告を行う立場であり、国連の立場を反映するものではない」と、カナタチ氏の存在そのものを否定するかのような反撃に出ている。

▲5月22日の会見場での菅義偉官房長官(政府インターネットテレビより)

「日本政府の『強い抗議』はただ怒りの言葉が並べられているだけで、全く中身がない」国連特別報告者が怒りの反論!

 日本政府と菅官房長官の反論を受け、海渡弁護士は、メールでカナタチ氏に見解を求めたところ、カナタチ氏から同日中に返信がきたという。以下にカナタチ氏の見解を全文掲載する(翻訳は小川隆太郎弁護士)。

 私の書簡は、特に日本政府が、提案された諸施策を十分に検討することができるように十分な期間の公的議論(public consultation and debate)を経ることなく、法案を早急に成立させることを愚かにも決定したという状況においては、完全に適切なものです。

 私が日本政府から受け取った「強い抗議」は、ただ怒りの言葉が並べられているだけで、全く中身のあるものではありませんでした。その抗議は、私の書簡の実質的内容について、1つの点においても反論するものではありませんでした。この抗議は、プライバシー権に関する私が指摘した多くの懸念またはその他の法案の欠陥について、唯の1つも向き合ったものではありません。

 私はその抗議を受けて、5月19日(金)の朝、次のような要望を提出しました。

「もし日本政府が、法案の公式英語訳を提供し、当該法案のどこに、あるいは既存の他の法律又は付随する措置のどの部分に、新しい法律が、私の書簡で示唆しているものと同等のプライバシー権の保護措置と救済を含んでいるかを示すことを望むのであれば、私は、私の書簡の内容について不正確であると証明された部分について、公開の場で喜んで撤回致します。」

 日本政府は、これまでの間、実質的な反論や訂正を含むものを何一つ送付して来ることが出来ませんでした。いずれかの事実について訂正を余儀なくされるまで、私は、安倍晋三内閣総理大臣に向けて書いた書簡における、すべての単語、ピリオド、コンマに至るまで維持し続けます。日本政府がこのような手段で行動し、これだけ拙速に深刻な欠陥のある法律を押し通すことを正当化することは絶対に出来ません。

 日本政府は、その抗議において、2020年の東京オリンピックに向けて国連越境組織犯罪防止条約を批准するためにこの法案が必要だという、政府が多用している主張を繰り返しました。

 しかし、このことは、プライバシーの権利に対する十分な保護措置のない法案を成立させようとすることを何ら正当化するものではありません。日本が国連条約を批准することを可能にし、同時に、日本がプライバシー権及び他の基本的人権の保護の分野でリーダーとなることを可能にする法案(それらの保護措置が欠如していることが明らかな法案でなく)を起草することは確実に可能でした。

 私は日本及び文化に対して深い愛着を持っています。更に、私は日本におけるプライバシー権の性質および歴史についてこれまで調査してきており、30年以上にわたるプライバシー権とデータ保護に関する法律の発展を追跡してきたものです。私は、日本が高い基準を確立し、この地域における他の国々及び国際社会全体にとって良い前例を示して頂けるものと期待しております。ですので、私が先の書簡を書かなければならなかったことは、私にとって大いなる悲しみであり、不本意なことでした。

 現在の段階においては、日本政府が私の書簡で触れたプライバシーの権利に着目した保護措置と救済の制度に注意を払い、法案の中に導入することを望むばかりです。私は書簡にて述べましたとおり、私は日本政府が私の支援の申出を受け入れて下さるのであれば、日本政府が更に思慮深い地位へと到達できるように喜んでお手伝いさせて頂きます。今こそ日本政府は、立ち止まって内省を深め、より良い方法で物事を為すことができることに気づくべき時なのです。私が書簡にてアウトラインをお示しした全ての保護措置を導入するために、必要な時間をかけて、世界基準の民主主義国家としての道に歩を進めるべき時です。日本がこの道へと進む時、私は全力を尽くして支援することと致しましょう。

 カナタチ氏は、「私の書簡は、日本政府が十分な期間の公的議論を経ることなく、法案を早急に成立させると愚かにも決定した状況において、完全に適切なものだ」と主張し、「私が日本政府から受け取った『強い抗議』は、ただ怒りの言葉が並べられているだけで、全く中身のあるものではなかった。その抗議は、私の書簡の中身について、1つの点においても反論するものではなかった」と断じている。

 さらに、「私は、安倍晋三内閣総理大臣に向けて書いた書簡における、すべての単語、ピリオド、コンマに至るまで維持し続ける」と日本政府の抗議をはねつけ、「日本政府がこのような手段で行動し、これだけ拙速に深刻な欠陥のある法律を押し通すことを正当化することは絶対にできない」と強い懸念を示した。

海渡弁護士が菅官房長官を糾弾「驚くべき無知の産物だ」

 菅官房長官は「国連特別報告者」を「個人の資格」で国連の立場とは異なると突き放すが、海渡弁護士は会見で、「これは大変な間違いだ」と反駁した。

 「特別報告者は国連人権理事会に任命され、国連に報告書を提出する。それが採択されれば、それは国連の見解となり、人権理事会の場で見解が引用されれば、日本はこれを受け入れるかどうかを迫られることになる」

 そのうえで海渡弁護士は、「菅官房長官はこうしたプロセスを無視している。これは驚くべき無知の産物ではないか」と厳しく批判した。

 これまで政府は国内に向け、TOC条約締結のために共謀罪法案が必要だと説明してきた。しかし、当の国連の特別報告者から法案への強い懸念が示されたことで、「政府が国連からの求めに応じてこの法律を作っているという大きな根拠が崩れたと言える」と海渡弁護士は指摘した。

 それでも自民党は海渡弁護士が会見を開いた同日5月23日、共謀罪法案の採決を衆院本会議で断行。ブレーキが壊れたように暴走を続けている。

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