「国会前に大学生が集まった広がりで、学者や若いママ、中高生、中高年までが声を上げ始めたじゃないですか。音楽家はこのままでいいのかなと。(企画した)1週間前、山本太郎くんが国会でかなり命がけの質問をしていて、自分も行動を起こさないといけないと思い、開催を決めました」
「WORLD PEACE FESTIVAL(世界平和を願うフェスティバル)」――。
戦争のない平和を願う、世界で一番小さい夏フェスの第一回目が2015年8月12日、東京・渋谷のハチ公前広場で行なわれた。
1週間前に急遽企画されたというこのイベント。若者たちが国会前で始めた抗議行動が、学者や母親たちなどを巻き込む運動に展開するのを見て、「音楽家はこのままでいいのか」と自問していたという。そう答えたのは、呼びかけ人の一人でDJの沖野修也さんだ。沖野さんはインタビューの中で、国会で政府与党を厳しく追及する山本太郎議員の存在も大きく影響したことを明かした。
2年前の夏、同じ場所で「選挙フェス」が行なわれた。参議院選挙に立候補したミュージシャンの三宅洋平、山本太郎両氏が音楽をバックに演説をするという新しいスタイルが注目を集めた。「選挙フェス」に関わったメンバーらが打ち出した今回のイベント。参加するアーティストを目当てにやってきた参加者や道行く聴衆でハチ公前には人だかりができた。
- 出演 沖野修也氏(Kyoto Jazz Massive)、三宅洋平氏、DELI氏、AFRA氏、オーサカ=モノレール、ROOT SOUL(池田憲一氏、藤井伸昭氏、中村新史氏) and more
- 日時 2015年8月12日(水) 18:00~
- 場所 JR渋谷駅ハチ公前特設ステージ(東京都渋谷区)
- 主催 World Peace Festival実行委員会
戦争反対、原発反対の実践を訴えたアーティストたち
▲反戦ソングを引っさげて現在ツアー中だというPUSHIM(プシン)さん
「戦争反対。今日はそれを伝えるためにやってきました」
”Keep Peace Alive”という戦争反対を訴える楽曲を披露したレゲエシンガーのPUSHIM(プシン)さん。在日韓国人3世である自身の出自を明かしながら、戦争に反対する理由を次のように話した。
「私は在日韓国人3世です。ここ日本で生まれ育って、日本語を愛してずっと音楽をやってます。私が思うことは、国籍、肌の色、信じるもの、宗教、思想、全部ばらばらであっても、私たちは『今日楽しかったな』って言ってちょっと笑ったりする。そういう小さな幸せが欲しい。これはみんなが望んでいることです。世界共通です」
PUSHIMさんは「戦争が始まりそうなことを、声を出して止めましょう」と呼びかけた。
▲千葉県松戸市議会議員でもあるDELIさん「今日は音楽家として参加した」
「安保法制に反対している理由は『原発反対』とすごく似ていて、色々なプロセスをすっ飛ばしているし、リスクをリスクと言わないリスクが俺はあると思う」
NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのラッパー、DELIさんは千葉県松戸市の市議会議員でもある。「今日は音楽家としてここに参加させてもらっています」。3.11の福島原発事故後、被災地に物資を送ったり、放射線量を測定するなど積極的に活動を続けてきたDELIさんは、原発反対でもある。安保法制に反対する理由は、原発政策にも共通する「リスクをリスクと言わないリスク」があるからだという。
「(法案の)中身を見てももちろん反対する突っ込みどころは満載なんですけど、そもそも、原発と何が一緒かって、『リスクをリスクと言わないリスク』があるんですよ。『僕たちはそんなことをしないよ』って言っても、自衛隊が今までよりも戦死するリスクは高まるわけだし、(今までは)武器の輸送なんてしなかったのに、日本の自衛隊がそんなことしたらテロをやっている国からも『日本人はグルだ』ってなって、日本人に対するテロのリスクは高まるはずですよ。
そういうものがあるけれどもやんなきゃいけないんだって、そういう言い方をしなきゃいけないし、そもそも憲法違反だって言っている学者が9割くらいいる。そんな中で、短い時間で、議論もきちっとされないまま決めようとしている。プロセスをすっ飛ばしてるじゃないですか」
DELIさんと一緒にラップを披露したキングギドラのK DUB SHINEさんは、憲法については改正派だ。それでも、この法案に反対する理由は安倍政権のやり方だという。「今回の決め方、説明が不十分、周りの人があんなに反対しているのに強行どころか『暴走』している。原発のこともそうだし、TPPやアベノミクスもそう。安倍さん、やり過ぎでしょう」と訴えた。
2013年の「選挙フェス」を振り返って
▲三宅洋平さんが渋谷駅前で歌うのは2年ぶりだ
2年前の参院選で「選挙フェス」という新しい街宣スタイルを打ち出したのが三宅洋平さんだ。「選挙フェス」は当時、マスコミからも大きな注目を浴びたが、「時代を動かすというのは岩のように重たいんだなと思う」と三宅さんは2年前を振り返った。
川内原発の再稼働に反対するため鹿児島入りし、現地では再稼働反対のデモにも参加した。三宅さんは原発事故が起きる前から原発反対を唱えてきた古参の一人だ。「デモをやって何か変わるのか」という問いに、鹿児島から戻ったばかりの三宅さんは次のように答えた。
「相変わらずうだうだと暑い中、何千人でとことこ歩いて、『川内原発再稼働反対』ってやって帰ってきて、これで何が変わるんだろうって思うよ。だけど、原発が再稼働するっていうのに、誰もデモに参加しなかったらそっちの方が俺はぞっとするんだよね、その日本。
国会前だって一緒だよ。SEALDsの若い子たちが頑張れば頑張るほど、あーだこーだ『裏がある』とか何とかで、『誰がついてる』とか、いろんな疑心暗鬼が渦巻いているけど、じゃあ、あの子たちがあそこで大声上げなかったらそっちの方がぞっとすんだよ。
その中で、これ以上もっと何かをするためには俺には何ができるんだってことを考え始めるんだよ。デモじゃ変わらないなら、じゃ俺は何をやるんだって、それを突き詰めたら俺は選挙に出たわけ。そういう人が1億人いるんでしょ、この国には」
今月30日、国会前では10万人の参加を目指す大規模な「戦争法案」反対の抗議行動が予定されている。ハチ公前に集まったアーティストたちは「8月30日は国会前に集まろう」と聴衆に呼びかけた。
▲最近、「日本国憲法」という曲を発表したShing02さんも急遽出演
イベントには子連れ世代も多く参加していた。子どもを連れ、夫婦で参加していた30代の女性はインタビューで、「子どもの未来も自分の未来も明るいものにしたい」と話した。
「平和な未来をこどもに。安保法案で自衛隊が戦争しに行くことに対して不安。世界である戦争に日本が巻き込まれていくのでなく、平和はいいものだと発信していきたい。子どもの未来を明るいものにしたいが、自分の未来だって明るいものにしたい」
渋谷区から参加した34歳の男性も、「子どものため」だと話す。
「安保法案の審議を無理に進めようとしていることがきっかけで、参加しました。子供がいるので子供のために反対しています。情報がインターネットで得られて満足しちゃうだけでなく、リアルな行動を起こすことが大事だと思います」
坂本龍一・湯川れいこ・ピーター・バラカンら著名人から届いたメッセージ
▲坂本龍一さん
イベントの最後、沖野さんが著名人から届いたというメッセージを読み上げた。