米ハーバード大学は、ネオニコチノイド系農薬を蜜蜂に与えると、冬に「蜂群崩壊症候群(CCD)」によく似た現象が起こることを2月16日までに実験で突き止めた。米国と日本を除く先進国ではすでに、多くがこの農薬の使用・販売を禁止している。
蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん)とは、蜜蜂が大量に失踪、消滅してしまう現象で、1990年半ばから欧米や米国で被害が確認されて以来、インドや台湾、ブラジル、オーストラリアなど、全世界に広がっている。コロニーから若い働き蜂がほぼいなくなるにも関わらず、コロニーの周囲には死んだ蜂がほとんど見られないのが特徴だ。
最近では、神奈川県の三浦半島でも「蜂群崩壊症候群」に似た現象が次いで報告されており、一昨年8月から9月にかけて、横須賀市と葉山町計6か所で133群中98群が、昨年も同時期に、3か所で45群中44群のハチがほとんど消滅した被害が確認されたという。
・一斗缶一杯が茶わん一杯に…ミツバチ失踪相次ぐ(読売新聞 2015/1/20)
農薬を使用する時期と、蜜蜂の失踪の時期が重なることから、ネオニコチノイド系農薬との関連性が疑われるようになった。1999年、フランスがいち早く使用規制を導入してから、ドイツやイタリアもこれに続き、2013年には、欧州全域で3種のネオニコチノイド系農薬の使用規制が決定された。しかし、こうした問題は往々にして、意見の対立を招き、関連性を否定する農薬メーカーからは異論の声もあがり、欧州では裁判にまで発展しているケースもある。
■ネオニコチノイド先進国の日本
日本で認可されているネオニコチノイド系農薬は7種類。欧米や米国と比較すると、多種類、広範囲での大量使用が認められている。農産物中に残留する農薬の最大上限値を定めた残留基準値においても、多くの品目で欧州の20倍から500倍緩い日本は、「ネオニコチノイドの先進国」とも言われている。つい先日も、厚労省がネオニコチノイド系の農薬「クロチアニジン」について、食品中の残留基準を緩和する案を昨年12月24日に了承したばかりだ。
ネオニコチノイド系農薬は、少量の散布で害虫駆除が可能である上に、霊長類に害を及ぼさないとされてきた結果、世界中で使用が広まり、2011年時点での売上げは26億ドル(2600億円)。現在、日本でも、水田での散布を中心に、ゴルフ場の芝の消毒、シロアリ駆除の他、ゴキブリ対策やペットのノミやダニ駆除にも利用されている。
国際自然保護連合(IUCN)への助言団体として活動する浸透性農薬タスクフォースが2014年6月に行った研究成果発表会で、主催を代表して登壇した菅原文太氏は、「原子力ムラと並び、農薬ムラと呼ばれる世界的に巨大なグループがある。一般市民からは見えにくいが、人々の暮らしに密接に関わっている今日的で重い課題だ」と警鐘を鳴らした。
金沢大学名誉教授で浸透性農薬タスクフォース・メンバーの山田敏郎氏は、ネオニコチノイド系農薬の殺虫能力の高さと、強い残効性を問題視し、低濃度であっても同農薬の使用は、蜜蜂群を弱体化させると指摘。人体への影響も懸念し、使用を規制するべきだと訴えている。
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■農水省「被害報告の実態を調査中」
米ハーバード大学の発表を受けて、IWJは農水省に見解を聞いた。
「適切に対応するためには、まず、国内の被害状況を把握する必要があると考え、2013年から、情報収集を始めている。調査期間は3年間。『農薬被害が疑われる被害が合った時には報告してください』と養蜂家に呼びかけている」
農林水産省の消費・安全局農産安全管理課農薬指導班は、ネオニコチノイド系農薬に対する世論が国内外で高まっていることを受け、約2年前から被害調査を実施しているという。調査は現在も継続中だが、農水省がホームページ上で公表している中間報告によると、2013年度(2013年5月30日~2014年3月31日)には69件の被害が報告されている。2012年までは、多くても10件程度の報告件数だったのが、7倍近くに跳ね上がっている。
※農水省HP「農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(Q&A)(2014.9月改訂)」
「積極的に報告を呼びかけ強化によって、多くの事例が報告された」というのが、現時点での農水省の見解だ。国内では、「蜂群崩壊症候群」の現象は確認できていないという立場を取っており、三浦半島の被害報告についても、「蜂群崩壊症候群」ではないという認識を示している。
しかし、こうした健康被害をめぐる問題は、往々にして、意見が二分する。2011年の福島原発事故による放射性物質による影響はその筆頭であり、放射能と鼻血の因果関係を漫画「美味しんぼ」の中で提起した、漫画家の雁屋哲氏は、同作品の105巻で、ネオニコチノイド系農薬について詳しく描いたことがある。2012年6月、東京で行われた勉強会ではゲストとして登壇し、農薬が環境や健康に及ぼす影響について市民と意見を交えた。
IWJは今後も、この問題を追及していく。