集団的自衛権行使をめぐる閣議決定と連動するかたちで、着々と日本の軍備体制が整えられようとしている。
岩国基地は着々と拡大され、極東最大の軍事基地として変貌しつつある。岩国基地に配備されている海上自衛隊の掃海ヘリコプターは、安倍政権の目指す「集団的自衛権の行使」によって、米軍の戦争のための露払いとして使われる可能性もある。
そして、オスプレイはついに東日本への進出を始めた。2012年7月に岩国基地に陸揚げされ、2012年10月に普天間飛行場に配備されたオスプレイは、日本中の市民らの猛反発もあり、その後2年間、沖縄や九州、四国など、一部での運用にとどまっていた。
しかし、2014年7月15日、普天間を出発したオスプレイは突如として厚木基地を経由し、キャンプ富士に飛来した。防衛省は「燃料補給のため」と説明したが、直線距離的にも普天間飛行場からは、キャンプ富士へ直行したほうが近い。米海兵隊のオスプレイが、なぜわざわざ米海軍の使う厚木基地に寄ったのかは不明だ。
オスプレイが東日本に初飛来
▲厚木基地に飛来したオスプレイ(7月15日)
厚木では地元民らが、オスプレイの飛来に合わせて、厚木基地周辺で抗議行動を展開した。
抗議に参加していた「厚木基地爆音防止期成同盟(厚木爆同)」の男性は、IWJのインタビューに「集団的自衛権が閣議決定した途端、一気に動き出している」と話し、「地元の思いは完璧に無視ですよ」とこぼした。
同じく神奈川県央ユニオンの檜鼻達実委員長は、今回のオスプレイの厚木基地飛来は、今後、全国で本格的な訓練を始めるための「地ならし」だとの見解を示し、今後、「オスプレイの関東での飛行が、なし崩し的に常態化するんじゃないでしょうか」との懸念を述べた。
さらにオスプレイは19日、東京の米軍横田基地を経由し、北海道札幌の陸上自衛隊丘珠駐屯地へ飛んだ。札幌訪問は、翌20日に北海道航空協会が丘珠駐屯地で開いた航空ショーにおいて、オスプレイを展示することが目的だった。
米軍は防衛省に、「今後、広く本土各地の施設にオスプレイは飛来する」と伝えている。菅義偉官房長官は7月22日の会見で「沖縄の負担軽減のため、全国でオスプレイを受け入れていただくべく、そうした依頼を、国土交通省を通じて行っている」と発言し、米軍の意向を後押しした。檜鼻氏が指摘した「全国展開のための地ならし」という指摘は的を射ているようである。
自衛隊によるオスプレイ配備
それどころか日本政府は、2018年までに、陸上自衛隊にオスプレイを17機も導入する予定である。米国防総省は、オスプレイの価格を1機当たり約9000万ドル(約91億円)から9800万ドル(約100億円)と試算している。1700億円もの予算を割いてまで陸上自衛隊が導入するメリットがどこにあるのだろうか。
小野寺五典防衛大臣は7月20日、陸自に導入予定のオスプレイをすべて佐賀空港に配備する方針を示した。空港が海に面していること、離島防衛のために新設する「水陸機動団」の拠点となる長崎県佐世保市に近いことなどが理由に挙げられた。オスプレイを、水陸機動団の輸送手段として一体運用する考えである。
古川康佐賀県知事は、「佐賀空港は利用が増えている空港で、邪魔にならないでいただきたいという気持ちだ。どうしたらいいんだろう、というのが正直なところだ」と戸惑いをみせた。
地元・佐賀市の秀島敏行市長は、「困惑を感じている」とし、佐賀空港が建設される以前に、「佐賀空港を自衛隊と共用しない」と確認した佐賀県と県漁協との協定などを踏まえ、「配備受け入れは難しい」という考えを示した。佐賀市議会は8月12日、オスプレイ配備の特別委員会を設置することを決定。配備を受け入れた場合の影響調査などに乗り出すこととなった。
一方、岩国では…
確かに、厚木爆同の男性が言うように、集団的自衛権行使の閣議決定以降、日本の軍備状況は慌ただしい動きをみせているようにも思える。
オスプレイが東日本に初上陸を果たした7月15日、西日本でも一つの動きがあった。15日、オスプレイと同じく普天間飛行場から飛び立った空中給油機「KC-130」が2機、山口県岩国基地に着陸していたのだ。
95年に沖縄で起きた少女暴行事件を受け、日米両政府は、沖縄の基地負担を軽減することで合意し、その一環として、普天間に配備されている全15機のKC-130を、2014年8月末までに岩国基地に移駐することを決定した。この日飛来した2機が移駐の第一陣にあたる。
さらに在日米軍再編の一環として、2017年までに、59機にものぼる「空母艦載機」が、厚木基地から岩国基地へ移転される予定だ。現在、岩国基地には、米海兵隊とその家族ら約5600人が駐留しているが、今後、空母艦載機などの移転にともない、新たに約4000人強の移駐が見込まれており、家族を含めた米軍関係者が約1万人にものぼると言われている。
このように岩国基地は、沖縄・嘉手納基地に代わる「極東最大の米軍基地」へと変貌しようとしており、基地内は現在も、それを見越した大規模な建設工事が進められている。
岩国の自衛隊は米軍の上陸作戦の露払いを担う準備ができている
こうした動きを地元の方々はどう受け止めているのだろうか。地元岩国に住む、岩国住民投票を力にする会の元会長・吉岡光則氏はIWJの電話取材に対し、「町の雰囲気が変わるという問題も出てくるでしょうね。旧・岩国市の人口が10万人とちょっとなので、その1割に相当する数が、米軍基地関係者ということになりますから」と懸念を示した。
しかし、なぜ矛先は岩国へ向かったのか。地元の人たちはどのように受け止めているのか。「岩国には、政府の宣伝がずいぶん効いている」と吉岡氏は語る。
「みんな政府なりの説明に納得しているわけではないが、北朝鮮脅威論や中国脅威論を掲げられ、『なんとなくそうなんじゃないか』と、深く考えずに受け入れている面もあるし、未だに米軍基地が抑止力だと思っている人もいる」
また、岩国基地が、本土で唯一の海兵隊基地であることも影響している、との見方を提示し、「岩国には米軍を受け入れる状況がある」と説明する。
「2010年には、地元経済界の提案で基地内に新たな滑走路が建設されました。もともと、米軍を歓迎する層が強いんですね。そして振興策に期待して、お金を欲しがる姿勢も露骨。足元を見られているんです。基地も広げたし、機能は強化した。変態離着陸できるよう滑走路の幅を広げたり、巨大な船が接岸できる港を作ったり、米軍にとって、ものすごく『いい基地』になっています」
集団的自衛権行使をめぐる閣議決定は、岩国にどのような影響を与えうるか。
「岩国基地には、海上自衛隊の掃海ヘリコプター『MH-53』 と、『MCH-101』の2種類が、すでに配備されているんです。これらは『前駆掃海』に用いられます」
掃海とは、機雷が撒かれた危険な海域で掃海具を使い、掃海艇や掃海ヘリコプターによって機雷を爆発処理し、安全な海域に戻すよう整備することだ。
朝鮮戦争などでは数隻の掃海艇が触雷沈没したが、ヘリを使った空中からの掃海は、比較的に機雷を爆破させても被害は少ないと言われている。低空を低速飛行できたり、空中で機体の停止ができることは機雷の発見、掃海に有利であるといわれている。
機雷掃海はれっきとした戦闘行為である。政府も機雷掃海は「武力の行使」にあたることは認めており、当然、危険はつきものである。
▲海自の掃海・輸送ヘリコプターMH-53E(海上自衛隊HPより転載)
97年の日米ガイドラインでは、「米軍が他国を海岸から攻めこんでいく際、米軍を上陸させまいとした相手国が海に機雷を撒いた場合、日本の自衛隊が機雷を処理する」と取り決められている。「MH-53」や「MCH-101」は掃海艇と一緒に現地に行って、先に上空から掃海を始め、その後、さらに掃海艇が機雷除去にあたる。そうして機雷掃海が終わったら、ようやく米軍が相手国に乗り込む。自衛隊は、米軍の上陸作戦の露払いとして使われる――。吉岡氏はそう説明する。
吉岡氏の懸念は、的を射ている。2012年の8月15日に、アーミテージ元国務副長官が、「第3次アーミテージレポート」と呼ばれる、事実上の「対日米国指令書」をCSIS(戦略国際問題所)から発表した。
その中には、「ホルムズ海峡を閉鎖するというイランの言葉巧みな意思表示に対して、すぐさま日本はその地域に掃海艇を一方的に派遣すべきである」という一文も存在する。米国の都合によって、「集団的自衛権の禁止は日米同盟の障害である」とし、「ホルムズ海峡へ掃海艇を出せ」と具体的な命令が下されていたのだ。
「アーミテージレポート」は日本国内において多大な影響力を持ち、次々とその提言は現実化している。詳細は、IWJウィークリー58号、「岩上安身のニュースのトリセツ」で分析しているので、そちらをご覧いただきたい。
米軍基地機能が拡大するにつれ、岩国基地は一層、敵国の標的になりやすくなっていくのではないか、という懸念もある。吉岡氏は、「岩国基地が他国から狙われるという話は、以前からずっとある」と述べ、「実際に集団的自衛権云々でなくても、テロ攻撃を想定した訓練を毎年しています。97年ガイドラインでは、自衛隊が米軍基地を守るよう義務付けられていて、年に一回は共同で基地を守る訓練をしています」という。
「それ以外にも米軍は、基地の中で、テロ攻撃を受けた場合の、非戦闘員の退避訓練を実施しています。集団的自衛権の行使が容認されれば、岩国が攻撃を受ける脅威の度合いは、より深刻さを増すでしょうね」
日本政府は地元住民の思いを踏みにじり、米軍を尊重する?
2006年3月12日、岩国市では、厚木基地からくる空母艦載機の移駐計画の是非をめぐり、住民投票が実施された。結果的に投票率は58.68%で、移駐反対が4万3433票で87.42%、賛成が5369票で10.81%と、反対票が9割近くを占めた。
これまで日本では、400件以上の住民投票が行われてきた。自治体の首長や議会に、「投票結果に従わなければならない」という法的義務は生じないが、結果を反故にされたのは、わずか2例である。ひとつは宮崎県小林市の産廃処理施設建設をめぐる住民投票で、投票結果に従って建設を中止にするには、企業に莫大な賠償金を支払わなくてはならないことから、中止には至らなかった。
ふたつめは沖縄県名護市の米軍ヘリポート基地建設をめぐる住民投票で、これも建設反対が多数を占めたが、市長が突然辞任し、「安全保障」を理由に、強引に建設する方向へ押し切られた。しかし、地元の抵抗は根強く、今も建設はされていない。
住民投票については「原発国民投票」を呼びかけた今井一氏が詳しいので参考にしてほしい。
宮崎県小林市の例は私企業相手だったため事情は異なるが、名護市、岩国市における住民投票は、米軍基地をめぐる国策の是非を問うものであり、「民意」が最大限反映されなければならない。
にも関わらず、日本政府は、地元の民意よりも米軍の利益を尊重してきた。集団的自衛権をめぐる今回の閣議決定も同じ構図で、どの世論調査の結果でも、集団的自衛権行使反対が多数を占めているが、国民の声は、「安全保障」の名のもとに裏切られる。
日本政府はやはり米軍の都合に合わせた軍備体制を全国で整えつつあり、その結果、オスプレイは全国を自由に飛び回り、岩国基地は今、「極東最大の米軍基地」に化けつつあるのだ。