6月20日、元外務省国際情報局局長である孫崎享氏へ、岩上安身がインタビューを行なった。解釈改憲による集団的自衛権行使容認を急ぐ安倍政権の実態にはじまり、イラクをはじめとする中東情勢の急展開とウクライナ情勢とのつながり、日中関係にも影響を及ぼす米国のネオコンの存在などについて話を聞いた。
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特集 集団的自衛権
※6月20日の岩上安身の連投ツイートを再掲します
6月20日、元外務省国際情報局局長である孫崎享氏へ、岩上安身がインタビューを行なった。解釈改憲による集団的自衛権行使容認を急ぐ安倍政権の実態にはじまり、イラクをはじめとする中東情勢の急展開とウクライナ情勢とのつながり、日中関係にも影響を及ぼす米国のネオコンの存在などについて話を聞いた。
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記事目次
岩上安身(以下、岩上)「先ほどの辻元清美議員へのインタビューでも焦点となった『邦人を乗せた米艦防護』についてうかがいたいと思います」
孫崎享氏(以下、孫崎・敬称略)「米国務省の領事のHPでは『民間人救護に軍用機が付くなんてことはハリウッドの見過ぎだ』と書いてあり、これはネットで世界に公開されています(※)。
『中国は民主国家ではない』とよく聞きますが、民主主義とは、政党が政策を守ると約束して、それに対し国民が投票するものですね。国民に約束した政策と全く逆のことをする政府、という日本の状況は民主国家と言えるでしょうか」
(※)米国務省領事局HP 「Why don’t you use the U.S. military in every evacuation?」
岩上「邦人を乗せた米艦防護の問題では、産経新聞が『朝日新聞の「邦人輸送を米軍拒否」報道否定』(※)という記事を出して反論しています。その中で、周辺事態法の解釈を紹介し、防衛省幹部の『米艦の邦人輸送は有り得る』との声を紹介しています」
(※)2014/6/18 MSN産経ニュース「朝日の『邦人輸送を米軍拒否』報道否定 米艦防護『現実的な重要課題』と防衛省」(記事削除)
孫崎「この文言を見ると、『能力を勘案し』、『第一義的な責任は日本にある』ということが書かれています。これは、『能力があった時にはやります』という意味です。つまり『やらない』ということを、『やりそうだ』というニュアンスで書いているに過ぎません。
『両国はおのおのの能力を相互補完的に使用しつつ』とは、つまりおのおのが責任を持つということです。そして『実施において協力する』とは、協力はするけど『やる』とは言っていない。官僚の文章はこう読まなければなりません。
官僚の文章は、どちらとも読めるようにできているものです。『可能性はある』と書いても『やる』とは書いていませんから、『可能性を排除しない』ということです。結局、『余力があったらやるけど、なかったらやらない』と書いているに過ぎないのです」
岩上「日本の言論界が酷いものになっています。月刊文藝春秋6月号で、石原慎太郎氏が、かつて社会党の浅沼稲次郎委員長を刺殺した少年を賞賛し、『健全な民主主義にはテロがいるんですよ』と語り、活字にしているんです」
孫崎「…(絶句)。
先日、糸数慶子氏と会いました。沖縄は全県1区ですから、沖縄の民意の代表になりますね。そんな彼女が三重県四日市市で講演した時に、ヘイトスピーチの集団が大挙集結して、警察が何人かで警護する事態になってしまいました。今、そんな時代にきているのです。
多くの国民は、日本が集団的自衛権に入ってマイナスの事態が起きるという意識がありませんが、イギリスではアフガン戦争時に450人が死んでいます。自衛隊員をこんな目に会わせてよいのか。しかし今後、『自衛隊員は死を覚悟してるだろ』という差別が起こるでしょう。
しかし、スペインの地下鉄テロでは、民間人が191人死亡、2000人が負傷しました。死ぬのは自衛隊だけではない。戦争はどこか遠くで起きるものではない、ということを本当に認識しているのでしょうか。
先ほど経済関係の所で講演しましたが、彼らには『あなた達は海外に支店を持っているが、ここが襲撃されると思っていないだろう』と問いかけました。集団的自衛権に入るというのは、こうしたリスクも発生するのです。
新自由主義と集団的自衛権はリンクしています。新自由主義とは企業の利潤追求のために国家の枠組みを破壊するものです。そうすると世界のどこかで民衆は蜂起することになり、それに対処すべく進められているのが集団的自衛権というわけです」
岩上「対テロと言った時に、イスラムの人たちも最初からテロリストだったわけではないですね。彼らは一方的に資源収奪され、抑圧されてきた歴史があります。異議申立てをしても受入れられない、となった時に蜂起するしかない。あらゆる蜂起がテロリスト扱いになってしまいます」
孫崎「イラクで蜂起したISIS。米国が恐れているのが、ISISに80%外国人が入っていることです。つまり全世界に波及する恐れがある。彼らを助けたい、という外国人を吸収して拡大しています。
ネオコンは消滅したと思っていましたが、今逆に、特にウクライナ関係でネオコンが牛耳っている。対ロシア政策を担当するビクトリア・ヌーランド米国務次官補と米大使館との話がyoutubeにアップされていますが、ウクライナの『組閣』を行っています。
(※)岩上安身は【IWJブログ】ウクライナ政変~揺らぐ権力の正当性――西部の首都キエフを支配した反政権派には米国政府とネオナチの影、プーチンに支援を求める東部の親露派住民 2014.3.6で次のように書いている。
2月上旬に、アメリカのヌーランド国務長官補とパイエト駐ウクライナ大使とが、ウクライナ野党勢力の今後の人事について画策している電話の会話がYoutubeに流出している。この中で、ヌーランド氏が「クリチコが政権に入るのはよい考えではない」と発言している。経済に関する経験や政治の経験があるヤツェニュク氏が首相になるのがよいと言い、チャフニボク氏とクリチコ氏は「外」にいればよいと言っている。
結局、ウクライナではヌーランド氏の言っていたとおりの内閣ができたわけだ。ここで明らかになったことは、ウクライナの民衆の自発的なデモに見えた「ユーロマイダン」の抗議行動には、米国が背後で関与していたという事実である。
このヌーランドの夫は誰か。ネオコンの代表的論者であるロバート・ケーガンの奥さんなんです」
岩上「えっ!? ネオコンの代表的論客である、あのロバート・ケーガン!?冷戦締結後、NATOは『ロシアは体制として敵ではない』、と言い出していて、その存在意義が問われました。これが世界に波及するのを防ぐため、NATO再結成が目論まれたのです。
だから、ネオコンはウクライナ情勢を泥沼化させたい。ロシアに介入させたい。しかし今のところロシアは我慢しています。しかし自国民が殺され続け、プーチン大統領宛に介入要請が起こっている以上、このまま我慢し続けるのは難しいでしょう。
岩上「米国が『欧州とロシアが仲良くなるのはよろしくない』、と考えても不思議ではないですね。欧州とロシアは天然ガスのパイプラインでつながっていますが、ウクライナ問題はこのパイプラインを使い物にならなくする効果がある。混乱を招き、NATOの再強化を促そうとしています」
孫崎「しかし米国としては、ウクライナに火をつけたが、イラク情勢でそれどころではなくなった、という状況ではないでしょうか。イラク情勢は、中東ががらっと変わる恐れがあります。
対ISISとしてイランと米国がくっつく。これにはイスラエルが良く思わないでしょう。そもそもイランの脅威とは『余裕のある脅威』だった。イランが米国を攻撃することはないのですから。しかし今回のISISはヨルダン等まで波及する恐れもあります。ヨルダンまで波及したら、本当に大変なことになる。
今回は『イランが核兵器を持っている』みたいなお遊びみたいな話ではありません。イランがイスラエルを攻撃することはないでしょう。しかしISISは今後どう拡大するか分からないし、サウジアラビアら湾岸諸国がISISを支援しています」
岩上「サウジは一方で米国とつながり、一方で過激派を支援していますが、この二面性は何でしょう?」
孫崎「プレーヤーが違うんです。政府・王族は米国とつながっている。しかし別の経済圏を持つ地方豪族は、『貧しい者に与えよ』というイスラム教の教義に則り、過激派を支援するという構造です。
米国はイラクでつまらない介入をしました。スンニ派のフセインを倒すためにシーア派(現マリク政権)を支援しました。するとスンニ派の湾岸諸国とは基本的には対立します」
岩上「さらにISISの台頭によってシリアに影響が出てますね。シリアのISISを倒すとなると、今度は宿敵であるアサド政権を助けることになる」
孫崎「米国としてはISISを全力で叩かなければならないとなれば、ロシアの協力もいるので、ウクライナの火遊びは『もういいよ』となります。だからキエフの何人かをしょっぴいて終わりにする可能性はあるでしょう」
岩上「そもそもISISはシリア内戦で膨れ上がったものです。米国がアサド政権を揺さぶっているうちに、ISISが反体制派として拡大した。ここで安倍総理は中東欧州を歴訪し、NATOとパートナーシップを結ぶということをしていますね」
孫崎「安倍総理は2007年くらいからNATOを意識した発言をしています」
岩上「2007年といえば、ブレジンスキーが日本をNATOに組み込むべきとの論文を出した時期ですね」
孫崎「安倍政権は、集団的自衛権もそうだし、TPP、消費税増税と、ありとあらゆる分野で、まともな議論ができていません。嘘とごまかしで国をコントロールしようとしています。
元内閣法制局長官がこの問題で2人も声をあげていますね。阪田雅裕元長官は『私は護憲でも9条擁護のグループでもない。基本的に政府を擁護する立場だ』と言っています。つまり政権に忠誠を誓ってきた人達が『これはヤバい』と言わざるをえない時代にきているのです。
今、日本はどこで間違ったか、という本を書いています。それは日露戦争に遡ると考えているんです。日露戦争時にはお金がなく、莫大な借金をしました。この借金返済で『どうしようもない』という状況になり、そういう時代に力で押し切ろう!という風潮になっていったのです」
岩上「これまでの日露戦争についての本は、『日露戦争勝利後は一等国となった』、『満州の権益を得た』、などと良い事しか書いていないですね。実は借金づけになっていたのですね」
孫崎「実際は超債務国家となりました。外務省の図書館に通い、見つけた1940年発行の『日露戦争前後』という本には、第二次対戦はこの日露戦争後から始まっていたと書いています」
岩上「僕も歴史を振り返ってみているのですが、その話を聞いて思い出すのは、大英帝国が、お金がなくて破綻寸前の時に仕掛けたのが、第一次世界大戦であるという話。言いがかりをつけてセルビアを不安定な状態にして、米国を参戦させ、戦争によって大儲けしました。そして、フランスもドイツも戦争によってぼろぼろになってしまった。
戦争を起こす原因は、憎いとか利害が対立するとかではなく、彼らが成功するとまずいから、と考えるからではないですか」
孫崎「そこで尖閣が出てくるわけです。米国は尖閣を使うことで、日中の間を引き裂こうとしているのです。
米国は、日中が戦争になっても構わないと思っている。ネオコンの連中の最後の台詞は、『自分の国のために血を流せない国は…』というもので、米国はその論理をずっと言ってきています。日中が衝突したら『ほら、自分で守れないでしょ』と言ってくるでしょう」
日中間対立を煽り、「戦争をさせたい」米国
孫崎享「新自由主義と集団的自衛権はリンク…新自由主義とは企業の利潤追求のために国家の枠組みを破壊するもの…そうすると世界のどこかで民衆は蜂起…それに対処すべく進められているのが集団的自衛権というわけです」