第2に、その会見の模様は、すべて民主党ホームページ上でリアルタイムで中継され、過去の動画も無料でいつでも見ることができる(これで会見記録をすべてテキストに起こしてくれたら、いうことなしだが、そこまでは行っていない)。
第3に、民主党本部内にも、記者クラブが「存在」しているのだけれど、会見で特別扱いはされない。
自民党本部内での総裁の記者会見が、先日からクラブ外の記者にもオープン化されたが、記者クラブに気兼ねして、まず質問はクラブの記者を最優先し、その後、余った時間があれば、クラブ外の記者も質問が許される、という「差別的」扱いなのとは、対照的である。
そうした、見事なまでに「フルオープン」な記者会見ではあるのだけれど、「オープン」という言葉から連想されるような「フレンドリーさ」とは、ほど遠い。とげとげしい緊張感に包まれている。
その理由のひとつは、小沢一郎という人物の個性である。
常に不機嫌な表情で、高圧的な気配、傲然とした物言いで記者に接する。少しでもたどたどしい質問があれば、「ああん!? 君は勉強してるのか!?」とやりこめる。これでは、小沢一郎という政治家に好意的な記事を書く記者が現れないのも仕方ないな、と思わせる。
もっとも、小沢氏本人に言わせれば、メディアに好意的に扱われたことなど皆無、常に批判にさらされてきたから、今さら、おもねって、メディアの機嫌を取るつもりなどさらさらない、ということなのかもしれないが。
もうひとつの理由は、週に1回、30分の記者会見の間、事態が何も進んでいなくても、西松建設の献金問題など、「政治とカネ」からみの質問が繰り返し出るためである。そのたび、「何度言ったらわかるんだ!?」と小沢氏は声を荒げる始末。不毛なやりとりが、毎回「お約束」のように繰り返される。そして、翌日の新聞などにそのやりとりはまったく掲載されていないのだ。これは、いかがなものか。
問い質すべき、新たなネタがあればともかく、そうでない場合に、必要以上に同じ質問を反復するのは、「取材」ではなく、「抗議」や「圧力」、あるいはある種の「日常化したメディアスクラム」というべきものではないか。対象が、国民的な「憎まれ役」である「小沢一郎」であるため、どこからも抗議がこないとはいえ、これはどうか、と思う。いざというときに、切れ味鋭く「質問」という刀を抜けるように、鞘に納めておくメリハリも大切ではないか、と思う。
というわけで、小沢幹事長と記者との、「どっちもどっち」なやりとりの一部始終は、民主党のHPの動画で見ていただくとして、昨日(11月16日)の会見のうち、問答に「中身」のあった下りを中心に、お伝えする。
広野「お待たせいたしました。小沢一郎民主党幹事長の定例記者会見を開かせていただきます。今日は司会を担当致します、私、副幹事長の広野ただしといいます。よろしくお願いを申しあげます。それでは幹事長」
小沢「俺からは、何もないよ」
広野「皆さん、挙手をしていただいて、所属、会社名と名前を言って質問をお願いします」
外国人参政権問題について
記者「朝日新聞の**です。
外国人の地方参政権について質問します。先日の政府、民主党、首脳会議で幹事長に一任されたと聞いておりますけれども、提出時期の目処と、閣法(内閣提出法案)になるのかそれとも議員提案、議員立法となるのか。
それから対象となる永住外国人についてなんですけれども、台湾の人とそれから朝鮮半島出身者のうち、朝鮮籍の人はそれぞれ含まれるべきとお考えなんでしょうか」
小沢「あの、一任されたというわけじゃありませんけれども、今、韓国政府サイドからも、在日の方々からも、そういう要求が非常に高まってきている。それでまた私どもも、そのことについては積極的な姿勢を示してきた経過もあると。
まあいうことでありますが、私としては、内容どうのこうのに立ち入る立場じゃありませんので、申し上げませんが、私自身としては、これは国の政府の姿勢をきちんと鮮明にするという意味からも、政府提案が望ましいだろうというふうに思っております」
記者「責任決定は……」
小沢「内容について、私は、立ち入ってしゃべる立場じゃありません」
亀井新党立ち上げについて
広野「他の方、どうぞ」
記者「テレビ東京の**と申します。幹事長、13日に亀井大臣とお会いされていらっしゃいますが、亀井大臣は新党日本と平沼さん率いるグループに新党結成を打診しているということなんですが、これが実現した場合、現在の連立への影響についてどのように考えてらっしゃいますでしょうか」
小沢「影響? うーん。それはマイナスのことはないでしょう。ですから、まあそれは事実かどうか私は分かりませんから。
ただ、まあ仮に諸君の報道が事実であるとすれば、それは別にマイナスではなくてプラスの方が、より多いのではないですかね」
記者「具体的にはどういったところでプラスだというふうに――」
小沢「えっ?」
記者「プラスの面と言うのはどういった部分でしょうか」
小沢「だからその新党というかなんというか、より多くの、今の与党以上により多くのメンバーを集めて、ちゅうことになれば、それはあの政府与党のメンバーが増えるということですから。うん、プラスじゃないですか」
※この亀井新党立ち上げについては、先日のエントリーを参照のこと。
キリスト教批判をして抗議を受けている件について
- ※参考「小沢氏「キリスト教は独善的」 仏教は称賛」2009/11/10 20:56【共同通信】
- 「キリスト教連合会が小沢氏に抗議 「排他的」発言で」2009/11/15 16:22【共同通信】
記者「朝日新聞政治部の**と申します。あの先日幹事長は高野山で、『仏教は排他的ではない。心の広い宗教哲学である』とおっしゃられましたけれども、今後、幹事長は政治の場でですね、野党である、共産党や公明党との連立についてはどのようにお考えでしょうか」(この質問は、前半と後半がつながらず、意図不明)
小沢「共産党も公明党も野党ですから。与党になりたいという話はいまだかつて聞いたことがありませんので。そんなことを考えたことはありません」
記者「産経新聞の**です。高野山を訪れた際にですね、西洋文明に行き詰まりの文面で、キリスト教について言及がありました。日本キリスト教連合さんがですね、抗議文ということで――」
小沢「え?」
記者「あのキリスト教連合さんが、一応まあ抗議文ということで、幹事長の発言こそ独善的だという抗議文を出されておるんですが、まあ誤解のないように――」
小沢「どこに出されてるの」
記者「あの民主党に」
小沢「産経新聞に?」
記者「産経新聞は……。改めて――」
小沢「私は、宗教論と文明論を言ったんです。君は何教だ?」
記者「家は仏教です」
小沢「ふーん。仏教ちゅうのはどういうの?」
記者「うちは浄土真宗――」
小沢「いやいやいや、仏教ちゅうのはどういう哲学だっちゅうの?」
記者「あ……すぐに答えられません」
小沢「仏教ちゅうのは、死ねばみな仏様になるんだよ。そうでしょう? 除夜の鐘幾つ叩くか君知ってるか?」
記者「108です」
小沢「うん。108ちゅうのはどういう意味だ」
記者「煩悩です」
小沢「そうだ。煩悩をすべて超越して、生きながらにして超越できる人が生き仏だ。お釈迦様が最初の人なの。その以降にも色々あったと思うけれど、お釈迦様に近いような人もいっぱい出てきただろうと思う。これだけ普及したんだからね。
まあな、そういう意味で、生きながらにして仏になることもできるし、死にゃあ、みんな煩悩がなくなるから、仏様。
君のとこにも仏様があるだろう。他の宗教でみんな神様になれるとこあるか。そうでしょう。
基本的考え方が違うということを僕は言ってるんですよ。仏教哲学が背景だけども、東洋の思想ちゅうのは、悠久なる自然の中の、人類はその一つの営みというとらえ方なの。分かる?
『それ天地は万物の逆流にして、光陰は百代の過客なり』という李白の詩があるけれども。西洋文明は、人間が霊長類といって最高の、自然も人間の色々な、まあこれは少し宗教ちゅうよりも政治論になるけれども、ために、存在するという考え方だ。だから、有名なエベレスト征服した時に、『なぜエベレストを征服したのか。そこに山があるからだ』という答えをしたイギリス人がいたけども、地元では霊峰として崇められて、そのエベレストを征服しようなどという考え方はアジア人には殆どないと。そういう根本的な宗教哲学と人生観の違いを僕は述べたの。
分かった? 僕も君も死ねば仏になれるんだから」
(笑い声)
国会改革について
来年から、通年国会にしよう等の改革案を小沢氏主導で進めている件。
記者「読売新聞の**といいます。国会改革、政治改革についてお尋ねいたします。今日の与党三党の幹事長・国対委員長会談で幹事長の方から、政治改革についての考え方が示されて、それを受けて社民党は持ち帰って検討したいということだったとお聞きしておりますが、それを受けたですね、今後の法案提出も含めた見通しについてお尋ねできますでしょうか」
小沢「あの、社民党が党内で議論をまだしていないので、それを早急にしたうえで、意見を、まあ最終の意見を申し上げるということでしたから、まあなるべく早く、論理的に別にそう難しい話じゃないですから。なるべく早く結論をいただいて、そして政府与党三党そろって、まあ日本新党もありますけれども、あっ、新党日本だ、まあありますが、議会制度協議会にかけて議論をしていただければいいなと思っています」
議員連盟のあり方について
記者「日本テレビの**です。今日の役員会で衆参合わせて400を超える議員連盟のあり方について検討する方たちが会を立ち上げるということですが、その狙いと議連についてのあり方について幹事長のお考えをお願いします」
小沢「高島さんが中心になって、今度議連の見直しというか整理というか、そのチームを編成致しました。色んな意見があるようです。超党派については今まで自民党がずっとやってた。与党としてそれをどう継ぐかということもあれば、特定のいわゆる族議員的な活動に陥ってはならないという意見もあれば、色々意見があるそうですので、そのチームで精査して方向性を決めると、いうことになります」
広野「時間の関係もありまして、あと1、2問で終わらせていただきます。それでは一番奥におられる、さっきから手を挙げておられる……」
岩上「フリーのジャーナリストの岩上安身と申します。よろしくお願い致します。
あの、陳情制度の改革についてご質問させていただきたいんですが、陳情をですね一本化していくということによって、族議員の発生というものを食いとめるということは、大変プラスの効果があるだろうと思います。
ただ他方でですね、その陳情の情報が過度に小沢幹事長にですね、集中し、それがまあ情報の集中とそれから権力の集中が行われるんではないかという懸念が色々な所で語られております。
これについて、もちろん小沢幹事長にご反論あるかと思いますし、それをお聞かせいただきたいのとですね、またこの陳情、集まった収集した情報を選別し、政策に反映していく段階の過程を何らかの形で情報を公開するとか、あるいは透明化を図るというようなですね、お考えはありますでしょうか。お聞かせ願いたい」
小沢「あの、すべてこの仕組みは透明化、公開されております。陳情ちゅうのは公開でしょう。内緒で夜陰に紛れて陳情するなんてことはないでしょうが。全部公開の陳情書をほぼ作って皆さんおいでになるけれども。公開されておりますし。
ただ私自身が、いちいちチェックをしているわけではもちろんありませんし、いわゆるシャドーキャビネット(影の内閣、とは野党が設置する政策立案機関のこと)次の内閣が、本物の内閣になったわけですから、政策等についてはそちらで最終決定をする。
ただ、我々の地元にいる県連や議員を中心にしてね、政府に声をもっと届けてもらいたいということもあろうし、また個々の議員と官僚と色んな機会に直接予算の配分やらなんやらするということが結果として利益誘導型の政治と利権構造を政官業の癒着の構造を生むことになる、というようなことで、公開して、そして民意やあるいは地方議員も含めて、草の根の意見を吸い上げるシステムにしようということから、考え出されたものでございまして。
幹事長会議でも言いましたが、我々の最終の目標は、地方に関わることはすべてお金も権限も地方にもう一括して渡そうというのが、我々の究極の目標ですから。今、そういうものに向かって、これは武力革命じゃあないですから、色々な経過を経て、民主主義的革命を実行しなくちゃいけないということですので、それにいたるプロセスとして、まずそういった弊害を断ちきって、公開制、透明性を持たせるようなシステムにしようということで、今考案されている、いたものでして、これは各地域でも国会議員も地方議員も大変喜んでいるという声が聞こえてきております」
岩上「ありがとうございます」
私の質問に対しては、なぜか小沢氏は丁寧な口調で回答された。
この回答によって、「陳情制度の一本化によって、小沢氏へ情報と権力が集中するのではないか」という疑念が払拭されたわけでは、むろんない。ただ、陳情が政策決定過程にどう反映されてゆくか、という点について情報公開を行う、という話は、今までほとんど出たことのない話であり、非常に重要であると思う。
もし実現されれば、予算を組む過程が透明化されることになる。
今、行政刷新会議の事業仕分けにより、不必要な予算をカットするプロセスが公開されているが、「予算のスクラップ&ビルド」の、「スクラップ」過程だけでなく、「ビルド」の過程も透明化されれば、無駄や不公正な予算がそもそも組みにくくなり、汚職や腐敗も生じにくくなるだろう。国民にとって本当に必要な政策に予算がつくという理想に、一歩近づくことになる。
果たして、小沢氏の言葉が、そこまでの射程をおさめたものであるか、不明であるが、この点は今後も忘れずに注目したい。
それはともかくとして――。
小沢氏の口から、「民主主義的革命」という言葉が飛び出してきたのには、いささか驚いた。小沢氏は、しばしばソ連共産党に育てられながら、ソ連共産党の一党独裁体制を破壊したエリツィンにたとえられるが、小沢氏自身もまた、「民主革命」を意識していたことになる。
元官僚の起用について
広野「それでは時間的に恐縮なんですが最後にさせていただきます」
記者「時事通信の**と申します。今日の役員会で、江利川前厚生労働事務次官を人事官にするという人事案を承認したというふうにうかがっているんですが、前回の斎藤元大蔵事務次官に続いて、まあ役人OBと言われる方を起用する例が増えてきているかと思いますが、これまで民主党が主導してきた、脱官僚政治や天下りをなくすといった主張との整合性について幹事長はどのようにお考えでしょうか」
小沢「まあこれは、政府が答えるべき問題だと思いますけれども、今日の役員会において、国対委員長から考え方の説明がありましたが、要するに自分の所管の特殊法人やら独立法人やらあるいは民間企業やら、そういうところに権限を利用してポストをとるというようなこれはやめにしようということであって、今度の人事院にしろ、郵政公社にしろ、そういう直接官僚出身ではあるけれども、官僚時代の所管と別個のことなので、それは是とするという風に説明がありました」
記者「それでいいというお考えですか」
小沢「私どもも、政府がそういう見解で人事をやるということですので、我々もそれに同意したということです」
広田「それでは誠に恐縮なんですが、時間が参りましたので記者会見を終わらせていただきます」
小沢「はい、ありがとう」
「党と政府の一体」という方針を掲げてはいるものの、小沢幹事長が、政府の決定について他人事のように話すので、「党と政府はまるで別」のように聞こえる。ここらが実に難しい。
小沢幹事長が、政府のことに口を出せば、「小沢支配が党のみならず、政府にも及んでいる」と批判されるのは明白である。そのため、政府の守備範囲については口を出さない、ということなのかもしれないが、仏頂面で無愛想に口をつぐまれると、それがかえって「無言の威圧」となり、周囲がびくびくしながら、腹のうちを「忖度」しなければならなくなる。
その結果、小沢氏の側近が、小沢氏の意を汲んで走り回る「忖度政治」が肥大する。
不思議なものである。
「人を動かす」ことが、政治の要諦であるなら、これも動かし方のひとつ、ということになるかもしれないが、「不機嫌」さによって、「人を動かす」ことができるというのは、本当にまれなことである。普通は人をひきつける「魅力」との抱き合わせでしか、通用しない方法のはずだ。
小沢氏の「魅力」とは、何なのだろうか?
酒好きのエリツィンには、独特の愛嬌があった。外国人にはわかりにくいことなのだが、彼の風貌や喋り方、表情、物腰は、ロシア人達の目には「素朴で、飾らない、正直な、好ましい人物」と映った。
同じ「ぶっ壊し屋」でも、その点が、小沢氏とエリツィンとは、大きく異なる。小沢氏はエリツィンほどには、隙を見せない。あるいはそこが、最大の違いであるかもしれない。