勢力結集へ動く亀井氏=背景に参院選後への焦り
立冬も半ば。師走も見えてきた11月後半の第3週の月曜日。今日発売の「週刊現代」の特集は、なんと「菅副総理ではなかった~亀井小沢人事『次の総理は亀井』」という、唐突なものだった。本文は憶測ばかりの中身のない記事ではあるが、亀井氏の、政界における存在感が高まりつつある、という「気分」だけは、微妙に映し出されている。
そんな日に、まるでタイミングをはかったかのように、時事通信の速報が永田町を駆け巡った。亀井代表が、国民新党の勢力拡大に向けて、田中康夫代表率いる新党日本(現在は衆院1人)との合併と、「平沼グループ」(現在は衆院3人)との統一会派結成に動いているという。
国会の中で、記者に囲まれた亀井代表は、この情報を否定せず、「今からだ、亀は早いんだ」などと、記者団を煙に巻いた。
当然ながら、唐突なこの動きに、様々な観測が乱れ飛んだ。
一番目立つのは、「来年夏の参院選挙で民主党が単独過半数を制したときに、連立を組む国民新党と社民党は、存在価値が薄れるため、今から勢力の拡大につとめよう」というもの。だが、「連立解消」を前提として、焦って勢力拡大を図っているという、この見方は、いささか早計のようだ。
関係者に取材したところによると、国民新党は、民主党との連立を解消せず、そのスキームの中で、新党日本、平沼グループ、さらには自民党の現職、落選組に声をかけてきているのだという。
国民新党に近い筋によれば、「もう自民党は死に体。谷垣総裁が、昨日、自転車でコケた話、聞いた?(笑)。大将が趣味のサイクリングでコケちゃね、しまりがなさすぎる。ああいう話、政界ではけっこう影響するんですよ。
選挙のために戦っている最中に、倒れて死んだ、なんていうなら、前のめりの話だから、かえって陣営は燃えるんだけどね、趣味の話じゃ、何やってんだ、となる。士気に関わるんです。
予算全般の質疑を見ていても、自民党で怖いのは、石破茂元防衛相くらいのもので、あとはもうダメ。将来ではなく、現時点ですでに、二大政党制ではなく、民主党の一党体制。これから、二大政党制を築くための政界再編が、自民党を草刈り場にして、始まるだろう」という。
もともと新党日本代表の田中康夫氏は、亀井氏より、小沢氏に近いという事情もあり、この合併話は、小沢氏の内諾を得たもの、という話もある。
毎週月曜日に、民主党本部で開かれているフルオープンの小沢幹事長記者会見。定刻の5時を、やや過ぎてから始まった今日の会見でも、この合併話について質問が出た。
記者「テレビ東京の**と申します。幹事長、13日に亀井大臣とお会いされていらっしゃいますが、亀井大臣は新党日本と平沼さん率いるグループに新党結成を打診しているということなんですが、これが実現した場合、現在の連立への影響について、どのように考えてらっしゃいますでしょうか」
小沢「影響? うーん。それはマイナスのことはないでしょう。ですから、まあ、それは事実かどうか、私は分かりませんから。
ただ、まあ仮に、諸君の報道が事実であるとすれば、それは別にマイナスではなくて、プラスの方が、より多いのではないですかね」
記者「具体的には、どういったところでプラスだというふうに――」
小沢「えっ?」
記者「プラスの面と言うのは、どういった部分でしょうか」
小沢「だからその新党というかなんというか、より多くの、今の与党以上により多くのメンバーを集めて、ちゅうことになれば、それはあの政府与党のメンバーが増えるということですから。うん、プラスじゃないですか」
小沢幹事長が、言葉を選びながらも、「(国民新党と新党日本と平沼グループの合併による新党結成は)与党にとってプラス」と認めたのは、大きい。
実際に記者会見場において、私自身、小沢幹事長の顔色を目にと、その慎重な口ぶりを目にしながら、「事前に、亀井代表が小沢幹事長に対して内諾を得ていた」という情報は、まんざら嘘ではないな、との印象を深めた。少なくとも、小沢幹事長にとって、「寝耳に水」という話ではなかったと思われる。
亀井代表から、「連立を離脱しない、民主党の敵には回らない」という感触を得ていなかったら、民主党と統一会派を組む新党日本に手を出すことは、許さない、と気色ばむことであろう。
他方、平沼グループ関係者は、亀井氏との間で、以前から連携を模索してきた事実そのものは認めつつも、今のところは、国民新党との提携はありえても、民主党との提携は考えていない」と話す。
平沼氏が、保守勢力を結集して「第三極」を形成する独自の新党構想に熱心なのは、よく知られた話ではある。中道左派に近い民主党とは、イデオロギー面では「水と油」であり、両者の提携はこれまで浮上したことはなかった。もっとも、「それはあくまで、『今のところ』という話。将来はわからない」という事情通もいる。
「『ウルトラ保守』ともいうべき平沼グループは、内部に左派を抱える民主党とは、そのままでは手を結びにくい。だが、国民新党が間に入ってクッションの役割を果たすならば、民主党とも『連立』を組むことはありえなくはない」。
平沼グループのある関係者は、「早く、自民党からみんな出てこないかなと願っている」と語った。
「うちは、市場原理主義の、『中川秀直グループ』と、『みんなの党』以外なら、自民党内の誰とでも組める。安保論が右か左か、財政の考え方が積極派か、緊縮財政派かは、そんなことはまったく関係ない。自民党の七割の議員は、右でも左でも、自分の生き残りのためには、どっちにでも転ぶから(笑)」
自民党の再生、政権奪回の芽がない、となれば、「保守結集による第三極の形成」も、絵に描いた餅に過ぎなくなる。しかも平沼グループは、公職選挙法上の政党要件である「国会議員5人以上」という規定も満たさず、政党交付金を手にすることもできない。生き残りのためには、イデオロギーは後回し、となる可能性も否定はできない。
むろん、プライドの高い平沼氏は、そんな憶測を、肯定するはずもなく、今日の一報を受けて、押しかけた番記者達に対して、「(国民新党との合併は)ない」と、一応はこの合併話を否定してみせた。
ただ、国民新党に近い関係者が口にした以下の言葉は、妙に生々しく響く。
「来年の政党交付金の額は、今年末の時点の議員数で決まる。来年になってから、ぽろぽろと自民党側からこぼれてくる前に、今のうちに飛び出してきてもらって合流した方が、お互いのためにプラスなんだよね。一緒になるなら年内に、ですよ(笑)」
国民新党は、亀井氏の個性によって、存在感を発揮してはいるとはいうものの、衆議院議員3人の小所帯では、いかんともしがたい。いずれは「このままなら、民主党に吸収・合併という噂も、否定はしない」と、その関係者は続ける。
だが、もしも新党日本、平沼グループだけでなく、自民党の現職・落選組を含め、何人か引き抜いて20人程度の所帯を形成することができたら――。
「その時は、『週刊現代』さんが書いてるように、ウチの亀井が『総理』ってのも、まんざら夢じゃないんじゃないですか(笑)。ウチの亀井、小沢さんとの関係は、良好ですからね」