【IWJウィークリー第6号】「復古主義」の仮面をかぶった「新自由主義経済」 ~トルコと日本の奇妙な共通項を岩上安身が分析![岩上安身のニュースのトリセツ(2/2)] 2013.6.13

記事公開日:2013.6.13 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

 1週間に起こった出来事の中から、IWJが取材したニュースをまとめて紹介する「IWJウィークリー」。ここでは、6月11日に発行した【IWJウィークリー第6号】から「岩上安身のニュースのトリセツ」の後半を一部公開します。

 「IWJウィークリー」は、メールマガジン発行スタンド「まぐまぐ」にて、月額525円(税込)でご購読いただけます。→こちらから

 また、定額会員の皆さまには、会員特典として、サポート会員だけでなく一般会員の皆さまにも、無料でお届けしています。無料サポーターの皆さまは、この機会に、ぜひ、定額会員にご登録ください。→こちらから

※岩上安身のニュースのトリセツ(1/2)はこちらから→【IWJウィークリー第6号】「復古主義」の仮面をかぶった「新自由主義経済」 ~トルコと日本の奇妙な共通項を岩上安身が分析![岩上安身のニュースのトリセツ(2/2)] 2013.6.13

記事目次

日本とフランスが原発輸出で協力

 「成長戦略 第3弾」の発表から2日後の6月7日、安倍総理は首相官邸でフランスのオランド大統領と会談し、包括的な原子力協定で合意しました。首脳会談後に行われた共同記者会見で、安倍総理は「世界の安全水準を高めていく観点から、日本の原子力技術への期待に応えていく」と述べ、原子力技術の輸出を進めていくことを強く宣言しました。

 オランド大統領は、6月6日から3日間の日程で来日。仏大統領を国賓として招くのは、実に17年ぶりのことです。今回の訪問には、外務大臣などの6閣僚以外にも、原子力企業最大手・アレバ社の最高経営責任者など、フランス経済界の幹部およそ40名が随行しました。今回来日した主な目的のひとつが、原子力産業分野における連携です。

 今回発表された共同声明(※25)では、第三国への原発輸出に向けた協力を明記し、三菱重工業とアレバ社が共同開発した原子炉を国際展開させていくなどとしました。さらに、核燃料サイクルなどの研究開発における協力や、廃炉・除染事業においても2国間で連携していくことを確認しました。

 現在、日本とフランスはヨルダンでの原発の受注を目指していますが、フランス側はベトナムやシンガポール、インドネシアへの原発輸出でも日本との協力を求めています。

 5月、安倍総理は、トルコ北部のシノップに建設する予定の原発4基、総額220億ドルのプロジェクトに関する契約に署名しました。この原子炉は、先述した三菱重工業とアレバ社が共同開発したもので、今後も次々と原発輸出を推進していくことになるでしょう。後述しますが、日仏が原発を輸出するトルコでは、今、反政府デモが広がりを見せています。

 安倍総理が5月17日に発表した「成長戦略」の第2弾では、2020年までにインフラ輸出の受注額を現在の3倍にあたる30兆円にする目標を掲げています。このインフラ輸出の目玉になるのは、「原発」なのです。

(※25)外務省HP
「日仏共同声明」

原発輸出以外の成果はなし ◇

※ここは、メルマガのみの公開となります。

原発輸出先のトルコで史上最大のデモが発生

 さて、日仏での原子力協力後、第1番目の輸出先となるそのトルコでは、5月31日以降、反政府デモが多発し、またたく間に全土に広がっています。

 当初は、首都イスタンブール市内の公園取り壊しにたった4人で反対する小さなデモでしたが、5月31日にデモ隊を警官隊が催涙弾などで強制排除したことから、翌日6月1日には国内90カ所以上にデモが拡大。警官隊が撤収するも反政府運動の勢いは止まらず、2日には1万人以上の市民が集結。1700人以上が拘束され、939人が逮捕されるという、トルコ史上最大規模の抗議デモとなっています(※27)。これまで3名の死者が出ており、収束の目処はいまだ立っていません(※28)。

 さらに、警察によるデモの鎮圧行為に反対して、公務員労働組合連合が6月4日から24万人規模のストライキに突入。経済活動にも大きなダメージを与えています(※29)。

 6月3日から北アフリカ諸国を訪問していたエルドアン首相は、当初「状況は数日すれば正常に戻るだろう」との楽天的な見方を示していましたが、6日には「反政府デモの背後には『テロリスト団体』がいる」などと、お決まりの「レッテル貼り」を始めるとともに、騒ぎの発端となった公園再開発を続行する方針を表明しました。

 注意を払わなくてはいけないのは、「ソーシャル・メディアは最悪の社会の脅威」と非難し、Twitterユーザーを25人逮捕するなど、ソーシャル・メディアに対して敵対的な姿勢を続けている点です(※30)。

 「アラブの春」の二の舞を避けたい、という思いからでしょうが、これは、日本のSNSユーザーにとっても。対岸の火事とばかりに等閑視しているわけにはいきません。いつ自分たちの頭上に降りかかってくるかわからない、と警戒をする必要があります。

 デモの広がりとともに、日本の大手メディアもこの事件を連日大きく取り上げてはいます。しかし、これほど大規模な反政府デモが発生するに至った背景については多くを報じていません。一方、海外記事に目を転じると、いくつかの事実が浮かび上がってきます。

 ニューヨークタイムズ紙は、6月2日付けの“Protests in Turkey Reveal a Larger Fight Over Identity”(トルコの抗議はアイデンティティーを巡るより大きな争いを露呈した)という記事の中で、「都市空間をめぐる長年の争いは、トルコのアイデンティティーをめぐる広大な戦いでもある。宗教、社会階級、そして政治という難しい問題が絡み合っている」と報じています(※31)。今回のデモは、単なる乱闘騒ぎではない、ということです。

(※27)2013年6月2日 CNN「首相の退陣求め大規模デモ、939人逮捕 トルコ」
http://www.cnn.co.jp/world/35032837.html

(※28)「トルコデモ、死者3人・負傷者4100人超に」(2013年6月6日 読売新聞 ※記事リンク切れ)

(※29)「トルコ反政府デモが5日目に突入、公務員労組はストライキを開始」(2013年6月4日 ロイター)

(※30)「抗議運動激化のトルコでエルドアン首相が『ソーシャル・メディアは最悪の社会の脅威』と非難―Twitterユーザー25人逮捕」(2013年6月6日 TechCrunch)

(※31)“Protests in Turkey Reveal a Larger Fight Over Identity”
(2013年6月2日 NY Times)

トルコと米国間の「軋轢」と「協力体制」

※ここは、メルマガのみの公開となります。

復古主義の看板を掲げ、新自由主義に走ったエルドアン首相

 次に経済に目を転じてみます。トルコ経済は、1995年から99年半ばまで順調に推移していましたが、99年8月と11月に起こった西部大地震が多くの人命を奪うとともに、多大な経済的被害を与えました。各国から支援を受けたものの、経済はマイナスに落ち込みます(※39)。トルコは世界有数の地震国で、その点でも日本と共通しており、大惨事のあとに、国民の痛みを伴う「構造改革」を矢継ぎ早に打ち出す「ショック・ドクトリン」的展開もそっくりで、「共通のシナリオ」すら感じさせるのが興味深いところです。

 2000年からIMF(国際通貨基金)の改革プログラムを受けますが、2001年の9.11以降トルコ経済は再び悪化。トルコリラの対ドルレートが50%以上暴落、実質GNP(国民総生産)成長率はマイナス9.4%となりました(※40)。そうした中、2003年3月に政権についたのが、中道右派(イスラム派)公正発展党のエルドアン現首相です。

 エルドアン首相は、①国営企業の民営化、②民間企業を活用したインフラ開発、③外資の積極的な導入などの経済政策を打ち出し、低迷する経済を復活させました(※41)。欧米に対して親和的な外交政策が功を奏し、市場や生産地としての潜在力が開花したといわれています。リーマンショック後の欧州経済低迷の影響も今のところ限定的で、好調な内需と物価の安定に支えられて、比較的良好な経済成長を実現させています。

 しかしその一方で、経常赤字(輸入額>輸出額)は拡大し続け、2011年にはGDPの10%に達しています。経常赤字は海外からの資本流入により賄われていて、結局、エルドアン政権の新自由主義的な政策による経済成長とは、外資と手を組んだ大企業中心の経済成長に他ならないことがわかります。

 復古主義的な看板を掲げたエルドアン政権の政策の中身が、外資を優遇する新自由主義経済政策であることに注目してください。安倍政権の看板と中身に、実によく似通っています。「愛国」的看板と「売国」的な中身、とまでは言いませんが、「羊頭狗肉」的であることは確かです。

 他方、農業や地場の裾野産業は衰弱がはなはだしく、農村部の貧困や地域間の経済格差が大きな問題となっています。この点も、この20年で農家の所得が約6兆円から約3兆円へと半減してしまい、疲弊はなはだしい日本の農村の現状と重なり合います。

 イスタンブールやアンカラなどの大都市には、生きるために地方から出てきた人たちが不法占拠地区を形成し、大きな問題となりました。そして、この問題の解決策を打ち立てたのもエルドアン首相でした(※42)。

 エルドアン首相は、「儲けたお金の一部は弱者に分配する」というイスラムの「喜捨(ザカート)」教えに則り、都市の貧困層に新築の高層マンションを低価格で提供することにより、不法占拠地区からの脱出を実現させようとしました。つまり、政府資金を効率よく貧困層にまわし、同時に、市場経済化を進めて高い経済成長を実現しようとしたのです(※43)。

 しかし、それも長くは続きませんでした。結局は利益優先の開発に重点が置かれ、資本家の流入とともに、貧困層が半ば強制的に住居を追われるような事例もあるといいます(※44)。当初掲げたイスラムの「高貴な倫理」はもはやそこにはありません。

 イスタンブールの公園再開発がこれほど大きな反政府デモへと急展開した背景には、国民感情を裏切った経済至上主義、新自由主義に対する長年の不満があるのです。前述のニューヨークタイムズの記事にも、「私のイスタンブールはどこだ? すべてが金、金になってしまった」という市民の声が掲載されています。

 イスタンブールの公園の再開発問題は、ソ連崩壊後、社会主義への信頼と期待が世界的に失墜したあともなお、「分配の公正と正義」という問題が、人類永遠の課題であることを象徴しているともいえるでしょう。

(※39)「第3章 中東諸国の経済改革の現状と諸問題 ~トルコ、エジプト、サウジアラビアを事例に~」立命館アジア太平洋大学 アジア太平洋マネジメント学部 武藤幸治・教授
pdf

(※40)独立行政法人 国際協力機構「トルコ共和国との特別円借款契約調印について」

(※41)国際通貨研究所「トルコ経済の現状と注意点 ~ 気掛かりな経常赤字体質と証券投資中心のファイナンス」 pdf

(※42)2006年4月9日 Milliyet紙「低所得者層に低価格住宅を:頭金なし20年ローン、月々の支払いは100リラ(約9,000円)」(東京外国語大学による日本語訳)

(※43)2011年10月19日 NHK解説委員室「視点・論点『トルコとアラブの春』」同志社大学教授・内藤正典(該当ページリンク切れ)

(※44)2013年6月3日 NewSphere「なぜトルコで大規模反政府デモが起きたのか?」

イスラム化政策の背後に潜むもの

※ここは、メルマガのみの公開となります。

トルコと日本の共通点

※ここは、メルマガのみの公開となります。


※岩上安身のニュースのトリセツ(1/2)は、こちらから→【IWJウィークリー第6号】「復古主義」の仮面をかぶった「新自由主義経済」 ~トルコと日本の奇妙な共通項を岩上安身が分析![岩上安身のニュースのトリセツ(2/2)] 2013.6.13

 「IWJウィークリー」は、メールマガジン発行スタンド「まぐまぐ」にて、月額525円(税込)でご購読いただけます。→こちらから

 また、定額会員の皆さまには、会員特典として、サポート会員だけでなく一般会員の皆さまにも、無料でお届けしています。無料サポーターの皆さまは、この機会に、ぜひ、定額会員にご登録ください。こちらから

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

「【IWJウィークリー第6号】「復古主義」の仮面をかぶった「新自由主義経済」 ~トルコと日本の奇妙な共通項を岩上安身が分析![岩上安身のニュースのトリセツ(2/2)]」への1件のフィードバック

  1. 白田81 より:

     岩上様、スタッフの皆様、毎週の『IWJウィークリー』の発行をありがとうございます!

     今号では、特に、「原発輸出先のトルコで史上最大のデモが発生 」の記事に驚きました。
     今年はじめの「アルジェリア事件」を受けた『2013/01/31 中田考氏インタビュー』などで、イスラム文化を知り、そこで紹介された井筒俊彦の著作を読むうちに、「イスラームが歴史的現実としてわれわれに急に近づ」き、とても親しみを感じるようになっていきました。

     “一九世紀末以来、西洋の科学技術文明の圧倒的な影響のもとで、イスラーム世界の各地に近代化の動きが起りまして、まったく西洋風の生活原理に基づいた、つまり宗教的秩序から切り離された世俗国家、あるいはそれに近いものが現れてくるに及んで、近代人としてのイスラーム教徒、あるいは近代人たらんとするイスラーム教徒はたいへん困難な問題に逢着したわけであります。
     近代ナショナリズムの勃興は、この意味において、イスラームの文化構造そのものに重くのしかかってきました。同じイスラーム世界でも、トルコのように思い切りよく「聖」を棄てて完全な世俗国家となり、イスラーム法を撤廃し、アラビア文字の代りにラテン文字のアルファベットを制定し、一切の公文書をアラビア語_中世から近世にかけて、何世紀もの間、アラビア語は全イスラーム世界の公用語として君臨しておりました_ではなくトルコ語で書く、そういう大胆な改革をやってのけた国もありますが、トルコほどではないにいても、今日イスラーム圏のどの国にもナショナリズムの波が澎湃と押し寄せてきております。”  『イスラーム文化 その根底にあるもの』 井筒俊彦

     それでも、

     “イスラーム共同体の特徴をなす徹底した万人平等の観念を表わすために、昔からよく使われてきた表現に、「イスラームでは教皇(カリフ)も乞食もまったく同等だ」という言葉があります。イスラームではカリフも乞食も同等だ、という。注意すべきは、カリフ_皇帝でもなんでもいいのですが_とにかく国家最高の地位にある人も、社会の最下層を代表する乞食も、人間としては平等であるといういわゆるヒューマニズムでは、これはないということです。
     人間として、人間である限り、本性上平等だというのではなくて、
     共同体的社会の契約構造においては、
     この契約関係に入った人は誰でも平等だということです。
     つまり人間の自然的本性のようなものを考えに入れない、特殊な社会契約的平等であります。”  『同上』

     この本の底本は1981年の刊行ですが、IWJの若い記者たちは、岩上氏のこの記事のように、日々の現象の根底にあるものをつかみとり、30年経っても腐らない記事を書いていってほしいと期待します。
     一朝一夕にいかない事は当然ですが、私も一緒に学んでいきたいと思っています。
     
     

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です