「今後、公約に掲げた基本的な考え方に沿って、具体的な条文案について党内で検討・議論を深め、自民党としての案を国会の憲法審査会に提案したい」――。
安倍晋三総理は、衆院選での自民党の大勝を受けて、結党以来の悲願である憲法改正に向けて意欲を見せた。
第48回衆院選の投開票日から一夜明けた2017年10月23日、14時から自民党本部で安倍総理の記者会見が開かれた。
(取材・文:谷口直哉)
特集 緊急事態条項
※10月27日、テキストを追加しました。
「今後、公約に掲げた基本的な考え方に沿って、具体的な条文案について党内で検討・議論を深め、自民党としての案を国会の憲法審査会に提案したい」――。
安倍晋三総理は、衆院選での自民党の大勝を受けて、結党以来の悲願である憲法改正に向けて意欲を見せた。
第48回衆院選の投開票日から一夜明けた2017年10月23日、14時から自民党本部で安倍総理の記者会見が開かれた。
記事目次
■ハイライト
今回の衆院選では、自民・公明の与党のみで313議席を獲得し、憲法改正の発議に必要な全議席の3分の2である310議席を上回った。自民党単独でも、常任委員長のポストを独占したうえで、各委員会の過半数を確保できる「絶対安定多数」の261議席を超える284議席を獲得し圧勝した。
自民・公明に、希望の党や日本維新の会などを加えた、いわゆる「改憲勢力」は8割を超え、国会での憲法改正発議と、その後の国民投票がいっそう現実味を帯びてきたといえる。改憲はもはや『前夜』ではなく『当日の真昼』である。
記者会見冒頭の挨拶で、安倍総理は「与党、野党で幅広い合意を形成することに務めることが必要であり、その上で国民投票において過半数を得るべく、国民的な理解を得るよう努力をしていきたい」と述べ、国会での改憲発議において、野党も含めた合意形成を目指す方針を強調した。
記者から、今後の憲法改正のスケジュールを聞かれると、安倍総理は「2020年という目標については、議論を活性化するために述べたものでありまして、スケジュールありきではありません」と答え、今年5月3日の憲法記念日に発表した、「2020年に新憲法施行」という自身の方針を修正してみせた。
また、今回の選挙で憲法改正への民意は得られたかと記者から問われると、安倍総理は、国会は憲法改正の「発議」をする場であって、憲法改正を決めるのはあくまで国民投票だとして、「総選挙において(憲法改正について)民意を得る、得ないというものではない」とあいまいに述べるにとどまった。
安倍総理が街頭演説で、憲法改正についてほとんど触れなかったことで、国民への説明が不十分ではないか、と記者から質問されると、安倍総理は、「(憲法改正を)決めるのは国民投票であります。この国民投票の場において、具体的な条文について説明する責任がある」として、自らの説明責任については答えを回避した。
さらに続けて、今回の選挙公約に、憲法改正を主要項目として掲げ、政策パンフレットなどに「自衛隊の明記」「教育の無償化・充実強化」「緊急事態対応」「参議院の合区解消」の4項目を具体的に示したとして、「これは皆さまにお配りをしている。街頭でも皆さまにお配りをしている」と強弁したが、演説で積極的に憲法改正に触れなかった理由は述べなかった。
また、「街頭で述べることは、限られた時間の中で、まさにその地域、地域の生活に密着した政策を述べるものです」と言い、若い人や子供連れには少子化問題、地方では地方活性化など、具体的な政策や財源の話をするとも語った。
しかし、IWJは各地での安倍総理の街頭演説を複数回取材したが、実際の安倍総理の街頭演説では地域に密着した話などではなく、どこへ行っても北朝鮮の核とミサイルの脅威とアベノミクスの「成果」の強調にほとんどの時間が費やされ、憲法改正の具体的な中身に触れることなどまったくなかった。国民に対する説明は不十分である、と言わざるをえない。
今回の衆院選では「改憲勢力」が8割を超えたことにより、今後、憲法改正論議が活発化していくことが予想されるが、安倍総理の街頭演説のように、核心部分を語らず、他国の脅威をことさらに強調するだけでは、国民が改憲案の中身を理解して、冷静な議論ができるはずがない。
憲法9条への自衛隊の明記も問題が指摘されているが、「ナチスの手口」ともいわれる緊急事態条項(自民党の政策パンフレットでは「緊急事態対応」と、名称だけが変更されていた)については、ほとんど説明がなく、由々しきことに大手メディアもこの条項の危険性をほとんど報じていない。なぜ大手メディアというのはこうも自民党の意を忖度し、アシストして回るのだろうか!?新聞・テレビに頼っていたら、本当に事実はわからなくなると、自分たちがやっている独立メディアの報道が重要になる、とつくづく感じる。多くの方に応援していただきたい、と心から願う。
また、最終的に憲法改正を決定する手続きである国民投票についても、広告宣伝の予算や寄付金について何の制限もないなど、多くの問題点が指摘されている。詳しくは、岩上安身がノンフィクション作家・元博報堂社員の本間龍氏にインタビューしているので、ぜひご覧いただきたい。会員でない方はぜひ、単品での購入でもご視聴いただきたい。
憲法9条への自衛隊明記の問題と、緊急事態条項の危険性については、以下のアーカイブを参考にしていただきたい。こちらも、会員になるのをためらう方は、ぜひ、単品でご視聴・ご購読いただきたい。