8月3日、内閣改造が行われ、第3次安倍第2次改造内閣が発足した。午後10時から、復興庁記者会見室で、復興大臣(福島原発事故再生総括担当)として初入閣した今村雅弘氏が記者会見を行った。衆議院比例代表九州ブロック選出。東北被災県以外からの復興大臣への起用は、これで3代連続したことに。
今村氏は、今回の内閣改造で初入閣した8人のうちの1人。東大法学部を卒業後、国鉄、JR九州の社員を経て、1996年の衆議院選挙で初当選。外務政務官や自民党の農林部会長などを務めた後、2005年の小泉純一郎総理による郵政民営化に反対し、自民党からの公認を得られず無所属で出馬した。
しかし、その後も強い地元での支援を受けて当選を重ね、2006年に自民党に復党。第一次安倍内閣で農林水産副大臣に就任した後、衆議院国土交通委員長、農林水産常任委員会、災害対策特別委員会などを歴任した。
この日の就任会見で、担当大臣として所管することになる福島の復興に関して今村大臣から繰り返し語られたのは、「効率的」「加速化」「時間との競争」「一番早い」などの言葉であり、被災者や避難者に寄り添おうとする姿勢はほとんど見られなかった。
- 日時 2016年8月3日(水)22:00~
- 場所 復興庁(東京都港区)
「ピッチをあげて進めていく」、福島の復興政策を”ビジネスライク”に進めていくことを宣言
安倍政権による福島の復興政策は、除染も含めた巨大事業が優先される傾向にあり、「これまでの東北の日常と連続性のある、住民や自治体で持続可能な復興政策を採るべきだ」といった声は反映されていない。
被災者の「心」には「よりそう」と言葉では言うが、被災者の生活に関わる権利への具体的な配慮はほとんど見当たらない。そんなことをする金も時間も政府にはない、ということであろうか。
「議員となってからは、国土交通とか農業分野中心に活動し、議員になる前の経験で、社会的インフラのハード面についても知識をもち、JR九州では赤字の鉄道事業を支える事業開拓に取り組んだ。経験的な自負から、社会基盤の復興だけでなく、なりわいの創出についても取り組める自信がある」
「ある意味、時間との競争の面も持っており、ピッチをあげて進めていくことにとくに重点をおきたい」
この日の就任会見で今村大臣は、このように述べ、自らの経歴をアピールした。まるで、福島の復興を「ビジネス上の課題」と捉えているかのようである。
ただしその一方で、「現場からヒアリングで意見をすいあげ、実際的に行っていく」「現場第一主義」とも繰り返した。「ヒアリング等をていねいにやっていくことも必要だ」とも述べた。これがアピール目的のものなのか、本当に真摯に福島の復興のために尽力するつもりがあるのか、今後の大臣の実際の行動で判断してゆくしかない。
3代続けて東北被災県以外からの選出、「むしろ九州の人間だから、とにかく何とかしようと働ける」
今村大臣は佐賀県選出で、福島県選出ではない。安倍政権では、根本匠氏が福島県選出であったものの、その後は島根県選出の竹下亘氏、福井県選出の高木毅氏、そして今回の今村氏と、3代続けて東北の被災県以外で選出された大臣が続いている。
記者から「なぜ被災地外の大臣が続くのか」「そのデメリットを考えないのか」と聞かれると、今村大臣は次のように答えた。
「むしろ私のような九州の人間だから、とにかく何とかしようと働ける。現に九州・熊本でも、震災災害がおきており、災害や自然に対する戦いは、現地だけで対処できないことは、日本全体が自覚している。
これから、日本列島そのものが揺れ動く活動期にあり、異常気象もある中で、自然の脅威と戦っていくのは、日本国民の宿命。先祖がしてきたことだから、国を挙げて、災害に対する戦いをしていく」
九州出身の議員だから、熊本・大分大地震からの復興に対しては、一定の熱意を持っている、と説くが、これは悪い冗談のような話だ。復興大臣とは、あらゆる地域のあらゆる災害からの復興を担当しているのではなく、「福島原発事故再生総括担当大臣」という正式名称があらわす通り、福島原発事故からの復興に特化した大臣であり、その問題に専念してもらわなくてはならない。地元有権者へのアピールなのかもしれないが、こうした言葉は、福島を中心とした、原発事故の被災者に対して無神経に感じられる。
「日本列島そのものが揺れ動く活動期にあり」と述べていることから、近く必ず起きると言われる南海トラフ地震の危険性なども一応は認識しているようだ。3.11から5年が経過しているとはいえ、やはり福島に対する言及が少ないことが気にかかる。しかし、その理由の一端は、この会見から2日後の8月5日に明らかになった。なんと、今村大臣は、東京電力の株を現在も8000株保有している、というのである。
8月5日の閣議後会見でこの点について記者から問われると、今村大臣は「ずっと前から持っている。原発事故後に新たな売買はしていない」と説明。福島第一原発事故対応の影響に関しても、「(支障があるとは)一切、考えていない」と否定した。
第2次安倍政権では、2014年10月の内閣改造で原発を所管する経済産業大臣に就任した宮澤洋一氏も、東電株を600株保有していたことが発覚し、「利益相反にあたるのでは」と指摘され、問題となったことがあった。今回、今村大臣が保有していることが明らかとなったのは、それを大きく上回る8000株である。福島第一原発の事故対応に「影響がない」とは、到底考えられない。8000株の株主が、東電の株価を下げるような政策をするわけがない、と考えるのが、当然であろう。
東電の利害当事者が、どうして被災した福島県民らの立場に立った政策ができるというのか。
原発事故の対応と福島の復興にあたる復興大臣に、被災県以外から、しかも東電株の保有者を任命した安倍政権。福島の復興を第一義的に考えた人選とは、とても考えられない。