ナチス独裁への道は、「緊急事態宣言」によって開かれた。安倍政権が改憲によって新設を目指す「緊急事態条項」は、まさにナチスが独裁に至るまでのプロセスを再現するかのようである。「ナチスの手口」を真似ること、そのものである。
維新の党の柿沢未途議員は2016年2月16日の衆院予算委員会で、かつて憲法改正に関して、「ナチスの手口に学んだらどうかね」と発言した麻生太郎副総理を追及し、その真意を質した。
「『ナチスの手口に学んだらどうかね』といった発言と、緊急事態条項の導入と、ナチスが現実に『緊急事態』という建前で大統領令を出して、不当拘禁を行い、そして全権委任法を通すことに成功し、独裁を強いた――そのプロセスはそっくりではないか」
ワイマール憲法第48条には、「大統領緊急権」が規定されていた。1933年、ドイツで国会議事堂の放火事件が発生した。放火はナチスによる自作自演だった可能性があると今日では言われているが、この事件の翌日、当時首相だったヒトラーが、ヒンデンブルク大統領に非常事態宣言を発令させた。国民の基本的人権は停止。放火犯に仕立てられた共産党などの国会議員や党員が合計5000人以上も令状なしで逮捕、拘禁され、その後、ナチスに逆らう者がいなくなった議場で、「全権委任法」が成立した。放火から全権委任法の成立まで、1カ月もかからなかった。
麻生副総理は、破滅に至った「ナチスの手口」を学んで、緊急事態条項を入れようとしているのか。柿沢議員にそう厳しく追及された麻生副総理は、「おもしろいですな。見解がまったく違いますので」と否定した。
そのうえで、「緊急時において国民の安全を守るため、国家、国民みずからがどのような役割を果たすべきか、またそれを憲法にどのように位置づけるかについては極めて重く大切な課題だ」と述べつつ、「総理ら所管大臣を差しおいて私が軽々に申しあげるのは差し控える」と回答を避けた。
緊急事態条項が「ナチスの手口」ではないと言うのであれば、柿沢議員の質問に正面から答えればいいはずである。なぜ、肝心の緊急事態条項の中身の議論には立ち入らず、ぼかすのか。明確な答弁をしない麻生副総理の姿勢に、国民の疑念はますます膨らむばかりだ。
また、「総理を差しおいて回答できない」というが、当の安倍総理は2016年1月19日の参院予算委員会で、社民党の福島みずほ・副党首に、やはり「(緊急事態条項は)ナチスドイツの『国家授権法』とまったく一緒だ」と指摘されたが、「限度を超えた批判だ」などと不快感を示しただけで、肝心の説明も反論もせず、条文そのものに踏み込むことなく、「個々にお答えすることは差し控えたい」などと述べ、最後まで回答を逃げ続けたことは覚えておきたい。
以下、「ナチスの手口」をめぐる柿沢議員と麻生副総理の質疑応答部分を全文掲載する。
【全文文字起こし】麻生氏「ナチスの手口を学べ」発言の真意は!? 柿沢議員「緊急事態条項はナチス独裁のプロセスにそっくりじゃないか」
維新・柿沢未途議員「この予算委員会でもこの国会においても、今年は憲法改正に関する議論が安倍総理からも提起をされております。自民党は憲法改正草案をつくられたということで、国会の答弁でも安倍総理は、必ずしも一言一句ではないかもしれませんが、しかし、この自民党憲法改正草案をベースにして議論をしていこうということについて、意向を示されているわけであります。
それで、私は、自民党憲法改正草案をこうやって見通してみると、大変公権力が前に出てきていて、国民の公共の秩序に服する義務というようなことが多く書かれていて、昨日は集会、結社の自由についての言及や言論の自由についての言及がありましたけれども、国家権力色が非常に前に出た、そういう内容になっているように見受けられています。
これは私だけが言っているわけではなくて、最近の言動を見ていると安倍総理の応援団なのかなというふうに感じられるんですけれども、例えば橋下徹さん。この人も自民党憲法改正草案については公権力を強く出し過ぎていて危険だというふうに言っています。こういうふうに広く、これは右派だ左派だということを除いても、自民党憲法改正草案、内容がどうなのか、こういう疑義が多方面から投げかけられている内容だというふうに思います。
そこで、麻生副総理におうかがいをしたいというふうに思います。自民党が立党60周年のタイミングでつくられた、この自民党憲法改正草案に対する評価をおうかがいしたいと思います」
麻生太郎副総理「自民党の憲法改正草案に対して、自由民主党ではなくて、政府の副総理、財務大臣として今聞いておられるんだと思いますので、政府としてお答えすることは差し控える、当然のことだと思います。この点は、総理も副総理も同じことだと思っておりますので。
その上で、一般論として申し上げれば、これは総理もおっしゃっておられたと思いますが、憲法改正につきましては、国民主権とかいわゆる基本的人権の尊重とか平和主義とかいろいろ、現行憲法の基本的な考え方は維持するというのは書いてありますので、その前提で必要な改正は行うべきものだと考えております」
柿沢「今、ご答弁がありましたけれども、麻生副総理はかつて、副総理に御就任をされた後ですけれども、言ったとおりにお話をしますと、『俺たちは憲法改正草案をつくったよ、べちゃべちゃべちゃべちゃ、いろいろな意見を何十時間もかけてつくり上げた、そういう思いが我々にはある』…こういうご発言をされておられます。
それで今、憲法改正の議論、特に自民党の例えば船田元先生とか、この問題に中心的にかかわられてきた皆さんの中では、いわゆる『国家緊急事態条項』、ここから議論を始めようということが提起をされています。
かつては、国家緊急事態条項と環境権、あと財政規律、この三本立てで議論を進めていこう、こういう話であったと私は理解をしていますけれども、環境権の問題が、特に御主張されていた公明党さんなどがヨーロッパの視察などを行った結果、なかなか難しいという議論になって、少し環境権が第一優先ということでなくなってきた部分があります。
そして、財政規律を憲法に盛り込むということについても、なかなかこれは困難という意見が強まって、結果として、三つの中で国家緊急事態条項が前に出てきた。今、国家緊急事態条項をまず議論することが憲法改正の議論の入り口だ、こういうふうに憲法審査会などでは与党の皆さんはおっしゃっているような形になっています。
この国家緊急事態条項でありますけれども、私は、国家緊急事態条項の導入とリンケージして、非常に麻生副総理の気がかりな発言を思い出してしまうんです。それは、先ほどの、自民党憲法改正草案について『何十時間も議論して決めたんだ』と言っておられる時と、まったく同じときに麻生副総理がご発言をされたお話であります。
つまりは、『ナチス政権下のドイツでは、憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ、誰も気づかないで変わった、あの手口に学んだらどうかね』…この話であります。
まずちょっとおうかがいしたいんですけれども、そもそも、麻生副総理、ナチス憲法というのは何ですか?」
麻生「今のご質問は、25年の7月29日の講演会で、国家基本問題研究会の月例会における私の発言についてのお尋ねですね。確認してありますね、それは。私としては、憲法改正については、あのときも述べたと思いますが、落ちついて考えねばならぬ、という趣旨を述べております。
ワイマール憲法というものは、ナチスの中において、いわゆる通常言われるものであって、憲法自体として、ワイマール憲法というものは、ワイマール共和国の時代につくり上げられた各種のことを総じてワイマール憲法というんだと思っております」
柿沢「いや、ナチス憲法というのは何ですか?」
麻生「ワイマール憲法というのはありますけれども、『ナチス憲法』というのは、通常、ワイマール憲法の後にいわゆるナチスの政権下でつくられた、いろいろな国家非常事態に合わせて、いわゆる憲法等々を無視して、どんどんどんどんやっていくのを総じて、通称して『ナチス憲法』とよく言われる話であって、ナチス憲法という言葉自体が存在しているわけではありません」
柿沢「通称して『ナチス憲法』なんて呼んでいる人は誰もいませんよ。ナチス憲法なんてものは存在しないんです。そもそも、もう一回言いますけれども、『ナチス政権下のドイツでは、憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ』…ナチス憲法なんて存在しないじゃありませんか。
まったく事実誤認に基づいて憲法に関する発言をされていること自体が、私は信じがたいと思います。そして、まずそのことを指摘した上で、国家緊急事態のお話をしましょう。
ワイマール憲法が換骨奪胎をされて、ナチスがある意味ではほしいままに独裁政治を敷いたという歴史の経過については、今、麻生副総理がお話をされました。そのときに、ナチス憲法なんてものはないんです、ワイマール憲法下において、そのことが行われていったわけです。
どういうプロセスで行われていったか。ワイマール憲法の48条に、公共の秩序回復、また基本的人権の一時停止を含む大統領の『緊急命令権』というのがここで規定をされていて、この公共の秩序回復、また基本的人権を一時停止できる、こういう大統領の緊急命令権に基づく大統領令に基づいてこのプロセスが進められていったわけです。
1933年にヒトラーが首相になって、2月27日に、あの国会議事堂の放火事件が起きました。そのときに、まさにこの憲法48条に基づいて、『人民と国家防衛のための緊急令』、そして『ドイツ民族への裏切りと国家反逆の策謀防止のための緊急令』…この大統領令2つが公布をされて、これによって、法律に基づかなくても時の政権が身体の自由、言論、結社の自由を制限し、家宅捜索や押収を行うことができるようになった。
そして、数日間で、国会の放火事件を起こしたと決めつけられた共産党、あるいは社民党の国会議員を含めた党員が合わせて5000人以上、逮捕、拘禁を数日のうちにされているんですよ。
そして、こうやって共産党や社民党の議員が国会から排除された結果として議決の過半数を確保するということができて、それによって、本来、議席もあり、議決権のあるこの人たちを排除した形で『全権委任法』という法律が国会で成立をした。それによって、ナチスのヒトラーの独裁は道が開かれていったわけです。
もとをただすと、これはまさに『国家緊急権』に基づく公共の秩序回復、こういうことを名目に法律によらず大統領令を出した、このことからすべてが始まっているわけであります。
そして、この自民党の日本国憲法草案を見ますと、第9章『緊急事態』、第98条、『内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる』――。
内閣総理大臣は社会秩序の混乱のときに緊急事態の宣言を発することができる。98条で定められています。そして、99条、緊急事態の宣言が発せられたときは、『内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる』、そして、『地方自治体の長に対する必要な指示を出すことができる』…こういうふうに明記をされています。
まさに、この国家緊急事態の権限を拡大解釈すれば、公の秩序にかかわる問題として内閣総理大臣が法律と同等の効力を持つ、そうした政令を発することができるようになって、(ナチスと)まったく同じようなことが可能になる怖れがあるんじゃないですか?
こうしたことをまさに私たちは危惧するものであって、はっきり言えば、こんな内容の憲法改正をするぐらいだったら、やらない方がいいと思いますよ。まさに、『ナチスの手口に学ぶ』というのはこういうことなんじゃないですか。麻生副総理、ご答弁ください」
麻生「おもしろいですな。見解がまったく違いますので。繰り返しになりますが、先ほども申しあげましたように、自民党の憲法改正草案の個々の内容、98条等々個々の内容について、今、私は政府としてここに座っておりますので、政府の立場として答えるということは差し控えさせていただきますということは、先ほども申し上げましたし、今も同様のことをまず最初に申し上げておきます。
その上で、一般論として申し上げれば、これも総理がおっしゃっておられましたけれども、大規模な災害が発生したような緊急時において国民の安全を守るため、国家そして国民みずからがどのような役割を果たすべきか、またそれを憲法にどのように位置づけるかについては極めて重く大切な課題だと考えており、総理ら所管大臣を差しおいて私が軽々に申しあげるのは差し控えるべきものだと考えております。
言うまでもなく、憲法改正というのは国民の理解が必要不可欠、当然のことです。引き続き、新しい時代にふさわしい憲法のあり方について、国民的な議論と、またそれに対する理解が深まることを大いに期待いたしたいと思っております」
柿沢「『ナチスの手口に学ぶ、学んだらどうかね』と言ったそのご自分の発言と、自民党憲法草案に書いてある国家緊急事態の条項の導入と、ナチスが現実に緊急事態という建前、名目で大統領令を出して、不当拘禁を行って、そして全権委任法を通すことに成功した、独裁を強いた――そのプロセスはそっくりじゃありませんか。
まさにそのような形で、このような文脈で、ナチスの手口に学んだらどうか、こういうご発言をされたのではないかと危惧、懸念をいたします」
総理と副総理も、改憲をもくろむなら、正面から野党議員の質問に答え、緊急事態条項の中身の議論に入るべきである、議論のリングにあがらず、時間だけ費やして国民にその中身を説明も周知もせず、3分の2の議席を取ったら問答無用で改憲の発議を行う、というのであれば卑怯卑劣の何ものでもない。
麻生さんは、今後、自民党が野党になり、極端な独裁的政党が政権をとったとき、自分たち自民党が「緊急事態条項」で弾圧される事態をまったく想定しないんでしょう。
災害については自己保身で正面から答弁しないで「国民的議論を」「理解を深めて」とだけ述べ、「説明不足だ」という国民を置いてきぼりにして、突如「議論が進んだ」「理解が深まった」と強行採決に踏み切るのは「安保法制」以後の安倍政権のやり方です。
大災害については、憲法改正で政府機能を強化するようで、その実アメリカ政府の意向通りに動こうとする意図があるように思います。東日本大震災のときには、大規模な自衛隊出動とともに、アメリカ軍が出動し、それは既成の法律を越える動きでした。日本政府の災害対策にもアメリカが関与していました。具体的には米原子力規制委員会(NRC)、米エネルギー省,同国防総省、および在日アメリカ軍が政府中枢で「政策調整」ーかなり介入したのでしょうーにあたっています。
今後も大規模地震についてはアメリカ軍の出動がありえます。災害発生地で原子力発電所が稼働しているか事故(最悪メルトダウン)が起きるかどうか、アメリカ軍兵士に被曝の危険が及ぶ程度、によると思います。
それはそれとして、憲法改正は「ショックドクトリン」でするような類の問題ではありません。
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この問題は、根が深いと思います。麻生さんの「ナチスの手口に学んだらどうかね」発言は、2年位前でしょうか?この時、また麻生さんの失言癖が出たな、という苦笑ですみました。しかし、去年初めの首相中東発言以降の安倍政権の動きをみていると、麻生さんの発言は失言と言うより、本音・本気であったのだと悟ることになりました。安倍(日本会議)内閣は、対米隷属の実態を巧みに国民の目から隠しながら、安倍首相の本願である「9条2項改悪」を成し遂げたいと思っています。日本憲法成立時、「9条2項」は、「二度と戦争はいやだ」という大多数の国民の声を顕したものであると共に、「米国に絶対逆らえない日本」をという米国(米軍)の意思でもありました。しかし、成立からわずか数年後に、米国は自衛隊を米国の為に利用したいと思うようになります。安保法制は、その長年に亘る米国(米軍)の思いを満たしたものあると共に、安倍氏・麻生氏らの日本会議の欲求を実現したものだと思います。愚かにも、安倍氏・麻生氏らは、これで日本は米国とより対等な状態になれると勘違いしています。米国(1%)の最終目的は、日本から富を絞り取り、自衛隊を米軍の2軍として利用したいということです。TPPで日本の経済的な抵抗力を剥奪し、安保法制で米国の要求(自衛隊海外派兵)を断れなくする。つまり、日本を、再生不可能で、自立的意思を持たない国家に転落させることです。安倍氏・麻生氏ら日本会議と称する人達は、日本国と日本国民に対して、この責任をどのように取るつもりなのでしょうか?私には、彼らが例えその命でもって償うとしても、決して償えることが出来ない「大罪」を犯しているように思えます。今なら、まだ、間に合います。TPPから撤退、安保法制廃止、原発ゼロを進め、自立国家確立(2045対米自立方針宣言)に舵を切るべきだと思います。