【IWJブログ・大義なき解散総選挙】「なぜ解散するんですか?」選挙戦中盤で改めて問う!安倍総理は逆ギレするのではなく「小学4年生」の素朴な疑問に正面から答えるべきだ! 2014.12.29

記事公開日:2014.12.9 テキスト
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 あの騒ぎを、少し落ち着きを取り戻した今、改めて振り返る――。

 「小学4年生・中村」の名を語り、「どうして解散するんですか?」というWebサイトを立ち上げ、今回の解散総選挙に疑問を呈していた青木大和氏。批判されにくい小学生になりすまし、安倍政権を批判したことが卑怯だとして、青木氏は、不特定多数のネットユーザーから莫大な数の罵声を投げつけられた。

 本来であれば、こうした「炎上」は時間の経過とともに忘れられてゆくものだが、この炎上騒ぎに一国の首相である安倍晋三総理大臣が登場したことで事態は急展開。安倍総理が、若干20歳の大学生のイタズラに対して、本人を事実上名指ししたうえで「最も卑劣な行為」と「キレた」のである。

 青木氏をめぐる炎上騒ぎとはなんだったのか、そこに突如として現れた安倍総理の思惑はなにか。ここで振り返りたい。

突如現れ話題を呼んだWebサイト「どうして解散するんですか?」

 Webサイト「どうして解散するんですか?」 のトップページのデザインは、小学校をモチーフにしているようで、一面の黒板にはチョークで書かれた「#どうして解散するんですか?」という文字があり、日直はあべ(し)、かいえだ(ば)。日付は衆議院が解散された11月21日。作者は「小学4年生・中村」を名乗る人物だが、とても小学生が作ったと思えないほど、洗練されており、とても完成度が高い。

 下にスクロールすると、「しつもんです。」と書かれた「ノート」があらわれる。

 ノートには「アベノミクスっていうやつで国のお金を増やすって言ってたのに、ぼくのおこずかいは増えてないよ」「パパもママも財布の心配ばかり」「でも1回で700億円かかる選挙は簡単にできるんだよなぁ」などと、小学生のような言葉遣いで、アベノミクスと今回の解散総選挙に批判的なメッセージが書かれている。

 ノートの最後は、「どうして解散するんですか? やっぱりこれも秘密なのかなぁ」と、特定秘密保護法を揶揄する書き込みで締めくくられていた。これを読み、共感した人たちが、黒板上の「わかんない!」ボタンを押すと、不特定多数の国会議員のtwitterアカウントに、ランダムに、このWebサイトのリンクが貼られたメンションが飛ぶ仕組みになっていた。このサイトはすぐに拡散さて、たちまち関心を集めた。

小学4年生の正体はあの「若手社会活動家」だったことが発覚、謝罪へ

 Webサイトのクオリティの高さ、社会問題への関心・認識の高さ、また、英語版まで作成されていたことなどから「本当に小学4年生か?」と疑問視する声が噴出した。

 その後、ネットユーザーらが独自に解析したところ、Webサイトを作成するには多額の有料ソフトやフォントが必要となることが明らかになっていった。さらに、サイトのドメインを辿ると、ドメイン登録者の名義が、青木大和氏(20)が代表を務めるNPO法人「僕らの一歩が日本を変える」であることが判明した。

 青木氏は慶応義塾大学の2年生で、15歳の時に単身米国へ留学し、オバマの選挙に感銘を受け、帰国後の2012年にNPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」を創設。2012年夏には、日本史上初となる、高校生と国会議員の討論会を国会議事堂で主催した、若手の社会活動家である。

 「小学4年生・中村」は追い詰められ、サイト立ち上げからわずか2日目となる11月22日、青木氏は「なりすまし」であることを白状し、謝罪。NPO法人「僕らの一歩〜」ではなく、あくまで青木氏個人による「犯行」だったと説明した。

 現在、「どうして解散するんですか?」のWebサイトは閉鎖されており、「皆さんこんばんは。青木大和です。放送部の中村とは、僕のことです」から始まる謝罪文が掲載されるだけとなっている。

 謝罪文では、「なりすまし」の動機について、次のように語られている。

「なぜ僕がそうしようと思ったのか、説明させて下さい。
数日前に衆議院が解散することが決まりました。なぜ解散するのか、理由がわからず、僕の頭の中には多くの疑問が残りました。そんな時に常に社会に対して疑問を持ち、どうして?なんで?と大人に問いかけていた自分の幼少期を思い出しました。当時の僕だったらこの問題に疑問を持ち、どうして?なんで?解散するの?と聞いていたと思うようになりました。

そして、この問題は日本の中でどのように感じられているのか、多くの人々は何を感じているのか知りたくなりました。
そこでウェブサイトを作り、僕が小学4年生を自演することで面白いと皆さんに受け止められ、より多くの方を巻き込んだ形で、今回の選挙の意義を語り合うことができるのではないかと考えました」

 また、謝罪文では、Webサイトの制作者が、天才プログラマーと呼ばれるTehu(てふ)氏だということも明かされている。

 「Tehu君ですが、僕が企画したウェブサイトの制作を依頼し、手伝ってくれただけです。彼を巻き込んでしまったことも、申し訳なく思っています」

 Tehu氏は、95年生まれの19歳。09年、当時まだ中学2年生だったにも関わらず、iPhoneアプリ「健康計算機」を開発し、日本の無料アプリとして3位にランクイン。現在は慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶応SFC)に在籍し、今年、青木大和氏とともに、25歳以下の若者たちで構成される政党、「0党(ゼロトウ)※」を作ると明言していた。

※東洋経済オンライン(2014年01月03日付) 「25歳以下で結成する新政党「0党」の野望」

青木大和はネット民の餌食に。大炎上「ゴミクズ過ぎワロタ」

 一連の小学4年生へのなりすまし事件は、すぐさまネット上で話題となり、炎上した。「青木大和」の名前は、数々の誹謗中傷とともにインターネット上を駆けめぐった。

 「さっさと死ね」「NPO法人が政治活動とは恐れ入る」「詐欺というか犯罪ですよね? 逮捕されないんですか?」「ゴミクズ過ぎワロタ」「もう政治に関わらないように。思想を改めることをお勧めします」「やっぱりチョンか」

 確かに、無垢な小学4年生を演じることで、多くの人の警戒を解いて、関心を集めようとしたことは褒められたものではない。「あざとい」と不愉快に思う人も多いだろう。インターネットユーザーの中には、こうした「失敗」を決して容赦しない者がいる。盛大に炎上し、燃え尽きるまでは収まらない。

 しかし、確かに青木氏はインターネット上の「ルール」を破ったかもしれないが、なにか取り返しのつかない大犯罪を犯したわけではない。そもそも書いている内容は、凡庸ではあるが、間違ってはいない。今回の解散について、誰もが抱く疑問である。

 複数のtwitterアカウントを匿名で所持し、それぞれ等身大の自分とは異なる「キャラ設定」で運用している人は少なくない。言い換えれば、匿名ネットユーザーが「自分ではない何者かを演じている」のはネットにおいて、普通のことだ。

 普通のユーザーと違ったのは、青木大和氏が、「有名人」であった点だろう。

 青木氏は、彼自身が有名人であるが故に「なりすまし」が発覚し、人の神経を逆撫ではしたものの、だからといってここまで罵詈雑言を投げつけられ、誹謗中傷されなければならない理由にはならない。

青木大和は「朝日新聞と民主党と仕組んで捏造した国賊売国奴」!?

 その後、事態は気味の悪い展開を見せた。青木氏の炎上騒ぎを覗いてみると、次のような奇妙な言説が混じっていることに気づく。

 「小学4年生とか子供を表す文言を使う性根が、子供を利用する反原発とかの反日サヨクとダブって見えますよ」

「民主党蓮舫と自作自演したんだろ!白状しろよ!ど阿呆」

「おい、犯罪者。謝ってすむわけねーだろ。朝日新聞と民主党と仕組んで捏造した国賊売国奴。お前を国民は許さない、とことん追い詰める」

 見覚えのある悪意である。「ネトウヨ」が今回の「なりすまし事件」に反応しているのだ。ネトウヨがこれを見逃せない理由はいくつかあった。

 「どうして解散するんですか?」のtwitterアカウントは、有名政治家や有名ジャーナリストなどに片っ端から自身のWebサイトURLをメンションで送りつけ、拡散を狙った。IWJ代表・岩上安身にもメンションが飛んできていた。

 岩上さんは、読んだ上で「小学4年生が書ける文章ではない」と思い、スルーしたという。

 メンションに反応したのが、民主党の蓮舫議員である。蓮舫議員は「素朴な疑問がよくわかる」と書き、「どうして解散するんですか?」のWebサイトURLをtwitterで引用し、拡散した。さらに、民主党のマスコット「民主くん」を名乗る民主党非公認のtwitterアカウント(@minshu_kun)も「天才少年現る!とてもいい。皆さんもぜひ!」と反応し、URLを拡散した。

 蓮舫議員も民主くんも、青木氏の「なりすまし」だったことを知った後に謝罪した。

 ネトウヨにとって民主党は「売国奴」の代名詞。ネトウヨによると、民主党は「中国の手先」「外国人参政権に賛成している」「韓国・朝鮮の資金で運営している」ようで、これが「反日」であり、「売国」なのだという。

 さらに青木氏は過去に民主党の集会にスピーカーとして出演し、細野豪志氏らと共演していたこともある。2人はTwitter上で会話などもしている。

※民主党HP 民主党大学プレイベント告知ページ

 また、青木氏は、若者の社会・政治参画促進を目的としたNPO法人「Rights」の役員に、民主党・菅直人元総理の息子・菅源太郎氏とともに名を連ねている。

※NPO法人「Rights」 役員・アドバイザー紹介ページ

 ネトウヨはこうした民主党との関係性に着目(?)し、青木氏が「民主党の手先」として「どうして解散するんですか?」を立ち上げ、アベノミクスや秘密保護法、解散総選挙を批判することで自民党を攻撃していた、と決めつけた。

 また、ネトウヨは、朝日新聞が運営するニュースサイト「WEB RONZA」に11月22日(「どうして解散するんですか?」立ち上げ翌日)、青木大和氏インタビューが掲載されたことから、「朝日新聞もグルだ」と鬼の首を取ったように騒ぎ立てている。
※WEB RONZA 「【リ☆パブリカン Who’s Who 2025年のリーダー像を探る(2)】――若者を巻き込んで、組織として、社会を変えていきたい」

差別の温床として提訴された「保守速報」というまとめサイト

 「保守速報」という「2ちゃんねる」のまとめサイトがある。

 ネトウヨにとって「愛国的」な、または「反日的」なニュースをとりまとめ、ユーザーらがコメントを重ねてゆくネトウヨのコミュニティーサイト、いわば棲家のようなものだ。例えば…

・【日韓併合(1910年)前のおはなし】明治30年代からすでに朝鮮人売春婦が日本に来ていた

・ 【TV局】フジテレビが朝鮮人に乗っ取られた経緯

・ 【閲覧注意】 在日韓国人のご先祖様がヤバすぎる件 !!!!

 …などといった記事が掲載されている。ニュースに対するコメント欄は、人種差別と偏見に基づいた「デマ」で溢れかえっており、悪意ある差別の温床となっている。

 記事のコメント欄には、

 「うぁぁマジキモいコイツらホントに人間なのか!?さすがトンスル(笑)」

 「ウンコを薬として直接食べていた韓国」

 「生理的に無理だこの民族は」

 「やっぱり朝鮮人は昔から頭逝かれてるわ」

 …などといった「ヘイトスピーチ」がところ狭しと書き込まれている。

 在日コリアンでフリーライターの李信恵(り・しね)さんは今年(2014年)8月18日、差別的な書き込みを掲載したとして「保守速報」の運営者を提訴。2200万円の賠償を求めた。第一回口頭弁論は大阪地裁で10月30日に行われ、定員数は35名の傍聴席に対し、100名近くの傍聴希望者が集まったという。

一国の総理大臣がヘイトの温床である「保守速報」を拡散!?

 ネトウヨの棲家であり、ヘイトサイトの代表格である「保守速報」には、今回の青木大和氏の炎上騒ぎも多数掲載された。そのうちのひとつの記事を、思わぬ人物が拡散した。

 安倍晋三内閣総理大臣である。

 あろうことか安倍総理は11月25日未明、差別の温床であり、ネトウヨの棲家であるヘイトサイト「保守速報」の「民主党が小学4年生のふりしてアベノミクス解散に疑義を唱えるステマサイト開設か!? ネット炎上(※)」と題した記事を引用し、青木大和氏個人を次のように糾弾した。

 「小学4年生による投稿と言われ巷で話題となった『どうして解散するんですか?』ですが、今回『NPO法人 僕らの一歩が日本を変える』の代表理事の大学生が小学生になりすまし行っていた事が明らかになりました。批判されにくい子供になりすます最も卑劣な行為だと思います」

※保守速報:【話題】 民主党が小学4年生のふりしてアベノミクス解散に疑義を唱えるステマサイト開設か!? ネット炎上

 最初に見たときには、我が目を疑った。なんと大人気ない言葉だろうか。

 一国の総理大臣が、若干20歳の大学生によるイタズラを槍玉にあげ、「最も卑劣な行為だ」などとこの上ない激しい言葉で非難するなどということが、ありえるだろうか。アベノミクスや特定秘密保護法に対する批判、そして解散総選挙批判が癪に障ったのだろうが、あまりにもエキセントリックである。

 だが、国民は誰であろうとも、公人である総理大臣を批判する権利があるし、総理には国民の批判を受け止める義務がある。

 安倍晋三という人は、国民の付託を受けて、国民の代表として総理大臣の座についたのだ。国民の絶えざる監視のもとにおかれるのは当然だし、国民からの疑問には真摯にこたえるのは当たり前のことだし、国民からの批判には謙虚に受け止める義務があるはずだ。

 安倍総理のfacebookの投稿は「逆ギレ」であり、いやしくも国家の最高権力者たる者が無力な一学生に対してここまで激しい言葉で個人攻撃を行っていいものだろうか。

 「逆ギレ」するなら、総理の座を降りて、議員も辞職して、一私人として抗議するべきではないか。

 さらに、安倍総理の投稿は、次のように続く。

 「選挙目当ての組織的な印象操作ではないでしょうが、選挙は政策を競い合いたいと思います」

 何が言いたいのか。安倍総理の貼った「保守速報」のリンクを開くと、記事は、青木氏の「なりすまし」事件について、次のように締めくくっている。

 「案の定の出来事だった。解散を恨むような人物・団体といえば、民主党しか思い浮かばない。小学4年生のふりをするとは、呆れた宣伝方法である。国民をなめるな。Twitterをはじめとして現在ネット上では、このあまりにも稚拙なステマに多くの人が怒っている。国民はこんな古い方法ではダマされないぞ」

 安倍総理は、「組織的な印象操作ではないでしょうが」と断りながらも、「選挙は政策を競い合いたいと思います」と宣言することで、あくまで青木氏が「民主党側」の人間であると決めつけているのだ。これこそ「印象操作」ではないだろうか。

 一国の総理大臣がヘイトサイト「保守速報」をソースとして引用し、内容に同調する。やっている行為はネトウヨそのものである。日本国の総理大臣が、ネトウヨと同じ思考パターンなのである。

 秘書が勝手にfacebookに投稿した、ともささやかれているが、秘書が投稿する場合、「秘書です」と断るのが通例となっている。安倍総理本人が書いた可能性は否定できない。もし安倍総理本人の投稿でなかったとしたら、秘書の行為こそ「なりすまし」ではないか。学生が小学4年生になりすましてごくごく常識的な疑問をつづるのと、秘書が国家の最高権力者になりすまして、一人の若者を公開で糾弾し、ネット上で「群衆」を煽るのと、どちらが罪深いか。

 また、そういった秘書を雇い、facebookの管理を任せている以上、管理の責任が安倍総理にあることは否定できない。秘書が「なりすまし」だったと名乗り出ることがない以上、安倍総理本人の書き込み、もしくは本人の意思を体現したものであったとみなすのが妥当だろう。

総理のコメント欄はヘイトスピーチと称賛の嵐

 「保守速報」を引用したことには、さすがに非難が相次いだ。安倍総理も「さすがにまずい」と思ったのか、その日のうちに一度、投稿を削除した。しかしすぐさま、保守速報のリンクのみを消した、一字一句違わぬ同じ文章を、再度、投稿し直したのだった。

青木氏を中傷する安倍総理の投稿(Facebook) ※なお、現在この投稿は削除されている。

 この安倍総理の投稿にネトウヨは沸いた。投稿のコメント欄には安倍総理への称賛とともに「ヘイトスピーチ」が溢れた。

「何だか半島臭い手口ですね」

「焦ってるのは殲滅されかかってる民主党及び、日本を貶める事に血眼になってる珍獣達です。この事案を卑劣を卑劣と思わないのでしょうか?」

「民主くんが安倍総理のこと必死に叩いてて笑えますwwwお困りなんでしょうね☆」

「ここまでの嘘つきをどうかばうんだろうねえ♬ ホント嘘つきは青木の始まりやな。青木るなよクサヨ共^o^」

「明らかにネガキャンしてた連中が中立ってね^^;しかも小4になりすますw 韓国人でもここまでやるかな?民主信者きもいわぁ」

「みなさんキムチとトンスルが大好きな近親相姦で増えたワンちゃんなんですか?」

「たかが20歳のあんちゃんは民主党とグルになってやってるから問題なんだよ。」

「パククネのウンコ漬けキムチ鍋でも食ってろよ近親相姦で増えた犬ども(笑)」

 挙げればきりがない。安倍総理のこの投稿は、「いいね!」が約12400件も押され、安倍総理への批判も含めて1400件ほどのコメントがつき、約900人にシェアされた(11月25日19時時点)。

 Facebookの機能上、コメントの削除権限は投稿者である安倍総理にもある。しかし、こうした差別的な投稿を安倍総理は決して削除せず、常に、世界中から見られるフルオープンの状態にある。安倍総理自身が、確信犯的に、こうしたヘイトコメントを容認し、歓迎し、煽りさえしていることは明らかである。安倍総理のfacebookページはもはや「保守速報」に並ぶ、「ヘイトの温床」、「ネトウヨの棲家」のひとつとなっている。

 ちなみに安倍総理は、自分に批判的な意見を書き込むコメントを「ブロック」することで知られている。Facebookには、「安倍晋三総理からのブロック(言論弾圧)に抗議する会」というページも立ち上がっており、ブロック被害の実態が報告されている。安倍総理に批判的な海外報道のリンクを貼っただけでブロックされたという人もいるようだ。

「天下の総理大臣なら笑い飛ばせばいいのに」

 一国の首相がヘイトサイト「保守速報」を引用し、若干20歳の大学生を個人攻撃する――。

 この異様な事態を受け、青木大和氏の「なりすまし事件」以上に、安倍総理の倫理観を疑問視する声が膨らんだ。

 脳科学者の茂木健一郎氏は、自身のtwitterで、「若者が、『小学4年生のふり』をして、大コケした、というだけの事件。若者はもともとそういうものだと、僕は思う。若者はやらかす。それ以上でもそれ以下でもない」と冷静に分析した。

 その上で、「一方、いろいろ深読みしたり、陰謀史観を唱える大人は、論理的思考や冷静な推論が欠けていて、その方がより深刻な問題かもしれない」と、炎上を煽るネットユーザーらへの批判も忘れなかった。

 その茂木健一郎氏とともに11月30日放送のフジテレビ系「ワイドナショー」に出演したお笑い芸人のダウンタウン・松本人志氏は、安倍総理の「逆ギレ」について「ヒステリックになり過ぎているな」とコメント。さらに、「もしこの大学生が自殺でもしようものなら大変なことになる」と心配した。

 もっともな指摘である。安倍総理が群集を煽って青木氏を公開リンチし、まかり間違って青木氏が自殺でもしてしまえば、その責任をどうやってとるというのか。まるでイジメの構造そのものである。

 憲法学者で、青木大和氏の在籍する慶応大学名誉教授の小林節氏は、岩上安身のインタビューの中で、「遊びはいいじゃないですか」とし、次のようにコメントした。

 「天下の総理大臣なら笑い飛ばせばいいのに、と思います。『もっとも卑劣な行為』というのであれば、憲法に拘束されるべき総理大臣が憲法改正を目標に立て、改正しにくいから国民を騙して改正のハードルを下げようとし、それを『裏口入学』と言われたら諦めて、今度は憲法を無視する。これのほうがよっぽど卑劣で、絶対に許せないと思います」

安倍総理は「小学4年生」の疑問に答えよ

 安倍総理は批判を受け、翌日11月26日、言説を修正した。

 「私の言動に関心を持っていただき、忌憚なく意見を述べていただいたことは、一政治家としてやりがいの原点となります。ただし意見の内容や意見を述べる人の立場に嘘や偽りがあってはなりません。このことは、大人でも子供でも、どのような世界のどのような場面にあっても変わらぬ普遍の原則です。いっとき人を欺き出し抜くようなことはできても、結局『詭道は正道にかなわぬ』ものです」

 まさに小林節氏が指摘したように、憲法改正手続きからあの手この手で逃げまくっている安倍総理が「詭道は正道にかなわぬ」などと言えた立場か、と言いたい。

 安倍総理はさらに、「それでも、好奇心や見栄に負けて過ちを犯してしまったら、行動を改めればよい。小学4年生と偽った大学生も『そのアイディアやエネルギーを強くて明るい将来に向けてほしい』と心から願います」と締めくくった。

 コメント欄には、「さすが 大きい!」「総理、なんてお心が広いのでしょうか」などと安倍総理の転向を支持する意見が並んだ。

 安倍総理はどこを向いているのだろうか。称賛の声は、それがヘイトスピーチを伴っていようとも受け入れてしまい、他方で、批判的な意見はブロックし、自分に牙を向けた大学生に「逆ギレ」する。まるで部屋に閉じこもり、妄想の中に生きるネトウヨそのものではないか。そしてその妄想に付き合わされるのは国民である。

 「増税延期」を発端に始まった今回の解散総選挙。選挙戦も中盤になったというのに、いまだに約半数近くの有権者が、投票先を決めていないという(※)。それもそのはずで、これだけ景気が悪化している中、増税の延期に反対する野党も有権者もいない。最初から競うべき争点がうやむやになるよう、仕組まれた解散なのだ。

 本当の争点は、「小学4年生」の問に含まれている。

 なぜ今、解散総選挙をする必要があるのか。アベノミクスは成功しているのか、秘密保護法は本当に必要な法律だったのか――。

 「小学4年生」は存在しなかったが、青木大和氏が投げかけたこの疑問は、多くの国民にとっての疑問であることに変わりはない。

 「なぜ解散するんですか?」

 安倍総理は、表層的な「なりすまし事件」に「逆ギレ」するばかりでなく、あえてこの「小学4年生」の疑問に正面から答えるべきだ。

※TBS(12月8日付) 衆院選中盤情勢調査、自民単独で3分の2視野に「JNNでは、毎日新聞との共同調査などに基づいて中盤情勢を分析しました。(中略)今回の調査では46%の人が「まだ投票先を決めていない」と回答していて…」

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  1. あのねあのね より:

     日本記者クラブでの記者会見で首相自ら嘘をついていたのでビックリした。安倍首相によれば、当時自民党が選挙で負けて細川政権が誕生したのは、テレビ局が意図的に偏向報道をしたためだという。50歳台の私はよく知っているが、当時は消費税導入と広域暴力団組長も登場する佐川急便事件や、値上がり確実な未公開株の脈略が無いほど多くの有力者への譲渡が贈賄として大問題になったリクルート事件に国民があきれたのが原因で自民党が選挙で負けたのだ。もちろん自民党有力議員の名前が多く登場した。NTT会長への譲渡もあったと記憶している。NTT会長への賄賂は特例法により禁止されていたのにだ。自民党有力議員の無記名の債券による財産隠しも発覚した。
     この時の野党社会党の土井たか子委員長の人気はすさまじいものがありマドンナ旋風と呼ばれ、いつもは自民党に投票する保守層の主婦の多くも社会党に投票し、農家の主婦もこぞって土井委員長に投票した。その結果、自民党が下野するにいたったのだ。
     政権交代後パーティーでテレビ局のトップが報道で政権交代を後押ししたと“リップサービス”、これを針小棒大に大騒ぎして免許を取り上げると脅して圧力をかけたのが自民党の議員たちだった。完全な因縁であり、自分たちに原因があるのに他人のせいにするという“盗人猛々しい”本性をあらわしたのだ。
     今回の安倍の記者会見でもこの“リップサービス”をやはり針小棒大に拡大して“新しい歴史”を創作し、“事件として”名前まで付けてストーリーを作っている事実を知りビックリした。細川政権誕生は“偏向報道”のせいなどではなく世の中をなめきった自民党の自業自得でしかない。
     したがって、安倍の記者会見での発言で“椿事件”という名前をはじめて聞いた大人は多い。ほとんどの大人がそうだと言ってよいだろう。首相自ら歴史を作るのはもうやめて欲しいものだ。それとも、仲間の“作家”が作ったのだろうか。嘘吐きは泥棒の始まりだということわざがある。たしかに、国民から富を盗む泥棒には違いないな。

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