【岩上安身のツイ録】急転した中東情勢に対応できない安倍政権の集団的自衛権論議 内藤正典・同志社大学大学院教授インタビュー 2014.6.19

記事公開日:2014.6.19 テキスト
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※ 6月18日の実況ツイートを大幅加筆して再掲します。

 6月18日午後、同志社大学大学院の内藤正典教授に、岩上安身がインタビューを行った。ISISの伸張がイラク、イラン、サウジアラビア、トルコ、イスラエルなど、周辺諸国にもたらした影響、一夜にして急転した中東情勢に対応しきれていない米国、そして日本の集団的自衛権議論の「非現実性」について、話を聞いた。

★ インタビュー動画記事はこちら⇒ ISISの台頭で緊迫する中東情勢と集団的自衛権の行方 〜岩上安身によるインタビュー 第431回 ゲスト 内藤正典・同志社大大学院教授 2014.6.18

岩上安身「現在イラク北部では、ISISまたはISILと呼ばれるスンニ派の武装組織ISISが急速に台頭しています。これまでテロ組織というと、陰に隠れて攻撃をするというイメージでしたが、このISISは都市や国家を面的に掌握し、統治まで行ってしまうものではないのか。またISISの動きを受けた国際社会、とくにこれまで敵対関係にあったイランと米国が接近するそぶりを見せているとも報道されています。

 いったいこの地域で何が起こっているのか。本日は中東の国際関係を専門とする内藤正典・同志社大学大学院教授にお話をうかがいたいと思います」

ISISはテロ組織なのか?

内藤正典教授(以下、内藤・敬称略)「米国は『テロ組織』と喧伝しているが、本当にテロ組織と呼んでいいのかという疑問があります。確かにISISはアルカイダとのつながりが指摘され、そのことから『テロ組織』ということになっています。

 実は、アルカイダがテロを行うようになったのは、2003年のイラク戦争開戦の後のことです。また、アメリカの2003年のイラク戦争は、フセイン政権がアルカイダとつながっているという理由のもとに始められましたが、これは後に出鱈目だと判明します。

 実は、その後に現在のISISの母体となる組織がイラクに入ることになります」

岩上「ISISを率いるアブ・バクル・アル・バグダディという人物が、もともとビンラディンの配下にいて、その死後の後継者となったザワヒリと仲違いとしたと伝え聞きますが?」

内藤「そう言われていますが、そこのところは、はっきりとは分かりません。『バグダディ』というのは、たんに『バグダッドの人』を意味するに過ぎません。特定の個人をアイデンティファイする材料とはなりません。

 ISISは、アルカイダと主従の誓のようなものを結んでいると言われてはいます。そして、2009年ごろから、イラクにイスラム主義国家を作るという主張のもとに活動を始めた。国際社会で注目されたのは今年2014年6月に入ってから。6月6日にイラク北部の都市モスルを陥落させ、南下しティクリート、ファルージャを陥落させ、首都バグダッドに迫っている、と伝えられています。

 しかし、モスルにしても、ティクリートにしても、役にたたないイラク国軍を蹴散らしただけで、強力な民兵組織を持つクルド人と全面衝突したわけではないし、現地住民と戦闘したわけではないのです。

 ただ、スンニ派の過激派ISISの攻撃は、シーア派のマリキ政権にとっては脅威です。イラク戦争の後に選挙を行えば、多数派のシーア派が権力を握る。その次に力を持つのが、戦争協力をしたクルド人です」

岩上「スンニ派の一般の人々は、ISISをどう見ているのでしょうか?」

内藤「スンニ派の一般の人は、ISISに支配されたいとは考えていないと思います。ただ、現在はフセイン時代ほどの力がない。したがってISISがシーア派に対抗するなら、やらせよう、というほどの態度ではないでしょうか。

 イラク戦争後は、シーア派が、フセイン時代には力を握っていたスンニ派への復讐として権益を与えなかった。それに対するスンニ派の間で不満が高まっているという事を分からせるまでが、ISISの目的ではないでしょうか。全面的にシーア派勢力やクルド人と戦うということは考えられません、数が違いますから」

「ご都合主義」たちとISISの関係

内藤「ISISは米軍が『根拠のない戦争』で現地住民に多大な被害を与えた後、武器を置いていった。それをイラク国軍が放棄して逃げていってしまったので、ISISに武器が渡ってしまった。これは完全に米国の自業自得。高価なおもちゃを与えてしまった。実に愚かなことです。

 米国は大国なので常に陰謀論の中心として語られがちですが、決定的な部分では間違い続けているのだろうと思います。屍の山を築きながら、少しは学ぶというところです。

 集団的自衛権について私が否定的なのは、Big Brotherは世界を見るときに判断を間違えるということです。その時についていくのか、ということです。

 政府に、あるいは官邸にこの地域に関する専門家が何人いるのか。また、政府の誘導に対するセカンド・オピニオンを形成するときに重要な、ジャーナリズムも機能しているとは言い難い」

岩上「ISISの残虐性が報道されているが、実態はどうなのでしょうか?」

内藤「ある組織がイスラム過激派だと言われる時には、慎重に裏をとらなければなりません。タリバンもテロ組織とされましたが、実際はタリバン以前が非常に強権的であり、アフガニスタンの現地住民に統治を認められたのがタリバンでした。その判断自体は一定の合理性があったのです。

 しかしアルカイダをかくまったとされ、タリバンはテロリストのレッテルを貼られた。米国側の反イスラム的な前提の立て方に、我々は踊らされてしまっているのです」

岩上「ここで問題となってくるのがサウジアラビアの存在ですね。この中東の盟主は、世界中のスンニ派のアルカイダやアルカイダ系とされる過激派を支援していると取り沙汰されている。ISISにもサウジからお金が流れているという話もありますがどうなのでしょうか?」

内藤「サウジには二面性があります。王家と敵対したビンラディンは、サウジから国籍を剥奪されます。このように、サウジという国は過激派に対しては敵対的な国という一面があります。

 しかし、ISISがイランというシーア派国家と戦ってくれるなら、支援を行うことはありえます。つまり、国として表立ってISISを支援はできない。しかしシーア派のイランに対抗してくれるなら、と考えるサウジの豪族がISISに対し、裏から裏へ支援をしていても何ら不思議ではありません。

 もう一つ、エジプトへの対応があります。サウジは昨年7月に発足したエジプトのクーデター政権を支援しました。本来なら前政権がスンニ派の『ムスリム同胞団』なので、サウジとしては歓迎するものだったはずでした。

 しかし、エジプトの革命は『ボトムアップ型の市民革命』であり、『イスラム的に正しい政治をすべし』というものでした。サウジの王政にとっては、こういうタイプの運動はたいへん都合が悪いのです。自分たちを脅かすおそれがある。サウジアラビアも、ご都合主義の国ということです。

 ISISは、当初シリアで知られていました。アサド政権の独裁下にあるシリアでは起きないだろうとされていた、民主化運動が2011年に起き、当初、自由シリア軍と呼ばれていましたが、この人たちもまた、ご都合主義的なのです。

 彼らは本来、アサド体制の軍隊から寝返った人たちです。イデオロギーがあったわけでも、リーダーがいたわけでもなかったのです。権力を取るかに思われた自由シリア軍は、盤石なアサド政権や、背後にいるイランとロシアに対し、苦戦を強いられます。

 そこにISISIが入っていったのですが、スンニ派組織の中では唯一、一本筋が通っているとも言えます。他の全てがご都合主義に走る中で、『スンニ派のイスラムによる国を造ろう』と言っているわけですから」

米国の都合、シリアの都合

岩上「米国はサウジがISISを支援していたとしても、サウジを叩きませんよね。結局米国にとってサウジの王家支配は都合が良いのでしょうか?」

内藤「結局米国は、サウジが安定的に油を出してくれさえすれば後はどうでも良い。中東がどうなるかは、関心事ではないでしょうね。

 民主化云々は、イラクへ戦争を仕掛けたときに、あまりに根拠がなかったため主張されたに過ぎません。また、アフガニスタンを破壊していいという根拠もない中、ブッシュ夫人は、『ブルカを被らなくていい』などということを言ってのけました。民主化、女性の権利が、戦争を正当化する理由として利用されたのです。

 冷戦後の米国の軍需産業にとって、イランは非常に都合の良い『敵役』ですね。実際のイラン人は親米で、イランは米国の文化に溢れています。今までは『敵役』でも良いから『米国に一目置いて欲しい』ということでした。これが、米国と手を結ぶとなれば、一気にその方向へ進むでしょう。

 ただ、イランには国際的に宗派抗争をする力はありません。世界的に見れば、シーア派とスンニ派の人口比は1対9ですから。

 米国がイランの核開発について一定のコントロールができるとなれば、またイランと接近するでしょうね。イランとしては、1割しかいないとされるシーア派の盟主としての、誇り高いイラン人の地位が満足されれば、そこまでは歩み寄るでしょう。

 しかし米国と妥協すると言っても、イランはシリアのアサド政権への支援を止めることはないですね。結局米国はイランの言うことを飲むしかない。同時に、イスラエルは、米国とイランの歩み寄りは許さない。どこかで歩み寄りにブレーキが掛かると思います。今はイスラム同士の混乱を静観しているのでしょう。

 また、シリアのアサド政権はイスラムの代表のような顔をしていますが、パレスチナの事など本当は考えていません。このシリアを地政学的に一番重要視しているのはロシア。ロシアは、イデオロギーは関係なく、シリアを絶対に手放さないでしょう。手放せば、中東でのプレゼンスが皆無になりますから。

 シリアとロシアの力関係では、実はシリアの方が上です。昨年シリア政府軍が化学兵器を使ったという件で、米国が軍事行動に出るという時にロシアのラブロフ外相が止めさせた。ロシアがシリアの言い分を米国にのませた、という構図に見えるが実際は逆です。

 あれだけ窮地にあるように見えるアサド政権が盤石の自信を見せているのは、ロシアもイランも、絶対に自分たちを見捨てないと踏んでいるからです。もし見捨てたらシリアは1日も持ちません。軍事作戦に出れば、シリアは一瞬で崩壊するはずですが、それを3年もの間、持たせている。ここまでくると潰すことも難しくなっている。

 シリア国民にとって一番脅威なのは、アサド政権が空軍を持っていることです。彼らは『樽爆弾』(釘やコンクリートなどをドラム缶に詰め込んで大量の火薬で爆発させる)を持っている。

 シリア国民にとって樽爆弾が非常に脅威なのです。アサド政権が空軍力を持っている限り、アサド政権はいつでも住民を殺害できます。ヘリを撃ち落とすための戦力が、反政府側にはない。加えて、ロシアやイランは空軍で協力をしている。このアンバランスが続く限り、市民の犠牲がなくなることがない。私は米国の介入には全く賛成できないが、あの時、空軍力だけでも押さえておくべきだったと思っています」

ISISの今後

岩上「ISISの今後の動きはどうなるのでしょうか?」

内藤「ISISはイスラム主義国家を作ることを最終目標に置いていますが、こんなに戦争状態になっている地域で、落ち着いて国家を作るのは無理ですよね。

 スンニ派から見れば、ISISによりスンニ派地域が解放されたということになるが、それにより、実際に経済が上向いたりしなければ、また部族たちはISISから離れていくことになるでしょう。

 それから、ISISにとってシーア派と事を構えるなんてことは、勝ち目が無いので、しないでしょう。利があるとすれば、シーア派と戦うという名目で支援を受けるという点だけなので、そうなるとまた内戦が続くということになります。マリキ政権への牽制以上のことは、おそらくないでしょう。

 しかしここで米国が無人機で爆撃となったら、誤爆の問題などで、事態は泥沼化することになります。将来に渡ってテロの危機に直面するのは米国のほうです」

集団的自衛権行使容認と中東情勢

内藤「今、集団的自衛権で安倍政権はペルシャ湾での『機雷除去』ということを言っているが、誰が機雷を撒くのか。イランは米国とくっつくと言っている。以前、機雷を撒いたのはイランではなくイラクです。

 イランが機雷を撒いてホルムズ海峡を封鎖することはありえません。そんなことをすれば、ペルシャ湾からの石油が全面的に止まることになり、そうすれば世界から総攻撃され、イランは国が持ちません。

 逆にリスクがあるとすれば、ペルシャ湾西側のアラビア半島側の海域です。イギリスはもう兵は出さないと言っています。前回もイギリスは米国にくっついて嫌々出て行ったが、実際は全くメリットがありませんでした。

 タリバンについても、米国は9.11以降『タリバン以前がもっと酷かった』という事実を徹底的に潰しました。そもそもタリバンを育てたのはCIA。それが言う事を聞かなくなったから叩く、の繰り返しです。

岩上「エジプトでの軍事クーデターの裏に、米国は存在しますか?」

内藤「米国にとっては『ありがた迷惑』だったと思います。オバマとしてはエジプトが民主的に安定してくれれば良かったのです。

 むしろ、クーデターをそそのかしたのはイスラエルだと思います。ムスリム同胞団の革命でガザとの門が開いてしまったからです。

 今後、反イスラムのプレーヤーとしてはロシア、そして中国が加わってくるでしょう。中国は新疆ウイグル自治区の問題や、アフリカ進出でも現地のイスラムから反感がかなりあります。人口15億のイスラムと、米・露・中の対立が、世界の平和に非常に危険だと思います」

岩上「日本の懸念は、このイラク情勢がオイルショック的なものを引き起こさないか、ということです」

内藤「そのリスクはかなりあります。要は投資家によって『不安を煽って価格を急騰させる』ということが可能になるからです。原油価格は実際の需要と供給とは関係がありません。ただ、産油国側も、安易にパイプを締めるリスクを、もうさすがに自覚しているだろうと思います。

 私が懸念しているのは、日本で『やっぱり原発に頼らざるを得ないじゃないか』という論に振らせようとする人たちの動きです。こういう人ならば、石油価格の変化と、電力供給の話とを結びつけるであろうことは、容易に想像がつきます。フェアじゃないと思います」

岩上「このような場所に集団的自衛権で、出て行くというのは、自分たちが火だるまになるだけですね」

内藤「まったく言葉が出ません。中東地域では日本が『ウェポンフリー』というのは広く知られています。この地域での資源開発をするなら、この『ウェポンフリーの日本』を売り込むべきです。

 極めて非現実的と言わざるをえません。中東地域における米国の一番の同盟国はトルコです。しかしこのトルコは、湾岸戦争、アフガン侵攻、イラク戦争、いずれも参加を拒否している。同盟国だからといって米国の命令に付き従わないといけない、ということではありません。

 そもそもこれまで日本政府は、個別自衛権の範囲であっても中東の日本人を助けませんでした。イラン・イラク戦争の時、脱出できない日本人をトルコ航空が救ったが、これは日本政府ではなく伊藤忠の社員がトルコ政府に直訴したためです。

 せめて個別自衛権で日本人を救出してから、集団的自衛権の論議をするべきで、現地の日本人にとっては『米艦におじいちゃんや子供が乗っている』なんて構図は全くリアリティがありません。その前にまずは政府がJALを出せ、という話です」

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