前回のエントリーの続き。
2010年1月19日、岡田外務大臣オープン記者会見の模様。日米同盟50周年にあたって共同発表された文章に、「共同発表仮訳」とあり、正文が英文で、日本文が仮訳である、つまり言語的に従属する形になっているように見えるという岩上氏の質問に対しては、問題がないとの認識を示した。また、サイバー兵器によるサイバー攻撃問題に関する質問に対しては、安全保障環境の変化の1つとして捉えるべきとの見解を述べた。
会見の半ばで、二度目の質問をした。
配布された書類を見ると、日本語の文章に「仮訳」とある。これが気にかかったのだ。
岩上「フリーの岩上です。よろしくお願いします。日米(同盟)の50周年にあたっての共同発表に話を戻させていただきます。
この発表された文章を見ますと、『共同発表仮訳』とあり、日本語が『仮訳』になっています。ということはですね、この共同発表というのは、正文は英文ということになるのでしょうか。50年を迎えた日米安保の条約の文書、過去の物をこの間、ちょっと色々見直してみたんですけれども、当時の条約の文章は英文と日本文の両方がそれぞれ正文でした。対等な国家として、それぞれの言語で正文を作り、条約を交わし、署名をしたという形になっております。
再三、2005年の日米同盟の文章のことを(正式名称「日米同盟:未来のための変革と再編」)大臣にご質問をさせていただいておりますけれども、それも見直してみますと、正文が英文であって、日本文というのはただの『仮訳』で、つまりは言語的にいっても従属する形になっているように見えます。
『たかが』というように思われるかもしれませんけれども、外交というのは、国家と国家が対等でやっていく時に、お互いがどういう言語できちんと取り結ぶかというのは、非常に重要なことではないかと思いますが、『対等な日米同盟』ということを掲げて発足した鳩山政権において、足元で決して対等ではないような条約の結び方というのは、いかがなものかと思うのですが、ご見解をお示しください」
岡田「私はそのように考える必要はないと思います。『条約』であれば、もちろん正文は日本語でも必要で、きちんと英語と日本語で整合性のあるものを一字一句確認をして、その日本語を基にして国会で審議も行われる、こういうふうになります。
この『共同宣言』は、一つはつい最近まで語句を色々『ああでもない、こうでもない』と(両国間で)やっていましたので、時間的にあまり余裕がないということと、英語なら我々は分かりますけれども、日本語だとなかなか、それを(先方が)チェックするとなると時間がかかるということです。そのような中で英語がベースで、日本語も付けてありますが、『もしそこに違いが出た時は、英語の方が正しいんですよ』ということを念のために書いてあるだけですから。それをもってなにか従属しているとか、そのように考えることは全くないと私は思っています」
日本語で正文を作らない流れは、ずいぶん前からできてしまっているので、岡田外相や現政府だけを責めるのはフェアではないだろう。とはいえ、「たいした問題ではない」と軽くかわす岡田外相の姿勢はいかがなものか、と思う。こうしたことを、疑問と思わないような状態こそ、「従属」の「日常化」ではないか。「対等な日米同盟」を掲げる鳩山内閣であるからこそ、一度、真剣に見直すことを提案したいと思う。
今回もまた、長い会見になった。1時間を超え、史上最長を更新。
最後の最後に、もう一度、質問機会が与えられた。
司会「では、最後ですが、岩上さん」
岩上「フリーの岩上です。よろしくお願いします。
『中国の脅威という言葉はなるべく言わない方がいい』というふうにおっしゃられました。これはある意味、外交をする上でごもっともだと思います。しかし、他方で従来型の兵器による戦争というような軍事的な脅威に限らず、サイバー兵器によるサイバー攻撃が日常化するようになってきております。
先日もグーグルが中国においてサイバー攻撃を受けて、それ(事業を)を撤退する可能性を表明したりとか(※参照:「グーグル、中国での検索結果検閲を廃止へ–同国から撤退の可能性も」文:Tom Krazit(CNET News)2010/01/13 11:06)、大変大きな騒動が起きかかっていると思いますが、日本の企業もですね、中国への進出に傾斜しておりますし、またサイバー攻撃というのは国境を楽々超えうるものであって、『戦争』か『平和』か、『平時』か『戦時』か、白か黒かという間のグレーゾーンが今、どんどん広がっている状況にあります。
広い意味で、これは安全保障に入ることであろうと思いますけれども、自衛隊が出動するようなレベルのものなのか、それとも外交的な解決によるものなのか、民間企業の自助努力で防衛していくものなのか、いずれにしてもこういったことも含めて、広い概念で『脅威』ということを考えなくてはいけないのでないのではないかなと思うんですけれども、こうした点について、大臣のご見解をお示し頂きたいと思います」
岡田「はい。まず、グーグルが中国撤退とか、そういう議論をしているのは、サイバー攻撃ということよりも、そこ(グーグルの中国国内での事業)に規制がかかるということに対して見解が違う、ということだと私は理解しています。
しかし、サイバー攻撃、あるいは宇宙における攻撃、衛星を撃ち落としたりとか、そういう新しい形での、今まであまり考えられなかったようなものが様々出てきておりますので、そういうことも安全保障環境の変化の1つ、新しい分野として捉えていかなければいけない問題だという風に思います」
サイバー攻撃というのは、どこかSFじみて聞こえるが、非常に重大なリスクである。今はまだ小規模で、散発的、偶発的な印象を受けるが、いずれは攻撃を受けた側のダメージが大きい「兵器」が開発され、大規模かつ恒常化してゆくのではないか、という懸念をぬぐえない。
「宣戦布告」なき、戦闘行為に対して、これをどう防ぎ、対処してゆくのか、政府は今から全力を挙げて取り組む必要があるのではないか。
この記者会見のあと、クリントン長官は、Googleがサイバー攻撃を受けたことについて、中国側に警告し、徹底調査を求めたと1月22に報じられた(「米国務長官、中国に徹底調査要求 グーグル問題で」2010/01/22 06:15共同通信)。こうした米国のような、いざというときには、毅然とふるまう外交姿勢と、それを可能にする国力の充実が、日本にも求められているのだと思う。