【IWJブログ】安倍総理の「ドリル」で打ち砕かれる国民の「生活」~TPPの地ならしとして進む「国家戦略特区」 2014.2.17

記事公開日:2014.2.17取材地: テキスト
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(佐々木隼也)

 「かつてない注目度」で行われた東京都知事選が2014年2月9日、投開票日をむかえた。自民・公明推薦という強固な組織力を背景に、大雪のせいもあり、46.14%という低投票率に支えられ、舛添要一元厚労相が新しい東京の顔となった。

 翌10日、安倍総理は舛添氏を官邸に迎えて会談し、「良かった」と安堵の表情を浮かべた。安倍総理がホッと胸をなでおろしたのは、舛添氏が同じ「再稼働容認」の姿勢だから、というだけでなく、安倍政権が前のめりで推し進めている「国家戦略特区」の強力なパートナーだからだ。

「岩盤規制」=「国民のセーフティネット」

 「春先には国家戦略特区が動き出す。そこでは、いかなる既得権益といえども、私の『ドリル』から無傷でいられない」――。東京都知事選の告示日前日(1月22日)、安倍総理はスイスで開かれた「ダボス会議」で演説し、「岩盤規制」を打ち破ると世界に向けて宣言した。

 今年に入り、特にニュースを賑わせている「岩盤規制」という言葉。この「岩盤規制」とは、大企業にとって利益追求の妨げとなる「邪魔な規制」を意味する。「邪魔な規制」とは、労働者の権利を守るための雇用ルールや、医療、教育、農業分野における、国民の命や健康を守るためのセーフティネットを指す。これをまずは地域を限定して、強力な規制緩和というドリルで打ち砕こうという試みが、国家戦略特区なのだ。

 昨年末の12月7日未明、秘密保護法反対が叫ばれていたその裏で、ひっそりと成立した特区法案。その中身を見てみると、「5年以上の有期雇用契約をしたら正規雇用に転換できる」という労働契約法の「見直し」をはじめ、「混合診療の解禁」、「公立学校の民営化」などが含まれている。

 教育や医療制度のような、本来利益を追求してはならない公共政策の分野に、「利潤追求最優先」の企業が大挙して参入してくる。

東京、大阪、東海…地域の特性にあった「破壊」を進める安倍政権

 特区の指定を受けるのは、東京だけではない。政府は3月にも特区の指定を行うが、対象地域は「東京、大阪など3~5カ所」を予定してる。そして今後もさらに対象地域が追加されていく。

 愛知県を含む東海地域も、特区と無関係ではない。政府は昨年8月、地方公共団体や民間企業に、特区における規制緩和のアイデアを募集した。諮問会議が特区を指定する際に、この提案が大きく影響するが、そこに、愛知県を含む東海地域も提出しているのだ。

 提案の中身を見てみると、「法人税の大幅引き下げ」や「企業の農業参入に関する要件緩和」など、安倍政権の特区構想に添う提案が数多く書かれている。ここで注目すべきは、「企業の農業参入」だ。特区は、指定された全ての地域に同じ内容の規制緩和を要請するのではなく、地域の特性に合わせて実施される。

 首都圏よりも、「農業」が大きな産業のウェイトを占める東海地域が特区指定を受けた場合、この農業分野での規制緩和が実施される可能性がある。

 安倍総理は昨年5月17日、農業分野の成長戦略として、今後10年間で農業・農村全体の所得を倍増させる戦略を打ち出した。そのための施策として、この「企業の農業参入」が検討されているのだ。

企業の農業参入が日本の農業を衰退させる恐れ

 企業が農地を買いあさり、大規模なプランテーションを敷く。安価な労働力と、単一種の大量栽培により、利益をあげる。大規模農家が小規模農家を駆逐する。その結果、数字上は農業全体の所得があがるというカラクリだ。

 しかし、それによって職を失った小規模農家は労働難民となる。また企業にとって利益率の高い品種のみを栽培するようになると、農業の多様性は失われる。

 単一種の栽培によって、短期的利益をあげるとすれば土地が痩せる。それを補うために、化学肥料や遺伝子組み換え作物の導入が積極的に推進され、食の安全性や国民の健康不安は後回しにされる。

 農業の所得が仮に上がっても、日本全体の食料自給率の低下や、農業を続けられなくなった農民が職を求めて都市圏に流入することにより、失業率が上昇する可能性などが懸念される。

 このように、大資本の利益のためだけに、その土地の文化や雇用や生活を打ち砕くのが、国家戦略特区であり、これは「聖域なき規制緩和」というTPPにもつながってゆく。

特区は竹中的構造改革の蟻の一穴

 特区の基本方針を策定する「諮問会議」で有識者議員を務める竹中平蔵氏は、自身のブログで「全国一律に規制改革するには時間がかかるから、まず特区でこれを行うという主旨を忘れてはならない」と語っている。国家戦略特区はTPPの内国化のスタートに過ぎない。一旦これを認めてしまうと、そこを蟻の一穴にして国全体の法改正や規制緩和が雪崩をうって行われる危険性があるのだ。

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