【岩上安身のツイ録】国家戦略特区と営利事業化される教育~「奨学金」という名の学生ローン 2014.1.28

記事公開日:2014.1.28 テキスト
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特集 2014東京都知事選
※1月27日の岩上安身の連投ツイートを再掲します。

 これから国家戦略特区について、連弾で情報発信する、と昼間も書いたが、まず、第一弾は、高士太郎さんのIWJブログ特別寄稿「都知事選の隠れた争点〜国家戦略特区とTPP」。特区のもつ危険性がひしひし伝わる内容。今夜これから、アップロードする。

 特区は、舛添氏が毎日街宣で唱えているような、「みんな、金儲けしよう」などというおめでたい話ではすまない。雇用、教育、医療など、生活に直結する分野を直撃する可能性がある。目を凝らして「現実」を見て欲しい。選挙を通じて、「争点」を凝視してもらいたい。

 今、同時並行で進めている取材が、今の若者が置かれている過酷な現状についてのレポートだ。中高年以上の世代、私の世代も含めてだが、自分の世代体験だけで、現状を捉えていないだろうか? 今、学生の半数が有利子の奨学金、つまり学生ローンを抱えている。社会に出る前に借金漬けになっているのだ。

 僕は、大学三年から学費も生活費も自分で稼いでいたので、そうした体験をついあてはめがちになる。だが、今はそんな時代ではない。学費が高過ぎる。なのに親の所得は伸びていない。親が教育ローンを組むか、学生本人が奨学金を借りるかしなければ、普通の家庭では大学に子供を進学させるのは、難しい。

 今から約40年前の1975年当時、国立大学の授業料は3万6千円だった。現在は53万5千円。約15倍である。40年前のサラリーマンの平均年収は205万円。現在は409万円。2倍にしかなっていない。学費の家計に占める負担は4%から20%に上昇している。

 年収が平均より割り込む「中の下」層、年収200万円以上400万円未満の層では、年収に占める学費の平均負担割合は、6割近くにもなる。実態を改めて知ると、愕然とせざるを得ない。

 所得は減っているのに、学費は米英についで世界でトップクラスの高さに上り詰め、教育支援は貧困で、「奨学金」の名の下に学生ローンを貸しこむ。欧州であれば、奨学金はたいがい返済義務のない給付をさす。日本では、高い利率で20年を超えるような長期のローンを、人生のスタート点で組まされる。

 これで、就職がうまくいかなければ、卒業と同時に多重債務者になりかねない。就活の最中、「死にたい」と考えた学生が2割にのぼるという。今の若者は精神的に弱いなどという精神論では、この現実は見誤る。取材の過程で、記者はホームレス大学生のケースまで出くわした。

 こんな状態で、四月には消費税を増税し、特区を実現しようというのである。特区を通じて、規制を緩和し、本来営利であってはならない医療や教育の営利事業化を認め、正規労働を非正規に置き換え、外国人労働者を大量に導入しようとたくらむ。教育コストはこれまで以上に上がり、所得は下がるだろう。

 と、この一連のツィートを打っている間に、メディア業界の「先輩」にあたる人から電話が入った。例に漏れず、細川陣営と宇都宮陣営の一本化を何とかしたいと思って動いたんだ、という。そうは言っても当事者にその気がないのに、外野にできることは限られているでしょう、と答えると、

 昔とった杵柄、またいつもの、「僕らの時代はね」という話に。「全共闘世代の時代、勝っても、負けても、全力を尽くす、というのは、『革命的敗北主義』と言ったもんなんだ」。いやいや、選挙は革命じゃないし、「最後のチャンス」説と同じだし、それは。僕が、現状を話すと彼も詳しく知っている。

 裏事情を詳しく知っているというのに、「このままじゃ悔しくてね、なんとしても安倍にストップをかけるために、ここは何とかしたいんだ」と悲憤する。しかし、今、つぶやいていた特区の話などをすると、ほとんど知らなかった様子で、「そういうのを聞いちゃうと、都知事選、取材する気なくすなぁ」と。

 いやいや、それじゃ、本末転倒でしょう、と苦笑しながら言うと、「うーん…、じゃあ、またね」と、都知事選に対する「革命的」な興味を失ったその「先輩」は、電話を切った。これ、読んでるかな? 読んでいてもいいや、本当の話だし。そう思いつつ、今、連投している。

 「票を集めろ」「一本化を」という呼びかけは、左派から見て抱いている思惑と、保守から見て描いている絵とは、様々にずれているだろう。個々人の思惑となると、さらにずれている。それでも、脱原発と、安倍政権の右傾化に歯止めをかけたいという思いは、大方は共通しているはずだ。

 だが、大きな利権がからむ特区構想のようなところにくると、全然、話が詰められていない。そこはスルー、という大雑把さだ。それでも、一本化の大義に従えよ、と同調圧力がかかる。空気を読めよ、と言わんばかりだ。でも、申し訳ないけど、空気は読めない。本当に、申し訳ないけど。

 革命的幻想の大波が盛り上がって、去って行ったあとにも、取り残されたような具体的な問題があり、取り残された人々がいる。「イシュー」という気取った言葉は似つかわしくないような、極めて散文的な問題群と途方にくれた人々だ。「最後のチャンス」のあとにも味気ない日常は続くのである。

 興奮が去ったあとの、索漠とした日常に残された問題や日常に寄り添うことを厭うのであれば、ジャーナリズムは息を引き取ってしまうだろう。そうでありたくはない、と僕は思っている。

 シングルイシューには効能もあるだろうが、弱点や限界もある。シングルイシューを戦略・戦術として用いる、という人は、そのことに自覚的であってもらいたい、と思う。政府は、そこをよく知悉している。だから、人々が一つのイシューに集中する時を狙って、マルチで仕掛けてくる。それを見抜かないと。

 昨年12月、特定秘密保護法案が可決され、反対の声が永田町に響き渡っていた時、同時にひっそりと国家戦略特区法案も可決された。審議時間は衆議院でわずか22時間、参議院でわずか8時間だった。こうやって、陽動されてしまうと我々はひどくもろい。このことはよくよく自覚したほうがいい。

 この事実は、連弾でお届けする特区問題ブログシリーズの第二弾、プロジェクト99%代表の安部芳裕さんのブログ内で指摘されている。多くの人が、あの渦中、気づかなかった視点だ。複眼的視点はどんな時も見失ってはならない。単眼的になったその時こそ、権力は簡単に操作できるようになる。

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「【岩上安身のツイ録】国家戦略特区と営利事業化される教育~「奨学金」という名の学生ローン」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) より:

    社会に出る前から借金漬けにしてるシステム。ブラック企業化してる社会に疑問を持って、調べ、考えてほしい。

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