「秘密保護法は民主国家として最低。今世紀では考えられない」と海外からも酷評 ~世界の流れに逆行する秘密保護法 12・23集会 ─講師 藤田早苗氏 2013.12.23

記事公開日:2013.12.23取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・阿部玲/奥松)

 「日本は、国際人権条約を批准している。つまり、国際人権条約に反する国内法は、改定・廃止しなくてはいけない」──。

 2014年12月23日、愛知県名古屋市東区のウィルあいちで、「世界の流れに逆行する秘密保護法 12・23集会」が開催された。講師を務めた、英エセックス大学人権センターの藤田早苗氏は、18日にIWJがインタビューを行ったばかり。日本政府が自ら批准し実施義務を負う、国際人権法の観点から見て、秘密保護法のどこに問題があるかを解説した。

 藤田氏は国際人権法を専門とし、14年前に地元の名古屋から英国に居を移している。彼女が研究する世界銀行・アジア開発銀行(THE WORLD BANK ASIAN DEVELOPMENT BANK)では、「情報公開政策としてパブリックコメントを採用し、募集期間は2~3ヵ月。意見のひとつひとつに銀行側のコメントを出して、公開している。最終的に採決するまで、2年近くかける」ため、日本の秘密保護法案のパブリックコメントの募集期間が2週間で、しかも、同法案が年内成立という話は「信じられなかった」と言う。「英国にいると、日本の様子は言葉の問題もあり、外から見えない。日本にいると、国連の動きについてメディアは伝えない。両方の壁がある」と語った。

■全編動画
・1/2(22:00~ 1時間34分)

・2/2(23:36~ 48分間)

  • 日時 2013年12月23日(火)
  • 場所 ウィルあいち(愛知県名古屋市)
  • 告知 世界の流れに逆行する秘密保護法12・23集会(pdf)
  • 共催 秘密保全法に反対する愛知の会、愛知県弁護士会、アムネスティなごや栄グループ、アムネスティわやグループ

海外から寄せられる懸念の声

 国際人権法とは、第2次世界大戦中の著しい人権侵害に対する反省から生まれたもので、人権はそれまでの国内事項から、国際関心事に変わったといわれる。国連は、自らの目的を「人種、性、言語または宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守」と定めている(国連憲章55条c)。人権を保証するためには「情報にアクセスする権利」が非常に重要であり、表現の自由に関する国連特別報告者であるフランク・ラ・ルー氏は、11月21日、「秘密保護法案は透明性を脅かすものである。秘密を特定する根拠が極めて広範囲であいまい。内部告発者、そして秘密を報道するジャーナリズムにさえも、重大な脅威をはらんでいる」と、国際法における人権基準に照らし合わせ、同法案の適法性について憂慮する声明を発表した。

 これに対し安倍首相は、「誤解だ」「報告者は独立の専門家であって、人権理事会そのものの意見ではない」などとして受け入れなかったが、藤田氏は「人権理事会が設立したワーキンググループ(WG)というものがあり、日本は、北朝鮮による拉致問題ではWGを使っている。つまみ食いではないか?」と批判した。

 国連人権高等弁務官のナビ・ピレイ氏も、「何が秘密を構成するかなど、いくつかの懸念が十分明確になっていない。国内外で懸念がある中で、成立を急ぐべきではない。政府がどんな不都合な情報も秘密として認定できてしまう」と、日本に慎重な審議を促したが、安倍首相は「外務省によると、修正が施され、国会がチェックアンドバランスの役割を果たしているということについて評価をいただいている」とコメント。これについて、藤田氏は「事実関係が明らかでなく、意味不明。今後、海渡弁護士らが調査する予定だ」と述べた。

日本は、自らが批准した人権条約を守らなくてはいけない

 藤田氏は、ツワネ原則を作った中心的人物と会った際、「秘密保護法案は、民主国家としては最低レベル。今世紀では考えられない、最低」と酷く批判されたという。それは、「その人が、ただ自分の判断で言っているのではなく、国際水準というものがあるからだ。日本が批准している国際人権条約は、『経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約(社会権規約)[1979年批准]』と、『市民的、政治的権利に関する国際規約(自由権規約)[1979年批准]』。後者の第19条には「表現の自由・情報へのアクセス権」と、条文の中に書いてある」と言明した。

 「批准とは、条約や協定を国として確認・同意すること。その条約を、わが国も取り入れて守るという意味。憲法98条2項では『日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする』とあり、日本では国際人権基準を国内で実施しなくてはいけない。つまり、人権条約に反する国内法は改定・廃止しなくてはいけない」と、条約は法律より上位であることを強調し、訴えた。

 さらに、「国際人権基準とは、条約のほかに、国連総会や人権理事会が採択した宣言や規則、各種ガイドライン、条約機関が出す一般的意見、見解、勧告などが含まれている。各人権条約には委員会がある。条約によって設置された12~18名の委員会、委員は加盟国によって任命された個人の専門家。批准したら放置ではなく、定期的に締約国は条約の実施状況を報告し、審査を受ける。カウンターレポートして市民からも出す。日本では、日弁連やNGOが出す。これをもとに、最終見解が出される」と、詳細に解説を続けた。そして、「自由権規約人権委員会の、日本に対する次回審査は2014年7月。海渡弁護士は、まさにカウンターレポートを、今、作っている」と、秘密保護法のストップに向けての動きも明らかにした。

情報がなければ人権を守れない

 「ツワネ原則は思いつきで作ったものではなく、自由権規約人権委員会の見解や、特別報告者の報告書、情報へのアクセス権に関する原則など、ずっと発展してきた『情報へのアクセス権に関する原則』を土台に作られたもの。情報にアクセスする権利は、1946年12月14日の第1回国連総会決議59の1で、すでに謳われている。『情報の自由は基本的な人権であり、国連が関与するすべての自由のかなめ石』と。情報がなければ人権を守れない」と訴える藤田氏は、次のように説明を重ねた。

 「世界人権宣言19条には、『すべての人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を超えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む』と書かれている」。

 「市民的、政治的権利に関する国際規約(自由権規約)も、同じく19条に、『1項:すべての者は干渉されることなく意見をもつ権利を有する。2項:すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き、若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け、及び伝える自由を含む』と書いてある」。

 藤田氏は「つまり、スタートは『自由』なのであり、制限を加えるのは例外。『何を隠そうか?』から始めるのではない」と、情報へのアクセス権の重要さを説き、ツワネ原則を軽視する政府の姿勢に疑問を呈した。

情報へのアクセスが否定される場合は?

 一方で、情報へのアクセスには「一定の制限を課すことができる」とも定められている。第19条3項には、「その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。(a) 他の者の権利又は信用の尊重(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しく は道徳の保護」と規定されている。

 しかし、「情報へのアクセスが否定されるときは、その理由は明確にかつ狭く定義されるべきであり、国内法は、明確にかつ狭く定義された公開の例外事項のリストか、公開を拒否する理由の説明を含むべきとされる。また、情報公開によって相当な損害が生じる危険性がある場合のみ、制限を加えることができるが、その場合も政府は『その情報公開がどうして損害になるのか、どのようにどれくらいの損害になるのか』を説明しなければならない。また、『その制限が国際人権法に矛盾しないものであること』を説明する責任がある。これは、秘密保護法に見当たらない」と、藤田氏は首をかしげる。

基本的人権を定めた憲法そのものが危ない

 さらに、「ツワネ原則3では、『公開によって生じうる損害は公開による公共の利益よりも大きくなければならない。 つまり、ある情報の公開により損害が生じる危険性があっても、その情報を公開することによる公共の利益のほうが大きい場合は、公開しなければならない』とある。ツワネ原則4では、『公開によって生じる損害が大きいか、公益のほうが大きいかは、独立機関によって判断されなければならない。その判断は情報を所持する機関ではいけない』と謳っている」など、秘密保護法におけるチェック機関の不透明さにも大きな懸念を示した。

 最後に、藤田氏は「自民党の示す憲法改正案も、国際人権条約の観点から見ると時代錯誤で後退しまくっている。9条だけではなく、基本的人権を定めた憲法全体が危ない」と、秘密保護法や平和憲法のみならず、日本国民全体の人権が脅かされていることに、強く警鐘を鳴らした。

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