「避難を意味のないこととして済ませようとする国や東電に対して、何らかの行動を示したかった」。
原発事故発生から4ヶ月後の2011年7月に、福島県白河市から北海道札幌市に母子避難したAさんはこう述べた。
福島県の県南にある白河市は、福島県内であるにもかかわらず、「自主的避難等対象区域」から除外されている。自主的避難等対象区域とは、2011年12月6日に国が定めた自主避難者に対する賠償範囲の基準である。
対象地域は、県北、県中、相双、いわきなどの23市町村。対象区域外となった白河市に住むAさん一家には、東電独自の賠償基準により、子ども2人に対する慰謝料40万円のみが支払われている。
Aさんは、「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」の協力を得て、2011年12月、原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)を通じて、東電に損害賠償を申し立てた。申し立ての理由は、「避難を意味のないこととして済ませようとする国や東電に対して、何らかの行動を示したかったから」だという。
札幌に避難するまでに測定した自宅周辺の放射線量の記録や、避難後の子どもたちの思いや、単身で暮らす夫の心情を綴った手紙を原発ADRに提出するなど、Aさんはあらゆる手段をつくしてきた。
原発ADRは「避難に合理性はない」という回答を示したことがある。「はっきりとした汚染があり、除染が進められているにもかかわらず、『合理性がない』と言われた時は、悲しみと怒りで一杯だった」とAさんは当時を振り返る。代理人としてAさんを支えてきたSAFLANの福田弁護士から、「原発ADRからの回答を破いてもいい」と言われたという。
たなざらしにされたまま途方に暮れていた矢先、突然の連絡があった。今年3月、原発ADRが和解案を示したのだ。
4月5日、東電とAさんは和解案を受諾、賠償が実現した。2011年4月22日以降に自主避難を行ったケースでは、初の和解成立である。