昨年4月に自民党が発表した「憲法改正草案」は、基本的人権を軽視し、個人の自由を制約する一方で、為政者側の支配力を強めるという民主主義国家にあるまじき内容を含んでいる。この点について、私はこれまでインターネットやラジオなどを通して繰り返し批判を行ってきた。
この自民党改憲草案についての検証を深めるため、私は澤藤統一郎弁護士と梓澤和幸弁護士とともに、今までに合計3回の逐条ゼミナールを行い、条項の1つ1つを自民党案と現行憲法とで比較しながら議論を重ねてきた。IWJで中継・配信も行っており、今後も続けていく予定だ。
■逐条ゼミナール第4弾(2013年3月27日予定)【第30条~】
22日、逐条ゼミナール第2弾の全文文字起こしに、詳細な注釈を加えたメールマガジン「IWJ特報!第79号・第80号」を発行した。この中では、主に第20条「信教の自由」と第21条「表現の自由」という重要な条文を中心に解説を行った。
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自民党案では、集会、結社及び表現の自由を定めた21条を完全に否定する21条の第2項が新設されている。この第2項は、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」とそれを目的とした結社を認めていない。
梓澤弁護士は、治安維持法を引き合いに出して自民党案の危険性を指摘し、澤藤弁護士も「実現すれば、そういう世の中(=明治時代)に戻りかねないと考えています」と警鐘を鳴らしている。
また、詳しくはメルマガをご覧いただきたいが、自民党内で憲法改正を声高に唱える人の中には、耳を疑う発言をする人たちがいる。自民党の西田昌司参議院議員は、現行憲法を「法的にも無効」などと明らかに間違った発言をし、「これを憲法と言うこと自体おかしい」などと主張している。
国会議員には、憲法尊重義務が課せられている。西田議員の一連の発言は、明らかに憲法尊重義務違反である。
また、片山さつき参議院議員は自身のツイッターで「国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です」などとつぶやいて、顰蹙を買った。天賦人権論を否定するなら、王権神授説の立場に立つとでも言うのだろうか。
天賦人権論の否定とは、近代立憲主義の否定でもある。近代立憲主義も代議制民主主義も、欧米からの輸入で「日本の国柄」に合わないというなら、なぜ彼らは国会議員のバッジをつけているのだろうか。彼らには、まず自らが否定する代議制民主主義の立法府の議員バッジを外せと言いたい。
こうした自民党の改憲の動きは、日本国内だけでなく海外からも厳しい批判のまなざしが注がれている。22日に発行したメルマガ「IWJ特報!第79号・第80号」では、1月11日付のロサンゼルス・タイムズ紙に掲載された「A militarized Japan?(軍事国家日本)」と題された論文に言及している。
以下、メルマガで引用したこのロサンゼルス・タイムズ紙の論文を紹介したい。
この論文では、自民党改憲草案を条項ごとに分析しながら、「自民党は全体主義的、軍事主義的な日本を作ろうとしている」と断じている。そして、「世界中の人権団体は、自民党の憲法改正に反対する世論を形成するために動くべきである」とまで言い切っている。
思い出していただきたい。2月23日にワシントンで行われた日米首脳会談で、安倍晋三総理がオバマ大統領からどういった対応をされたか。
会談後の共同会見も、晩餐会も省略され、ファーストレディー外交もなかった。日米首脳同士の外交では異例の冷遇である。昼食会は開かれたものの、オバマ大統領は食事をとらず、机の上に置かれたのはミネラルウォーターのみだった。
この日米首脳会談を、日本のメディアはどう報じたか。
多くのメディアは、TPPに関する日米共同声明を大きく取り上げ、「期待以上の成果を得た(2月23日FNN)」「満額回答(2月23日SankeiBiz)」「事実上『聖域なき』は否定された(2月25日日本経済新聞)」などと異常に「好意的」な見出しを添えて報じた。明らかな潤色である。
今週、大手新聞が行った世論調査では、安倍内閣の支持率が右肩上がりで伸びていると伝えられている(朝日新聞65%、読売新聞72%、毎日新聞70%、すべて3月18日付朝刊)。「安部政権は勢いと人気があって、何かいい方向へ向かっている気がする」。横並びでのヨイショ報道によって、そういう空気が作られているのだ。
これをメディアによる世論の捏造、ノーム・チョムスキーが言うところの「マニファクチャリング・コンセント」であると断じても、言い過ぎではあるまい。
一度冷静にならなければならない。日本が世界からどう見られているか。客観的に見つめ直し、本当に「日本がいい方向へ向かっているのか」、考え直す必要がある。
今回取り上げたロサンゼルス・タイムズ紙は、米国地方紙としてニューヨーク・タイムズ紙に次ぐ発行部数を誇る。自民党改憲草案の危険性についてどう論じているか、とくとご覧いただきたい。
■2013年1月11日付ロサンゼルス・タイムズ紙「A militarized Japan?」(元記事)
この論文は「日本の安倍晋三新総理が、平和条項として有名な憲法第9条を改正する計画があることを発表した」という書き出しで始まる。
Japan’s new prime minister, Shinzo Abe, has announced plans to revise his country’s famous pacifist constitutional provision, Article 9, which renounces “war as a sovereign right of the nation.”
次に「表面的には、安倍総理の提案は単なるシンボリックなもののように見える。自国の軍事的な自衛権を明確に認識しようと言っているだけである」と続け、日本の自衛権について一定の理解を示す。
On the surface, Abe’s proposal may seem merely symbolic, suggesting that he simply wants to add an explicit recognition of the country’s right to military self-defense.
だがそのあとに、「しかしこの変更は、安倍政権が企んでいる抜本的な憲法改正の一部でしかない」と切り込み、「なぜなら自民党改憲草案では、軍事の非常事態のときは国会に法的強制力を与えるとしている。また、徴兵制の禁止条項を取り除くような変更もある」と自民党改憲案の問題点に入っていく。
But this high-visibility change is only a small part of a sweeping constitutional revision proposed by Abe’s resurgent Liberal Democratic Party. The proposed draft authorizes the parliament to declare a military emergency during which Cabinet decrees would have the force of law. It also rewrites a provision to eliminate the constitutional ban on military conscription.
「さらに悪いことに、改憲草案には『国民は、憲法が保障する自由及び権利を濫用してはならず、その自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない』と書かれている。これが現行憲法の穏健な(基本的人権の)制限条項に取って代わられる」。 同紙はこう述べて、自民党が憲法9条の改正だけでなく、基本的人権まで制約しようとしている点に言及する。
Worse, the draft emphatically declares that “a citizen may not abuse his rights and freedoms. He should be aware of his responsibility and obligation to the community and exercise his rights in a way that does not conflict with the public interest and public order.” This would replace a moderate limitation clause in the constitution.
さらに「基本的な政治的自由もリスクにさらされる。改憲草案の第21条(表現の自由や集会の自由)に新設された条項では、『公益及び公の秩序を害することを目的』として行使してはならないと書かれている」と表現の自由に対する制約にも注意を促す。
Even fundamental political liberties are put at risk. A new provision would put citizens on notice that they cannot exercise their freedom of speech or association “for the purpose of harming the public interest and public order.”
同紙は「これらの改正は、集団的自由権に対するシンボリックな主張よりも非常に重大である。自民党は全体主義的、軍事主義的な日本を作ろうとしているのだ」と9条改正とともに、基本的人権や自由への制約にも自民党の改憲の目的があると警鐘を鳴らし、「果たして成功するだろうか」と疑問を投げかける。
These proposed changes are far more serious than a symbolic assertion of a right to collective self-defense. The LDP is proposing to build the foundation for an authoritarian and militarized Japan. Will it succeed?
3月に入り、国内で議論が活発化している第96条の改正についても、同紙論文はいち早く批判の目を向けている。
「憲法改正には厳格な手続きがある。はじめに、国会の両議院の3分の2の賛成がなければならない。そして次に、国民投票にかけることになる。安倍総理は、この(3分の2の賛成という)圧倒的多数の必要条項も変えようとしている」
The constitution has a rigorous ratification process for changes. First, any amendment must be approved by two-thirds of both houses of the parliament and then by the people in a special referendum. Abe may be planning to change the supermajority requirement.
同紙は、国会議員の多くが憲法改正を望んでいると伝えた上で、改正が現実となるかどうかは今年の参院選にかかっていると指摘する。
「直近の衆議院選挙では、自民党やそのほかの右傾政党の圧倒的勝利に終わり、そして新聞の世論調査によると、今回選ばれた議員の70%以上が平和憲法の改正に賛同している。しかし、自民党憲法改正草案のすべてが、同じような賛同を得られるかどうかは定かではない」
But lowering the bar may not be necessary given the smashing victory of the LDP and other nationalist parties in the recent elections for the lower house. A newspaper survey of its newly elected members suggests that more than 70% support revision of the pacifist clauses, though it isn’t clear whether the entire LDP draft commands comparable support.
「次の大きな試練は、7月に行われる参議院選挙だ。右傾政党が再び大きく勝利すれば、改憲の動きは早まるだろう」
The next big test will come in the July elections for the upper house. If the right wing wins big again, the constitutional revolution will move into high gear.
一方、改憲に対する日本国民の受けとめについては、「今のところ、日本国民は安倍総理の計画に冷ややかなようだ。直近の世論調査では、憲法第9条の改正には、32%が賛成、53%が反対である」と否定的に述べている。衆院選の結果についても、「右傾政党の勝利は、どちらかというと経済問題や原発危機に対する前政権の失政によるところが大きい」と冷静な分析をしている。
For the moment, the Japanese public seems cool to Abe’s project. A recent poll, for example, reported that only 32% were in favor, with 53% opposed, to a change in Article 9’s commitment to peace. The sweeping right-wing victory owed more to the previous government’s failure to deal with Japan’s economic difficulties and its tragic nuclear crisis.
注目すべきは、このあとに続くくだりである。同紙は「1つだけはっきりしていることがある。世界中の人権団体は、自民党の憲法改正草案に反対する世論を結集すべきである」と呼びかけているのだ。安直な自民党の改憲草案に対する海外のまなざしはきわめて厳しいことを私たちは知る必要がある。
Only one thing is clear: Human rights groups throughout the world should mobilize public opinion against the LDP’s constitutional revolution.
人権団体の結集を呼びかける一方で、各国政府に対しては冷静な対応を求め、以下のように述べている。
「世界の政府に関しては、今はまだ様子見の時期だ。安倍政権への強い非難は、国粋的な反動をもたらすだけである」
So far as governments are concerned, this should be a period of watchful waiting. Heavy-handed condemnations of the Abe government would only provoke nationalistic backlash.
その上で、「日本の憲法は、アメリカの軍事占領下で公布されたものであり、現在の世代が基本的な目的の理解に努めるのが当然である」と日本国民自身が憲法の理解を深めるよう助言し、「外交上の課題は、日本国民の主権を尊重しつつ、現政府に権力を集中させないことである」と安倍政権の力を強めない配慮が必要だと述べている。
After all, Japan’s constitution was promulgated during the U.S. military occupation, and it is perfectly appropriate for the current generation to take ownership of its foundational text. The diplomatic challenge is to respect the sovereign rights of the Japanese people without helping the current government consolidate its grip on power.
オバマ大統領に対しては、「日本政府が日米同盟における軍事的役割をより強く担おうとすることを拒否すべきである」と忠告する。
In practical terms, this means President Obama should reject all efforts by the Japanese government to take a more prominent military role in its long-standing alliance with the United States.
そして最後に、日本人自身が自民党の改憲案を選ぶのかどうか、つまり民主主義をとるか、あるいは捨て去ってしまうのか、きちんと見守るべきだと締めくくられている。
「アメリカの切迫した財政状況を見る限り、長期的に太平洋地域の関係を再構築することには意味があるかもしれない。しかし、今はその時ではない。オバマ大統領は事態が収拾するのを待ち、日本国民が自由民主主義に則っていくのか、それとも放棄するのかを見定めるべきである」
Given America’s strapped financial condition, it may well make sense to restructure Pacific relationships over the long run. But now is not the time. Obama should wait for the dust to settle and see whether the Japanese people build upon, or repudiate, their postwar experiment in liberal democracy.
諸外国から見れば、これ、明白にポツダム宣言(第6条・第10条)違反なんですよね。
旧連合国のいずれかから制裁がされてもおかしくない。
自民党の改憲草案の内容を知らない人が多いんですよね。テレビでは全然やってないし、新聞も詳しくないです。投書したりもしたけど反映してくれないし、日本のマスコミってどうなってるんでしょう?本当に困ってしまいます。
本日たまたま同年代(50~60歳代)の取引先の人たちと世間話。
①民主がダメだったのはわかるが、昔に戻ることを国民は期待して投票したのではない。景気を良くしてくれ、が本音。
②アベノミクスの1弾目は成功したが2、3弾目が成功しないと残るのは株、不動産の値上がりと首切りもしくは収入減。
実際に円安になっても輸出数量は増えていないし、現に自分たちの仕事の受注量はむしろ減っている。公共事業も担い
手不足で消化不良。ましてや新産業起こし、地域活性化など実需拡大は手付かず。
③経済でボロが出ないうちに憲法改正、という狙いは見え見えだが、メディアは解説はおろか一顧だにしない。
④つい先日の自治体選挙(市長)結果も既存勢力の圧勝。
⑤もちろん、憲法改正について世界がどう見ているかなぞ知る由もないし関心が無い。
結論:昔から若い人たちは政治に無関心。自分たちも40、50を過ぎてようやく気がついてきた。このぶんで行くと自分たちが亡くなる頃までに日本は変われそうもない(期待しているが)。
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大多数の日本人は無関心、こちらの方が怖いよ..
【IWJブログ】「日本人は民主主義を選ぶのか、それとも捨て去ってしまうのか」~自民党改憲草案に注がれる海外からの厳しいまなざし https://iwj.co.jp/wj/open/archives/69716 … @iwakamiyasumi
しかし、当の日本人には危機感が欠如してるようだ。この無関心は情報鎖国より深刻な問題なのではないか。
https://twitter.com/55kurosuke/status/1047069873287901189