2013年3月17日(日)13時30分、奈良県文化会館において、市民団体「奈良世界遺産市民ネットワーク」が第16回総会を開催した。今回の総会では、奈良女子大学名誉教授の上野邦一氏が、「平城京・宮にはどんな建物が建っていたのか、今どう整備したらよいのか」というテーマで基調講演を行った。
(IWJテキストスタッフ・久保元)
2013年3月17日(日)13時30分、奈良県文化会館において、市民団体「奈良世界遺産市民ネットワーク」が第16回総会を開催した。今回の総会では、奈良女子大学名誉教授の上野邦一氏が、「平城京・宮にはどんな建物が建っていたのか、今どう整備したらよいのか」というテーマで基調講演を行った。
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総会の冒頭、同ネットワークの浜田博生代表が、81歳と思えぬエネルギッシュかつ流暢な語り口で挨拶を行った。浜田氏は、平城京にこれまでも開発の手が何度も伸びていたことを振り返り、「近鉄の検車区構想を阻止できていなければ、朱雀門には近鉄車庫ができていた」「平城京を真っ二つに割る形の道路計画も阻止した」と成果を述べた。その一方で、昨年9月から進められている平城宮跡の舗装工事を阻止できていないことについては、一昨年に奈良市で開催された「平城遷都1300年祭」の際の平城宮跡での工事がその序章となったと振り返り、「私たち県民はボヤっとしていた」と反省の弁を述べた。
続いて行われた基調講演では、奈良県に現存する遺跡を、写真や図面を用いて紹介しつつ、古代木造建築の構造や遺跡整備に関する基礎知識を、上野氏が丁寧に説明した。その中で、平城宮跡の発掘によって作成した平面図から、当時の建物の様子を推定する方法について、「30棟ほど現存する奈良時代の建物にいくつかの特徴があるので、それを応用する」「年中行事絵巻などの絵画史料を参考にする」「ある程度調和が取れたプロポーションに収まるだろうという『合理的でなければならない』という考えに基づいて建物の様子を推定する」という3つの手法が用いられていることを紹介した。その上で、国や行政が「復元建築」という名の「原寸模型」にこだわっていることについて、「実際にその通りであったかどうか、確実とはいえない部分を確実であるかのようにしなければならない」と疑問を呈した。具体的には、「朱雀門の原寸模型は75~80%位は正しいが、残りの20~25%は分からないまま造っている」「大極殿の原寸模型は55~60%は正しいが、残りは分からないまま造っている」と述べ、当時の構造や外観を正確に再現することは不可能であることを説明した。また、「太極殿の原寸模型には180億円もの膨大な建設費が掛かった」とし、「原寸模型を造るよりも、ジオラマやCGでの対応を増やしたほうがよいのでは」と述べた。さらに、平城京は時代の変遷とともに建築物も変化を遂げていったのに、原寸模型を造ってしまうことにより、わずか一時期の建築しか再現できないことによる、固定概念化の弊害も指摘した。
基調講演では、平城宮跡の整備が諸外国に与える影響についても言及した。中国やベトナムが自国内で発掘調査した遺跡の整備に関して、平城宮の整備を模範とし、その整備の行方に注目していることを紹介した。現地では、当該時期の現存建物や史料がほとんどない状況であり、その状況下で当時の様子を復元することについて、文化大臣が慎重な姿勢であるにも関わらず、観光大臣や建設大臣が「日本の平城京は復元できているではないか」と復元に乗り気になっている事例を紹介。当時の様子を忠実に再現することよりも、観光や建設によるメリットをことさら強調する姿勢について日本が悪しき先例を提供していることに、上野氏は懸念を示した。
遺跡保存の概念面についても言及した。特に、明治初頭に人々が多くの寺社を壊して回った「廃仏毀釈運動」を例に挙げ、「壊されずに残った寺社は、地域の人々から有形無形の支持を受けていたと考えられる」とし、「遺跡もそれと同じこと。一般の人々の支持が得られないと長期的には残らない」と述べた。その上で、「遺跡整備は『学術的に確実であるべき』という意見と『一般の人々に広く遺跡の意義を知ってもらうべき』とのバランスを取るのが難しい」と述べ、どのように遺跡整備を進めていくべきかさらなる議論が必要であることを説いた。
基調講演終了後の質疑応答や、その後の総会では、参加者から様々な質問や意見が出た。市民団体「平城宮跡を守る会」の寮美千子代表は、昨年9月から進められている埋立舗装工事の反対署名が3万4000筆を突破したことに謝辞を述べたほか、「国交省は遺跡の保存と自然の保存に留意していると言ったが、真っ赤な嘘だった。地下水位が下がれば、木簡等の遺跡が毀損する恐れがある。文化庁は遺跡が毀損されても世界遺産の認定は取り消されないと言った。酷い認識だ」と厳しく批判した。同会の小井修一副代表は、「公園整備計画は800億円どころか2000億円掛かるという話もある。地球上で最も高額な公園なのではないか」と皮肉を込めて述べた上で、平城宮跡の舗装によって地面に水が染み込みにくいことから、行き場を失った8.5ヘクタール分の水が大和川の堤防を越えてしまうのを回避するために調整池を急遽造ることが決まったことについて、「自然破壊によってツバメの巣に重大な影響が出る」として懸念を示した。また、浜田代表は、古事記や日本書紀に関連する奈良県主催の「記紀・万葉プロジェクト」や、橿原神宮で行われる祭事、戦前と変わらぬ祭祀を継続する皇室などを引き合いに出し、古代神話の「継承」や古代遺産の「復元」という名の下で進められる「歴史偽造」の進行に警鐘を鳴らした。