シンポジウム「胆管がん多発事件はどうして起こったか?」 2012.12.16

記事公開日:2012.12.16 テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 2012年12月16日(日)9時30分より、大阪市のエル・おおさか(大阪府立労働センター)で、「シンポジウム 『胆管がん多発事件はどうして起こったか?』」が行われた。印刷会社の元従業員に、有機溶剤が原因と思われる胆管がんが高い率で発生していることが明らかとなった問題に関して、これを最初に報告した産業医科大学の熊谷信二准教授を含む研究者らが、医学的、社会的な見地から、その原因と問題、今後の対策を議論した。

■全編動画 1/4 ※講演開始後しばらくからの録画となっております。何卒ご了承ください。

0分~熊谷氏〔途中から〕/37分~ 久永氏

■全編動画 2/4

久永氏〔続き〕/5分~ イム氏/25分~ 毛利氏/1時間0分~ 中地氏

■被害者遺族・被害者からの報告/討論

■全編動画 4/4(討論(続き)

  • 熊谷信二氏(産業医科大学 准教授)「胆管がん事件の経緯と現状」
  • 久永直見氏(愛知教育大学 教授)「胆管がん事件の背景と意味」
  • イム・サンヒョク氏(グリーン病院労働環境健康研究所/滋賀医科大学衛生学部門)「韓国印刷業の洗浄剤の調査の結果」
  • 毛利一平氏(三重大学医学部 准教授)「胆管がん事件を疫学者はどうみるか」
  • 中地重晴氏(熊本学園大学 教授)「胆管がん事件と化学物質管理制度」
  • 被害者遺族・被害者からの報告
  • シンポジスト、参加者による討論 進行 古谷杉郎氏(全国安全センター事務局長)/片岡明彦氏(関西労働者安全センター事務局次長)
  • 日時 2012年12月16日(日)9:30~
  • 場所 エル・おおさか(大阪府大阪市)

 はじめに、印刷会社SANYO-CYP社の胆管がん事件について、熊谷氏から「1991年~2006年、同社に1年間以上務めた、25歳から45歳の16人のうち11人が胆管がんを発症し、男性6名の死亡が確認されている。同社は色校正を専門とする印刷会社で、インクの色替えの頻度が高く、印刷機械の洗浄剤として有機溶剤を多用していた」と説明があった。

 熊谷氏は「調査の結果、罹病者の推定暴露量が、アメリカの環境基準の10倍以上の汚染だと判明した。細胞の化学物質への感受性の差が、肝臓ではGST酵素の活性の差に共通し、GST酵素が胆管細胞に多く含まれるため、胆管がんの発症につながると思われる。アメリカの疫学研究で、ジクロロメタン暴露労働者の死亡研究があり、胆管系がんは20倍も高かったという調査結果から、今回の11人のがんは業務内容に起因したと考えられる。原因としては、1,2-ジクロロプロパン(1.2DCP)、ジクロロメタン(DCM)が挙げられる」と述べた。

 続けて、厚生労働省が行った全国調査結果の報告を行い、熊谷氏は「事業主の責任の明確化。1,2ジクロロプロパンは規制有機溶剤に含まれていないが、法的な責任の必要性。労働者の権利( 化学物質や毒性の成分などを知る権利)。職場の化学物質対策の決定に参加する権利。現在、5年以内に規定されている職業がんの労災申請の時効の撤廃。労働基準監督署への通報システム。これらが必要だ」と話した。

 次に、久永氏が、胆管がん事件の背景として、化学物質による健康被害の過去の事例を挙げて、「1950年代のベンゼンによる造血障害。60年代のノルマルーヘキサンによる多発性神経障害。80年代はトルエン等による中毒。90年代にジクロロメタンと1,2ジクロロプロパンに暴露された作業者の胆管がんなど変遷があった。日本産業衛生学会の有機溶剤中毒研究会によると、1984年から2000年まで236の症例が報告されている」と説明した。また、「有機溶剤が、オゾン層の破壊性の低いジクロロメタンなどに置き替えられてきたことも影響している」とした。その他、1997年に韓国でプロモプロパン中毒が集団発生した例、トリクロロエチレンの急性肝炎などの中毒発症例など、アジア諸国での発症事例も報告した。

久永氏は「学会報告では、有機溶剤などの障害事例は、石綿以外は減少傾向にあった。職場環境の改善と、過重労働やメンタルヘルス対策による労働衛生管理、マンパワーの不足も影響している。今回の胆管がん事件は、有害物対策の脆弱性を浮き彫りにした。またオゾン層破壊物質代替品による疾病の可能性などもわかってきた」などと説明した。

 イム氏は「韓国の印刷業界で2010年に起きた労働災害では、374人の被災者がいて、脳心疾患で1名が死亡した。調査結果では、ジクロロメタン、1,2ジクロロプロパンは検出されなかったが、ベンゼンが見つかった。韓国ではベンゼン含有量0.01%が環境基準になっている。印刷業ではベンゼンが問題だ。換気設備がない印刷工場は26%もあった。製靴業の接着剤にも、各種の危険化学物質が発見された」と、韓国の実情を発表した。

 毛利氏は、なぜ胆管がんの多発を早く発見できなかったのかという視点から、「問題点は、統計のとり方と集めたデータを活かせていないこと。事業者が死傷病報告をするが、慢性的な疾病の記載のやり方はわかりづらい。休業4日以上の場合は報告義務があるが、有休対応にしてしまい報告例は少ない。日本では、職業がんの発見が難しい環境にある」と話した。

 中地氏は「日本における化学物質対策の特徴として、規制は被害の後追いになる」と指摘した。「水俣病、アスベスト、ベンジシンなど、被害の顕在化から原因究明、対策、規制まで、縦割り行政なのでルールが違っている。省庁により化学物質の有害性情報管理はバラバラ。現在、化学物質管理に関する法規制には、化学物質排出把握管理促進法(化管法)とPRTR(環境汚染物質排出移動登録)制度、化学物質審査規制法(化審法)、労働安全衛生法などがある。1,2ジクロロプロパン、ジクロロメタンは、PRTRデータによると使用量はかなり減ってきている」と説明した。

後半は、被害者遺族の岡田とし子氏と、17人目の被害者が報告をした後、有識者同士、もしくは会場の質問に各パネラーが答える討論会に移った。化学物質の知識、行政の対応と課題、産業医学分野の実態、医学会との連携、リスク評価、検診制度、労災制度、環境管理、有機溶剤の専門知識や現場での取扱い方など、一般的なものから専門分野まで、各論からマクロ的所見まで、多くの意見が交わされた。

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