2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原発事故による放射能汚染について、データにもとづき「危険ではない」と言い続けてきた原子物理学者の早野龍五・東大名誉教授が、英国の科学雑誌「Journal of Radiological Protection」(JRP)で発表した2本の論文に、本人の同意を得ていないデータが使われていただけでなく、データそのものが過小に評価されていたことが明らかとなった。
毎日新聞が報じたところによると、「本人の同意のないデータが使われている」という住民からの「不正と捏造」の申し立てを受けた東京大学が、予備調査を始めたとのこと。
このデータとは、福島県伊達市の人口の9割にあたる約5万9000人分のデータを解析し、生涯にわたる被曝量の予測をしたもの。このうち半分近い2万7000人分のデータが、本人の同意を得ないまま、研究者に提供されたというのである。
また、データの過小評価について早野氏は、「計算ミスがあり、被曝線量を3分の1に過小評価していた」と認めているが、申立書では「線量を過小評価するための捏造が疑われる」と指摘している。
▲早野龍五氏(早野龍五事務所HPより)
早野氏は論文だけでなく、原発事故の後に発せられた自分の発言そのものを改竄していたことも発覚した。データの過小評価と誘導的な話法によって、早野氏は、放射能に怯える多くの人々にニセの情報を与え、ニセモノの信頼をかき集めてきたと言えるのではないか。
さらには、こうした誤ったデータにもとづいて、早野氏は非常にリスクの高い計画を実行していた。福島の高校生が廃炉作業の最中である福島第一原発を視察することを企画し、自ら引率していたのである。
早野氏に「思想」と呼べるようなものがあるかどうか。仮にあると仮定した上で、このような行動を正当化できる早野氏の「思想」とは、一体どのようなものなのか。早野氏は福島原発事故前の2011年1月1日のツイートで、元日に靖国神社へ昇殿参拝したことを報告している。福島の原発事故後の早野氏の情報操作と早野氏の靖国への傾倒の間にはどのような関係があるのか。
論文に対する「不正と捏造」の申し立てに対し、早野氏は1枚の「見解」をツイッターにアップしただけ!?
JRP誌の2本の論文の誤りが発覚して以降、だんまりを決め込んでいた早野氏だが、1月8日のツイッターで、ようやくこの件についてのコメントを発表した。
「本日1/8、文科省記者クラブに『伊達市民の外部被ばく線量に関する論文についての見解』を貼出いたしました。70年間の累積線量計算を1/3に評価していたという重大な誤りがあったことと、その原因、意図的ではなかったこと、今後の対応、伊達市の方々への陳謝などを記したものです」
ツイートに添付されている、早野氏が文科省記者クラブに貼り出したという「見解」によると、「不正と捏造の申し立てが東京大学に対して行われたことにつき、事実の経緯と、主としてデータ解析を担当した早野の見解を述べさせていただきます」として、次のように書かれている。
「2018年11月16日にJRP誌より、『第二論文に対してS.Kurokawa氏より内容について学術的な問い合わせが届いたのでコメントするように』との連絡を受け、見直したところ、70年間の累積線量計算を1/3に評価していたという重大な誤りがあることに、初めて気づきました」
その上で「誤りそのものについては、意図的でなかったことはご理解いただきたいと思います」と書かれていた。
また、早野氏は、住民の同意を得られていないデータを論文に使用したことについては、2018年12月14日に「報道を通じて初めて知るところとなりました。私たちが伊達市から受け取ったデータには同意の有無を判断できる項目がなく、さらに幾度となく委託元である伊達市側に解析内容を提示した際にも対象者数に関するご意見なく、適切なデータを提供いただいて解析を行ったと認識しておりました。しかし不同意データが含まれているならば、事は誤りの修正のみにとどまらず、第一、第二論文そのものの扱いにも大きな影響を与える事態であると考えております」と書いている。
早野氏は、累積線量計算の過小評価は「意図的ではなかった」、不同意データの使用は「すべて伊達市のせい」と弁明し、自分の故意性は否定しているが、不用意なデータにもとづく論文に問題があること自体は認めている。
早野氏は2018年11月に「JRP」に論文の修正を申し入れ、手続きを進めているというが、どうやって正しいデータを揃えるのだろうか?「見解」には次のように書かれている。
「二本の論文の解析に用いたデータは、福島県立医科大学の倫理委員会にて承認を受けた研究計画書に記載した通り削除しております。修正版を出すためには、同意が得られている方のデータのみを伊達市から再度私たちにお渡しいただき、それにもとづいて再解析をする必要があると考えていますが、それが可能であるか、いつ可否判断をいただけるか等については、今後委託元の伊達市と受託先の福島県立医科大学との間で協議がなされるとのことです。協議結果が出れば、それにしたがって最善の努力をいたします」
この重大な誤りについて早野氏は、「東京大学に向けた調査の申し立てがあったことで、伊達市及び市民のみなさまにはご心配・ご迷惑をお掛けしておりますが、どうかご海容いただけますと幸いです」と、極めて軽く謝罪するにとどめ、自分が許されることを最優先するように文末で締めくくっている。
▲早野龍五氏が文科省記者クラブに貼り出した『伊達市民の外部被ばく線量に関する論文についての見解』(早野氏ツイッターより)
岩上安身によるインタビューでIWJに何度もご登場いただいている上智大学の島薗進教授もツイッターで「これは誠実な応答とは言えない」と厳しく批判している。
早野氏のこの間違ったデータにもとづいた理論によって、「安全」だとされて帰還させられた住民、それでも疑問や懸念を抱いた人々に浴びせられた誹謗中傷、地元産の農産物を食べさせられた子どもたちなどへの責任はどう取るつもりなのか。記者クラブへの貼り紙とツイッターでの軽い釈明で済む問題とは考えられない。
指摘された論文の「極めて重大な問題」には何も答えていない!? 過去にはメルトダウンを否定するツイートに同意しながら、なかったことに!?
この早野氏の「見解」に関して、神戸大学教授であり、理化学研究所計算科学研究センターフラッグシップ2020プロジェクト副プロジェクトリーダーである牧野淳一郎氏は「極めて重大な問題がいくつも見受けられ」ると述べている。そのなかで最大の問題は、論文の問題点についての黒川眞一・高エネルギー加速器研究機構(KEK) 名誉教授によるJRPへの問い合わせに全く応えていないことだと牧野氏は指摘している。
「黒川氏のレター論文では10箇所近い誤りが指摘されているにもかかわらず、早野氏の『見解』では、『3倍するのを忘れた』という1つだけを誤りとしており、それは黒川氏が指摘しているものではありません。 仮に黒川氏の指摘が誤りである、というなら、そのことを根拠をあげて説明することが研究者に最低限求められることでしょう。単に無視し、全く別のことを答える、というのでは研究者の論文に対する指摘への対応としておよそありえないことです」
早野氏は黒川氏の指摘について「S. Kurokawa 氏からの問い合わせにも深く感謝申し上げます」と謝辞を述べているにもかかわらず、その問い合わせを無視しているのだ。
このような早野氏の事実を改竄する傾向は、東日本大震災および福島第一原発の事故の直後からあったことも、牧野氏は同論文で指摘している。
原発事故の最悪の事態に「政治家が腹をくくって『動くな』と言えるかどうか」!?「不正と捏造」を申し立てられた早野龍五・東大名誉教授の唱える「科学的根拠」のご都合主義!? https://iwj.co.jp/wj/open/archives/439619 … @iwakamiyasumi
大多数の命と健康を危険に晒した大犯罪。この男の罪は絶対に裁かなければならない。
https://twitter.com/55kurosuke/status/1085669841141325826