「モリ・カケ」疑惑に関する省庁の文書が公表され、官邸や財務省側の説明や記憶との矛盾が指摘されているが、安倍内閣を支えているつもりでいるはずの麻生太郎副総理兼財務相の周辺でも同様に、公有地貸し付けにまつわる疑惑が浮上している。
▲麻生太郎副総理兼財務大臣(2016年5月31日IWJ撮影)
疑惑の物件は、福岡県飯塚市の郊外に建つ「こども発達支援センター」である。もともとは隣接する旧飯塚市立病院(現 頴田【かいだ】病院)の敷地の一部で、麻生グループが2008年4月に病院の経営を引き継いだときに、市との協定で発達障害児の支援センターを併設した。その協定によれば、麻生側が病院と同センターの敷地である市有地を、市から7年間無償で借りて、建物を建てた後に時価でその土地を買い取るはずだった。
だが、2018年3月に土地の買い取り期限が近づくと、麻生側は病院の敷地部分(約1万平方メートル)は約1億3000万円で買い取りに応じたものの、時価約1000万円とされる支援センターの敷地部分(約834平方メートル)は、市に無償貸与を5年間延ばすよう要求してきた。麻生側は2016年2月から延長を求めてきたが、市はその要求を受け入れなかった。ところが2017年11月という買い取り期限目前になって、突然、市は無償貸与の延長に応じたのである。
ポストセブンによると、麻生財務相の事務所側は、「麻生太郎と麻生グループは別人格であり、見解を申し上げる立場にない」と回答し、株式会社麻生も「ノーコメント」と答えたのみであったという。
新用語「推察」? 飯塚市議会の議事に見る麻生グループに対する忖度
2017年12月18日の福岡県飯塚市議会において、議案第100号「財産の無償貸付け(療育関連通所施設敷)」の質疑に際しての、共産党の川上直喜市議会議員の質問が本疑惑追及の発端となった。株式会社療育振興プロジェクト(以下、(株)療育振興)が飯塚市より土地の無償貸し付けの5年間延長を申し出、市側が了承した件について、(株)療育振興と市がどのような交渉をおこなったのか、というのが川上市議の質問だった。
株式会社療育振興プロジェクトは麻生グループの不動産管理会社である。なお、住所の福岡県飯塚市柏の森748番地3は(株)麻生本社と同じ住所となる。この情報は、飯塚市議事録(2017年12月18日)を参照した。
飯塚市の議事録には次のように記載されている。
「株式会社療育振興プロジェクトは、平成22年5月11日に飯塚市柏の森748番地3を本店所在地といたしまして、資本金6500万円で設立された会社法人でございます。事業目的は、不動産の管理、賃貸、売買でございまして、川越浩氏を代表取締役として、取締役3人、監査役1人の役員構成となっております」
これは、飯塚市の社会・障がい者福祉課長・森部良氏が、川上市議の質問に答えている箇所である。
森部氏によれば、(株)療育振興側が2016年2月3日に市有地の無償貸し付け延長を希望してきて以来、市と同社との間で協議を重ねてきたという。これに続けて森部氏は、再度2017年9月14日に市有財産使用貸借延長願が出されたため、「会社の経営事情、嘉麻市や桂川町を含めた圏域の障がい者福祉行政の影響」を考慮して、やむなく引き続き5年間の無償貸し付けとする方向とした、と答弁している。
加えて、この決定のプロセスは所管の社会・障がい者福祉課で協議し、市長決定を経たものだということも、森部氏は述べている。
▲日本共産党・川上直喜飯塚市議( 川上市議Facebookより)
そこで、川上市議は副市長、市長をも含めて、なぜ市側が進んで(株)療育振興に対する土地の無償貸し付け延長を提案したのかと問い質していった。梶原善充副市長は、無償貸し付けを継続させないと唯一の療育施設が飯塚市から撤退してしまう、との点を強調した。なぜ撤退してしまうと思うのか、その根拠について川上市議が問いただしてゆくと、梶原副市長は、「私が推察しておるわけでございます」と答弁したのである。
川上直喜市議の情報公開請求の成果! 麻生グループに脅される市の福祉行政!?
しかし、市側が自ら進んで(株)療育振興に対し土地の無償貸し付けをしたという、市議会における梶原副市長の説明と大きく齟齬のある文書が最近公開された。川上市議が情報公開請求により今年4月末に入手した当該文書は、森部課長の説明の中では省かれていたものである。
森部課長の説明によると、麻生側が市に対して文書で要求してきたのは、2016年2月3日と、2017年9月14日だったが、その間に、(株)療育振興と飯塚市との間でやりとりがあった事実を川上市議はつきとめた。川上市議が入手したのは、市作成の2016年7月15日付文書である。市は、この文書の所在を、当初は明らかにしていなかった。
その文書には以下のような記述がある。この7月15日付文書は日本共産党嘉飯地区委員会のウェブサイト上に掲載されている。
「療育振興プロジェクトの川越〔浩〕氏より、これまで説明してきたとおり、施設を運営しているピーサスからの家賃収入のみしか収入がなく現在も赤字経営であること。この状況で更に土地の購入代金、固定資産税と費用が増加していくと経営が成り立たなくなる。だからといって、ピーサスに対し家賃値上げの話をすると施設運営から手を引くかもしれない。そうなると市の望むところではないのではないか、との意見があった」
文中に登場する「ピーサス」とは、実際に療育事業を提供しているNPO法人。(株)療育振興自体は前述したように不動産管理による賃料収入を主とする法人であり、両者はいわば「店子」と「大家」の関係にある。
この開示文書で明らかなのは、(株)療育振興が飯塚市に対して、障害者教育事業から施設運営業者であるピーサスが撤退することをほのめかしたことである。これは梶原副市長が答弁において「推察」したと述べた内容であり、実際は市側が「推察」したのではなく、(株)療育振興から示唆があった可能性が高い。
文書を入手した川上市議「はっきり言って脅しだなと思った」
開示文書を入手した川上市議にIWJは連絡をとり、本事案に気づいた経緯や今後の追及の焦点に関してうかがった。
「2016年7月15日の文書を見て、はっきり言って脅しだなと思った」
川上市議がそう感じたのには、伏線がある。すでに議会で以下のようなやり取りがあったためである。