来週7月11日、先の通常国会で強行採決された「共謀罪」がいよいよ施行をむかえる。
2020年まで残り3年というこのタイミングで、東京五輪を政治利用した安倍政権。共謀罪は、オリンピックに向けたテロ対策強化のための国際条約締結に必要だと説明してきたが、この法律はテロ対策とは無関係であり、テロ目的の犯罪行為は既存の国内法ですでに処罰可能であることが明らかになっている。
さらに、政府が主張する国際条約締結のための条件に必ずしも共謀罪導入が求められていないことも、専門家から繰り返し指摘されてきた。共謀罪は国民を守るために必要な法律ではない。では、誰にとって、何のために必要なのか。国民を黙らせ、従わせるための、おかしいものをおかしいという国民を弾圧するための法律、戦前の治安維持法の再現と評される所以だ。
岩上安身がインタビューした京大大学院の高山佳奈子教授は、共謀罪が政治的・経済的弱者には厳しく、強者にとっては甘い条文になっていることについて詳しく説明している。同法を正しく理解するためにも、IWJがまとめた国会ハイライトやインタビュー動画等をご覧いただきたい。
▲国会で共謀罪法案に反対意見を述べる高山佳奈子・京大大学院教授
法務副大臣が国会で共謀罪の対象に「一般人」が含まれる可能性を認める!
立法事実(その法律が必要だという倫理的な根拠)が極めて曖昧な点に加え、懸念を抱かざるを得ないのは、高山教授も強調して指摘してきた「公権力を私物化するような犯罪が共謀罪の対象から除かれている」という事実だ。
「公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法違反はすべて除外されている。警察などによる特別公務員職権濫用罪・暴行陵虐罪は重い犯罪だが、除外されている」などと、高山教授が4月25日の衆議院法務委員会で意見陳述人として述べているように、共謀罪は「テロ対策」を名目に、政権が一般市民を好きなように取り締まるための法律なのではないかという見方も強い。盛山正仁法務副大臣は国会で、「一般の人が対象にならないということはない」と答弁、一般市民が対象になる可能性は政府も認めているのだ。
自民党・工藤彰三議員が「いいね!」、反安倍市民を「テロ等準備罪で逮捕すべし!」のフェイスブックの書き込みに
▲「安倍やめろ」コールをあげる市民に対し「こんな人たち」と批判する安倍総理
7月1日、都議選最終日に東京・秋葉原で自民党候補の応援演説に立った安倍総理に強く抗議した市民を「テロ等準備罪で逮捕すべし!」と書き込んだフェイスブックの投稿がある。
「安倍総理の選挙演説の邪魔をした『反対者たち』とは(略)反社会的共謀組織『政治テロリスト(選挙等国政妨害者)たち』なのだから!早速運用執行すべし!」と、政府の都合で共謀罪を運用することを正当化した内容が書き込まれていたこの投稿に対し、自民党の工藤彰三衆議院議員が「いいね!」ボタンを押していたことが明らかになった。
ちなみに、工藤議員は、元秘書への暴行疑惑が浮上している豊田真由子衆院議員、女性スキャンダルで経済産業政務官を辞任した中川俊直衆院議員、元格闘家の須藤元気氏の推薦文を捏造した大西英男衆院議員など、当選2回の「魔の二回生」の一人である。
前横浜市長の中田宏氏も7月4日放送の「バイキング」(フジテレビ系)で、同じく秋葉原で「安倍やめろ」とコールしていた市民について、「見る人が見るとわかる」「組織的活動家だ」と断言。2日前の7月2日には、元東京都知事の猪瀬直樹氏が「テレビで見たけれど、あの『安倍辞めろ』コールはプラカードなどから、共産党の組織的な行動ですね」とツィートした。テレビでちらっと見ただけで、群衆の一人一人の政治的背景の、いったい何がわかるというのだろうか。
▲猪瀬直樹氏ツィート(2017年7月2日)
遠くから想像でものを言う、猪瀬氏のような「評論家」とは違い、IWJはもちろん現場で取材している。あそこで「安倍やめろ」の声をあげていたのは、組織などではなく、福島原発事故後、首相官邸前で始まった反原発運動や、その後のヘイトスピーチに対するカウンター抗議、国会前等での安保法制反対などで声をあげ続けてきた人々である。
デモなどで見知った顔の人もいれば、見知らぬ顔の人もいる。横断幕やプラカードを用意していた人ばかりがコールしていたのではない。手ぶらできた大多数の市民に、自民党側から、その場で日の丸の小旗が手渡されていたが、そうした日の丸を拒むことなく受けとり、旗を振りながら、多くの市民が「帰れ!」「国会開け!」と口々に批判の声を上げていた。
そうした人々の多くは、デモや集会の「常連」ではなく、中には自民党の支持者もいたのかもしれない。今回、各紙世論調査の結果、自民党支持者の4分の1が、都民ファーストの会などへ票を投じていることがわかっている。
▲安倍政権を批判するプラカードも多数。「安倍やめろ」コールはまったく鳴り止まなかった
沖縄で共謀罪の予行練習!? 5ヶ月の長期勾留をうけた山城博治氏の起訴状に「『共謀』という言葉がいっぱい出てくる」
▲沖縄平和運動センター・山城博治議長
疑惑の五千万円授受によって都知事を辞めた猪瀬氏が、現場にも出向かず、一方的な決めつけによって、政権に反対の声をあげたという理由だけで一個人の集まりを「共産党」と決めつける。「ノンフィクション」という言葉への侮辱ではないだろうか。猪瀬氏のような問題外の人物は別として、権力の座にある自民党の国会議員がこんなデマに「いいね!」で賛同を示すのは、非常に危険である。
一般市民が「組織的犯罪集団」と見なされ、共謀罪が適用される日も遠くないかもしれない。事実、沖縄ではすでに共謀罪施行の予行練習ともいえる市民の不当逮捕が相次いでいる。4月19日、5ヶ月間にも及ぶ長期勾留をうけた沖縄平和運動センターの山城博治議長が東京で開かれた院内集会でスピーチ。自身の起訴状の中で「『共謀』という言葉がいっぱい出てきます」と報告している。
なによりも看過するわけにいかないのは、安倍総理本人が秋葉原での演説中、反対の声をあげていた市民に敵意をむき出しにし、指を差しながら「こんな人たちに負けない」とスピーチし、後日、フェイスブックに書き込まれた「こんな人たち=選挙妨害の左翼活動家」との投稿に「いいね!」ボタンを押した事実だ。
昭恵夫人も「安倍やめろ」コールを「プロの活動家による妨害」と書き込みしていた別のフェイスブックの投稿に対し、「いいね!」ボタンを押していたこともわかっている。政権を批判する個々の一般市民は、安倍総理夫妻にとっては敵視すべき危険人物と見なされているのが明らかだ。