11月8日に実施されたアメリカ大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利したことにより、発効が絶望的な状況になったTPP。それにも関わらず安倍総理は、「あらゆる形態の保護主義に対抗する」「TPPの意義を米国にも強く訴えていく」などと述べ、今国会でのTPP批准にこだわり続けている。
安倍総理はなぜ、もはや発効する見込みのなくなったTPPに、ここまで強いこだわりを見せるのだろうか。それは安倍総理が、日本全体の国益ではなく、経団連(会長・榊原定征 東レ相談役最高顧問)を中心とする一部大企業の利益しか考えていないためではないか。財界の面々に「TPPを成功させます!」と約束してしまった以上、いったん振り上げた拳をおろせなくなっているのではないか。
あるいはオバマ政権が打ち出した「アジアへの基軸転回(Pivot to Asia)」が、台頭する中国を封じ込める「第2の冷戦」戦略であると早合点して、欣喜雀踊し、米国が中国を排除した経済ブロックを形成するなら、自国の市場を捧げてもよいから、ブロック形成の人柱に喜んでなりたいというのが、安倍総理らの心情なのかもしれない。
いずれにしても、すでにTPPは「死んだ」。死亡宣告された条約の亡骸にしがみついて、「生き返らせるようにトランプ次期大統領を説得する!」と取り乱しているのが、安倍総理なのである。
こうしたTPPへの異常とも言える固執から見えてくるのは、安倍総理の本質とは、国益を重視する真の意味の「愛国者」「ナショナリスト」ではなく、グローバリズムと新自由主義の信奉者ではないか、ということである。TPPだけでなく、消費税増税も日銀の金融緩和もGPIFのハイリスクな年金運用も、安倍総理が繰り出すあらゆる経済政策は、日本の「生活者」ではなく、大企業、特に米国発の一部グローバル大企業のほうを向いているとしか思えない。
安倍総理の非愛国的な政策は、経済の分野だけにとどまらない。その最たるものが、小学校低学年から英語の授業を義務化し、大学の講義をすべて英語で行うとする、「英語化」政策である。
一見、日本人が皆、流暢に英語が話せるようになれば、コミュニケーションの幅が広がり、英語圏の人々との交流も今以上に深まるように思える。しかし実は、この「英語化」は、明治時代以降、「翻訳」というプロセスを通じて涵養されてきた日本人の思考力、すなわち、日本語で読み、書き、考え、そして社会を形づくるという根底的な思考力を、「ビジネスの論理」に従って根本から破壊し尽くしてしまう、恐るべき政策なのである。
著書『英語化は愚民化~日本の国力が地に落ちる』(集英社新書)で、この「英語化」の問題点を鋭く分析し、安倍政権の新自由主義的な政策に厳しい批判を加えているのが、九州大学准教授の施光恒氏である。施氏は、「英語化」の本質を「言語帝国主義」だと指摘。米国と英国が、グローバル企業のビジネスチャンスを非英語圏にまで拡大するため、明確な意図をもって推進しているのだと述べる。
今月の「岩上安身のIWJ特報!」では、先月に引き続き、私が今年3月3日に行った施氏へのインタビュー第2弾のフルテキストをお届けする。非英語圏を「英語の通じる植民地」化し、そこからグローバル大企業がひたすら収奪を行うための仕組み――。それが、「言語帝国主義」たる「英語化」の本質である。新自由主義が全世界を覆い尽くすなか、必読のテキストである。