参院選投開票日の2016年7月10日。参議院選挙青森選挙区(1人区)から出馬した、民進党の野党統一候補・田名部匡代(たなぶ まさよ)選挙事務所の中に入ったのは、午後7時半過ぎだった。
選挙事務所の勝利を祈願する祭壇には田名部匡代候補の似顔絵が飾られ、出身地八戸の特産物でもあるイカの乾物スルメが供えてあった。
公示日に第一声を行った、かつては賑やかだったが現在はシャッター街となった青森市古川の市場でも見た、青森の象徴・りんごを入れる「りんご箱」の演台がそこにはあった。
▲りんご箱に乗って街頭演説する田名部候補
▲シャッター街となった青森市古川の市場
▲田名部候補の似顔絵
街頭演説では、八戸の朝市や青森市の魚菜市場などの商店街を走り回り、格差社会や貧困、アベノミクスの失敗を訴え続けた。また、日本最大のりんご生産地の津軽地区では、92歳になる高齢者の願いを託された。
▲支持を訴える田名部候補
野党統一候補としての重責
田名部氏は今回の選挙戦で、先に青森選挙区からの立候補を表明していた吉俣洋候補(共産党)が比例区に回るなどしたことから、野党統一候補としての出馬となった。田名部匡代候補選挙事務所では、共産党、社民党からも選挙戦の投開票を見守る姿も見られた。
▲共産党吉俣洋候補と高橋千鶴子衆議院議員
息を呑む開票速報
開票速報がテレビで始まった。田名部匡代候補の選挙事務所に詰めかけた支持者がじっと見守る。開票時の様子は、対する自民党・山崎力候補との間で1000票差、3000票差、6000票差と、票差が開いていく。そのたびに開票速報を見守る支持者が息をのむ。
11時を過ぎた頃の90%開票時には、ついに2万票差まで票差が開いた。「まだ行ける!!」と、周囲を鼓舞するように声をあげる支持者もいたが、落胆を隠せずにため息をつく支持者もみえた。
▲開票時の速報を見守る支持者の様子
大逆転の最終開票結果
2万票の差がついて少し支持者の顔も曇りかけていた頃、突然、「うおぉ~!!」と歓声が湧いた。なんと、最終当確が田名部候補に打たれた!逆転勝利である!野党統一候補 田名部匡代候補に勝利の女神が微笑んだのだ。
最終開票は、青森三大都市のひとつ、八戸市の票が追加された。すでに開票が進んでいた他の二大都市、弘前市・青森市でも田名部匡代候補が優勢だった。それに対し、他の大部分の市町村では、微妙に自民党・山崎力候補の方が優っており、その差が2万票の差となってあらわれていた。
しかし、最後になって開票結果が追加された八戸市の票は、田名部匡代候補が山崎候補を2万5千票以上の差で上回っていた。八戸市は田名部候補の地元でもある。アベノミクスの失敗を訴え、市場を、シャッター街の商店街を、走り続けた田名部匡代候補は、商工業の街の八戸市と青森市で勝った。自民党候補者はアベノミクスの支持を訴え続けた。それに対して、田名部候補は、3年半経っても結果を出せず、国民を豊かにするどころか、ますます貧しくするアベノミクスの失敗を訴え続けた。アベノミクスへの評価。これが、勝敗を決定づけたといってもいい。青森県民は、アベノミクスに対して、明白に「No!」を突きつけたのである。
▲田名部候補に当確が出た瞬間の事務所の様子
最高の誕生日プレゼント
投開票日の当日は、参議院選挙に当選した田名部匡代候補候補の48回目の誕生日でもあった。
選挙事務所に集まった支持者は拍手で田名部匡代候補を出迎え、万歳三唱のあとに、誕生日のケーキと花束を囲みながらバースデーソングで人生最高の誕生日を祝った。
▲田名部候補に誕生日のケーキが贈られた
野党共闘としての責任
今回の選挙戦は「安倍政権打倒」の趣旨のもと、野党統一候補として社民党推薦、共産党共闘として行われた。
社民党・共産党、また、各団体の労連・連合青森などが協力をした。市民連合として、昨年、青森県知事選で発足した政治団体「進め! ドクター大竹の会」や、田名部候補を応援する勝手連などは、「脱原発・核燃サイクル反対」を棚上げにしてまで田名部候補への応援に回った。
各党の細かい政策の違いはあるが、まずは、青森県の自民党独裁の政権を阻止する第一歩の前進にはなった選挙戦であった。
野党共闘の深い意味を再確認した田名部匡代候補
連合青森・内村隆志会長の祝辞に続き、社民党青森県連合の三上武志代表は「私が当選した気持ちだ。選挙区で勝った歴史的な事実を明日から活かそう。田名部候補の演説が一人一人の心を動かした。『大地が動いた』、皆で喜び合おう」と祝った。
共産党の高橋千鶴子衆議院議員は、「万歳したくて待っていたが、待っていた甲斐があった。野党共闘と言ったが、建前とかあれこれではなくて、心から応援したことが結果につながったんだと思っている」と話し、「東北は全部1人区だったので官邸がものすごく追いかけてきた。『5対1で官邸に勝った!』」と祝った。
当選した、田名部匡代候補は小さくうなずきながら、お祝いの言葉を述べた社民党・共産党代表の言葉を深く噛み締めていた。
▲社民党青森県連合・三上武志代表
田名部候補は、「遅い時間までお待ちをいただいてありがとうございます。そして、連合青森のすべての皆さん、社民党の支持者の皆さん、共産党の支持者の皆さん、そして勝手連をはじめとする市民連合団体のみなさん、本当に全ての皆さんに改めて心から、本当に心から感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました」とお礼の言葉を述べた。
支持者からは大きな拍手が送られた。
「託された思いというのは、非常に重たいものだと、そう思っています。平和を願う気持ち、そして、この青森の暮らしを・・・本当に切実な苦しみを抱えられた人たちの思い、そして未来のことを本当に心から心配する多くの方々の思い、たくさんの出会いがありましたし、たくさんの涙を見た選挙でありました」
さらに、「そうした、おひとりおひとりの、その全ての思いをしっかりと受け止めて、期待にこたえていかなければならないと、そう思っています」と意気込んだ。
「今日こうして国政に送っていただいた、ここからが私の大きな仕事のはじまりだろうと思っています。皆さんに託していただいた期待を裏切ることがないように、全力でこれからしっかりと頑張っていきたいと思いますし、そして、野党共闘の各政党の皆さまとお約束したこと、一緒に取り組んでいけることがいっぱいあると思いますので、しっかり、そのことにもこたえて参りたいと思います。どうかこれからも皆さまよろしくお願い申しあげます」
▲支持者に当選の挨拶をする田名部候補
野党統一候補の民進党・田名部雅代候補は、青森県代表として国政に戻した支持者の方々全てに感謝の気持ちと、これからの決意を、熱く語った。
本州最北の野党共闘 民進党 田名部匡代選挙事務所は、熱気で本当に暑かった。青森の短い夏が始まりを告げた。
■全編動画
- 田名部匡代(たなぶ・まさよ)氏(参院選青森選挙区候補・新人、元衆議院議員、民進党)
- タイトル 第24回参議院議員選挙 青森選挙区 民進党 田名部匡代候補 開票中の事務所の模様
- 日時 2016年7月10日(日)20:00頃〜
- 場所 田名部匡代選挙事務所
公開討論会で田名部匡代参議院議員は、憲法改正については…
参院選が終われば、すぐに厳しい現実に向きあわねばならない。国会は、衆・参とも、3分の2の議席を改憲勢力が占めている。改憲の発議が可能な状況である。参院選の間、ずっと自民党と公明党は、真の争点であるはずの「改憲」を隠し続けてきた。選挙が終わって、参院でも「3分の2」をとったとたん、喜色満面に「自民党は改憲草案をずっと示してきた」と「本音」をあらわにした。これでは国民はペテンにかけられたも同然である。
青森だけではなく、全国の有権者で、今回の選挙で自分の投じる一票が「改憲」への賛否を問うものだと知らされていた人間が、どれだけいるだろうか?その自民党の改憲案の中身がどのようなものなのか、認知していた人間は、さらに少なかったのではないか?
新たに参議院議員となった田名部氏は、自民党が国民をペテンにかけてでも迫る「改憲」について、どのように受け止め、考えているのか。
それを知る機会があった。
6月16日に青森中央学院大学で行われた公開討論会で、田名部匡代参議院議員は、こう語っている。
「(憲法の3大原則である)国民主権・基本的人権の尊重・平和主義、これは、しっかりと堅持しなければならないものと思っている」
現行憲法の一番中核にある価値を、しっかり守る、という言葉だ。さらに、自民党の改憲のもくろみについても、災害対策を口実にしようとする、その思惑をきっちりと見抜いて指摘していた。
「緊急事態条項についても、一部自民党の皆様は、災害と絡めて説明しているが、大規模災害があった時には国家に全部権力を持たせて色々なことに縛りをかけなければいけないというお考えかも知れません。
しかし、東日本大震災の時に農水政務官を経験して、全くそれは大きな認識の違いがあると感じました。 あれだけの規模の災害があると、国家として被災地でどういう事がおきているか?その情報すら途絶えてしまいます。
被災自治体は、県や国の判断を待たなければならなくて、結局は人命救助をはじめとして非常に判断に時間がかかった実態がありました。
自治体に権限を持たせなければいけないことに関しても、安保法制も平和と名前が付けば平和と思ってくれるのではないか、というのと同時に、緊急事態条項も震災と絡めたら何か必要だと思ってくれるのじゃないか?というのは非常に不誠実だと思っています」
そして、憲法の本質について、力強く、こう語った。
「憲法はあくまで権力者を縛るものであって、国民の権利を縛り付けるものではないということを、是非強く申し上げたいと思っています」
田名部氏の発言は、以下の公開討論会で聞くことができるので、ぜひ御覧いただきたい。
改めて、憲法と改憲問題についての田名部氏の発言をふり返ってみると、今回の参院選で野党統一候補として田名部匡代参議院議員が当選したことは、今後、大きな意味をもってくると思う。今回の参議院選挙で比例区に回った共産党の吉俣洋候補は、比例区での当選はかなわなかったが、参議院選挙後に地元紙「東奥日報」のインタビューにこたえて、「選挙区での野党の勝利という目標は達成した」と晴れ晴れとした口調で語っている。
選挙戦が終わり
「八戸戦争」とまで称された、自民党出身であり真の保守系で自公連立政権には全く参加しなかった、父、田名部匡省氏の悲願の願いを叶えた瞬間でもあった今回の選挙戦は、確かに野党共闘としての田名部匡代候補の当選は、改憲勢力の歯止め役として長年自民党地盤だった青森県の選挙戦の流れを大きく変えた一幕であった。
田名部候補の街頭演説や、シャッター街の商店街や市場を走る姿は印象的でもあり、誠実さもうかがえた。
選挙戦を終えた田名部匡代参議院議員も、今回の選挙戦で学んだ「地域の貧困に苦しんでいる弱者やご年配の思い、シャッター街の商店街」などは、しっかりと心に刻んでいるように見えた。しかし、青森・岩手・宮城・山形の1人区は野党共闘として勝ったが、全国的にみると「改憲勢力」はその勢力を伸長し、3分の2を制してしまっている。この事実を、東北の人々はどう受け止めているか。
東北を代表する「河北新報」では、参院選の3分の2を改憲勢力が獲得したことについて、6県でアンケート調査を行った。良いと答えた方が23%、悪いと答えた方が44%、分からないが33%。圧倒的に危機感を感じている市民が多い。
東北で今、注目されているのが、民主党政権の野田内閣で復興相を務めた平野達男参議院議員の自民党入党だ。彼の自民党入党によって、自民党は参議院で単独過半数に達した。
東北は5:1で野党共闘は成功したとは言え、予断を許さない状況だ。
都知事選が注目される中、青森市では8月に市長選が行われるかもしれない状況である。青森県内では唯一、脱原発首長会メンバーでもある、青森市の鹿内博市長が、自民会派が進めてきた「駅前開発ビル債務超過」(23億円とも24億円とも言われている)によって辞職に追い込まれている。
都知事選でも自民党が割れているが、青森市長選でも最大の自民会派が割れている状況であり、今後も野党共闘は衆院選含めて進めていくとの社民党青森県連の発表もあった。野党共闘も注目されるが、自民党が割れる選挙にも今後注目が必要な気がする。
また、今回の参院選挙戦は、「原発・核燃に反対」の立場の市民団体や社民党・共産党が、「原発・核燃推進」である民進党・田名部匡代参議院議員を支持したが、今後、原発問題について、田名部匡代参議院議員がどのような姿勢をとるのか、応援した各党・各市民団体と、どのように折り合いをつけていくのか、注目される。
今後は「原発・核燃」に対しても反対するように民進党に申し入れて行くのか、それとも野党共闘は、改憲勢力阻止のためだけに、目的を絞るのか? その場合、「原発・核燃を棚上げ」にしてまでも、国政に田名部匡代氏を戻したことについて、「原発・核燃」に反対の市民や社民党・共産党はメリットを感じられるのか? 田名部氏の今後の言動や国会での動きを、青森の支持者たちは、複雑な思いを抱きつつ、注視し続けることになるだろう。
選挙戦で当選した、次の日、田名部匡代参議院議員は、「しっかりと、いただいた結果を受け止めながらやって行かなければいけない」とし、その上で、「全県選挙で野党共闘がなければ結果につながらなかった。より多くの思いを受け止める受け皿になるということで非常に意味があり、野党が一つになって勢力が拮抗し、(有権者の)関心を高めたのではないか?」と記者会見で述べた。
真の保守派の父を持つ、次女、田名部匡代参議院議員、現在、直面している最大の喫緊の課題は、もちろん改憲の阻止であるが、青森県に山積している問題も受け止めなければいけない存在になった。国政議員(参議院議員)としての重圧は、ハードな選挙戦で疲れた身体に重くのしかかっていくのだろうと思う。 真価が問われるのは、これからだ。