今国会では、安保法制や労働法制に関わる重要法案がめじろ押しで、報道もそうした方面に傾きがちだ。だが、その陰で、非常に重大な法案がこっそり上程されている。通信傍受法、いわゆる「盗聴法」の改正案が審議入りしているのだ。
1999年、小渕政権下において、強行採決によって成立した通信傍受法は、警察による犯罪捜査において、捜査対象に対する通信の傍受を認めたものだ。
捜査対象とされる犯罪に関する通信が行われていると疑われる場合、捜査機関は、対象者の携帯電話などの番号を特定し、地裁の裁判官に傍受令状を請求する。令状が出れば、捜査員が通信事業者の施設に出向き、社員の立ち会いのもと、最長で30日間、通話を傍受することができる。まさに、捜査機関が、通話の模様を好きなように「盗聴」することができるのである。
1999年に成立した当初、この通信傍受法は、対象が麻薬取引、銃器関連犯罪、集団密航など、組織的殺人の4種類に限定され、組織犯罪への対策立法という触れ込みだった。このように、対象の罪種を限定するように求めたのは公明党であり、政府・与党はこの公明党の修正案を受け入れるかたちで、1999年、この通信傍受法を成立させた。
しかし、この通信傍受法は、その後、適用対象の拡大が繰り返し議論されてきた。2003年には、当時内閣官房副長官だった安倍晋三氏が、北朝鮮対策として通信傍受の要件緩和を主張。2004年には警察庁が、テロ対策として、同じく要件緩和を主張した。
今国会で審議されている改正案では、対象犯罪を現行の4種類から、窃盗や詐欺罪など一般犯罪9種類を対象に加え、さらに立会人もなしに通信を傍受できるよう定めている。捜査機関による「盗聴」が、より容易に行われる恐れがあるのである。
捜査機関が傍受する通信は、それが犯罪に関係あるものかどうか、実際に聞いてみるまで分からない。警察がどの通信を「盗聴」するかどうかは、結局、警察の恣意的な判断に委ねられるのである。つまり、警察が「あたり」をつけて「盗聴」した結果、犯罪とは何の関係もない通信だった、ということも十分起こり得るのである。結果として「盗聴してしまった」した情報が、その後、権力によって悪用されないという保証はどこにあるのだろうか。
布川事件、袴田事件、志布志事件と、これまでにも警察の権力乱用によって、冤罪事件が立て続けに発生してきた。しかし、冤罪を生まないための取り調べの可視化などは相変わらず手つかずである。この「盗聴法」の「改悪」は、警察の職権乱用を拡大し、さらなる冤罪を生み出しかねない。
警察・検察権力は、冤罪を生み出してしまう構造にメスを入れることに、頑強に抵抗しており、乱暴な権力の乱用によって、人権が侵されていることへ、真剣な憂慮や反省はまるで見られない。その一方で、盗聴の範囲や権限の拡大をあつかましくはかろうというのは、自身の権力の拡大以外、何も考えていない証左である。
人権を軽視するということは、人権の価値、個々人の尊厳をうたった憲法に対する悪質な侵食である。
そもそも、日本国憲法第21条第2項には、「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と明確に定められている。「通信の秘密」の保障は、私生活の自由、プライバシーの権利にかかわる重要な権利なのである。
これは、憲法に違反する、違憲立法なのではないか。しかし、こんな重大な問題をはらむ法案を、ほとんどのマスコミは報じていない。
そこで、少しでもこの改正案の問題点を世論に喚起しようと立ち上げられたのが、「盗聴法廃止ネットワーク」である。同ネットワークは、独自にニュースレターを発行し、国会議員に配布している。IWJでは、発行者の許可を得て、このニュースレターを転載させていただくことにした。第1弾となる今回は、IWJでもお馴染み、海渡雄一弁護士のテキストを掲載する。
このテキストは、著作権フリーであり、転載、リンク貼付、コピペ自由である。ダウンロードして配布していただいてもかまわない。ぜひ、このニュースレターを拡散させ、多くの方々に読んでいただきたい。
盗聴法・刑訴法等改正を考えるニュース No1(2015.4.13)
発行:盗聴法廃止ネットワーク
連絡先=盗聴法に反対する市民連絡会 090-2669-4219(久保)/東京共同法律事務所(海渡・中川) 03-3341-3133/日本国民救援会 03-5842-5842/反住基ネット連絡会 090-2302-4908(白石)/許すな!憲法改悪・市民連絡会 03-3221-4668私たちは、盗聴法(通信傍受法)の廃止を求めている市民団体です。今国会に、刑事訴訟法等の一部「改正」案と盗聴法(通信傍受法)の改悪案が出されています。これらの法案には、人権に関わって重大な問題があります。とりわけ、盗聴法の改悪は、警察の権限を大幅に拡大し、国民への監視を強めるものです。私たちは、さまざまな問題点について、みなさんにお知らせをしていくために、ニュースを発行しました。