山中恒・山中典子共著『あたらしい戦争ってなんだろう?』第八章「『あたらしい戦争』は止められないのか?」(IWJウィークリー37号より) 2015.2.23

記事公開日:2015.2.23 テキスト
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第7回の続き。第7回はこちらからどうぞ→山中恒・山中典子著『あたらしい戦争ってなんだろう?』第七章「『自衛のための戦争』とは何か?」(IWJウィークリー36号より) 2015.2.21

 戦争は国家の運命を賭けた武力闘争です。国家の生滅にかかわる重大事ですから、いったん戦争を始めたからには、絶対に負けるわけにはいきません。戦争に勝つために、敵国に対して、銃撃戦や空爆などの激しい武力攻撃を加えます。兵隊たちは死にものぐるいで戦います。

 戦場では現実にたくさんの兵隊が戦死したり負傷したりするのです。

 兵隊だけではありません。武器を持たない一般民衆も、砲撃や空爆の巻き添えになって、ケガをしたり殺されたりします。軍事施設だけでなく、学校や、病院や、民家までもが破壊されてしまいます。

 戦争は、一方が戦勝国に、もう一方が敗戦国になるまで続きます。勝ち負けのつかない戦争は、延々と続いてしまうのです。

 今度の戦争でも、イラク国内は戦場になりました。

 イラク国内にとどまると、だれもが激しい戦闘に巻きこまれて被害を受けるおそれがあります。それで各国政府はイラク国内にいる自国民に、退去するように勧告しました。

 アメリカのラムズフェルド国防長官は、核兵器並の威力を持つ新型爆弾MOAB(モアブ)を実験的に使用するかもしれないと発表しました。12年前の湾岸戦争のときにも激しい空爆を行ったので、一般民間人に大きな被害をあたえました。今度の戦争では、湾岸戦争よりももっと強力な破壊力を持つ爆弾を雨のように投下するので、より悲惨な状況が展開されました。

 どのような戦争であろうと、戦場となった国の非戦闘員である子どもたち、老人、女性が真っ先に被害者にされるのです。

 20世紀以前の戦争も、テロリストから世界を守るための戦いといわれる「あたらしい戦争」も、結局のところ、多くの人々が殺されることに変わりはないのです。

 このような戦争をどうしたら止めることができるのでしょうか?

 今回のイラク戦争は、国連の力で止めることができませんでした。

 世界中で盛り上がった反戦運動も止めることができませんでした。「戦争」という現実に対し、無力感におそわれた人も多いでしょう。

 しかしながら、国家が戦争につっ走るのにブレーキをかけることができるのは、国民だけです。

 反戦運動は国民の意思をアピールできる数少ない手段の一つです。

 選挙による意思表明も大切です。

 国家は国際社会から孤立することを恐れています。

 大統領をはじめ、政府・内閣の閣僚議員たちは選挙で落とされるのをいちばん恐れています。

 アメリカのばあい、自分たちが選んだ大統領、議員、与党政府が議会を通じて戦争をやると決めて、国民に戦争をやらせることにしたのです。アメリカでは親が選んだ大統領が子どもを戦場に追いやっているのです。

 20世紀に入ってから、国際社会は次のようなことを決めたのです。

○国家間の紛争を平和的な手段で解決すること。
○戦争は放棄すること。
○侵略戦争とは、先に先制攻撃をかけて開戦した戦争である。
○侵略戦争は国際的な犯罪であること。

 第一次世界大戦後、国際連盟を創設して平和を守り、戦争を防止する努力を続けました。それなのに第二次世界大戦が起きてしまいました。第二次世界大戦の最後の最後に、アメリカは原子爆弾という核兵器を広島と長崎に投下しました。核兵器が戦争に登場したことで、戦争の意味が大きく変わりました。もしも交戦国がお互いに核兵器を使用したら、地球そのものを消滅させることができます。また放射能汚染は一般市民の健康をそこない、環境を汚染します。

 第二次世界大戦に勝った連合国は国際連合を創設して、今度こそ戦争をやらないようにしよう、国家間の紛争は国際連合を通じて話し合い、相談して、平和的な手段で解決することに決めました。

 大日本帝国がアジア太平洋で連合国に敗戦したとき、日本の天皇は「ポツダム宣言」という降伏勧告を無条件で受諾して降伏しました。ポツダム宣言の「日本国民をだまし、世界征服の挙に出るという過誤(あやまち)を犯すようにし向けた権力や勢力は、永久に除去しなければならない」という条件に文句をつけず、誠実に実行すると約束して降伏したので、大日本帝国は陸海軍を解体して、軍隊をなくしました。そして、国民が国家の主権をもっていることを認める民主主義的国家の「日本国」になりました。新しく制定した日本国憲法に、交戦権を否定し、戦力を保持せず、戦争を永久に放棄することを規定したのです。日本は戦争をやらない国になって平和を守ることにしたのです。

 日本国憲法 (1946年)
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 しかし、このイラク戦争が始まるとすぐに、日本の首相は「アメリカを支持します」と表明しました。

 私たちが選挙で選んだ議員の政党総裁が首相になり、議会も通さずに、アメリカの「あたらしい戦争」を支持したのです。首相が「支持する」ということは、日本国民がこの戦争を支持することになるのです。

 何がほんとうの「正義」なのかを判断するのは、一人一人の良心です。国民一人一人の良心だけが戦争を止めることができるということを、私たちは忘れてはなりません。

 第二次世界大戦から半世紀を経て21世紀になるまで、国際社会は国連の権威と機能を尊重してきました。国連憲章を国際社会が守らなければならないルールとして認めてきました。

 けれども、2001年9月11日の同時多発テロ事件以後、アメリカは世界も戦争も国際法も何もかも変わったと言い出しました。アメリカが、再びあのようなテロの危険にさらされないようにすることが、世界の平和の維持につながるのだと主張しています。おそるべきテロ対策に、有効な手だてをすることのできない国連は、もはや時代遅れの機構だといわんばかりです。

 国連憲章 第7章 「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」

第39条[安全保障理事会の任務]安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は41条及び42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。

第41条[非軍事的措置]安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。

第42条[軍事的措置]安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

第43条[特別協定]
1、 国際の平和及び安全の維持に貢献するため、すべての国際連合加盟国は、安全保障理事会の要請に基づき且つ一又は二以上の特別協定に従って、国際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する。

 この便益には、通過の権利が含まれる。

**(以下略)

 アメリカは国連憲章を無視し、国連の決議を得ないで、イラク戦争を開戦しました。アメリカは国際間の紛争を、平和的手段で解決するよりも戦争で解決することにしたのです。

◇アメリカの言い分をまとめておきます。

 イラクが国連決議に違反して大量破壊兵器をかくして保持した。国連はそれを放置した。イラクが大量破壊兵器をテロ集団にわたしたら、アメリカの安全と平和がおびやかされる。しかし、国連には、そのような危険を防止する機能はない。悪いのはイラクと無責任な国連であるから、アメリカのイラク戦争は正当化されるべきだ。

◇フランス・ドイツ・ロシアなどの言い分

 国連決議を得ず、国際法に違反して開戦したイラク戦争は正当化できない。

 国連の権威をおとしめたアメリカの責任は重大である。

 あなたが、どちらの言い分を正しいと判断するかは別として、アメリカのイラク戦争のせいで、世界は一九世紀にもどり、20世紀の平和のための努力がむだになりかけていることは事実です。現在、国家間の紛争をかかえている国はたくさんあります。それらの国がアメリカを手本として、自由に戦争を始めたら、国際社会の関係は、不安定になり険悪になります。

 イラク戦争ではアメリカは短期間に大量のトマホークミサイルや精密誘導兵器を使用して、フセイン政権を事実上崩壊させました。けれども、あるはずの大量破壊兵器(生物化学兵器など)はどういうわけか、発見できません。フセイン大統領をはじめ政府や軍部の高官はどこかへ消えてしまいました。

 その結果、アメリカ軍司令官と降伏文書を取り交わすイラク軍の司令官や、ブッシュ大統領と講和条約を結ぶフセイン大統領がいないので、ブッシュ大統領はいちおう戦闘終結宣言をしましたが、勝利宣言や戦争終了宣言をできませんでした。イラクの現状はまだ不安定なままです。

 その最大の原因は、イラク国民のほとんどがアメリカに好意をもっていないからです。フセイン政権が崩壊しましたが、イラクの政治を行う政府はできていません。イラクの石油をどのように処理するかも決まっていません。

 復興はおくれたままで、医薬品や日常生活に必要な食糧・飲料水・物資は不足しています。この状況をみると、兵器で破壊するのは簡単だが、復興するのはとても困難なことがわかります。

 それと同じように、国際連合なんか役に立たないとこわしてしまうのは簡単です。けれども、国際連合に替わる新しい世界的な機構を創設するのは、容易なことではありません。

 戦争や平和、国連憲章、日本国憲法についてよく考えながら、イラク戦争の結末を注意深く見極める必要があると思います。

 今の子どもたちが大人になるのを待って、日本が戦争を始めるようになることだけは、絶対にさけたいと思っています。

(了)

■山中恒・山中典子著『あたらしい戦争ってなんだろう?』

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