2014年1月15日の19時40分頃から、東京・新橋の東京電力本店で開かれた臨時会見「特別事業計画の変更の認定について」の第2部では、この日に経産省に認められた、東電の「新総合特別事業計画(事業再生計画)」について、廣瀬直己社長が説明した。
50歳以上の社員を対象に1000人規模で希望退職を募ったり、燃料調達費低減のための外部企業との提携、さらには、工事発注時の入札比率アップといったリストラを打ち出している点が特徴である。ただし、収益改善の柱が、目処がまるで立っていない「柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働」にあるため、実現可能性には疑問符がつく内容だ。
なお、廣瀬社長は「福島復興原資の創出」との目的を重ねて強調したが、これは「賠償のためにも『原発再稼働』が必要」というロジックの主張にほかならない。
計画では、賠償を巡る「誓い」のひとつとして、「最後の1人が新しい生活を迎えることができるまで、被害者の方々に寄り添い、賠償を貫徹」と明記されているが、記者からはこんな質問が飛んだ。「福島県内の災害関連死がすでに1600人を超えている。これは、住む場所さえ確保できないという、(被害者の類型化を認める、2011年8月に出された)中間指針にのっとった賠償のあり方の、問題部分を象徴しているのでは」。これに対し、廣瀬社長は「個別に被害者の事情をヒヤリングし、適切な賠償を行うのが私たちの考えの基本。ただ、災害が大きいため、ある程度の類型化はやむを得ない」と発言した。
- 出席者
代表執行役社長 廣瀬 直己(ひろせ なおみ)
常務執行役 佐野 敏弘(さの としひろ)
常務執行役 武部 俊郎(たけべ としろう)
常務執行役 山崎 剛 (やまざき たけし)
- 日時 2014年1月15日(水) 19:40〜
- 場所 東京電力本店(東京都千代田区)
「福島原発事故の責任を果たしていくことが、1丁目1番地。国が(財政支援の強化で)1歩前に出てくれたので、私たちは3歩も4歩も前に出て、賠償や除染といった形で、事故の直接的被害の責任を取っていきたい」。
廣瀬社長は、冒頭でこう強調した。今回、示された事業再生計画は、「新たな電気事業モデルへの変革」を標榜しており、電力業界への競争原理導入といった時流に対峙するための、コスト体質の強化を大きな狙いにしているが、廣瀬社長は「福島復興」に重きを置いて総論を語った。
計画は画餅に終わる可能性あり
再生計画では、2014年度から3年間が改革の集中期間とされている。2016年度末に「脱国有化(=国の議決権比率2分の1未満)」を目指すとしているが、収益改善の柱は、あくまでも柏崎刈羽原発の再稼働。6、7号機が7月から順次再稼働し、1、5号機は2015年3月までに再稼働すること、つまり年間の燃料費を、4基で4000億~5000億円削ることを大前提にした、収支改善シナリオが計画のベースなのだ。
だが、福島第一原発事故の原因究明が不十分なことに、かねて不満を表明している泉田裕彦新潟県知事は、この日の午前中の記者会見でも「東電に、原発運転の資格はない」と吐き捨てたという。記者からは「6、7号機の7月再稼働との見通しは、あまりにも現実味が薄い」「新潟県には、どういった説明をするのか」という質問が飛び、廣瀬社長は「7月の再稼働が、その通りになるかは、原子力規制員会の審査次第なので、あくまでも仮定だ。明日、泉田知事に会って、今日の結果を報告する」と述べるにとどめた。
「株主責任や貸し手責任への踏み込みが、足りないのではないか」との質問もあった。株主や銀行に相応の責任を取らせたあとで、事故がらみの国費投入や電気料金値上げが行われるのが、順番としては妥当ではないか、とするもので、これについて、廣瀬社長は「株主や貸し手にも責任がある、という議論は重々承知しているが、今回の計画は、私たちが福島事故の責任を果たしていくために、どうすればいいかを考えて出した形のひとつだ」と答弁した。
「原発」が争点になる都知事選の影響は?
東電の「再稼働ありき」の姿勢を、あからさまに批判する記者はいなかったが、2月に行われる東京都知事選がらみで、「元首相の細川護熙候補を応援する小泉純一郎元首相は、『原発』というワンイシューで争う、と表明している。これは、原発再稼働を目指す東電にとっては逆風にならないか」との質問があり、廣瀬社長は「(新潟県の)地元の住民に、私たちの安全への取り組みを説明する機会を作りたい」と応えている。
また、東京都が東電の4番目の株主であることに着目し、「都知事選の結果次第では、再稼働が難しくなると考えているか」との質問には、「確かに影響はあるかもしれないが、私たちには今、やらねばならないことが多々あるため、それを粛々と進めていきたい」と述べた。