【続・福一汚染水問題】オリンピック招致のためにあわてて用意した470億円の対策費 2013.9.9

記事公開日:2013.9.9 テキスト
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<IWJの視点>原佑介と大西雅明のツープラトンパワーボム 「IWJウィークリー16号」より

1.次々と明らかになる福島第一原発の深刻な汚染実態

◇レベル3の事故を漏洩を受け、強化したパトロール態勢◇

 福島第一原発で、原因不明の高線量地帯が次々と発見されはじめた。

 8月19日、「H4」と呼ばれるエリアの貯水タンク周辺に「水たまり」が発見され、「H4」エリアのタンク群の異常を確認したところ、「Iグループ」のNo.5タンクから1リットルあたり8000万ベクレルにものぼる高濃度汚染水が、約300トン(24兆ベクレル分)も漏洩していたことが明らかになった。

 1カ月以上もの間、タンクからの漏洩は続いていたと推定されており、300トンの高濃度汚染水は、その間に、ほぼすべて地中に染み込んでしまったとみられている。

 漏洩の原因は、事故直後に急いで用意した、簡易型タンクの脆弱性にあったと思われるが、300トンにも上る膨大な量の漏洩を1ヶ月も見逃してしまった原因は、ずさんな管理体制にあった。

 福島第一原発ではこれまで、約1000個にものぼる貯水タンク周りのパトロールを、10人の交替制で、1日2回、約2時間ずつかけて、2人だけで行ってきた。人員数と作業時間を作業内容に照らして考えれば、まともな点検などできないことは明らかである(※1)。

 原子力規制委員会は、この漏洩事故を、INES(国際原子力事象評価尺度)の「レベル3」に該当すると判断した。事態の深刻さを指摘された東電は、現在、パトロール要員を90人にまで増員。パトロールの本数も1日4回に増やし、そのうち2回は線量を測って回っているという。

 すぐにやればできることを、なぜこれまでやろうとしてこなかったのか。毎度のことながら、東電という企業の、底無しに危機感の欠落した体質に呆れ返る。

▲福一 H4タンクエリアパトロールの様子、9月4日

(※1)<福島第一原発汚染水問題・徹底分析特集!> 特集2.「アウトレット」のタンク2人でパトロールに走り回る東電( IWJウィークリー15号より) 2013.9.2

◇パトロール強化で浮かび上がった氷山◇

 監視強化には意味があった。

 300トンの漏洩タンクは、氷山の一角に過ぎなかったようだ。パトロール態勢を強化したことで、他のタンクからも、汚染水の漏洩、原因不明の高線量箇所が次々と確認されたのだ。

 8月31日には、「H5」エリアの「4グループ」に設置されているNo.5タンクとNo.6タンクをつなぐ配管のフランジ部分から、約90秒に一滴のペースで、ポタポタと汚染水が滴り落ちていることが確認され、床面からは毎時230ミリシーベルトの高線量が測定された。

 東電は、すぐに漏洩箇所に吸着マットを巻き付け、ビニール養生を施すとともに、当該フランジ部の床面に水受けを設置するなどの応急処置をとり、その後、フランジのボルトを増し締めを行い、漏洩を止めたという。

 また、「H3」エリアの「Aグループ」のNo.10タンクの底部フランジ付近から毎時220ミリシーベルトが、同じく「H3」エリアの「Bグループ」のNo.4タンク底部のフランジ付近北側からは1700mSv、南側からは毎時1800ミリシーベルトという超高線量が、それぞれ確認された。「H4」エリアでは、新たに「2グループ」のNo.6タンクの底部から、毎時70ミリシーベルトが観測された。こちらでは汚染水の漏洩は確認されておらず、高線量の原因は不明である。

 原因不明の高線量スポットがある、というのは不気味である。福島第一原発の敷地内ですら、今、何が起きているのか、完全には把握できていない、ということなのだ。

 9月2日には、「H6」エリア「Aグループ」のNo.7タンクの底部フランジ部分から、最大100mSv/hまで測定できる「低レンジ測定器」で計測したところ、毎時100ミリシーベルト以上の高線量が確認され、翌日3日、高レンジ測定器で測りなおしたところ、毎時300ミリシーベルトが観測された。こちらも漏洩は見つかっておらず、原因は不明なのである。

 さらに3日には、1700ミリシーベルトが観測された「H3」エリア「Bグループ」No.4タンクの北側の線量が、毎時2200ミリシーベルトにまで跳ね上がって確認された。一方、不可解なことに、1700ミリシーベルトが確認された同タンク南側の線量は、500ミリシーベルトに低減していたという。

 こうした線量の増減の原因もわかっていない。福島第一原発が、未だに多くの不安材料を抱えていることが、改めて確認されただけである。IOC総会での演説で、安倍総理が口にした「我々は完全にコントロールしている」などという言葉は、真っ赤な大嘘である。

     (H3エリアタンク底板フランジ部、隙間からはみ出しているのが止水材、8月28日)

◇規制委・田中「『シーベルト』でなく『ベクレル』と言え!」の愚◇

 「300トン」「24兆ベクレル」などという膨大な数値を列挙すると、危機感が麻痺しそうになるが、「毎時2200ミリシーベルト」といえば、尋常ではない数字である。普段、我々の生活で日常的に目にする線量の単位は「マイクロシーベルト」だ。「1ミリシーベルト」は「1000マイクロシーベルト」だから、「2200ミリシーベルト」といえば「220万マイクロシーベルト」ということになる。

 「H3」エリアから毎時1800ミリシーベルトの地点が確認された日、多くのメディアが「4時間浴び続ければ死亡する線量」と危機感を持って報じた。

 規制委・田中俊一委員長は、こうした報道を受け、「毎時1800mSvという値ですが、汚染を表現するものとして『シーベルト』という単位は世界中、どこでも使えません、ということを、数週間前の委員会でも申し上げた。東電は『シーベルト』と言っているのだが、普通は『ベクレル』で表すのが汚染だ」と話した。

 さらに、「この線量で致死量にいくという報道も見受けられるが、これは情報の発信の仕方が間違っている、適切でないと再三申し上げているが、なかなか直っていない。正しい報道をお願いしたい」と語った(※2)。

 いかにも学者らしい意見である。しかし、通常、汚染度合いを表す単位が「ベクレル」だとしても、汚染源そのものが特定できていない高線量地帯もある。ましてや、もっとも気がかりなのは、高線量を被る作業員の健康管理である。「シーベルト」とは、 人体が受ける被曝量を表す単位であり、「毎時2200mSv」が、いかに深刻で、危険であるかを示すためにも、「シーベルト」表記もあって然るべきである。

 それよりも、どんな単位で表記するか、という瑣末な点に注意がそらされ、肝心の汚染がずるずる拡大していくこの状況を、根本的にどう食い止め、コントロールするか、という本質がおざなりにされていることこそ、問題である。

      (シーベルトではなくベクレルを使うよう指導すると述べる田中委員長、9月5日)

(※2)「基準値以上の汚染水は海に出させない」外国特派員協会で田中規制委員長が会見、海外記者からは失笑漏れる 2013.9.2

 

◇万全の態勢で次の漏洩に備えよ◇

 パトロールの厳格化に伴い、作業員の被曝量も増す。

 東電は、今回の確認された高線量地帯にシーリング材、アクリル板、ゴムシートなどによる放射線の遮蔽を実施。2200mSvが確認された「H3」エリアのタンクでも30mSvにまで低減できたという。

 パトロール態勢を強化しなければ発覚しなかった、高線量地帯の数々。高線量の発生源、日によって変動する線量。いずれも原因は不明で、東電は解明を急いでいるが、汚染水が貯蔵されているタンクは300基も存在する。今回発見された数々の高線量地帯ですら、まだ氷山の一角なのではないだろうか。

 また、300基のタンクをすぐに頑丈なタイプに交換しきれない以上、これからも、さらなる汚染水の漏洩が予見される。その時に、新たなパトロール態勢で、漏洩をどこまで最小限に防げるかが注目される。言うまでもなく、高線量地帯を見回る作業員らの健康状態も、万全に管理しなければならない。いくら監視を強化してもタンクは、年を経るごとに劣化してゆく。時間との戦いでもある。

2.破綻に王手のかかった地下水バイパス

◇地下水バイパス上流の土壌の汚染実態◇

 危機は連鎖する。

 タンクから300トンの高濃度汚染水が漏れたことで、海に毎日流出している「地下汚染水」の対策に、致命傷を与えつつある。

 貯水タンクは、エリアごと堰(せき)で囲まれており、エリア内の地面は、コンクリートが敷かれている。万が一、貯水タンクから高濃度汚染水が漏洩しても、堰内に水が留めることが狙いだ。しかし、驚くことに、東電は、溜まった雨水などを抜くために設置されている「排水弁」を、常時開けていたことが発覚した(※3)。

 つまり、漏洩した汚染水ばかりではなく、今回、各所で確認された高線量地帯を通った雨水などが、測定すらされずに、外へだだ漏れしていたのである。周辺の土壌も慢性的に汚染されていたと考えるのが妥当だろう。

 土壌の汚染は、地下水の汚染へとつながってゆく。

 前号のIWJウィークリーでは、1日300トンも海へ流出している「地下汚染水」対策の要ともいえる「地下水バイパス」計画破綻の懸念について論及した(※4)。

 海洋に流出している「地下汚染水」は、山側から海側に流れてくるピュアな地下水が、原子炉建屋周辺の高濃度汚染水と混じることで、日々、増え続けている。それでは、原子炉建屋に近づく前の、ピュアな地下水を山側で汲み取り、汚染される前に海へ捨ててしまおう、というものが「地下水バイパス計画」である。

 問題は、300トンの汚染水を漏洩した貯水タンクの位置が、地下水バイパスのすぐ山側であることだ。地下水の上流にあたる土壌を汚染してしまえば、地下水バイパスで汲み上げるはずのピュアな地下水が、「汚染地下水」になってしまう、というものである。

 東電は「周辺の土壌ごと汚染水を回収する」として作業を進めていたが、31日、地下水バイパス井戸から、1リットルあたり最大900ベクレルのトリチウムを検出したと発表した。

 9月5日には、タンク付近で採取した地下水から、ストロンチウムなどのベータ線を出す放射性物質が1リットルあたり650ベクレル、トリチウムが830ベクレルと、高い値で検出された。東電は、「汚染水が地下水に到達した可能性がある」と認めざるをえなかった。とうとう恐れていたことが現実になってきたのである。

(※3)<福島第一原発汚染水問題・徹底分析特集!> 特集3. むしろ、これで漏洩しないわけがない「役立たずのストッパー」( IWJウィークリー15号より) 2013.9.2

(※4)<福島第一原発汚染水問題・徹底分析特集!> 特集5. 連鎖する危機 タンク事故は地下汚染水対策にも致命傷を与えるのか!?( IWJウィークリー15号より) 2013.9.2

 

◇「増大する汚染水、増大するタンク」八方塞がりの汚染水対策◇

 最悪の事態である。原子炉建屋には、1日400トンの地下水が流れ込み、汚染されている。その汚染水は外部に流出していたわけだが、当然のことながら、これらの地下汚染水の海洋流出は阻止しなければならず、海に流れる前に汲み上げて、保管する必要がある。

 現在、福島第一原発に用意されている貯水タンクの総量は39万トン。そのうち、約34万トンがすでに汚染水で埋まっている。地下汚染水の海洋流出が明らかになった現在、海付近の土壌から地下水の汲み上げも行っているため、汲み上げて管理しなければならない汚染水の量は、さらに増している。

 そんな中で、地下水バイパス計画が頓挫するような事態になれば、汚染水は増え続ける一方であり、貯水タンクも増やし続けなければならない。タンクが増える分だけ福島第一原発が抱える不安要因は増し、それに伴ってパトロール要員も増員しなければならない。

 当然、新設するタンクはもちろん、これまで使用してきた約350個のフランジ型の簡易タンクも、簡易でない溶接型タンクへの交換が求められる時がくるだろう。それだけの資金と、管理能力が、東電や国にあるのだろうか。

 真剣な対策は、シビアな現実認識から始まる。「完全にコントロールできている」という完璧に間違った認識を、国内外で広言してしまう首相がトップになっていて、真剣かつ有効な対策は可能なのだろうか。

 福島第一原発の事故収束作業は、いよいよ八方塞がりになっているからこそ、「夢」に逃げようとしているのではないか、そう思われてならない。

3.事故から2年半、ようやく”前面に出る”と言った国の対策と裏側

◇470億円の国費投入◇

 汚染水をめぐる問題が次から次へと更新される中、日本政府は、汚染水対策として、およそ470億円の国費を投入することを発表した。

 安倍総理を本部長とする原子力災害対策本部は9月3日、官邸内で会議を開き、汚染水問題に関して、「今後は、東京電力任せにするのではなく、国が前面に出て、必要な対策を実行していく」と宣言。凍土方式による陸側遮水壁の設置と、より高性能な多核種除去装置(ALPS)の実現に向けて、合計470億円の財政措置を行うことに決めた。

 政府は、2011年9月に設立した原子力損害賠償支援機構を通じて、これまで3兆円を超える資金を東電に援助してきた。この額と比べると今回投入される470億円の国費は少ないようにも思えるが、これまでの支援のほとんどは原発事故による賠償に当てられたものであり、政府が東電の事故処理に直接口を出し、支援を行うのは初めてのことだ。

 とはいえ、遅きに失した感がある。安倍政権が発足したのは昨年12月。もう8ヶ月以上経過している。この間、何をしていたのか。事故が起きたのは二代前の菅政権の時だ、という弁明はもう通じない。

 今まで東電と政府は何をしていたのか。

◇2年前に「陸側遮水壁」の提案があるも、東電が実行せず◇

 実は、3.11後に原発事故対策統合本部・中長期対策チームのリーダーを務めていた馬淵澄夫首相補佐官(当時)が、2011年6月に、福島第一原発の下を流れる地下水の状況を独自に調べ、海洋流出を防ぐために陸側遮水壁の設置を提言したことがあった。

 しかし、政府の中には、「事故収束は原則、東電の責任でやらせるべき」という意見が多く、その結果、国費投入はなくなり、遮水壁の建設は東電の判断に委ねられた。できるだけ事故の収束作業に費用をかけたくない東電は、汚染水が海洋流出したという決定的な証拠が報じられない状況下では、費用のかかる遮水壁の建設に自主的に踏み切ることはなく、結局この話は立ち消えになった(※5)。

 その後、東電は、汚染水対策として先に述べた地下水バイパスの計画を発表。今年の3月に設置が完了し、福島県漁連も「放出はやむを得ない」となかば承諾していた。ところが4月に入り、地下貯水槽からの汚染水漏れが相次いで発覚。最終的に、漁連側は汚染水の海への放出を認めないことに決めた。

 汚染水問題を解決する具体的な方策がない中、4月12日に資源エネルギー庁の汚染水処理対策委員会が発足。そして、地下水の流入を抑制する方策として、5月に開かれた第2回会合で提案されたのが「陸側遮水壁の設置」だった(※6)。馬淵元補佐官の提案に、結局、回帰したのである。

 東電は7月22日、汚染水の海への流出を初めて認めた。8月に入ると、地上タンクからも汚染水が漏洩していたことを発表。国内だけでなく、海外からも厳しい批判を浴びることで、ようやく日本政府が重い腰を上げる事態となった。2年前、「陸側遮水壁」が馬淵氏から初めて提案されたときにしっかりと動いていれば、今ごろ、とっくに遮水壁は完成していた。

(※5)毎日新聞「検証・大震災:福島第1原発 汚染水対策、漂流2年半」、2013年9月7日
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130907ddm010040006000c.html
(※6)汚染水処理対策委員会
「地下水流入抑制のための抜本策に係る検討の方向性(案)」、2013年5月16日
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/130516/130516_01c.pdf

 

◇2011年に国の積極的関与を求めるも 政府が無視◇

 日本政府が「前に出る」と言っても、3日に発表されたのは、あくまで汚染水対策の基本方針だ。この中で、政府は、原子力災害対策本部の下に「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」を設置することや、福島第一原発の近くに「廃炉・汚染水対策現地事務所」を設置し、「国としての体制強化を行う」などと謳っている。

 しかし、東電が進める工事に対して、政府が具体的にどこまで口を出し、また管理するのかについては何も決まっておらず、役割分担は明確になっていない。国外に向かって国の積極的な事故対応をアピールしながら、その内実は今までどおり東電が出した工程表をチェックするだけ、という可能性も十分あり得る。

 というのは、2011年12月の段階ですでに、汚染水の漏洩対策に関して、当時の原子力委員会が、国の主導的関与を求める提言をしていたのだが、当時の政府がこの提言を無視し、積極的な関与を怠り、現在の騒ぎにまで至ってしまったことが、すでに明らかになっているからだ。東電だけでなく政府にも、事故解決の糸口が見えたのに、それを不意にしてしまった前例があるのだ(※7、8)。

 および腰で、責任を東電に押しつけてきた国のだらしなさは、批判されてしかるべきである。国が前面に出たら、万事解決できるというほど日本政府に解決能力があるかどうか、疑いなしとはいえない。

(※7)毎日新聞「汚染水:『国の関与』提言放置 原子力委が民主政権に提出」、2013年9月7日
http://mainichi.jp/select/news/20130907k0000m040144000c.html
(※8)原子力委員会
「東京電力(株)福島第一原子力発電所における中長期措置に関する検討結果」、2011年12月
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sochi/pdf/20111213.pdf

 

◇遮水壁の成功は誰にもわからない◇

 そもそも今回発表された基本方針の中で主要な汚染水対策として挙げられている「凍土方式の陸側遮水壁」とは、本当に信用できるものなのか。

 この方式の遮水壁を考案したのは、スーパーゼネコンのひとつ、鹿島建設だ。

 鹿島建設の資料によると(※9)、この工事は、凍結管と呼ばれる細長い管を1メートルピッチで、4つの建屋全体を囲むように地面に埋め込み、内部に-20度から-40度の冷却液を通すことで管と管との間の土を凍らせ(=凍土壁)、地下水を通さないようにするものだ。

 しかし、全長1400メートルもの凍土壁をつくり、それを10年から20年も維持し続けることが果たして可能なのだろうか。これほどの大規模な凍土壁をつくった前例は過去になく、成功するかどうかは誰にもわからない。しかも、壁が完成するのは早くても2015年だ。

 現在、汲み上げポンプで地下水を吸い上げてはいるが、あくまで応急措置の一環である。地下水バイパス計画も破綻寸前の現状、向こう2年間は、汚染水の海洋流出を防ぐ抜本的な方法は何もない。

(※9)鹿島建設「凍土遮水壁による地下水流入抑制案 課題と対応策」、2013年5月16日
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/130516/130516_01n.pdf

 

◇政府を突き動かした東京オリンピック招致◇

 政府が、9月3日になって突然、470億円という具体的な国費の額と、その使用用途を発表したのは、「オリンピック対策」だったとみていい。その目論見は結果的に功を奏し、東京は、2020年のオリンピック開催地に決定した。

 政府が東電支援策を発表した日の翌日、9月4日から3日間、ブエノスアイレスで、猪瀬直樹東京都知事を筆頭とした東京五輪招致委員会は、世界へ向けて日本をPRすべく、記者会見に臨むことになっていた。

 招致委員会は、オリンピック開催を賭けて、世界中が日本の汚染水問題に注目している現在、「日本の安全性」についての説明義務も負わなくてはならなかった。

 国費「470億円」は、汚染水対策に注ぎ込む国費であると同時に、「安全性のアリバイ」として招致委員会に授けた「カード」でもあったのではないか。

 9月5日から、ロシア・サンクトペテルブルクで開かれる「G20」への出席のため、安倍総理は4日、日本を出発した。その前日、3日の原子力対策本部の会議で、安倍総理はこのように述べた。

「汚染水問題については東電任せにせず、政府が前面に立ち解決に当たる。従来のような場当たり的な事後対応ではなく、汚染水問題の根本的な解決に向け汚染水対策の基本方針を取りまとめた」――。

 これが、政権を奪取してから、9ヶ月近く、事故収束作業を傍観してきた政権のトップの言葉である。ロシアでの「G20」、アルゼンチンでの「IOC総会」を控え、国際社会向けに慌てて用意したこの発言と、急ごしらえの対策案こそが「場当たり的な事後対応」であることは疑いようがない。

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「【続・福一汚染水問題】オリンピック招致のためにあわてて用意した470億円の対策費」への1件のフィードバック

  1. 小坂 滋 より:

    汚染水処理対策委員会の当面の進め方や今までの議事録を見る限り。まったく世界の技術、叡智を取り込もうという姿勢も熱意も見えません。まず身近な既存の技術を採用して時間軸(といつも汚染水処理対策委員会は言っていますが軸の単位が違います、極端に言えば分単位の軸が必要です・現地の人、漁業関係者などの苦しみ悩みが分かってない)からただちにジェネコンあるいは鉄鋼会社に工事を開始さすべきです・契約などは後回しでいいのです・日本の大企業の誠意は間違いありません(いずれにせよ今の委員会の進め方は現場的でなくもし日本中の怨嗟が集まりかねない状況です)
    ただちに地下水の遮断壁。汚染水の遮断壁を凍土ではなくシートパイルや遮水パネルまたはそれと新しい技術を加味したハイブリッド技術でただちに工事を始めましょう、途中でいくらでも変更できます。頭を下げてお願いいたします。

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