緊急事態宣言解除後、都内初の選挙戦となる港区長選が明日7日(日)に投開票されます。そこで最大の争点となっているのが、3月末から、航空機が東京スカイツリーより低く飛び始めた「羽田空港新ルート」。候補者5人のうち3人までが撤回を主張しているのに対して、現職区長の候補は「丁寧な説明」を国に求めるのみのようです。しかし、コロナ禍で国際線が9割削減された現在、まさに「不要不急」となったルートに、なぜ固執するのでしょう?
(IWJ編集部)
緊急事態宣言解除後、都内初の選挙戦となる港区長選が明日7日(日)に投開票されます。そこで最大の争点となっているのが、3月末から、航空機が東京スカイツリーより低く飛び始めた「羽田空港新ルート」。候補者5人のうち3人までが撤回を主張しているのに対して、現職区長の候補は「丁寧な説明」を国に求めるのみのようです。しかし、コロナ禍で国際線が9割削減された現在、まさに「不要不急」となったルートに、なぜ固執するのでしょう?
記事目次
東京都港区の区長選挙が、明日6月7日(日)に投開票されます。そこで大きな争点になっているのが、港区など都心各区を低空で民間機が飛ぶ「羽田空港新ルート」に対する各候補の態度です。
「羽田空港新ルート」は、羽田空港の国際線を増便するために、今年3月29日から運行が開始されました。
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国土交通省は、目的を羽田空港の国際競争力の強化に求め、「年間発着回数が39000回増加」し、「年間約6503億円の経済波及効果」や「約4.7万人の雇用増加等が期待」できるとしました。東京オリンピックへの対応も目的の一つです。
しかしすでに混雑していた羽田空港を増便するうえ、首都圏の空の大きな部分を米空軍が独占している「横田空域」をできるだけ避ける必要もあり、都心上空を低空で飛ぶルートが設定されました。
「横田空域」や、これを取り巻く日米間の密約については、岩上安身の下記インタビューをご覧ください。
計画が明らかになると、騒音と落下物、墜落による被害が懸念され、新ルートに反対する声が各地で起こったのは言うまでもありません。IWJではこれまで反対集会や記者会見、後援会などを繰り返しお伝えしてきました。そこでは、国交省職員の「落下物をゼロにすることは不可能」との発言への批判や、「とても先進国の行政府とは思えない」という政府への糾弾を紹介しています。
国交省の想定高度では、たとえば港区では表参道・青山通り付近で高度約750m、白銀高輪付近では約600mとされています。品川区や大田区ではさらに低く、天王洲アイルや大井町付近は約450m、流通センター付近は約210mとなっています。川崎市川崎区で約300mです。
港区在住のIWJスタッフは春以降、それまで体験したことのない低さで巨大な旅客機が飛ぶのをたびたび目撃することになりました。一昨日の6月4日も、青山通り付近を小一時間歩く間に何機も通り過ぎた機影は、そびえたつビルより大きく見えました。東京スカイツリーより低く飛んでいるのですから当然です。
とはいえ、新ルート開始の3月末以降、コロナ対策で、国際線が9割以上運行停止したのはご承知のとおりです。そのため、当初想定された高頻度で飛行したことはこれまで一度もないと思われます。
しかし、日本も各国も緊急事態宣言が解除されつつある現在、国際線の運航再開は時間の問題でもあります。
新ルートで港区等の上空を通るのは、南風のとき、午後3時から7時のうちの3時間に限られるとのことですが、国交省によれば、なんと1時間あたり44便が想定されています。1.4分に1機通るというのです。今後これが現実になれば、騒音や落下物、墜落の被害の可能性は、けた違いに大きくなります。
この点から、今回の港区長選は大きな意味を持ちます。特に、緊急事態宣言解除後、都内初の選挙戦という意味でも注目が集まっています。
立候補者は5人で、届け出順に、無所属新人で元都議の菊地正彦氏、現職・無所属で5選をめざす武井雅昭氏(自民、国民、公明、社民、都民ファースト推薦)、無所属新人の飯田佳宏氏、無所属新人で元区議の大滝実氏(共産推薦)、ホリエモン新党公認の新人、柏井茂達氏です。
このうち菊池氏、飯田氏、大滝氏の3人が、政策として「羽田新ルート撤回」を表明。選挙広報やホームページ、街頭演説、さらに市民団体「みなとの空を守る会」のアンケートで、次のように主張しています。なお、大滝氏は「みなとの空を守る会」の発足時から現在まで世話人を務めているとのことです。
〇菊池正彦氏
「羽田空港都心ルートの撤回を首長として強く求めます」(選挙公報、自身のHP)
「国の政策にて東京オリンピック・パラリンピック開催に乗じたインバウンドを見込み経済産業省の経済効果の羽田空港試算で年間6000憶の経済効果が見込まれると発表されていましたがその対価として平穏な住環境を犠牲にしてまでも強行した生活者の安全・安心を蔑ろにした経済優先の思想に断固反対。国や都特に港区政は短絡的で楽観的です」(「みなとの空を守る会」のアンケート回答)
「新飛行経路に四時間でジェット機が六十便通り、平穏な生活を脅かしている。三度目の挑戦だが、住民投票で現状を阻止しなくてはと出馬を決心した」(芝公園の街頭演説)
〇飯田佳宏氏
「羽田新ルートはまず中止、そして撤回へ」(選挙公報)
「この問題は区長さんを変更しない限り変わりません。党派やイデオロギー関係なく幅広くブレーンを募って一緒に戦いましょう」「新ルートの強行期間中 固定資産税の減免措置の拡充 あるいは古い家などでのサッシの二重化等の工事」(自身のHP)
「国交省の事前説明と現状が違うがその指摘に対して、国交省の回答は港区民を軽んじたものと感じた。声を上げている者たちだけが反対し、声なき声は賛成しているともいわんばかりの姿勢を容認した場合、次なる少数の被害者もまた同じ目に合う恐れがある。このようなこと二度とさせないために断固として撤回を求めていく」(「みなとの空を守る会」のアンケート回答)
「羽田新ルートの騒音には困っている人は、本当に困っている。気にならない人もいて問題が放置されているが、少数の悩みを港区全体の問題にして、撤回させたい」(麻布十番での街頭演説)
〇大滝実氏
「羽田低空飛行の撤回を国に要求します」(選挙公報)
「反対のまちの声を国につきつけ、区民と力を合わせ、全力で低空飛行の撤回を求めます」「反対の声を無視して強行した都心上空の低空飛行。3月29日の運行開始によって、予想以上の騒音、機影の大きさを体験したみなさんから、『撤回しかない』との声が寄せられています」「コロナ発生以来、国際線は90%以上が欠航。訪日外国人が増えるから増便という理由が破綻しました。都心上空を飛ぶ必要はありません。『国の責任で説明を』と言い続けてきた現区長では撤回の願いは託せません」(自身のHP)
「2016年に計画が発表されてから一貫して危険性を訴え、地域の反対運動に取り組んできた。飛行コース下の各地域の運動とも連携して、国に撤回を求める」(「みなとの空を守る会」のアンケート回答)
「羽田空港の低空飛行は、騒音で空襲を思い出したという声もあった。インバウンド(訪日外国人旅行客)が減り、計画は必要ない。品川、新宿、渋谷など関係自治体と大きな反対運動を起こし、何としても中止に追い込む」(田町駅前での街頭演説)
一方、現職区長の武井雅昭氏は、「羽田新ルート撤回」の方針は表明していません。かわりに、国に「丁寧な住民説明」などを要請しておりますが、丁寧に説明されたところで、頭上低く飛行機が飛びかうリスクと騒音に何も変わりはありません。
武井氏は、「みなとの空を守る会」のアンケートに、以下の回答を寄せています。
「羽田空港機能強化に関しては、本年3月29日から新飛行経路の運用が開始されました。区民からは、区内上空を飛行した旅客機による騒音や落下物等に対する不安の声が寄せられています。区は、国に対し、こうした声を真摯に受け止め、区民への丁寧な説明や更なる対策を検討するよう要請してまいりました。
引き続き、区民の安全・安心や生活環境を守る立場から、次の事項について、要請してまいります」
以下、武井氏は、騒音対策と安全対策の積極的な検討、住民説明会の開催など、新ルート実施にあたっては当然の前提となる事項を挙げています(前出の「みなとの空を守る会」のツイートに掲載のアンケート回答を参照)。
なお、ホリエモン新党の柏井茂達氏は、この件に関する明確な賛否を表明していません。現状を消極的に肯定ということでしょうか。
「ポスト・コロナ」あるいは「ウイズ・コロナ」の今後、国際線がどの程度復活していくか、現時点では見通せません。しかし大滝氏が言うように、「訪日外国人が増えるから増便という理由が破綻」しており、国際情勢から見ても、簡単に復活することがないことは明らかであり、まさに「不要不急」のルートそのものです。
現時点で必要がなくなった施策に固執しつづけるのは、国交省がダム計画等で繰り返してきたやり方です。しかし、国政であろうが都政であろうが区政であろうが、それは許されません。国政や都政が、大きく動こうとしている今、その意味からも、明日の港区長選挙の行方が、大いに注目されます。