橋下徹大阪市長をはじめ、大阪維新の会が掲げている「大阪都構想」の賛否をめぐり、推進派・反対派双方の議論が過熱している。
「都構想」の一環として実施される大阪市民を対象とした住民投票が2015年5月17日に迫り、ここで、現在の大阪市を廃止して、5つの特別区に改編することの是非が問われることになる。「賛成多数」で可決されれば、これを元に戻す法律が存在しないため、大阪市は消滅することになるという。
大阪市議会では、推進派の維新の会に対し、自民・公明・共産など、国政では与野党の関係にある政党がこぞって反対の姿勢を示し、「維新」対「自公共」の対立が浮き彫りになっている。
関西の専門家・有識者にも反対派が多く、5月5日には危機感を募らせた学者ら19名が会見を開き、「都構想」の危険性を論じた。
この日の会見でも意見表明し、「都構想」に警鐘を鳴らしている一人である河野仁・兵庫県立大学名誉教授から、日本科学者会議大阪支部幹事会として、都構想に反対する声明文を、IWJに掲載して欲しいという依頼があった。
これを受けて、IWJは5月13日、河野氏と同会幹事の山本謙治氏にインタビューを行ない、声明を出した経緯や、その意味を聞いた。
※日本科学者会議大阪支部HPより 「大阪都構想」についての批判声明
維新が主張する「二重行政解消」の詭弁
「科学者としての社会的責任を果たす」ことを目的に設立された日本科学者会議は、平和・軍縮・環境保全など、人々の命と暮らしを守る、大学の自治を守るという観点から活動し、「大阪都構想」にも反対を表明している。
山本氏は、今回の住民投票で問われているのが「大阪市を解体していいかどうか」ということなのにも関わらず「そういうことをまったく言わずに進められている」と批判。「大阪市解体」が前提にあることをふまえた上でどちらに投票するのか判断してほしいと訴えた。
河野氏は、「都構想」が実現すれば「大きな痛手を被ることになる」と断言。「維新の会が、大阪市を廃止する理由に二重行政の解消を挙げているが、この論はかなり乱暴で無茶な議論」であり、そもそも、その定義が曖昧だと主張した。
さらに、維新の会が例に挙げる二重行政の例は、住民にとっての「無駄な二重行政」とは言えず、「物事のある小さな一部分を取り出し、そこを大きく誇張することは、詭弁と言わざるを得ない」と批判した。
「大衆扇動型」で都構想を進める橋下・大阪維新の会
橋下徹大阪市長らが、かつて、小泉政権が用いていたとされる「大衆扇動型」の手法で都構想を進めていると指摘する山本氏は、「市民を下に見ている。上から目線で煽動していくやりかたには問題がある」と主張。大阪市民がここで「反対」の意思を示さなければ、「大阪市は壊されてしまう」と危機感を露わにした。
「自分たちで街をつくっていく力が大阪のみなさんにはあります」と山本氏は強調し、「その決意を持って反対という意思表示をすることが問われている」と語った。
河野氏は、日本の民主主義、住民自治という観点から見ると、大手メディアが現政権の批判に弱いことにも言及。「萎縮しているのではないか」と疑問を呈し、「現政権について報じることと同じ量の反対の報道を流すべきだ」として、その点、IWJは政権に反対する報道を精力的に報じていることから、今回の要請につながったと話した。
山本氏も「生の情報を現場から、賛成も反対も含めて、フィルターをかけずに自分たちが判断できるよう伝えている」とIWJを評価。「今の時代に最も必要な情報発信をしてくれている」とコメントした。
(取材:IWJ関西中継市民・松本理花、記事:IWJ・安斎さや香)
「大阪都構想」についての批判声明(PDF) 日本科学者会議大阪支部幹事会