日刊IWJガイド・非会員版「性的少数者を『見るのも隣に住んでいるのも嫌』と発言した荒井秘書官を岸田総理が更迭! しかし岸田総理も同性婚に反対し結局のところ二枚舌!」2023.2.6号~No.3798号


┏━━【目次】━━━━
■はじめに~記者クラブの密室オフレコ取材で性的少数者を「見るのも隣に住んでいるのも嫌」と発言した荒井秘書官を岸田総理が更迭! しかし荒井秘書官の発言は岸田総理の「(同性婚は)すべての国民にとって家族観や価値観や社会が変わってしまう課題」との答弁を記者たちに解説したもの! 参院選で統一教会から「すでに食口(しっく)=信者」と紹介されて当選した井上義行議員の同性婚について「2000年の歴史から始まった人類が否定されてしまう」という差別発言と大差なし! 同性愛者への差別は、岸田政権に広く共有されているのではないか!?

■IWJは最大の経済的危機です! 1月の31日間でいただいたご寄付額が確定しました! 第13期6ヶ月間の累積の不足額は、1月末時点で1117万円にまで増えてしまいました! 岩上安身からのIWJの借り入れ総額は、現時点で1600万円になります! 岩上安身の私財には限界があります! このままでは、皆さまのご支持・応援、会費、そしてご寄付・カンパによるご支援がなければ、活動が立ち行かなくなります。米国が自らの覇権維持のために世界の緊張を高める「新たな戦争前夜」にあって、偏向メディアにかわって、正確な情報をお届けすべく、IWJは精いっぱい頑張りますので、緊急のご支援のほど、よろしくお願いします!

■【中継番組表】

■「中国のスパイバルーン」「ウクライナへの武器供与」の裏で、もうひとつの第3次世界大戦の火種、イスラエルとイランの対立激化が進んでいた! 2022年末に発足した新ネタニヤフ政権は「イスラエル史上最も右寄りの内閣」、閣僚による「神殿の丘」訪問、ガザ攻撃に続き、ブリンケン米国務長官イスラエル訪問の直前、イランの軍需施設にドローン攻撃!

■IWJ検証レポート!「米国が狙った独露間の天然ガスパイプラインノルドストリームの阻止!! その4」~2006年ガス供給停止・欧州供給不足問題勃発、「ウクライナ外し」の第1弾となる「ノルドストリーム」の建設へ、2009年2回目のガス供給停止ではEUが仲裁、その背景には欧米諸国の思惑が?
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■はじめに~記者クラブの密室オフレコ取材で性的少数者を「見るのも隣に住んでいるのも嫌」と発言した荒井秘書官を岸田総理が更迭! しかし荒井秘書官の発言は岸田総理の「(同性婚は)すべての国民にとって家族観や価値観や社会が変わってしまう課題」との答弁を記者たちに解説したもの! 参院選で統一教会から「すでに食口(しっく)=信者」と紹介されて当選した井上義行議員の同性婚について「2000年の歴史から始まった人類が否定されてしまう」という差別発言と大差なし! 同性愛者への差別は、岸田政権に広く共有されているのではないか!?

 おはようございます。IWJ編集部です。

 岸田文雄総理は4日、子育て支援に関する石川県と福井県の視察後の記者会見で、荒井勝喜(あらい まさよし)総理秘書官の更迭を発表しました。

※石川県及び福井県訪問等についての会見(首相官邸、2023年2月4日)
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/20230204kaiken2.html

 荒井秘書官は3日夜、性的少数者について記者団に「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と発言したことが報じられています。

 3日付け『毎日新聞』は、「首相官邸でオフレコを前提にした取材に対し発言した」とした上で、荒井氏が「『社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する』などと発言したほか、『人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる』との趣旨の言及もあった」と報じています。

※首相秘書官、性的少数者や同性婚巡り差別発言
https://mainichi.jp/articles/20230203/k00/00m/010/329000c

 福井県での記者会見で岸田総理は、荒井氏の発言について「多様性を尊重し包括的な社会を実現していく、こういった今の内閣の考え方にはまったくそぐわない、言語道断の発言である」と述べ、「大変深刻に受け止めており、総理秘書官としての職務を解くという判断をいたしました。そして、荒井秘書官本人からも辞意があったところです」と語っています。

 その一方で「任命責任を感じている」としながらも、自らの進退には触れず、だからこそ「多様性が尊重され、すべての方々の人権、あるいは尊厳を大切にした共生社会の実現に向け、様々な声を受け止め、取り組んでいく」のだと表明しました。

 しかし、そもそもこのオフレコ取材は、岸田総理が1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化を求めた立憲民主党の西村智奈美議員の質問に対し、「すべての国民にとって家族観や価値観や社会が変わってしまう課題」などと理由をつけて「極めて慎重に検討すべき課題」だと答弁したことが発端となっています。

※予算委員会(衆議院インターネット審議中継、2023年2月1日)
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=54320&media_type=

 岸田総理のこの予算委の答弁は、4日の記者会見で述べた「多様性を尊重し包括的な社会を実現していく」という「岸田内閣の考え」とは正反対の答弁であるといえます。どちらが岸田総理の「本音」なのか、二枚舌を使われてはわかりません。

 元文部科学事務次官の前川喜平氏は、『東京新聞』朝刊に連載しているコラムで5日、この岸田総理の答弁について「『慎重に検討』だけでも『やらない』という意味なのに、その上に『極めて』が付けば『絶対にやらない』という意味になる」と指摘した上で、次のように批判しています。

 「岸田氏は『国民すべて』や『社会全体』を一つの『かたまり』として見ている。その『かたまり』が単一の『家族観や価値観』を持っていると考えている。(中略)

 岸田氏は個人より全体に価値を置く全体主義者なのだ」

 この荒井秘書官更迭を報じた5日付け『BBC』の記事では、「日本は伝統的な性別の役割と家族の価値観に大きく縛られている国であり、G7の中で唯一、同性婚を認めていない国である」とした上で、日本語版では省略されていますが、英語版の元記事では、次のように書かれています。

 「荒井氏の解任に先立ち、岸田氏は国会で同性婚をめぐる問題について発言していた。

 岸田氏は、伝統的な家族構成に影響を与える可能性があるため、慎重に検討する必要があると述べている。

 荒井氏はその後、この発言について、『(LGBTのカップルが)隣に住んでいたら嫌だな』『見たくもない』と記者団に語った」

※Japan PM fires aide over derogatory LGBT remarks(BBC、2023年2月5日)
https://www.bbc.com/news/world-asia-64521862?at_link_type=web_link&at_format=link&at_bbc_team=editorial&at_medium=social&at_campaign_type=owned&at_link_id=5FA94F26-A493-11ED-BF62-0902933C408C&at_ptr_name=twitter&at_campaign=Social_Flow&at_link_origin=BBCWorld

 『毎日新聞』は4日付け記事で、「オフレコ取材」について、次のように解説しています。

 「荒井勝喜首相秘書官に対する3日夜の首相官邸での取材は、録音や録画をせず、発言内容を実名で報じないオフレコ(オフ・ザ・レコード)を前提に行われ、毎日新聞を含む報道各社の記者約10人が参加した。首相秘書官へのオフレコ取材は平日はほぼ定例化している」

※オフレコ取材報道の経緯 性的少数者傷つける発言「重大な問題」(毎日新聞、2023年2月4日)
https://mainichi.jp/articles/20230204/k00/00m/010/203000c

 この『毎日新聞』の記事によると、荒井氏の発言は、予算委での岸田総理の答弁について、岸田総理の意図を解説した中で出たものだとのことです。

 『毎日新聞』がこの発言を、「荒井氏に実名で報道する旨を事前に伝えたうえで、3日午後11時前に記事をニュースサイトに掲載した」ところ、荒井氏は3日深夜にオンレコでの会見を行い、発言の謝罪と撤回をしたと、この4日付け『毎日新聞』の記事は報じています。

 荒井氏の暴言は、「記者クラブによるオフレコ取材」という、馴れ合いが常態化した仲間内だけの閉ざされた空間だからこそ現れたものだと言えそうです。たまたま、『毎日新聞』の記者がオフレコの内容を記事にすると決断したから他社も追随したものの、『毎日新聞』が報じると決断しなければ、発言は記者クラブ内だけの秘密だったことになります。

 『毎日新聞』は、オフレコでは「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」とまで言った荒井氏が、オンレコの取材で語った内容を、4日付けの別の記事で、次のように詳細に報じています。

※ここから先は【中略】とさせていただきます。御覧になりたい場合は、ぜひ、新規の会員となって、あるいは休会している方は再開して御覧ください! 会員へのご登録はこちらからお願いいたします。

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 IWJは発足当初から、記者クラブの閉鎖性について問題視してきました。ぜひ、以下の記事もあわせて御覧ください。

※【特集】記者クラブ問題
https://iwj.co.jp/wj/open/%E8%A8%98%E8%80%85%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%96

※「咽頭がん手術で声帯を失う前にIWJで日本の記者クラブ問題を話したい!」岩上安身によるインタビュー 第989回 ゲストジャーナリスト浅野健一氏 2020.3.27
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/470970

※「報道は、報道界の自律に任せるのが先進国の常識だ」~岩上安身によるインタビュー 第596回 ゲスト ジャーナリスト(元共同通信記者)浅野健一氏 2015.11.14
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/274962

※黒川弘務・東京高検検事長辞任で明らかになった記者クラブメディアと官庁とのズブズブの関係! 常習賭博による収賄への関与に口を閉ざす大手メディア! 書かれるのは「ヨイショ記事」ばかり! 2020.5.25
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/475203

 同性婚問題では、昨年の参院選で統一教会から支援を受けて当選した、安倍晋三元総理の総理秘書官だった井上義行氏が、出陣式で「僕はあえて言いますよ、同性愛とか、色んなことで、どんどん可哀想だと言って、じゃあ家族ができないで、家庭ができないで、子どもたちは本当に日本に本当に引き継いでいけるんですか」と発言。

 さらに街頭演説でも「みんなが同性婚を、国として認めてしまったら、やはり、この、男女という、この2000年の歴史、これから始まった、この人類が、僕は否定されてしまうと思うんですね」などと主張しました。

※【2022参院選・独占スクープ!】「LGBT差別」と炎上の自民党・井上義行候補(全国比例)が、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)会合で「すでに信徒」と紹介され、熱狂的拍手! 直撃取材に「私は、同性婚反対に信念を持って言っています!!」当選後「入信していません」と豹変! 2022.7.7
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/508513

 同性婚を認めると、どうなるのか。井上氏は「2000年の歴史、これから始まった人類が否定されてしまう」と訴え、岸田総理は「すべての国民にとって家族観や価値観や社会が変わってしまう」と答弁し、荒井氏は「国を捨てる人が出てくる」と発言しました。この3人の誇大妄想的な発言内容に、どれほどの違いがあるのでしょうか。表現は違えども、共通しているのは、同性愛者を含めた性的マイノリティーに対するあからさまな差別や嫌悪感であり、個人のセクシャリティを基本的人権として尊重する姿勢がまったく見られません。

 これはまた、岸田政権内に、伝統的な家父長制を訴えるカルト、統一教会の影響が、根強く残っている証拠なのではないか、という観点からも追及が必要な問題であろうと思います。

■IWJは最大の経済的危機です! 1月の31日間でいただいたご寄付額が確定しました! 第13期6ヶ月間の累積の不足額は、1月末時点で1117万円にまで増えてしまいました! 岩上安身からのIWJの借り入れ総額は、現時点で1600万円になります! 岩上安身の私財には限界があります! このままでは、皆さまのご支持・応援、会費、そしてご寄付・カンパによるご支援がなければ、活動が立ち行かなくなります。米国が自らの覇権維持のために世界の緊張を高める「新たな戦争前夜」にあって、偏向メディアにかわって、正確な情報をお届けすべく、IWJは精いっぱい頑張りますので、緊急のご支援のほど、よろしくお願いします!

 おはようございます。IWJ代表の岩上安身です。

 いつもIWJをご支援いただきまして、誠にありがとうございます。

 IWJの第13期も半期の折り返しを過ぎ、この2月で7ヶ月目に入りました。

 第13期が始まった8月から12月末まで、月間目標を下回る月が続き、この5ヶ月間の累積の不足額は970万9900円にまで膨れ上がってしまいました。

 1月の31日間でいただいたご寄付額が確定しました! 197件、243万8900円です。これは、単独月間目標額390万円の63%に相当し、146万1100円の不足となっています。

 第13期6ヶ月の累積の不足額は、現時点で1117万1000円と、1000万円を超えてしまいました!

 2月1日から3日までの3日間でいただいたご寄付は、11件、13万7000円です。これは、単独月間目標額390万円の4%に相当します。

 厳しい経済状況の中、IWJにご寄付をお寄せいただき、誠にありがとうございます。

 しかしながら、IWJの内部留保も底を尽き、12月は、キャッシュフローが不足したため、私、岩上安身が、個人的な私財から、500万円をIWJにつなぎ融資することでしのぎました。そして、今年に入り、1月も私が、さらに500万円をIWJにつなぎ融資することを決めました。

 私がこれまでにIWJに貸し付けてまだ未返済の残高は約600万円。この2ヶ月間のつなぎ融資1000万円と合計すると、IWJへの私の貸し付け残高は約1600万円にのぼります。

 私の貯えなどたかがしれていますから、この先も同様の危機が続けば、私個人の貯えが尽きた時、その時点でIWJは倒れてしまいます。

 このままではどうにも立ち行きません。インフレと不況による変化が急激すぎて、なかなかオフィスの縮小などの対応が追いつけないのが現実です。

 加えて今年に入って年頭からスタッフの中にコロナ感染者が出て、1月末まで6人の感染者を出しており、予定されていたインタビューを2件延期せざるをえなくなりました。また、新たなインタビューの予定も入れることもできなくなり、1月はインタビューが1本もない月となってしまいました。岩上安身によるインタビューにご期待いただいていた会員や応援・支援くださっているIWJファンの皆さまには、大変申し訳なく思っています。

 幸い、1月27日を最後に、体調を崩す者や、検査で陽性になった者も出ていないため、社内での感染の拡がりはストップしたものと思われます。2月からは巻き直す勢いでインタビューを入れていきたいと存じます。

 皆さまにおかれましても、コロナ禍での経済的な打撃、そしてこのところの物価上昇に悩まされていることとお察しいたします。

 しかし、ご寄付が急減してしまうと、たちまちIWJは活動していけなくなってしまいます。IWJの運営は会員の方々の会費とご寄付・カンパの両輪によって成り立っていますが、それが成り立たなくなってしまいます。

 2023年「新たな戦争前夜」を迎えて、私、岩上安身とIWJは、少しでも正確な情報を皆さまにお届けできるように、その結果として、日本が戦争突入という悲劇に見舞われないように、無謀な戦争を断固阻止するために全力で頑張ってゆきたいと思います。

 皆さまにはぜひ、ご支援いただきたく、IWJの存続のために、会員登録と緊急のご寄付・カンパによるご支援をどうぞよろしくお願いしたく存じます。

 下記のURLから会員登録いただけます。ぜひ、会員登録していただいてご購読・ご視聴お願いいたします。

https://iwj.co.jp/ec/entry/kiyaku.php

 ぜひとも、サポート会員様におかれましては、会員をそのままご継続いただき、一般会員様におかれましては、サポート会員へのアップグレードを、無料で日刊IWJガイド非会員版を読み、ハイライト動画を御覧になっている無料会員の皆さまにおかれましては、有料の一般会員登録をぜひともお願いいたします。

 また、休会中の皆さまは、メールやお電話をいただければ、すぐに会員を再開できます。一度退会された方でも、改めて申し込みをいただくことで再び会員になっていただくことが可能です。

※ご寄付・カンパはこちらからお願いします。
https://iwj.co.jp/join/pleasehelpus.html

※以下は、IWJの活動へのご寄付・カンパを取り扱っております金融機関名です。どうぞ、ご支援のほどよろしくお願いします。

みずほ銀行
支店名 広尾支店
店番号 057
預金種目 普通
口座番号 2043789
口座名 株式会社インデイペンデント ウエブ ジヤーナル

城南信用金庫
支店名 新橋支店
店番号 022
預金種目 普通
口座番号 472535
口座名 株式会社インディペンデント.ウェブ.ジャーナル

ゆうちょ銀行
店名 〇〇八(ゼロゼロハチ)
店番 008
預金種目 普通
口座番号 3080612
口座名 株式会社インディペンデント・ウェブ・ジャーナル カンリブ

 IWJホームページからも、お振り込みいただけます。

※ご寄付・カンパのお願い
https://iwj.co.jp/join/pleasehelpus.html

 どうか、ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます!

岩上安身


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◆中継番組表◆

**2023.2.6 Mon.**

あくまで予定ですので、変更、中止、追加などがある場合があります。また電波状況によっては、安定した中継ができない場合もございますので、ご了承ください。

【IWJ・Ch5】13:30~「袴田巌さんの再審開始・無罪判決を求める、ボクシング関係者を中心とした宣伝・要請アクション」
視聴URL: https://twitcasting.tv/iwj_ch5

 「日本プロボクシング協会・袴田巌支援委員会」主催の街頭アピールを中継します。これまでIWJが報じてきた袴田巌氏関連の記事は以下のURLから御覧いただけます。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/tag/%E8%A2%B4%E7%94%B0%E5%B7%8C

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◆中継番組表◆

**2023.2.7 Tue.**

調整中

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◆昨日アップした記事はこちらです◆

山田正彦元農水相が表明!「憲法で保障された安全な食糧への権利について、戦後初めて裁判所が判断する、大きな裁判だと思っている」~2.3 種子法廃止等に関する違憲確認訴訟 判決言い渡し前の記者会見
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/513880

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■「中国のスパイバルーン」「ウクライナへの武器供与」の裏で、もうひとつの第3次世界大戦の火種、イスラエルとイランの対立激化が進んでいた! 2022年末に発足した新ネタニヤフ政権は「イスラエル史上最も右寄りの内閣」、閣僚による「神殿の丘」訪問、ガザ攻撃に続き、ブリンケン米国務長官イスラエル訪問の直前、イランの軍需施設にドローン攻撃!

 ウクライナ紛争をめぐって、西側諸国によるウクライナへの武器支援の拡大と、「中国のスパイバルーン」に端を発したブリンケン米国務長官訪中延期の話題で、西側メディアが騒然としています。

 「中国のスパイバルーン」は、米国防総省が4日、南部サウスカロライナ州の沖合の領海の上空で撃墜したとすでに発表しました。

 こうした反ロシア、反中国色の濃いキャンペーン報道の裏側で、中東では、第3次世界大戦の火種となりうる紛争が起きていることについては、大きな関心が払われていません。

 1月29日、イラン当局が、「イラン中部イスファハンの軍需工場が3機のドローンによる攻撃を受けたが、その攻撃は失敗した」と発表しました。

 『CNN』は、イスファハン州治安当局の幹部が政府系『ファルス通信』に、「国防省の軍事拠点が爆発で一部被害を受けたが、死傷者は出ていない」と語ったと報じています。

※イラン中部の軍需工場にドローン攻撃、死傷者なし(CNN、2023年1月29日)
https://www.cnn.co.jp/world/35199263.html

 国営イラン通信(IRNA)は同29日、イラン国防軍省が小型のドローンが爆発を引き起こしたと伝えています。

 「イラン国防軍省は、イスファハンにある同省に属する防衛産業複合施設が土曜日(28日)の夜、1機の小型航空機(ドローン)によって攻撃された。小型航空機は、複合体の防空システムによって捕捉されて攻撃され、2機は爆発し、その攻撃は失敗したと発表した。

 イスファハンの複合施設で発生した爆発について、イラン・イスラム共和国の国防軍省は、次のような声明の中を発表した。

 『現地時間23時30分頃(グリニッジ標準時20時頃)、小型航空機によるこの攻撃は、既存の予測・防空システムが成功し、阻止された』

 『この失敗した攻撃は犠牲者を出さず、工場の屋根に軽微な損傷を与えたにとどまる』」

※(イラン国防軍省は、イスファハンの防衛産業複合施設への攻撃が失敗したと発表)(IRNA、2023年1月29日)
https://ar.irna.ir/news/85012535/

 イラン国防省の軍需工場を狙ったドローン攻撃の主体は、米国の関係者などからイスラエルによる攻撃だと見られています。しかし、イスラエル政府は2月5日の時点で、その事実を認めていません。

 『ロイター』は30日、米高官が匿名で29日に『ロイター』に対して語ったとして、「イラン中部イスファハンの軍需工場への無人機攻撃にイスラエルが関与しているとみられる」という談話を、中東での紛争リスクが高まったと判断して、先物市場で原油価格が上昇した事実とあわせて報じました。

※原油先物が上昇、イランでの無人機攻撃・中国の消費促進方針受け(ロイター、2023年1月30日)
https://jp.reuters.com/article/global-oil-idJPKBN2U9045

 『ウォール・ストリート・ジャーナル』は同30日、「米当局者や作戦内容に詳しい複数の関係者が明らかにした」として、「イスラエルは28日、イラン中部イスファハンにある軍需工場をドローン(無人機)で攻撃した」と、断定しました。

 攻撃を受けたイランの軍需工場は、「弾道ミサイル開発に関わっているとして米国に制裁を科されたイラン宇宙研究センターの施設に隣接している」とのことです。

 『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、「イスラエルによるイランへの攻撃が明らかになるのは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が新たな極右政権を樹立してからは初めてとなる」と指摘しました。

 イスラエル軍はこの件についてコメントを控えた、と『ウォール・ストリート・ジャーナル』は書き添えています。

※イスラエルがイラン軍需工場を無人機攻撃(ウォール・ストリート・ジャーナル、2023年1月30日)
https://jp.wsj.com/articles/israel-strikes-iran-amid-international-push-to-contain-tehran-11675029900

 イスラエル・メディア『ハアレツ』は29日、同国の情報機関モサドのデビッド・バルネア長官が、2022年9月に「イスファハンが活動の標的になる可能性がある」と述べことを引き合いにだし、「イスラエル軍はコメントを控えているが、イスファハンの軍需工場攻撃の背景にはモサドがいる」と推測しています。

 以下に、『ハアレツ』が取り上げたイランにおける事件について、これまでの経緯の説明を加えてご紹介します。

 2020年11月、イランは、トップ核科学者であるモーセン・ファフリザデ氏が車中で狙撃され死亡した事件について、イスラエルによる犯行だと非難しました。ファフリザデ氏は、イラン国防省による核爆弾の開発に重点を置いた「アマド・プロジェクト」の責任者でした。ネタニヤフ首相は2018年に、ファフリザーデ氏を「イランの核爆弾の父」と呼んで公然と要注意人物として名指ししていました。

 2021年4月、イランは、ナタンズ核施設で発生した核施設の停電は、イスラエルの諜報機関モサドによる「テロ」によるものだと非難しました。ネタニヤフ首相は、「イスラエルはイランによる核兵器開発を決して容認しない」と表明しました。イスラエル・メディアの多くが、モサドが壊滅的なサイバー攻撃を画策したと広く報じました。

 2022年5月、イランのパルチン軍事・兵器開発基地(IAEAが、核兵器に使用される可能性のある爆発物のテストをおこなっていたと指摘)で原因不明の事件がおこり、技術者らが死亡しました。

 イスラエルは、一貫して、イランによる核兵器の開発を警戒し、開発を阻害するためには実力行使もしてきたことがわかります。

※Israel Reportedly Behind Overnight Drone Attack at Iranian Defense Facility(HAARETZ、2023年1月29日)
https://www.haaretz.com/middle-east-news/2023-01-29/ty-article/israel-reportedly-behind-overnight-drone-attack-at-iranian-defense-facility/00000185-fe27-ddb9-a9dd-ffff98850000

 イランとイスラエルの対立は、1978年のホメイニ師によるイスラム革命にまで遡ります。イスラム教シーア派の中核であるイラン・イスラム共和国は、イスラム原理主義と反米的な政策を取り、イスラエルと敵対的な関係にあります。

 2002年には、イランによる18年間にわたる未申告の核開発活動が明らかになりました。イランは2004年にいったん、パリ合意にもとづいて核開発を停止しましたが、2006年以降、ウラン濃縮を再開しました。2011年には、IAEA理事会がイランの核計画に深刻な懸念を表明しています。

 2013年にイラン大統領に就任したローハニ師は、国際社会との建設的協調路線を採り、2015年7月、EU3(英独仏)+3(米露中)とイランは、最終合意に到達し、イランの核開発を停止する「包括的共同作業計画(JCPOA、俗にイラン核合意)」を発表しました。2016年1月にはJCPOAが履行され、米国及びEUは核関連制裁を停止・一部終了させました。

 JCPOAは、イランに対し、核燃料や核兵器に使用される濃縮ウランの在庫を15年間、10年間ウラン濃縮に使われる遠心分離機の設置台数を10年間、それぞれ制限し、核爆弾に使用できるプルトニウムの製造ができないよう、重水設備を変えることを求める内容でした。

 しかし、2018年5月、トランプ大統領は「米諜報機関はイランが核兵器を保有しているという反駁の余地のない証拠を持っている」などとして、JCPOAからの離脱を表明、対イラン制裁を再開しました。2019年5月には事実上の対イラン原油禁輸措置を開始しています。

 ローハニ大統領は、「米国は約束を守らないつもりだとを明らかにした」と批判、ウラン濃縮再開に向けて準備を始めていると表明しました。

ローハニ大統領「イラン原子力機構(AEO)に対して、必要となれば工業水準のウラン濃縮を無制限で再開できるように、待機を命じた」(BBC、2018年5月9日)

 2018年当時、イスラエル首相であったベンジャミン・ネタニヤフ氏は、トランプ大統領が「悲惨な」合意から「思い切って」離脱したことを「全面的に支援する」と述べています。ネタニヤフ首相は、イランが核開発を継続していると確信していたと推測されます。

 2021年1月、バイデン政権が発足し、JCPOAをめぐる再交渉が始まっていますが、合意には至っていません。

 イラン側は、イランにJCPOAの遵守を求めるのであれば、イランに対する制裁の完全な解除と、トランプ政権期に引き起こされた経済的損失の補填、イラン革命防衛隊を、外国テロ組織(FTO)指定から解除することなどを求めています。

※イラン・イスラム共和国(Islamic Republic of Iran)基礎データ(外務省、2021年12月15日)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iran/data.html#section1

※イラン核合意からの離脱を表明、「二次的制裁」が再開(ジェトロ、2018年5月9日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/05/81f9d8c023c11e4b.html

※トランプ大統領、イラン核合意からの離脱を発表 欧州説得実らず(BBC、2018年5月9日)
https://www.bbc.com/japanese/44049644

※No.4 イラン:核合意再建に向けたウィーン協議の現状(中東かわら版、2022年4月5日)
https://www.meij.or.jp/kawara/2022_004.html

 昨年12月29日に、イスラエルで新ネタニヤフ政権が発足して以来、米国とイスラエルの関係が、一種の緊張感を孕みながら密になっています。

 『ロイター』(24日)などによると、米国とイスラエルは1月23日から27日まで5日間にわたって、過去最大の合同軍事演習「ジュニパー・オーク」を行なっています。

 「ジュニパー・オーク」には、米軍6400人を含む7500人以上、艦船12隻、核搭載可能な「B52」爆撃機や、最新鋭ステルス戦闘機「F-35」を含む142機が参加しました。

 上記『ウォール・ストリート・ジャーナル』(30日)は、防空システムの破壊とジェット機の燃料補給能力を試す一連の演習は、いずれもイランへの大規模な軍事攻撃で鍵となる要素だ、と指摘しています。

※米・イスラエル、大規模合同軍事演習開始 イラン模擬標的設定せず(ロイター、2023年1月24日)
https://jp.reuters.com/article/usa-israel-drills-idJPKBN2U21C4

 上述したように、イランと敵対的な関係にあるイスラエルが最も警戒しているのが、イランの核保有です。バイデン政権になっても遅々として進まないJCPOA(イラン核合意)の再交渉に不満を募らせていて、ブリンケン米国務長官のイスラエル訪問のタイミングにあわせ、米国政府にアピールするために今回のドローン攻撃に至った可能性も考えられます。

 「中国のスパイバルーン事件」で、今週末の中国訪問を急遽延期したブリンケン米国務長官ですが、1月30日に、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と、イランの核問題、サウジアラビアとの和平協定、イスラエルの司法改革計画などについて会談しました。1月19日には、ジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官もイスラエルを訪問しています。

 ブリンケン長官の訪問を前にして、イスラエルとパレスチナの間で相互に襲撃事件があり、緊張が高まりました。

 26日には、ヨルダン川西岸のジェニン難民キャンプでイスラエル軍の襲撃がありました。ここ数年で最も死者が多い軍事作戦の1つで、9人が死亡しています。イスラエルは、イスラム聖戦の過激派を標的とし、ロケット砲撃への報復としてハマスが支配するガザ地区を攻撃したと発表しました。

 27日には、東エルサレムの入植者地区にあるシナゴーグの外で、パレスチナ人の銃を持った男がイスラエル人7人を殺害、28日にも別の襲撃がありました。

 ブリンケン国務長官は「緊張を緩和するための措置を広く求める」として、29日にパレスチナ問題の調停役であるエジプト・カイロ、30日にイスラエル・エルサレム、31日にパレスチナ・ラマッラーを訪問しました。

 しかし、サリバン国家安全保障担当補佐官とブリンケン国務長官のイスラエル訪問が、パレスチナ問題だけにあったのではないことは明らかです。

 上述したように、イスラエルにとって最大の関心事はイランの核開発であり、ネタニヤフ首相は2018年に、JCPOA(イラン核合意)は生ぬるいと公言しています。

 ネタニヤフ首相は1月31日、『CNN』の記者に、「制裁と軍事的脅威がイランに対処するための望ましい方法」であり、「テヘランが核兵器を取得するのを阻止するために必要」だと主張した、と『RT』が2月1日に報じました。

ネタニヤフ首相「核兵器の保有を止めたり、控えたりできる唯一の方法は、壊滅的な経済制裁を組み合わせることだと考えるが、最も重要なことは、信頼できる軍事的脅威である」(『RT』、2日)

 バイデン政権は、JCPOA(イラン核合意)を再開させる方針ですが、今のところうまくいっているとはいえません。「経済制裁と軍事的脅威」で、イランの核開発を抑え込みたいネタニヤフ首相にとって、バイデン政権のやり方は、あまりにも生ぬるい、と見えるのでしょう。

 先にも記しましたが、ブリンケン米国務長官訪問を控えて、イランの核開発に対する米国の厳しい対応を求めるネタニヤフ政権と情報機関のモサドが、イランの軍需工場に対するドローン攻撃を仕掛けたのではないか、という見方も出てきています。

 イスラエルがイランに対して軍事攻撃を仕掛けるべきだと主張しているのは、本気である、というアピールだという見方です。

※Netanyahu explains Iran approach(RT、2023年2月1日)
https://www.rt.com/news/570789-israel-iran-military-threat/

※Netanyahu touts Trump’s wins with Israel but points out one ‘big mistake’(CNN、2023年2月1日)
https://edition.cnn.com/videos/world/2023/02/01/netanyahu-trump-tapper-kanye-biden-vpx.cnn

 ここで注目すべきことは、ブリンケン国務長官との会談後、ネタニヤフ首相は、これまでのウクライナ支援に対する姿勢を修正する方針を表明したことです。イスラエルとイランの対立の激化が、ウクライナ紛争にも影響をおよぼすことになる、という点です。

 『RIAノーボスチ』(1日)は、1日に行われたネタニヤフ首相が『CNN』のインタビューで、「イスラエルはアイアンドームミサイル防衛システムをウクライナに移管することを検討している」と発言したと報じています。

 『RIAノーボスチ』によれば、ネタニヤフ首相はブリンケン国務長官との会談後となる『CNN』のインタビューで「ロシアとウクライナ、そして米国が要請した場合、ロシアとウクライナの間の交渉を仲介する用意がある」と表明しました。

 これまでイスラエルは、ウクライナの再三の要請に対して、「アイアンドーム(防空システム)」の供与を断ってきました。ロシアに対して一定の配慮を示してきたのです。しかし、ネタニヤフ首相の「ウクライナへのアイアンドーム提供を検討」という発言は、これまでのイスラエル政府の方針を大きく変えるものです。

 イスラエルが誇る「アイアンドーム」は、米国の納税者によって部分的に資金提供されています。ウクライナ政府は、米国政府に対して、イスラエル政府が「アイアンドーム」を提供するように圧力をかけることを要請していました。

 『RIAノーボスチ』によれば、ドイツ駐在イスラエル大使のロン・プロサー氏は、『モーゲンポスト』に対し、「イスラエルがウクライナ軍に武器を供給しない理由は2つある。シリアにおけるモスクワの軍事的存在と、ロシアの大規模なユダヤ人コミュニティだ」と説明しています。この2つの理由で、イスラエルはこれまでロシアに対して「配慮」してきたというわけです。

 ネタニヤフ首相は「米国はすでにイスラエルにあった弾薬のほとんどをキエフ当局」へ送っていると明かし、「これは米国の決定だ」だとも述べています。

※Израиль рассматривает возможность поставить Украине ПРО “Железный купол”(RIA、2023年2月1日)
https://ria.ru/20230201/pro-1849042386.html

 2022年12月29日に、イスラエル国会クネセトで、第37代内閣が正式に発足し、ネタニヤフ氏が1年半ぶりにイスラエルの首相に返り咲きました。2022年11月1日の総選挙で第1党となった「リクード」の党首であるネタニヤフ氏が中心となり、組閣しました。

 新ネタニヤフ政権には、極右政党や宗教政党から多くの閣僚が入閣しており、「イスラエル史上最も右寄りの内閣」と呼ばれています。

 政権発足直後の2023年1月3日に、イタマル・ベン・グビール国家治安相がエルサレムの旧市街地にあるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖域となっている「神殿の丘」を訪問し、周辺のアラブ諸国の反発を招き、UAEと中国の要請で国連安全保障理事会で緊急会合が招集されました。

 パレスチナのリヤド・マンスール国連大使は、グビール国家治安相による予告なしの「神殿の丘」訪問は、「我が国、あなた方の国、そして国際社会全体への完全な侮辱」、「パレスチナ人の生の神聖さ、国際法の神聖さ、アル・ハラム・アル・シャリフの神聖さを完全に無視した行為」であり、「我々は我慢の限界に達しつつある」と述べています。

※ネタニヤフ氏が首相復帰、第37代内閣が正式に発足(ジェトロ、2023年1月12日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/01/194a49bb032e66de.html

※安保理がイスラエルを止めないなら我々が止める:パレスチナ特使(アラブニュース、2023年1月6日)
https://www.arabnews.jp/article/middle-east/article_83258/

 ネタニヤフ政権の強硬路線には、イスラエル国内でも抗議の声が上がっています。

 『共同通信』は22日、イスラエル各地で21日夜、ネタニヤフ政権が進める司法制度改革に抗議するデモがあった、と報じました。

 中部テルアビブや北部ハイファ、エルサレムなどで十数万人が参加した、ということです。

※イスラエルで反政権デモ 十数万人、司法改革に抗議(共同通信、2023年1月22日)
https://nordot.app/989769226754965504?c=302675738515047521

 米国と強いつながりを持つイスラエルと、ウクライナ紛争に際してロシアにドローンを提供するなど、ロシアとの関係を深めているイランが正面衝突すれば、イスラエルには、ロシアに「配慮」をして、ウクライナからの要請を断ってきた「アイアンドーム」を提供し、ロシアとイランが組み、ウクライナとイスラエルが組むという構図が鮮明となります。対立構図の深まりは、連鎖的にシリア、アゼルバイジャンとアルメニア、トルコへと拡大し、中東と米露を巻き込んだ大きな紛争に発展する危険性があります。

■IWJ検証レポート!「米国が狙った独露間の天然ガスパイプラインノルドストリームの阻止!! その4」~2006年ガス供給停止・欧州供給不足問題勃発、「ウクライナ外し」の第1弾となる「ノルドストリーム」の建設へ、2009年2回目のガス供給停止ではEUが仲裁、その背景には欧米諸国の思惑が?

 「ノルドストリーム1、2」は、1991年のウクライナ独立後、常にロシアとウクライナの間に横たわってきた天然ガス供給問題を解決する、ウクライナを通過しない「ウクライナ外し」パイプラインです。

 独露を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1、2」に対し、米国は「エネルギー安全保障上の脅威」であると「言いがかり」をつけ、建設中から繰り返し制裁を加えてきました。ウクライナ侵攻から7ヶ月目となった昨年2022年9月末、ロシア側が東部南部4州で住民投票を強行する最中に、バルト海底を通る「ノルドストリーム1、2」が何者かによって攻撃を受け、爆破されました。

 IWJは、ウクライナ紛争の背景にある「ノルドストリーム1、2」についての検証記事を3編出しています。第4編目となる本稿では、「ノルドストリーム1」の建設過程を検証します。

 検証レポートの第1回から第3回は、以下より御覧ください。

※IWJ検証レポート!「米国が狙った独露間の天然ガスパイプラインノルドストリームの阻止!! その1」~ウクライナ危機の背景には、ユーラシアに安定と繁栄をもたらす欧露間の天然ガスパイプラインでの結びつきを嫌い、仲を引き裂く米国の戦略が! 米国の狙い通り、ドイツとロシアを結ぶ新パイプライン「ノルドストリーム2」の認可が停止に! 2022.4.27
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/505188

※IWJ検証レポート!「米国が狙った独露間の天然ガスパイプラインノルドストリームの阻止!! その2」~米国ネオコン勢が地政学を持ち出し、経済合理性を無視して欧露の関係を分断するために介入! 2022.7.6
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/508187

※IWJ検証レポート!「米国が狙った独露間の天然ガスパイプラインノルドストリームの阻止!! その3」~2004年オレンジ革命から2006年のウクライナへのガス供給停止事件へ、本村真澄氏「ロシアはエネルギーに関して『政治』から離れて『経済』に専念した」(日刊IWJガイド、2023年2月4日号)
https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/51839#idx-6

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【2006年ガス供給停止・欧州供給不足問題勃発から、「ウクライナ外し」の第1弾となる「ノルドストリーム」の建設へ】

 2006年1月にロシアのガスプロム社が、ウクライナ向けのガス供給を3日間停止した時、パイプラインによる天然ガス輸送の脆弱性があらわになりました。

 ロシアが欧州諸国向けのガスを供給するためには、ウクライナを通過するパイプラインを使うしかありません。

 ロシア側は、ウクライナとのガス料金値上げ交渉が座礁すると、ウクライナ向けの供給量を削減した量のガスを欧州に向けて供給しましたが、ウクライナはパイプライン通過国の立場を利用して、ガスを抜き取り続けました。そのため、ロシアから欧州諸国に輸送されるべきガスが不足し、欧州はガス不足に陥りました。ロシアはウクライナへのガス供給を3日間停止し、ウクライナと再交渉をしました(検証レポートその3を御覧ください)。

 結局、ウクライナは、ガス料金の据え置きと通過料の値上げを獲得しました。いわば、パイプライン通過国の立場を利用した「ゴネ得」でした。

※ロシアを支えるエネルギー資源(日本エネルギー経済研究所)
https://www.teikokushoin.co.jp/journals/geography/pdf/200903g/2.pdf

【2009年、2回目のガス供給停止ではEUがウクライナとロシアを仲裁の怪、それは「ナブッコ」パイプラインを進めるための罠だったのか!?】

 2009年、2回目のガス供給停止問題が勃発しました。2008年10月、プーチン首相とウクライナのティモシエンコ首相が会談し、1000立方メートルあたり179.5ドル(2008年)から250ドル(2009年)に移行する内容でいったんは合意が成立しました。2009年のEUへのガス価格は308ドルでした。

 しかし、契約更新の2008年12月末になって、ウクライナ側は突如として1000立方メートルあたり235ドルを主張、15ドル差をめぐって交渉は決裂し、ユシチェンコ大統領が交渉打ち切りを命じました。

 新たな契約のない状態で、2009年1月1日からロシアからのガス供給が、再び停止されました。

 このとき、ロシアは2006年とは違い、「ウクライナがガスを抜き取るから」として、1月7日には、欧州に送る分のガスも止め、完全にウクライナ経由のガス供給を停止しました。

 そこで、EUがロシアとウクライナを仲裁し、1月18日にプーチン首相とティモシエンコ首相が、天然ガス価格を原油価格と連動すること、2009年第1四半期は、1000立方メートルあたり360ドルとし、10年間の長期契約とすることで合意しました。ロシアは、2006年のガス供給停止事件の際に、欧州側の理解を得られず非難を受けたことを反省し、EUに対して事前説明を行っていました。

 しかし、その後結局、2009年は259ドル、2010年は逆に割引をして230ドルになりました。ウクライナ側が突如主張した、1000立方メートルあたり235ドルを下回ったのです。EUの「仲裁」は茶番劇だったのでしょうか?

 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の本村真澄氏は、EUがこのあと、「ナブッコ(Nabucco)」パイプラインに動き出したことに注目しています。

 「ナブッコ」は、カスピ海周辺や中東の天然ガス田を供給源として、トルコから欧州に天然ガスを輸送するパイプラインです。つまり、「ナブッコ」はロシア産天然ガスを使わず、かつ、ウクライナを迂回するという「ロシアとウクライナ両方まとめて」外すという、パイプライン計画でした。計画では年間輸送力は310億立方メートル、総延長はトルコのアンカラを起点として4042kmに及びます。

 「ナブッコ」の建設計画は、EUと米国の主導で2002年に始まりましたが、欧州での天然ガス需要の落ち込みもあって遅々として進みません。でした。しかし、2009年の「ウクライナガス供給途絶問題」のあと、急速に動き出し、2009年7月13日には、トルコ、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、オーストリアの5カ国間が合意書に署名するに至りました。のちにドイツもこれに参加しています。

 本村氏は、2009年のガス供給途絶問題は、「ナブッコ」推進者らが、ガス供給者としてのロシア、通過国としてのウクライナへの不信感を醸成するための仕掛けだったのではないかという仮説を出しています。

※ロシア・CISにおけるパイプライン地政学(本村真澄、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、2012年11月号)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_project_/pdf/4/4790/201211_001_a.pdf

 「ナブッコ」のガス供給者として、アゼルバイジャン、イラク、トルクメニスタンなどが候補に上がっていましたが、十分な生産量を確保することが難しいといった障害を乗り越えられず、結局「ナブッコ」は2013年6月に、「トランス・アドリアティック」パイプラインに継承される形で、中止に追い込まれました。

【「ノルドストリーム」の建設に、ウクライナとポーランドは反対だった】

 ガス供給を安定させるためには、「ガス泥棒」であるウクライナを通らないパイプラインが、ロシアと欧州の双方にとってどうしても必要でした。

 オレンジ革命翌年の2005年、プーチン大統領はドイツを訪問して、バルト海経由でドイツへ天然ガスを直送する総延長1224kmの「ノルドストリーム」パイプラインの協定を、ドイツのシュレーダー首相と結びました。第2次大戦では過酷な戦いを味わった苦い歴史を持つロシアとドイツですが、「背に腹は変えられない」というわけです。

 「ノルドストリーム」は、ロシア・レニングラード州・ヴィボルグから、バルト海の海底を通って、ドイツのグライフバルトにつながります。当初、「ノルドストリーム2」の計画はなかったため、「ノルドストリーム」は「ノルドストリーム1」ではなく、単なる「ノルドストリーム」としてスタートしました。

 バルト海は、ロシア、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ドイツの9つの沿岸国に囲まれ、それぞれの領海が決められています。「ノルドストリーム」は、沿岸諸国の排他的経済水域を通るように計画されました。

 2005年当時、ロシアからウクライナ経由のパイプラインで欧州に送られる天然ガスは、1年間で1200億立方メートルでした。1本の輸送量が275億立方メートルの、2本のパイプラインからなる「ノルドストリーム」の最大輸送量は、合計が年間550億立方メートルです。

 ウクライナは最初から「ノルドストリーム」計画に反対でした。ウクライナにとって、自国領を通過するガスの2分の1に近い輸送量を持つ「ノルドストリーム」の稼働は大きな脅威でした。ウクライナを通過するロシア産天然ガスの量が減れば、ウクライナが得ているガス通過料がその分失われてしまう、と恐れたのです。

 ポーランドも自国内陸部を通る「ヤマル・ヨーロッパ」で、年間320億立方メートルのロシア産天然ガスを通過させていました。それを上回る「ノルドストリーム」の年間550億立方メートルの輸送力は、ポーランドにとっても脅威でした。

 ポーランドは、ウクライナと同じように、自国が得ている天然ガスの通過料が減ることを警戒し、「天然ガスのロシア依存が高まる」などと言って「ノルドストリーム」計画に反対しました。米国が主張する「ロシアはエネルギー安全保障上の脅威」という主張と足並みを揃えたのです。

 ポーランドとウクライナも、ロシアに天然ガスを依存しており、国内を通過する通過料にも依存しているというのに、「ゴネ得」がきかなくなるなら「ノルドストリーム」の建設はやめろ、と米国と足並みをそろえたのです。

 しかし、その結果は、ウクライナの国土が戦場となる、現在の紛争にまで至っているのです。その結果、欧州とロシアの間は、対露制裁のために天然ガスが流れなくなり、ウクライナもポーランドも、通過料をロシアから受け取ることもできなくなりました。

 たしかに望んだ通り、「ノルドストリーム」は、使われることがなくなりました。しかしその代償として、ウクライナが負った犠牲は非常に大きなものになってしまったのです。

 話をノルドストリーム建設時に戻します。

 ポーランドとウクライナの反対はありましたが、スウェーデンは「すべての国は国際水域にパイプラインを敷設する権利を有している」(国連海洋法第79条)として、工事認可を出しました。スウェーデンは、国連海洋法第79条にもとづいて、沿岸国が「ノルドストリーム」に反対する理由はないとしました。

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