自民党政権下で次々に行われる「憲法21条―表現の自由」への制約 ~参院選2013各争点の総括と今後の見通し(IWJウィークリー第12号より抜粋) 2013.8.5

記事公開日:2013.8.5 テキスト
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(IWJ 大西雅明)

特集 憲法改正

自民党と警察による「表現の自由」の侵害

 表現の自由を制約する改憲案を掲げた自民党が圧勝した今、誰の身にも起こりうることかもしれない。

 「原発廃炉に賛成? 反対?」と書かれた紙のボードを持って、安倍総理の街頭演説に来ていた女性が、警察官に取り囲まれて、まだ掲げてもいないボードを没収された。そのあとも、警官らは、しつこく氏名、住所、電話番号をたずね、女性は逃げるようにその場をあとにした。

 当事者の女性の名は、佐々木るりさん。福島県二本松市在住で、夫は、同市内にある真行寺の住職である佐々木道範さん。5児の母親でもある。実は、IWJと佐々木さんにはご縁がある。佐々木さんは、2012年3月に配信した「百人百話」に登場しているのだ。

 佐々木さんは、2011年3月11日の原発事故後、「NPO法人 TEAM二本松」を立ち上げ、食品の放射能測定や一時避難の支援などを行ってきている。こうした縁もあり、7月20日、岩上安身が佐々木さんご本人に約1年半ぶりのインタビューを行なった。

※ボードを没収されたときに、佐々木るりさんが撮影していた動画も有り。

 事件が起こったのは、参院選の公示日である7月4日。佐々木さんは、安倍総理の第一声を聞こうと、JR福島駅・東口に足を運んだ。その手には「総理、質問です。原発廃炉に賛成?反対?」と書かれたダンボール紙でつくったA3サイズのボードが握られていた。

▲ 佐々木さんがつくったボード

 このボードを作った理由について、佐々木るりさんはインタビューに応え、「なんで自民党が言っていることが違うのか。そのことを確かめてみたかった」と語った。

 参院選で発表された各政党の原子力政策では、自民党を除く8党が「原発ゼロ」を目標としているが、安倍総理は、総理就任以降、「安全が確認された原発は再稼働します」と発言し続けてきた。原発再稼働は、自民党が掲げてきた公約なのだ。

 ところが、原発事故に見舞われた福島県内では、言うことがガラッと変わる。自民党の福島県支部連合会は、昨年12月の衆院選でも「脱原発」を掲げたが、今回の参院選でも「脱原発」を掲げ、福島県内の原発をすべて廃炉にする目標を示してきたのだ(昨年の政策今年の政策)。

 自民党本部と県連の公約の「ねじれ」は福島県に限ったことではない。沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題に関しても、党本部は「名護市辺野古への移設を推進」と明記しているが、沖縄県連の「政策ポイント集」には、「県外・国外への移設を強く求める」と書かれている。

 さらに、昨年の衆院選では、自民党北海道連は「TPP参加断固阻止」という目標を掲げて戦い、11人もの自民党議員を国会へ送り込んだにもかかわらず、今年の3月に安倍総理はあっさりとTPP交渉参加を表明した( 参考:当時の自民党北海道支部連合会チラシ )。

 もちろん、安倍総理の決断に自民党の誰も反旗を翻したりはしない。地元有権者向けの甘いリップサービスと、国会でのふるまいはまったく別次元に存在するかのようだ。

 これまでさんざん繰り返されてきた、こうした「二枚舌」を踏まえれば、自民党のやり方に疑問を持つのは当然である。さらに、佐々木るりさんのように、今もなお、日々、高い線量を気にしながら暮らしている福島県民であればなおさらのことだ。

 質問ボードを没収されたときの様子は前出のSTFに詳しいので、そちらをお読みいただきたい。佐々木るりさんが事件の様子を撮影した動画はYoutubeに上げられており、現在までに9万回近く再生され、そのコメント欄には、「言論弾圧」「やりすぎ」「恐ろしい」などの批判が多く寄せられている。

 しかし、こうした批判すら許されなくなる日が、近いうちに来るかもしれない。参院選で自民党が大勝した今、「表現の自由に対する制約」が今後強くなるのは必須だ。これまで何度もお伝えしてきたが、昨年4月に自民党が作成した「憲法改正草案」には、露骨に表現の自由への制約が盛り込まれている。

自民党政権下で次々に行われる「表現の自由」への制約

 現行憲法の第21条(表現の自由)は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」というものである。自民党は、ここに第2項を新設し、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」と、第1項を完全に否定する条文を記している。

 では、何が「公益及び公の秩序」であると、誰が判断するのか?

「公益及び公の秩序であるのかを判断するのは、警察官です」

 そう言って、自民党の改憲草案を批判するのは、梓澤和幸弁護士だ。すなわち、自民党改憲草案が実現すると、警察や官僚・ときの政権にとって都合の悪い表現が制約される世の中になるということだ。

▲ 自民党改憲草案の危険性について講演する梓澤和幸弁護士(7月23日)

 ウィークリー第10号でお伝えした「児童ポルノ禁止法改正案」も、表現の自由を侵す危険性をはらんでいる。改正案には、施行から3年を目処として、漫画やアニメ、CGなどへの規制についても検討が行われ、必要な措置が加えられる、という附則が盛り込まれている。

 具体的な条文を用いると、「衣服の全部又は一部を着けない児童(=18歳に満たない者)の姿態で、性欲を興奮させ又は刺激するもの」といった非常に曖昧な表現によって、その条件に当てはまる(と思われる)漫画やアニメを所持している人を合法的に逮捕することが可能になるのだ。

 この改正案は秋の国会で審議されることが決まっているが、法案成立に熱心な自民・公明が参議院でも過半数を占めた今、非常に高い確率で法案は成立すると考えられる。

 23日に行われた講演会で、梓澤弁護士は、「表現の自由」には3つの自由があると説明した。1つ目は、今挙げた「発信の自由」、2つ目は「知る権利」、そして3つ目は「情報流通の自由」だ。

 主権者である私たち国民は、政府が行う施策を自由に知り、情報を得ることで議論をし、国の方向性を判断しなければならない。この権利は絶対に妨げられてはならないし、ときには、公権力に対して情報公開を請求することもある。「知る権利」と「情報流通の自由」は、民主主義の根幹をなす重要な権利だ。

 ところが、こうした権利も侵され、奪われるかもしれない。

 今月15日からマレーシアで行われていたTPP交渉会合に、日本が初めて参加した。日本からは、鶴岡公二首席交渉官ら約100人からなる交渉団のほかに自民党の国会議員も現地入りした。そこで改めて明らかになったのは、「秘密交渉」の徹底ぶりだ。

 TPP交渉が秘密裏に進められるという危険性については、IWJがこれまでずっと警鐘を鳴らしてきたことであり、米国NGO「Public Citizen」の一員として、3回にわたって実際に交渉会合に参加している内田聖子氏も「交渉は全部秘密で、これがTPPの一番の問題だ」と語っている。

▲ 岩上安身のインタビューに応える内田聖子氏(3月14日)

 TPPは、農業や保険、自動車分野だけでなく、知的財産や労働の問題など、国民の生活に直接影響を及ぼす非常に重要な政策だ。にもかかわらず、交渉会合で何が話し合われたか、交渉文書はどういった内容かなどは当然機密扱いで、今会合で日本側が何を主張したのかすら明らかにされなかった。

 国民不在のまま、一部の人間の意向で、日本社会を大きく変える政策が進められる。こんなことが許されていいはずがない。しかし、それを合法的に認めさせようとする法案が秋の国会に提出される。

 「秘密保全法案」である。

 この法案は、「1.国の安全」「2.外交」「3.公共の安全及び秩序の維持」の3分野を対象として、行政機関が「ある事項」を「特別秘密」に指定する。すると、その「特別秘密」を扱うことができるのは一部の人間だけに限られ、一般市民はおろか、官僚すらその中身に触れることが許されない。

 「知る権利」どころか、「知らせない権利」を作ろうとしているのだ。

 私たちは今、自由にデモをやり、集会や講演会を開き、好きな絵や文章を書いて発行し、それを受け取ることができる。その内容がたとえ反体制的なものであっても、現在の寛大な憲法は、その表現の自由を保障している。しかし、これがいつまでもあたりまえにあると思ってはならない。</p >

 選挙では、改憲を掲げる自民党が大勝した。参院選で改憲派といわれる自民・維新・みんなの議席数を足すと、合計142議席で、憲法改正の発議に必要な3分の2(162議席)にはまだ20議席届かない。

 しかし、加憲を掲げて、改憲派とは一線を画しているように見える公明党(参議院20議席)は、「下駄の雪」と揶揄されるように、これまで常に自民党につき従ってきた。公明党の議席を足せば162議席に届き、無所属で改憲派に同調する者を含めると、すでに3分の2を超えているとみられる。

 あたりまえのことを、あたりまえのように行っていくのは、私たち国民だ。「おかしい」と思うことを「おかしい」と言うことができる今こそ、表現の自由の権利を行使すべきである。

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