辻元議員は11日の国会で、「戦争時に米輸送艦によって邦人が輸送された事例」が過去に存在しないこと、米国は基本的に他国民を救出しない方針であることを質問し、政府はこれを認めた。インタビューは、この話題から始まった。
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※6月20日の岩上安身の連投ツイートをリライトして再掲します。
辻元議員は11日の国会で、「戦争時に米輸送艦によって邦人が輸送された事例」が過去に存在しないこと、米国は基本的に他国民を救出しない方針であることを質問し、政府はこれを認めた。インタビューは、この話題から始まった。
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記事目次
岩上安身(以下、岩上)「5月15日、安倍総理は記者会見で『有事の際に日本のおじいちゃんやおばあちゃん、赤ちゃんを抱いたお母さんを乗せた米艦を日本は警護しないのか』と情緒に訴え、集団的自衛権の必要性を訴えました。
これに対し、辻元議員は6月11日の国会で、そういう形で米国がそもそも邦人を助けることはない、ということを暴きました」
辻元清美議員(以下、辻元、敬称略)「安倍さんが、『あなたのお父さん、お母さん、子供さん、お孫さんかも知れないですよ』と、情に訴えたあの事例は、現場の実情と全然違うと思いました。
私はピースボートというNGOの出身です。湾岸戦争勃発直後に、ピースボートのツアーで、客船で紅海からスエズ運河へ向かって航行しました。軍艦の間を航行するような緊迫した中、付近の米艦から『サウジアラビアのジッタに取り残された米国人を拾っていってくれ』と連絡がきました。それはかなり強硬な要求で、命令口調のような感じでした。
人道的な問題なので、私たちのピースボートはジッダに向かいました。その途上、『別のタンカーにより救助された』、という連絡があったので、ピースボートはジッダにまで赴くことはなかったのですが。
このように、紛争時には、米国や米軍が付近の客船・タンカーに助けを求めるのが実態です。私だけでなく、船で仕事をする人たち、船長などにとっては、これが常識なのです。
岩上「これが現代の紛争時の実情なんですね?」
辻元「実情の一端なのです。なぜそうなるかというと、一つには、米艦というのは攻撃の対象だからです。万一攻撃されたら民間人が巻き添えになります。また、赤ちゃんは熱を出したり、急病に罹る可能性がありますから、軍の船に乗せるなんてことは、常識としてありえないことです。
もう一つは、テロリストの問題です。避難民に紛れてテロリストやスパイが乗り込んでくる危険性があります。避難民を装ったテロリストが米軍の輸送艦に乗り込み、誰か一人でも人質に取るようなことが起きれば、これは大変なことです。
このように、軍の艦船には、避難民といえども乗せない、というのが常識です。NGOの活動で海外の危険な地域に行った経験から、このようなことは肌身で感じてきました。
まだポル・ポト派の兵士が残るカンボジアに行った時、目の前で銃撃されたが、その時に自衛隊がいたとしたらどうなるでしょうか。撃ち返すでしょう。するとそこから戦端が開いてしまう。
現地を熟知しているコーディネーターの対応は、民兵を後ろに隠し、『人道支援だ』と相手を説得する、というものでした。もし自衛隊が側にいて銃を抜いたりしたら、撃ち合いに巻き込まれて、私は死んでいたかもしれない。
安倍さんは『NGOや若者を守る』と言いましたが、私はテレビの前で『嘘言え!』と怒鳴っててん(笑)。『私ら現場にいってるやないか! 総理のほうが平和ボケや!』と」
岩上「全然現場のことをしらない、お坊ちゃんだということですね」
辻元「これを突き崩さないといけない、と考えているときに『世界』に掲載された水島朝穂氏の論文を読んだのです(*)。水島先生に使用されている資料利用のご許可を得て、さらに新しい資料も加え、国会で質問したんです」
(*)水島朝穂「虚偽と虚飾の安保法制懇報告書」『世界』岩波書店2014年7月号
岩上「安倍総理の説明のどこが虚偽であるのか、事実はどうなのか。もう一度この場でご説明いただけますか」
辻元「まず、米国務省と米国防総省の民間人避難に関する合意メモがあります。『外国にいる米国市民及び指定外国人の保護と退避に関する国務省と国防総省との間の合意メモ』という正式な文書です。これはインターネットで公開されています」(*)
岩上「つまり、誰にでも開かれていて、この文書に書いてあることは、非常に公的な見解だということですね」
(*)辻元議員が国会質問時に使用した『合意メモ』は、議員のブログから入手可能。リンク先
辻元「この『合意メモ』の中に、『第三国の市民の避難』という項目があります。そこには、『国務省は、外国政府と、同国民の退避について正式の協定を結ぶことを控えている』とあります。つまり、事前に『あなたの国の国民を助けてあげますよ』という協定は結ばない、ということです。
『合意メモ』では、そのような「正式の協定」を結ばない理由を、次のように説明しています。
「第三国と正式の協定を締結するならば、軍が援助して行われる退避の時機、期間及び場所を決定する米国政府の能力が制限されることがある。
そのような協定によって、米国政府は、多くの第三国民を退避させ、さらに全てのアメリカ人が退避した後にも、退避作戦を継続することを義務づけられることになりかねない(義務づけられていると理解されることもありうる)。
これによって、米国の軍と市民は、より大きな危険にさらされるのであり、軍による保護の必要性が高まる。
さらに、米国政府、特に国務省に対する潜在的費用は、われわれの財政能力をはるかに凌駕する」
そしてさらに『合意メモ』には、米国は各国政府にどうしたかということが書かれています。
「(カナダ及び英国を含む)全ての外国政府に対しては、自国民の退避のための計画を策定し、米国政府の人的・物的資源(resources)に依存しないよう要請する」
国会で質問をする前に、外務省に対して、日本が米国とこのような『正式の協定』を結んでいるのか、と確認しました。すると『結んでいません』という答えが返ってきました
外務省の説明によれば、米国はこのような協定は結ばないということです。結んでしまったら縛られるから、ということです。ですから、この『合意メモ』の通りだったのです」
辻元「もう一つ。外務省に対して、正式に文書で問い合わせたのが、これまで湾岸戦争やイラク戦争の時に、米軍輸送艦に日本人が助けてもらった事例があるのか、ということです。
これに対して外務省は、『そういう事実は一切ありません』と回答しました。
リビアで内戦があった時に民間のチャーター船で救助されたなど、幾つかの前例があると言う人がいましたが、内紛や政情不安と、戦争の当事者の船に避難民を乗せることを混乱している議論です。外務大臣自らが、そういうことを言っています」
岩上「この件に関連しますが、産経新聞の報道によれば、『日米ガイドラインに関連して自衛隊法に(邦人輸送の)規定が整備された。米側の意向で周辺事態法に盛り込まれなかった事実はない』のだそうですね(*)。
このケースに関してはどうなのでしょうか?」
辻元「1999年3月の国会で、1997年に日米間で合意された『新しい日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)』に基づく法案が協議されていた時の議事録がここにあります。その中で、後に防衛大臣も務めた自民党の中谷元議員(自衛隊のレンジャー部隊出身)が、米艦による邦人救助について、『米国に要請したが断られた』と明らかにしています」(*)
(*)辻元議員の指摘する、中谷議員の発言は次の通り:
「したがって、そのときはどうするかというと、韓国か米軍の飛行機を頼らざるを得ないんですが、当初、ガイドラインにも米軍による邦人の救出を入れて、米国が実施する項目というようなことでお願いをしておったんですが、最終的にはアメリカから断られました。これはもう一人前の大人として当然のことですけれども。そういうことを他国に頼られて義務にされるとアメリカも、本当にたくさんの国からそういうことを頼まれると困る、自分のことは自分でやりなさいというようなことで、当然のことだと思います」
<第145回国会 日米防衛協力のための指針に関する特別委員会/a> 第2号(平成11年3月18日(木曜日))
岩上「そうすると、産経新聞の報道に、『現行の日米防衛協力の指針(ガイドライン)には日米両国が避難民の退避で協力する規定が存在し、防衛省幹部も「米国は拒否していない」と真っ向から否定する』とあるのは、いろいろと議論を巻き起こすことになりそうですね」
辻元「私も、周辺事態法に関して『新ガイドライン』を確認しました。産経新聞や防衛省の幹部がおっしゃることに、それかな、という部分はありますが、それは言い過ぎではないか、と思います。
『日米両国政府が各々主体的に行う行動における協力』という項目に、『非戦闘員を退避させるための活動』が含まれているんです。そこには、『日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地との関係について各々責任を有する』とあります。
つまり、『相互補完的に協力する』とは書いてありますが、力点は『各々責任』にあるということです」(*)
(*)「日米防衛協力のための指針」から、辻元議員の指摘する部分を抜粋引用する:
2 周辺事態への対応
周辺事態への対応に際しては、日米両国政府は、事態の拡大の抑制のためのものを含む適切な措置をとる。これらの措置は、上記Ⅱに掲げられた基本的な前提及び考え方に従い、かつ、各々の判断に基づいてとられる。日米両国政府は、適切な取決めに従って、必要に応じて相互支援を行う。
協力の対象となる機能及び分野並びに協力項目例は、以下に整理し、下記の表に示すとおりである。
(1)日米両国政府が各々主体的に行う活動における協力
日米両国政府は、以下の活動を各々の判断の下に実施することができるが、日米間の協力は、その実効性を高めることとなる。
(イ)救援活動及び避難民への対応のための措置
日米両国政府は、被災地の現地当局の同意と協力を得つつ、救援活動を行う。日米両国政府は、各々の能力を勘案しつつ、必要に応じて協力する。日米両国政府は、避難民の取扱いについて、必要に応じて協力する。避難民が日本の領域に流入してくる場合については、日本がその対応の在り方を決定するとともに、主として日本が責任を持ってこれに対応し、米国は適切な支援を行う。
(ロ)捜索・救難
日米両国政府は、捜索・救難活動について協力する。日本は、日本領域及び戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本の周囲の海域において捜索・救難活動を実施する。米国は、米軍が活動している際には、活動区域内及びその付近での捜索・救難活動を実施する。(ハ)非戦闘員を退避させるための活動
日本国民又は米国国民である非戦闘員を第三国から安全な地域に退避させる必要が生じる場合には、日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有する。日米両国政府は、各々が適切であると判断する場合には、各々の有する能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送及び施設の使用に係るものを含め、これらの非戦闘員の退避に関して、計画に際して調整し、また、実施に際して協力する。日本国民又は米国国民以外の非戦闘員について同様の必要が生じる場合には、日米両国が、各々の基準に従って、第三国の国民に対して退避に係る援助を行うことを検討することもある。(ニ)国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動
日米両国政府は、国際の平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動に対し、各々の基準に従って寄与する。
また、日米両国政府は、各々の能力を勘案しつつ、適切に協力する。そのような協力には、情報交換、及び国際連合安全保障理事会決議に基づく船舶の検査に際しての協力が含まれる。
( 外務省サイト「日米防衛協力のための指針」)
岩上「あくまで個々がやることに対する協力であり、『非戦闘員を運ぶ』という約束にはならないということですね」
辻元「米軍の統合参謀本部の作戦を示した文書には『民間の空港を使い、航空機を使え』ともあります。米国は、こういうことを厳密に規定しています」(*)
(*)辻元議員が示した作戦文書「Noncombatant Evacuation Operations(非戦闘員撤退作戦)」は、アメリカ国防技術情報センターのサイトより入手可能→pdf
辻元「外務委員会で、これらの資料を示して、質問をしました。その時に、安倍総理と一緒に仕事をしている、加藤勝信内閣官房副長官が、『アメリカ側の方針はその通りだと思いますけれど』と発言しました(*)。私が示した資料から分かる米国の方針を認めているわけです」
(*)6月11日の衆議院外務委員会での辻元議員と加藤内閣官房副長官とのやりとりは以下の通り:
辻元委員「内閣官房副長官にお聞きしたいと思います。
この事例を出されましたよ。いろいろ事例を出されましたけれども、つまり、安倍総理はこれを記者会見で冒頭に挙げて、何回も発言されています。
米国政府の基本方針は、外国人の退避は事前に約束はできない、協定は結ばない、アメリカを当てにしないでほしいというような、だからガイドラインのときも断られていて、今も方針は変わっていないはずですよ。これは外務省に確認しています。
現実は、安倍総理が言うように、アメリカから、日本人を輸送してもらう米輸送艦の防護の要請が事前に来るどころか、アメリカ側は、米輸送艦による日本人の救出は事前には約束できない、自分でやってくださいと。そもそも想定していないと思いますよ。
内閣官房は、このような事実を一つずつ踏まえてこの事例を出したんですか。いかがですか」
加藤内閣官房副長官「基本的には、我が国の国民を守るのは我が国政府がまずやるというのは当然のことであるというふうに思います。
その上で、今の御指摘を含めて、アメリカ側はアメリカ側の方針というのはそのとおりだと思いますけれども、ただ、いろいろな有事を考えたときに、起こり得べき事態、そういう中から、その事例も含めて十五事例を出させていただいた、そういうことでございます」
第186回国会 外務委員会 第20号(平成26年6月11日(水曜日))
辻元「また、米国の国務省領事局が、パスポート取得に関して、米市民に向けた案内には、『国務省が、ある国への旅行注意情報を出しているからといって、その国にいるアメリカ市民の救出をアメリカ軍が支援してくれると期待しないで下さい』と書かれている。
そればかりでなく、『アメリカ軍のヘリコプターや米国政府の輸送機が護衛付きで救出してくれると期待するのは、ハリウッドのシナリオに影響されすぎていて、現実的ではありません』とまで、自国民向けに書かれているのです。インターネットで公開されているにも関わらず、安倍総理はこうした事実を知らないらしいのです」(*)
※産経新聞が「米艦による邦人輸送」の根拠とする「日米防衛協力のための指針」については、同日の孫崎享氏へのインタビューにおいて、孫崎氏がその「読み解き方」を詳細に解説。産経新聞の主張を否定した。こちらもぜひご覧いただきたい。
【動画記事URL】
辻元「安倍総理は、あまりに軍事的なことをご存じない。全くのバーチャル・リアリティの世界にいるのです。
『限定容認論』とか『必要最小限度』というのは、要は『ちょっとだけよ』と言う事。しかし敵から見ればそんな事は関係ない。『お前は戦争の相手やないか』となる。戦争に『ちょっとだけよ』はないわけですよ。
この憲法解釈は安倍総理が一議員の時から主張していることです。時の内閣法制局長官に『あなたは間違っています。数量的なものはなく、他国に攻められた時だけ反撃し、その時も必要最小限度です』と否定されていることなんです。
しかし、総理になったら、『この必要最小限度とは、数量的なものです』といけししゃあしゃあと言い出した。まさに確信犯。自分の答弁が正しいし、自分が言えば米国も賛同する、と考えているんですね。
安倍さんのように『ぼくちゃんが変えたいものを変える』と言いだす人が出ないように、憲法があるわけなのですが」
辻元「米艦を自衛隊が防護するとします。米艦を狙う潜水艦が遠くにいて、これを日本が撃沈したら、相手国から見れば、『我々は日本に喧嘩を売っていないのに日本が攻撃してきた』となってしまうでしょう。
その反撃として原発にミサイルが飛んできたら、日本は壊滅します。安倍総理は、そのことまで説明するべきなんです。
『戦争リスクがあります』『自衛隊員も死にます』『それでも良いですか?』と国民に説明して国民投票にかけて、本来はやるべきことです。それを与党の密室協議で閣議決定の紙切れ一枚で戦争の鍵を開けようとしている。戦後最大の愚かな総理です。
さらに安倍総理は、ペルシャ湾で機雷の除去をする、後方支援をする、と言っている。これは海の掃除をするんちゃうんですよ。武力行使の一環であり、確実に相手から攻撃される行動です。
3カ月で終わると言われたイラク戦争は11年、アフガン侵攻は13年続いた。その結果テロが無くなったかというと、事態はますます混乱を深めている。この教訓をふまえず、これに加わろうとしている」
辻元「米国でどこに行っても出る話が、イラク・アフガンの帰還兵のこと。身体的な障害よりも、『人を殺した』という心のトラウマを抱えている。こうした帰還兵がそこかしこにいるんです。今、この教訓というのが米国内でも広がり、先日のシリアの時は、米国内でデモが起こりました。
自衛隊はアフガンで何をしたのか。間に割って入って武装解除を行いました。タリバンに『武器を捨てましょう』と。これは日本にしかできないことです。なぜかと言うと、日本は武力で紛争を解決しません、と世界に宣言しているじゃないですか。
岩上「米国が同じことをしたら、罠だとしか受取られませんよね」
辻元「憲法9条を武器にすること。だから米軍にくっついていくとしても、米軍とは別の役割で、別の国際貢献ができるはず。安倍総理は頭が古い。
『安倍政権のやり方は危ない』という点では、なんと前原誠司さんとも私の考えが一致しています。また、かつての自民党の改憲のドンとも言われた山崎拓さんですらも、安倍総理は危ない、という考えをお持ちです」
岩上「話は変わりますが、先日共産、社民、山本太郎議員、糸数慶子議員の4者が、秘密保護法を廃案にする法案を共同提出しました。なぜこれに生活と民主は加わらなかったのでしょうか。野党協議が進んでいたり、国会法の改正について議論されてるとはいえ……」(*)
辻元「私は党内では、この共同提出に加わるべきだと主張していました。ところが、民主党内に『共産党と同じと思われたくない』と考える人たちがいます。
しかし筋を通しておかしい事はおかしいと言わないといけない。『共産党と……』なんて言っているから、民主党は落ちぶれるんです。
何党と何党をくっつけるとか言う前に、戦えと。戦って政権を取らないと。野党の役割は、これだけ大きくなっている与党をきちんとチェックして、国民に見て頂く。それしかないと思っています」
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紛争現地での経験から集団的自衛権の詭弁を論破してます。子供でも解る危険性を無視して進める安部政権の目的に気付いてほしい。
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