【特別寄稿】アメリカの「パワー・アフリカ」事業(No.2) ~電力増大より「死んだ国家」への対処を(米川正子元UNHCR職員・立教大学特任准教授) 2013.10.14

記事公開日:2013.10.14 テキスト
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※会員無料メルマガ「IWJウィークリー第19号」より転載

【前回の寄稿】
電力普及で得するのは誰なのか?~(No.1)

 多くのアフリカ諸国、特に地方に住む国民には電力が配給されていませんが、電力の増大によって果たして電力不足の問題は解決するのでしょうか。

 前回コンゴ民主共和国(以下コンゴ)のインガダムの事例について触れました。1960年代に開発されたインガダムIとIIに続いて、コンゴ政府、国際機関と多国籍企業は、近い将来計画しているインガダムIIIの開発で、アフリカ大陸への電力普及率の増加を期待していますが、それに関連して慎重に考慮すべきことが少なくとも3点あります。

▲コンゴ民主共和国地図(外務省HPより)

▲コンゴ民主共和国地図(外務省HPより)

電力普及に立ちはだかる3つの課題

 まず1点目は、発電所の補修や維持方法です。コンゴ政府は、過去10年間インガダムIとIIを十分に修復できませんでした。その過去の教訓が議論されないまま、インガIとIIより大規模なインガIIIの開発事業を8年間で完成しようと計画を立てていますが、その後のメンテナンスについては疑問が残っています。

 2点目は、発電所の治安の維持方法です。コンゴ西部に位置するインガダム近郊には、反政府勢力は活動していませんが、発電所は、戦争の際に戦略的な場となります。実際に1998年、当時の政権に反乱を起こした反政府勢力(ルワンダ軍が指揮)が、拠点地のコンゴ東部から1000キロ以上離れたインガダムに飛んで占拠し、キンシャサへの電力供給を完全に断ったことがありました。将来同様なことが起きても、おかしくないでしょう。

 3点目は、インガダムIII付近の住民への補償金の支払いです。インガダムIとIIの建設の際に強制移転された地域住民は、補償金の支払いはされなかったようです。インガIII 付近の住民も、補償金以外に、将来の移転地先や移転地での公共サービスの有無等に関する情報を得ているのか、定かではありません。

 これらの問題は全て、ガバナンス(国の統治能力)に関わっており、それが原因で、コンゴでは政治・経済的不安定や武力紛争が長年続いています。そのため、国連や開発機関等はコンゴ政府にガバナンス強化の研修を行っており、筆者も以前、国際協力機構(JICA)主催の研修の一部を立案・企画し、研修生(役人)の学びを評価したことがあります。

 その限られた経験に加えて、コンゴで中央・地方政府と仕事をした経験から断言できることは、例え研修の内容が濃く、役人が優秀でも、コンゴのトップが変わらない限り、研修はほとんど効果がないことです。

「腐った国家」コンゴは国として機能していない

 コンゴのような国家は、一般的に「失敗・脆弱・崩壊国家」と呼ばれています。しかしそれでは、単に「政策や履行が失敗した、動乱のために国民にサービスを提供できない、リーダーシップが弱い(けど国家は一応機能している)」という誤解を与えるので、筆者はあえて「腐った国家」と呼んでいます。国家の構造だけでなく、政治家や役人のメンタリティーまでが腐っているためにほとんど機能していないという意味です。

 しかし、その呼び方もコンゴの現状を完全に描写していないため、あるコンゴ人は、「死んだ国家」が適当だと主張しています。

 コンゴの国名がザイールであった頃、モブツ・セセ・セコ大統領が1965-1997年の間、独裁政権を率いていました。国を私物化し富と権力を独占して悪評高かった彼は、かつてインドネシアのスハルトとフィリピンのマルコスに次いで、世界第三番目の汚職者でした。

▲モブツ・セセ・セコ大統領(wikipediaより)

▲モブツ・セセ・セコ大統領(wikipediaより)

 しかし、2001年以降のジョセフ・カビラ現大統領(現在41歳、就任当時は29歳)は、さらに劣っており、モブツを懐かしがるコンゴ人がいるぐらいです。

 モブツ政権時代や1990年代のコンゴ戦争中でさえ、最下位にならなかったコンゴの人間開発指数[1]が、2011年と2012年度に初めて、世界最下位にランク。経済状況が衰えているというより、国家予算のマネージメントに問題があります。例えば、学校の先生の月給は約40米ドルですが、国会議員の月給は、2003年の時点で1,500 米ドルだったのが、2006年に6,000 米ドル、そして2012年に13,000米ドル(日本円で約130万円)と、10年以内に10倍近くまで膨れ上がりました。2011年度の大統領、首相、国会や議会での支出額は、国家予算の11%を占め、これは保健予算の3倍にあたります。

 また人権状況も悪化しており、例えば、あるコンゴ人の人権活動家は、モブツへの批判で何度も逮捕されたものの、何とか活動できましたが、2010年に現政権によって簡単に殺害されたのです。

▲ジョセフ・カビラ現大統領(wikipediaより)

▲ジョセフ・カビラ現大統領(wikipediaより)

 コンゴの希望でもあったこの著名な活動家の死は、国内外のコンゴ人と国際社会共にショックと脅威を与えました。

 カビラの問題は、実力不足、資源の私物化、そして自分に不利な国民を容易に殺害することだけでなく、彼の背景そのものが不明であることです。実際に、彼の背景の真実を公に語った彼の兄弟2人は、それぞれ暗殺されたり、南アフリカに亡命しました。カビラの本名は別名で、国籍はルワンダ人という説が強く、最終学歴では2大学の名が挙げられていますが、どちらも本当ではないという噂が流れています。 

ルワンダ政府の傀儡が国を売り渡す

 またコンゴに詳しいジャーナリストによると、カビラは1994年のルワンダ虐殺と、1996-7年のコンゴ東部における「虐殺」に、加害者として関与したとのことです。そして、コンゴを事実上運営しているのはルワンダ政府であるため、カビラは単なるルワンダの傀儡で、そのためコンゴの改革どころか、国をルワンダに売り飛ばすことしか関心がないとも言われています。

 彼の存在を巡って不信感が高まっているにもかかわらず、異常なことに、国連事務総長や他のリーダーらは、何もないかのようにコンゴ政府と付き合い続けています。コンゴ政府に対してガバナンス問題等に関する批判の声明をだすものの、常にその場限りで終わります。天然資源大国・コンゴに依存している大国政府や多国籍企業は、黙認するしかないようです。

 このようなリーダーの下で働く公務員は、一見仕事をしているように見えても、機能を果たしていません。その意味で、国家が「死んで」おり、現政権を変革しない限り、インガダムや電力の問題解決に期待を持てないようです。(了)

[1] 国連開発計画(UNDP)が、各国の平均寿命、教育レベル、実質所得などを統合した指標としても使用される。

【著書】

世界最悪の紛争「コンゴ」 (創成社新書)

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