【IWJブログ:参院選で全国48,777カ所の投票所のうち、過去最高の16,958カ所で終了時刻が繰り上げ 〜各自治体の選管にIWJが電話取材 繰り上げ理由に不可解な点も】 2013.7.20

記事公開日:2013.7.20 テキスト
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(取材:大西雅明、佐々木隼也・文責:岩上安身)

 7月21日に投開票が行われる今回の参院選、全国48,777カ所の投票所のうち、なんと16,958カ所(34.8%)で、終了時刻の繰り上げや開始時刻の繰り下げが行われることがわかった。これは、1998年に投票終了時間が午後6時から午後8時に延びて以降、過去最高である。

 投票終了時刻は午後8時だが、全国の実に3割以上の投票所で、午後6時〜7時に投票所が閉まる。IWJが各自治体の選管に問い合わせたところ、「投票時間の繰り上げについては、投票所の入場券やwebページに記載している」とのことなので、一度、自分の地区の投票所の入場券を確認してみて欲しい。

 総務省のHP(※)をみてみると、終了時刻の繰り上げや開始時刻の繰り下げが目立つのは、北海道が2,746カ所中1,112カ所、岩手県が1,121カ所中938カ所、宮城県が965カ所中489カ所、福島県が1,314カ所中1,314カ所、茨城県が1,450カ所中1,072カ所、群馬県が943カ所中934カ所、新潟県が1,496カ所中624カ所、三重県が878カ所中532カ所、和歌山県が845カ所中595カ所、島根県が671カ所中579カ所、岡山県が790カ所中539カ所、広島県が1,267カ所中468カ所、山口県が865カ所中377カ所、高知県が928カ所中832カ所、長崎県が922カ所中499カ所、熊本県が1,037カ所中697カ所、大分県が606カ所中431カ所、宮崎県が761カ所中542カ所、鹿児島県が1,246カ所中1,139カ所、などである。

 特に岩手県、群馬県、島根県、高知県、鹿児島県は約9割、福島県に至っては全ての投票所で終了時刻の繰り上げや開始時刻の繰り下げが行われる。

(※)総務省HP「第23回 参議院議員通常選挙 発表資料(速報)」から「4.投票所関係」の「投票所開閉時刻の繰上げ繰下げ関係」をクリックするとEXCELデータがダウンロードできる。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/23sansokuhou/index.html

 終了時刻の繰り上げや開始時刻の繰り下げをする投票所は、1998年の参院選では全国で6%だったが、2000年の衆院選では9%、2001年の参院選では15%、2003年の衆院選では19.7%、2004年の参院選では22%、2005年の衆院選では24.4%、2007%の参院選では29%、2009年の衆院選では29.4%、2012年の衆院選では32.6%と、国政選挙のたびにその数が増えている。

 こうした時刻の変更について、各自治体の選管は「午後6時以降の投票率が低い」「期日前投票が浸透している」「選挙経費の削減」「開票時間を早めるため」などの理由を挙げる。

 しかし、東北地方だけをみても、終了時刻の繰り上げが多い福島県、秋田県、宮城県、岩手県に対し、青森県は1004カ所中64カ所、山形県も825カ所中105カ所と少なく、県・自治体によって驚くほどバラバラだ。

 特に不可解なのが、福島県だ。IWJは、昨年12月16日に自民党が圧勝した衆院選を徹底検証したメルマガIWJ特報!第70号+71号でも、この終了時間の繰り上げ問題を論じた。福島県は昨年の衆院選でも県内すべての投票所で終了時刻の繰り上げや開始時刻の繰り下げを行った。この時IWJが福島県内の自治体選管に取材したところ、「街灯の復旧しきれていない被災地では、冬の夜間の出歩きは危険」と答えた自治体が少なからずあった。

 しかし、それから半年以上が経過し「街灯の復旧状況」も改善されており、それ以前に今回の参院選は「夏」である。にも関わらず、福島県は今回の参院選も、県内すべての投票所で終了時刻の繰り上げや開始時刻の繰り下げを行う。

 IWJは再度、福島県に取材を行った。以下、そのやり取りを掲載したい。

■福島県 選挙管理委員会

Q:福島県内の投票所は、昨年12月の衆院選でも開始・終了時間の繰り下げ・繰り上げが100%で行われたが、短くするように指導しているのですか?

A:いえ、むしろ終了時間の繰上げを行わないように指導しています。

Q:各自治体が時間を繰り上げる理由も聞いていますか?

A:聞いております。

Q:どういった理由があるのですか?

A:私からはお答えすることができません。

 「理由を聞いているが答えられない」という担当者の回答には疑問がわく。「午後6時以降の投票率が低い」「期日前投票が浸透している」などの理由であれば、特段隠す必要はないはずである。

 続いて、県内各市町村の選管に問い合わせた。

■福島市 選挙管理委員会

Q:今回の参院選の投票所の数と繰り上げる時間はどれくらいですか?

A:合計83カ所で、2時間繰り上げ。

Q:どういった理由があるのですか?

A:1つ目は、電力事情。

 2つ目は、期日前投票が浸透していること。25%以上は期日前で投票を済ませていること。

 3つ目は、前回の衆院選で、町内会連合会と振興協議会と「明るい選挙推進委員会」の役員、さらに、83カ所の投票所の管理者、立会人の方々、計199人にアンケートをとった結果、2〜3人が19時までを希望されていて、それ以外の方は18時までという回答だったこと。

 4つ目は、5月末に、町内会連合会と振興協議会と「明るい選挙推進委員会」の役員の方々、計48名にアンケートをとったところ、1名をのぞいて、18時終了でいいとの回答をいただいたため。

■郡山市 選挙管理委員会

Q:今回の参院選の投票所の数と繰り上げる時間はどれくらいですか?

A:合計147カ所で、2時間繰り上げ。

Q:どういった理由が?

A:まず、期日前投票が浸透していること。全投票者の2割〜3割は期日前投票で済ませている。当日18時以降に来られない人でも、期日前投票の期間に来られると考えるのが普通ではないか?

 2つ目は、原発事故による電力不足が平成23年にあったこと。

 3つ目は、夏で暑いので、健康管理の面からも早めたほうがいいのではないかと。

 初めて繰り上げたのは平成23年9月4日に行われた市議選。そのときに、時間の繰り上げについて、町内会連合会役員の方にFAXでお知らせしたが、特に苦情も入っていない。

Q:郡山市は終了時刻の繰り上げをどう周知していますか?

A:入場券はもちろん目立つように時間を書いているし、ポスター、チラシ、地元の広報誌、防災無線、ウェブページなどで周知しており、投票時間が18時までというのがこちらでは浸透している。

■いわき市 選挙管理委員会

Q:今回の参院選の投票所の数と繰り上げる時間はどれくらいですか?

A:全140カ所。本来は142カ所あるが、2カ所を臨時統合しています。

Q:どういった理由があるのか?

A:山間部では開票所まで最大1時40分〜50分かかるので、安全に運ぶために2時間繰り上げています。1時間繰り上げのところは、区長などの住民から、「(19時〜20時まで)無駄な時間をすごしている」などの声がありました。そこで、何度か継続してアンケートを行ったが、短くしてくれとの声が大多数を占めていたので、会議を行い、繰り上げを決定しました。

 また、期日前投票が浸透してきていることもある。時間別の投票者数を把握しているが、平成19年の選挙以降、19時〜20時の投票者が2%以下でした。

■会津若松市 選挙管理委員会

Q:今回の参院選の投票所の数と繰り上げる時間はどれくらいですか?

A:全71カ所中、1時間繰り上げが46カ所、2時間繰り上げが25カ所。

Q:どういった理由ですか?

A:平成23年に行われた県議選、市議選のとき、県内で会津の46カ所だけ終了時間の繰り上げがなかった。そのとき、市民から「なぜ繰り上げできないのか?」と問い合わせがありました。選挙では、町内会から選挙立会人を集めるが、町内会から「繰り上げて欲しい」との要望がある。

 山間部では20年ほど前から終了時間の繰り上げを行っています。

 また、投票所の統計データを取っていて、19時〜20時の人数が少ないことが分かかりました。時間の繰り上げを行って以降、市民からは特に指摘や苦情はない。

 平成23年の震災後は電力事情という理由があったが、今は関係ない。

◇「冬だから」「夏だから」不可解な繰り上げ理由

 「街灯の復旧しきれていない被災地では、冬の夜間の出歩きは危険」といった、復旧の未整備を理由に挙げた自治体はなく、代わりに「夏で暑いので、健康管理の面」「選挙立会人や自治体住民からの要望」や「原発事故による電力不足が平成23年にあったこと」などが新たに加わった。

 暑いのは日中で夕方からは夏とはいえ、涼しくなるはずである。「暑いので、健康面への配慮から」というのは、こじつけにしか聞こえない。「冬だから」繰り上げ、の次は、「夏だから」繰り上げ。その次には、「春だから」「秋だから」という理由が加わるのだろうか。

 「電力不足」という理由も、理解しがたい。投開票所の電灯が、たかだか二、三時間長く灯ると、どれほどの量の電力が「よけいに」消費されてしまうというのだろう。また、同じ福島県内でも、会津若松市などは福島市や郡山市が挙げた「原発事故による電力事情」を、会津若松市は「今は関係ない」と否定している。時刻変更の理由にはならない、とする「電力事情」を他の自治体が理由に挙げるのは、不可解である。

 また今回全943カ所中934カ所と、ほぼすべての投票所で終了時刻の繰り上げや開始時刻の繰り下げを行う群馬県の選管にも、その理由について問い合わせた。

■群馬県 前橋市 選挙管理委員会

Q:今回の参院選の投票所の数と繰り上げる時間はどれくらいですか?

A:全101カ所中、19時までが98カ所、18時までが3カ所。

Q:どういった理由がありますか?

A:自治会連合会や立会人から「時間の繰り上げができないか」との要望がありました。期日前投票を行える場所を平成21年に、9カ所から16カ所に増やしました。昨年の衆院選のときは、全投票者数の約1割が期日前投票で投票した。期日前が浸透してきています。

 また、平成21年の選挙のときに実態調査を行い、19時〜20時までの投票者数が少ないという結果が出ました。初めて時間を繰り上げたときは、「知らなかった」という苦情が来たことがある。しかし現在では、100%苦情がないとは言わないが、以前に比べるとほとんどありません。

 周知の仕方としては、広報前橋に書いたり、チラシを配ったり、入場券やwebページにはもちろん記載しているし、七夕祭りでは選挙啓発用のうちわを配ったりしています。

 「100%苦情がないとは言わないが、以前に比べるとほとんどない」というのはつまり、「時刻の変更によって投票できなかった人が少ないながらも存在する」ということである。昨年の衆院選の時も、ネット上では「投票所に行ったら閉まっていて投票できなかった」という声があがっていた。投票意思のある人間を、投票時間を制約することで、結果として閉め出してしまったのならば、国民の投票の権利の制約につながったと批判されても仕方がない。投票率の低下に、拍車をかけるようなマネをなぜあえてするのか。

 前述したメルマガ第70号+71号でも論じたが、繰り上げは、「特別の事情のある場合」は公職選挙法違反にはならない。しかし、違反でないからといって、繰り上げの判断が「正しい」とは言い切れない。「午後6時以降の投票率が低い」「期日前投票が浸透している」からといって、投票時間を繰り上げなくてはならない、差し迫った必要性の説明にはならない。事情で当日の遅い時間にしか投票所に行けない人も、少なからずいるだろう。

 「選挙経費の削減」「開票時間を早めるため」という説明は、むろん言語道断である。議会制民主主義の日本において、我々有権者が選挙で投じる一票というのは、何よりも重みを持つ。それに対して、終了時間を1?4時間早めることで、一体どれほどの手間の解消・経費の削減(=特別の事情)になるというのだろうか。この選挙の経費というのは、我々国民の税金である。

 群馬県で唯一、終了時刻の繰り上げや開始時刻の繰り下げを行わない自治体であるみなかみ町の選挙管理委員会は、IWJの取材に対し時間を繰り上げない理由として、「選挙人の投票時間の確保。投票率を上げるため」と回答した。実にまっとうな回答ではないだろうか。コストが少々かさんでも、可能な限り多くの有権者に投票機会を与えるというのが、民主主義の基本のはずである。

 昨年の衆院選で59.32%という、戦後最低の投票率を記録したばかりであれば、なおさらこのみなかみ町のように「投票率を上げるため」に投票時間を維持すべきではないだろうか。税金を使って投票率の向上を呼びかける一方、経費削減などの財政事情を理由にするのは、大きな矛盾がある。

 この繰り上げの問題について、納得のいく回答は未だにどこからも発表されていない。この件については、引き続き取材を重ねていくつもりである。

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「【IWJブログ:参院選で全国48,777カ所の投票所のうち、過去最高の16,958カ所で終了時刻が繰り上げ 〜各自治体の選管にIWJが電話取材 繰り上げ理由に不可解な点も】」への1件のフィードバック

  1. hidezumi より:

    こんにちは。Blogos経由です。話題作りの為の問題提起であれば別に構わないと思うのですが、もし「事実」が知りたいのであれば少し取材のアプローチを変えてみてもよいかもしれません。

    自治体では人件費が削減されたりして、最近の投票事務は派遣会社に依頼して人を集めたりしているようです。都市ではそれでも人が集まりますが、深夜までの作業となると、地方では人繰りがきびしいところがあるはずです。でも人を揃えないわけにはゆきません。加えて、投票が終って0秒で当確が出たりするので「早く開票作業をしなければならない」というプレッシャーが加わります。実際にはまだ票が集計所に届いていない時点で、テレビが報道を始めます。開いてもないのに「状況が確定した」というのは「集計作業してもしなくても関係ないじゃん」となるわけです。

    ということで「いろいろ、キツいから」というのが真相だと思いますが、全体を見回すと「一体、誰が何のためにがんばっているのか」よく分からない状況ができあがっています。しかし、誰も全体を調整してくれる人がいないので、現場で適当に「調整」してしまうというわけです。マネジメントの不在が招いた事態と考えられます。

    税金払っているのだから「死ぬ気で、絶対に間違いなくやれよ」というのは、第三者的な見識としてはアリだと思います。だからこの記事を責めるつもりはありません。しかし、マネジメントの立場としてはどうでしょうか。公平な民主主義社会を作る為には何が重要なのでしょうか。主権者たる国民は、民主主義の運営についてどの程度配慮を示すべきなのでしょうか。

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