参院選の大きな争点のひとつに「憲法改正」があります。安倍晋三総理は6月以降、憲法改正に関して、自分から積極的な発言をすることを避けていますが、「経済」「原発」「TPP」など、いくつかの争点があげられている参院選で、自民党の最大の狙いであり、私たち国民にとって最も重要な争点が「憲法改正」です。言うまでもなく、憲法はその国の根幹をなすものであるからです。
参院選の大きな争点のひとつに「憲法改正」があります。安倍晋三総理は6月以降、憲法改正に関して、自分から積極的な発言をすることを避けていますが、「経済」「原発」「TPP」など、いくつかの争点があげられている参院選で、自民党の最大の狙いであり、私たち国民にとって最も重要な争点が「憲法改正」です。言うまでもなく、憲法はその国の根幹をなすものであるからです。
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自民党の綱領には「新憲法の制定」が明記されています。
この綱領は、2005年11月に自民党立党50周年を記念して開かれた党大会で発表されたもので、同時に自民党初となる「新憲法草案」も発表されました。新憲法起草委員長は森善朗元総理であり、当時の自民党総裁は、小泉純一郎元総理でした。
1955年の自民党結党から2005年に至る50年間、新憲法の制定が綱領に盛り込まれることはありませんでした。2005年から、「自民党が改憲政党である」ことを前面に押し出し始めたといえるでしょう。
そして2007年、年頭の記者会見で「憲法を是非、私の内閣として改正を目指していきたい」と改憲に強い意志を表明した安倍総理(当時)が国民投票法(「日本国憲法の改正手続に関する法律」)を成立させ、改憲を現実に行えるよう法律を整えました。
昨年12月に2度目の内閣総理大臣に就任した安倍総理は、今年1月30日の衆院本会議で「まずは96条の改正に取り組む」と言明し、自民党を含む改憲派の動きを活発化させました。その後、「憲法96条改正を目指す議員連盟」など超党派の議連や憲法審査会が会合を重ね、憲法改正への下地がつくられ始めていました。
しかし、5月1日に発表された米国議会調査局の報告書で、安倍総理は「強硬な国粋主義者」と指摘され、さらに「その言動は地域の国際関係を混乱させ、米国の国益を損なう懸念を生じさせてきた」と厳しく批判されました。時を同じくして、日本維新の会の橋下徹・共同代表の従軍慰安婦をめぐる発言が世界中で問題視され、右寄りの発言に対して世間からの批判が集まりました。
公明党は5月24日、参院選に向けた自民・公明両党の共通公約作成を見送り、自民党内からも改憲に対する慎重論が出始めました。6月には大学教授らからなる「96条の会」が発足し、安易な憲法改正に反対を表明。さらに、慶應義塾大学の小林節教授など、改憲派で知られる識者からも批判を浴びました。
■2013/06/14 会場に溢れんばかりの人の集まりに「最高の滑り出し」~「96条の会」発足記念シンポジウム
http://bit.ly/169EL0s■2013/06/08 【大阪】「96条改正を『討ち取る』自信がある」「改憲で『不仲な家族取締法』が作れてしまう」
~慶應義塾大学教授・小林節氏講演会「改憲派が斬る!96条改正に異議あり!」
http://bit.ly/15W5CgW
こうした周りからの批判を受け、安倍総理は公約の中に具体的な条項を明記せず、憲法改正を参院選の争点のひとつとはしても、目立たないようにする戦術に切り替えました。
憲法の中で、いま安倍総理が真っ先に改正をしようとしているのが、憲法改正の発議要件について定めている第96条です。
これまでIWJではこの問題を何度も取り上げてきました。改めて説明すると、96条の改正とは、「憲法改正の発議に必要な衆・参両議院それぞれの議員の賛成数を、現在の『3分の2』から『過半数』に押し下げようとするもの」です。
この憲法96条の改正について、今回各党が発表した公約を見比べてみます。
96条改正に対して賛成の姿勢を明確に示しているのは、自民党、日本維新の会、みんなの党の3党。一方で、反対を公約に明記しているのは、共産党、社民党、生活の党、みどりの風の4党。民主党は「96条の『先行』改正には反対」とし、公明党は「硬性憲法の性格を維持すべきである」とそれぞれ改正には反対の立場を示しながらも、少し含みを持たせる書き方をしています。
現在、衆議院の自民・維新・みんなの議席数を合わせると365議席となり、3分の2である320議席をすでに大きく超えています。一方、参議院では3党の議席数を合わせても99議席しかなく、過半数にも及んでいない状況でした。
今回の参院選の改選議席数は121議席です。改憲発議に必要な3分の2(162議席)に届くには、自民・維新・みんなで計101議席をとらなければなりません。仮に公明党が改憲に賛成の立場にまわったとしても、4党で92議席を獲得する必要があります。
自民党は、96条改正の理由について、以下のように説明しています。
「国民に提案される前の国会での手続を余りに厳格にするのは、国民が憲法について意思を表明する機会が狭められることになり、かえって主権者である国民の意思を反映しないことになってしまう」(『日本国憲法改正草案 Q&A p.34(http://p.tl/x47d)』)
安倍総理も「60%、70%の国民の方が改正したいと考えていたとしても、むしろ3分の1をちょっと超える国会議員が駄目だよと言ったらできない方が私はおかしいんだろうと、このように思います(2013年4月23日参議院予算委員会)」などと繰り返し述べています。
それに対して、96条改正反対を公約に明記している4党の主張は次のとおりです。
共産党は「憲法改正の発議要件を緩和し、一般の法律なみにしてしまうことは、立憲主義を根底から否定するものにほかならない」と96条改正の動きを厳しく批判。社民党も「第96条『改正』は、国家権力を縛るためにある『立憲主義の憲法』の本質を破壊するもの」として反対の姿勢を強調しています。
同じように、みどりの風も「国家権力の暴走につながる96条改正反対」と公約に明記し、「憲法改正は可能であるべきですが、国民による自主的な改正でなければなりません」と主張しています。生活の党は「日本国憲法の趣旨(硬性憲法)から、現行の改正手続規定(96条)は堅持する」とする一方で、国民の合意の上で憲法の一部見直し・加憲を行う姿勢を示しています。
自民党は、昨年4月に「日本国憲法改正草案(a href=”http://bit.ly/12In8Ra” target=”_blank”)」を独自に作成し、参院選の公約でもその中身を紹介しています。当然、96条改正後はこれを目標に憲法改正に取り組んでいくと思われます。ポイントはいくつもありますが、ここではそのうち大きく3点を取り上げます。
まず、自民党の改憲案では前文がすべて書き換えられており、そこで「日本国は天皇を戴く国家」であると記されています。さらに第1条で「天皇は、日本国の元首」、第3条では「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」との条文が新たに書き加えられており、現行憲法よりも天皇の位が高くなり、国民に対する国家の制約が強まっています。
次に、9条第1項では「自衛権の発動」を明記し、2項では「国防軍」の設置を謳っています。国防軍は、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」と定められていますが、自民党はその中身を具体的に示していません。
現行憲法の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という文言が削除されていることからも、現在の「自衛隊」を「国防軍」に改めることで、自衛権として認められる以上の戦力の保持や交戦権を求めている、と考えられます。
3点目は「表現の自由」に対する制約です。自民党案では、「表現の自由」を定めている21条に第2項を新設し、「公益及び公の秩序」を害することを目的とした活動や結社を禁止しています。「公益及び公の秩序」を決めるのは権力層であるため、警察や官僚・ときの政権にとって都合の悪い活動や結社が制約される恐れがあります。
「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」は、立憲主義を土台とする日本において、私たちの幸福を支える3本の柱です。自民党の改憲案は、この3本の柱すべてに攻撃を与えるものです。その証拠に、日本記者クラブ主催で7月3日に行われた党首討論の中で、社民党の福島みずほ党首から立憲主義についてたずねられた安倍総理は次のように答えています。
「すべて権力を縛るものであるという考え方としては、王権の時代、専制主義的な政府に対する憲法という考え方であって、今は民主主義の国家であります。その民主主義の国家である以上、権力を縛るものであると同時に、国の姿についてそれを書き込んでいくものなのだろうと私達は考えております」
すなわち、「憲法が国家権力を縛る」という考え方は、王権・専制政治の時代の考え方であり、今の民主主義における憲法は、国のあり方しだいでは、国民に対して制約を課していくこともあると公言したのです。
民主主義の時代における憲法は、「国家が国民を縛る」ことがあり得ると言い、立憲主義は「王権・専制時代の考え方」などと言いつつ、「天皇を戴く国家」にすると、復古主義的な表明をする。何を言っているのか、誰にもわからないような詭弁です。
憲法学の権威である故・芦部信喜(あしべのぶよし)氏は、現在の教科書の定番となっている著書『憲法 第五版』の中で、「近代立憲主義憲法は、個人の権利・自由を確保するために国家権力を制限することを目的とする(p.13)」と書かれていますが、安倍総理はこれを真っ向から否定したことになります。
近代立憲主義を否定する発言から4日後、安倍総理は再び不可解な発言をしました。
7月7日に放送されたNHKの番組「参議院選挙特集」の中で、自民党改憲草案について、「ここを修正すればいいということであれば、当然考えていきたい」と述べ、中身を修正する可能性について言及したのです。
一見、他党の意見も聞くような、柔軟な姿勢を見せたようにも思われます。しかし、必ずしもそうではありません。
改めて、自民党の参院選公約の中身を見てみます。
自民党の公約集「参議院選挙公約2013」の「憲法」の章では、「憲法を、国民の手に取り戻します」「『憲法改正原案』の国会提出を目指し、憲法改正に積極的に取り組んでいきます」という2つの文章以外に、「○○します」といった、いわゆる国民に対する公約のような書き方はありません。
では、国会に提出するという「憲法改正原案」とは何でしょうか? 自民党の「改憲草案」のことでしょうか?
この「憲法改正原案」が自民党の改憲草案を指すのかどうかについて自民党本部に電話取材をしましたが、「違います」という明快な答えが返ってきました。つまり、自民党の議員らは、口では96条の改正や国防軍の設置などを謳いながら、公約として「第○条を改正する」などと具体的な達成目標を示していないのです。
いい意味でとらえると、他党と協力しながら現在の改憲草案よりもいいものをつくっていく可能性もあります。しかしそれとは逆に、草案をさらにひどい中身にすることも可能になります。
改憲の姿勢はどの党よりも明確に示しながら、公約の中身には具体的なことを書いていない。改憲の中身について、自民党は参院選で大勝した場合は、公約に縛られず、選挙後に自分たちの好きなように「原案」を変えることができる。そうしたフリーハンドを確保している、とみるべきです。
参院選の争点としては大きく取り上げられていませんが、憲法改正と同じく大きな問題を含んだ法案が、深い議論もされないまま秋の臨時国会で成立するかもしれません。それが言論の自由を大きく制約する可能性のある「秘密保全法案」であり、また「児童ポルノ禁止法案」の改正案です。
秘密保全法案については、「IWJウィークリー第7号」の「<IWJの視点>原佑介式モンゴリアン・チョップ2」で詳しく取り上げました。
■IWJウィークリー第7号 http://bit.ly/18QLdyz
今年4月の衆院予算委員会で、秘密保全法に触れた安倍総理は「早期に国会に提出できるよう努力したい」と表明し、現在秋の臨時国会での成立を目指しています。法案の具体的な中身についてはまだ明らかになっていませんが、2011年8月に有識者会議でまとめられた報告書があり(「首相官邸HP」より http://bit.ly/mTrnuI)、これが基礎になると見られています。
それによると、この法案では、まず「1.国の安全」「2.外交」「3.公共の安全及び秩序の維持」の3分野を対象として、各行政機関が「ある事項」を「特別秘密」に指定します。すると、故意や過失に関係なく、「特別秘密を漏らした者」、さらには「特別秘密を漏えいするよう働きかけた者」などは処罰の対象となり、懲役10年以下などの非常に重い刑が科せられることになります。
一番の問題とされているのは、「特別秘密」の対象となる分野の定義が曖昧であり、決定にあたっては第三者によるチェックもないため、一般市民の生活に直接影響するような情報も政府の都合によって「特別秘密」とされ、情報開示が行われなくなることです。
「政府」と一言で言っても、「特別秘密」を取り扱うことができるのは、その中でもごく一部の人間に限られます。それ以外の人は、たとえ政府の高級官僚といえども「特別秘密」について知ることはできなくなるのです。「仮に、そのひと握りの人間が外部からコントロールされたら、日本という国家そのものを牛耳ることが可能になります。この点の危険性は、まだほとんど理解されているとはいえません」と訴えてきているとおりです。
■IWJウィークリー第8号 http://bit.ly/18hA495
■2013/06/26 秘密保全法により、国家と国民の関係が逆転してしまう~岩上安身による日本体育大学准教授 清水雅彦氏インタビュー http://bit.ly/1dtSKQX
岩上安身のインタビューに応える、清水雅彦日本体育大学准教授
このように非常に大きな危険性をはらんでいる法案ですが、今回の参院選の争点として浮上してはいません。各政党の公約を見ても、秘密保全法について書いているのは社民党のみで、「制定反対」の立場をとっています。他の野党各党の関心が低いことは、非常に問題です。
児童ポルノ禁止法については、漫画家の赤松健氏が各種メディアに登場し問題を提起したり、6月にはさいとう・たかをさん、藤子不二雄Aさんら著名な漫画家でつくる「21世紀のコミック作家の会」が反対の声明を出すなど、一部メディアでも大きく取り上げられました。
問題となっている改正案の変更点は大きく2つあります。
1つ目は、「児童ポルノ」を持つこと自体が禁止され、「1年以下の懲役、または100万円以下の罰金」という刑罰が科せられるようになること。2つ目は、改正案の施行から3年を目処として、漫画やアニメ、CGなどへの規制についても検討が行われ、必要な措置が加えられる、という附則が盛り込まれていることです。
改正案は、自民・公明・維新の3党によって5月29日に今国会に提出されました。提出後約1カ月間審議されることもなく、そのまま廃案になるという見方もありましたが、6月26日に閉会中審査申請がされ、継続審議が決定しました。
児童ポルノ禁止法の改正案についても、秘密保全法と同じく、社民党以外の公約には書かれていません。社民党の公約では、「捜査権濫用の危険性があり表現の自由を侵害しかねない」として、自民・公明・維新が提出した改正案には反対するとしています。
社民党をのぞく他の各党は、公約には同法に対する賛否の姿勢を明記していませんが、6月28日にニコファーレで行われた「ネット党首討論会」で、この法案が議題に上りました。
■2013/06/28 「ネット選挙」解禁後、初の国政選挙へ ― 8党首が激突
~参院選2013「ネット党首討論会」
http://bit.ly/12xiqqG
【参院選2013】児童ポルノ禁止法改正案についての各党の姿勢(130628_党首討論より)
この日の党首討論会では、日本維新の会を除く8つの政党の党首が登場し、児童ポルノ禁止法の改正案について、自民・公明が賛成、それ以外の6党が反対の立場を示しました。
公明党の山口那津男代表は、国際的な規制の流れを踏まえると、「子供の人権、人格をいかに尊重し守るかという視点は極めて重要」と述べ、また表現の自由については、「慎重に行わなければならない」としました。一方、反対した6党は、それぞれ子どもの人権を守ることは重要としながらも、単純所持の禁止によって警察による恣意的な捜査が可能になること、また表現の自由が侵されることなどを問題視しました。
憲法改正、秘密保全法、児童ポルノ禁止法の改正、これらが果たして本当に私たち国民のために行われようとしているのか、あるいは国民の権利を不当に制約するものなのか、しっかりと見極めて参院選に臨む必要があります。
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