【IWJウィークリー第9号】参議院選挙、いよいよ公示! 総理問責の真相と自民党が描く社会[岩上安身のニュースのトリセツ] 2013.7.4

記事公開日:2013.7.4 テキスト
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(文責・岩上安身)

 1週間に起こった出来事の中から、IWJが取材したニュースをまとめて紹介する「IWJウィークリー」。ここでは、7月4日に発行した【IWJウィークリー第9号】から「岩上安身のニュースのトリセツ」の一部を公開します。

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参院での総理問責の真相

 第183通常国会が6月26日に閉会しました。

 今通常国会終盤、参議院は、なかば機能不全と言える状況に陥りました。今月21日、自民・公明両党が平田健二参院議長に対する不信任案を提出。土日をはさみ、明け24日から2日間、安倍総理ら閣僚は不信任案提出を理由に、参院予算委員会の出席をボイコットしました。

 これを、国務大臣の国会への出席義務を定めた日本国憲法第63条に違反する「違憲行為」とみた生活の党、社民党、みどりの風の3党は、25日の午後、安倍総理に対する問責決議案を提出しました。

 少々わかりづらいので、問責決議案が提出されるに至る経緯を、少し振り返ってみます。

 6月12日、野党8党が共同で予算委員会開会要求書を提出しました。参議院規則第38条第2項は、委員の3分の1以上から要求があったときは、委員長は、委員会を開かなければならないと規定しています。民主党・石井一予算委員長はこの規則に則り、委員会を会期中に開催すべく、理事懇談会を開催するなどして合意形成を図ろうと予定を調整しました。

 しかし、結局、与野党の合意には至らなかったため、自民、公明を含む全ての会派が出席した6月21日の理事懇談会において、ついに6月24日の予算委員会開催が決定しました。正式なプロセスを経て、開始時刻、各会派の質疑時間など、予算委員会に関する詳細が決定されたのです。

 にもかかわらず、安倍総理ら閣僚は欠席しました。

 24日の予算委員会で、質問をする各人が事前に提出する「質問通告」の提出期限は、21日の15時までと決められていました。社民党党首・福島みずほ議員は21日の午前中に、生活の党・森ゆうこ議員は同日12時10分頃に、文書で質問を通告しました。

 しかし、政府は「与党から質問通告を受けないようにと言われている」と、質問通告を受け取りませんでした。時を前後して、その日の17時頃、自民・公明は、平田参議院議長への不信任案を提出しました。不信任案提出前に質問拒絶など、前代未聞の事態である、と福島みずほ議員はブログで述べ、怒りを顕にしています。

 (BLOG 福島みずほのどきどき日記 http://bit.ly/10wy3kr

 つまり、予算委員会に出席したくない、しかし、開催が決定してしまった。では、不信任案を提出して、国会を、事実上の休会状態にしてしまえばいい。不信任案を提出するから、事前の質問も受け付ける必要がない。こうした打算が安倍内閣に働いたとみるのが自然ではないでしょうか。

 現在、IWJは、「参院選特集プロジェクト」の一環として、各党のキーマンに連続インタビューを行なっている最中です。その中で、私は、福島みずほ議員、森ゆうこ議員とともに問責決議案を共同提出した、みどりの風代表・谷岡郁子議員に、今回の総理問責についてもお話をうかがいました。

 「参院選前に争点を明確化するためにも予算委員会は開くべきだった。自民は逃げまくったの。これが真相です」と谷岡議員は、断言しました。予算委員会欠席を正当化するために、不信任案を提出した、という考えです。さらに谷岡議員は、国会議員として、安倍内閣の憲法違反を見逃すわけにはいかなかったと述べています。

 「憲法99条で、総理はもちろん、国会議員は、『憲法の擁護義務』を負っています。つまり、憲法が守られないような状況になった時には、介入しなければいけない、ということ。そして、今回は、総理が憲法を破ったかもしれない。総理は自衛隊の総指揮官でもありますから、自分を憲法の上に置くような事態になれば、これは『専制国家』の出現で、もはや立憲政治でも法治主義でもなくなってしまいます。

 私たちは、(憲法違反の)疑義があるだけでも不問にふすわけにはいかない。そのために私たちは問責決議案を提出したということなんです」。

 翌26日、通常国会最終日。この日はまず、平田議長に対する不信任案の採決がなされ、その後、安倍総理に対する問責決議案の採決が行われました。結果は、不信任案は反対多数で否決。問責決議案は、民主、共産などがこれに同調し、賛成125票、反対105票の賛成多数で可決されました。参議院が一国の総理の憲法違反を認めた、ということになります。

 しかし、安倍内閣は、問責決議が出されることは重々承知していたはずです。

 その上で、憲法上の出席義務を踏みにじってまで、安倍総理を筆頭に、安倍内閣の閣僚が国会をボイコットしたのは、参院選に向けた選挙対策の戦術のひとつだったとも囁かれています。

 国会に出席すれば、失速中の「アベノミクス」や、自民党2議員の女性スキャンダルなどについて野党から追求されることになります。参院選直前のこのタイミングでのイメージダウンはなるべく避けたい。そのため、わざわざ平田議長への不信任案を提出し、ボイコットの挙に出たのではないか、という指摘です。

 この指摘が正しければ、実に小賢しい国会対策、世論対策だと言わざるをえません。いずれにしても参院予算委員会のボイコットは憲法に反します。憲法改正を掲げる安倍・自民党が、現時点でもすでに憲法を軽んじている姿勢が浮き彫りになったと言えるでしょう(安倍総理問責決議については、今週の「<IWJの視点>原佑介式ローキック」でも取り上げていますので、そちらも合わせてお読み下さい)。

総理問責で国会に幕。参院選始まる

 問責決議可決によって今国会は実質的に閉会し、同時に、事実上の参議院選挙に突入しました。参院選がどのような展開をむかえるかを考えるには、「参議院選挙の前哨戦」とも言われた東京都議選を参照する必要があります。

 26日に開票された結果、自民党が候補者全員当選、59議席を獲得。さらに公明党も全員当選で23議席を得ました。自公は完全勝利です。続いて日本共産党が17、民主党15、みんなの党7、日本維新の会が2と、それぞれ議席を獲得。一方、今回、安倍総理に対する問責決議を提出した生活、社民、みどりの3党は、1議席も獲得ならず惨敗、という結果に終わりました。

 昨年末の衆院選で与党に返り咲いた自民・公明が両党、都議選でも圧勝。定数127議席のうち、約3分の1となる82議席を自・公で占めることとなりました。みんなの党も衆院選時の勢いをキープし、1議席から7議席に伸ばしました。

 民主党は、43議席から、15議席へと、以前の3分の1にまで激減。与党時代に失った国民の信頼を回復するには至っていません。生活、社民、みどりといった中道・リベラル勢力もまた、衆院選時と同様、苦しい戦いを強いられています。衆院選で大躍進した維新の会は、今回、橋下徹共同代表の「慰安婦発言」の影響が大きく響き、2議席に終わりました。このままいけば、参院選でも苦しい展開が待っているでしょう。

 自公の躍進と、民主党の敗退、中道リベラルの苦戦という傾向は、昨年の衆院選から変わっていません。他方、唯一、衆院選時とは違う流れになっているのは、日本維新の会です。

 目をひくのは、共産党が議席を伸ばし、都議会における第三党に躍進した点です。衆院選での中道リベラル勢の大敗を受け、また、維新の失速もあって、共産党が自民への批判票の受け皿となり、票が集中したと考えられます。投票率が過去二番目に低い43.52%だったのも、組織票の多い共産党には有利に働いたはずです。

 都議選と国政選挙の関連性については、経済学者である高橋洋一嘉悦大学教授が、興味深い分析をしています。

 「都議選の直後に国政選挙が行われたのは、最近では、(1)1989年7月2日の都議選と同23日の参院選(2)93年6月27日の都議選と7月18日の衆院選(3)2001年6月25日の都議選と7月29日の参院選(4)05年7月3日の都議選と9月11日の衆院選(5)09年7月12日の都議選と8月30日の衆院選があるが、それぞれ都議選の結果がほぼ直後の国政選挙に反映されている」。

 (2013年6月27日「都議選から参院選を大胆予測!」嘉悦大教授高橋洋一 http://bit.ly/1aWOevD

 維新、共産以外の政党は、衆院選時と似通った結果であることがわかります。投票日まで1ヶ月を切った参院選は、どのように票が分かれるのでしょうか。自民党が大きな失態を演じでもしない限り、やはり衆院選、都議選の結果が濃く反映されることになりそうです。

 都議選の結果から、3つのことが言えるだろうと思います。橋下発言による自滅ともいうべき維新の議席減は別として、総じていえば、昨年の夏、尖閣諸島を巡って、中国との緊張が高まり、メディアを含め、日本社会全体が右傾化して、保守勢力に有利に働く風はまだ吹いていること。

 第2に、東証株価は暴落、アベノミクスのバブルはすでに崩壊し、株式の時価総額で80兆は吹き飛んだというのに、まるで株価の暴落が「なかった」のようにアベノミクスによる好景気をマスコミが報じている影響は絶大であること。

 第3に、投票率の低下によって、無党派層の支持が伸びない中道リベラルが埋没し、組織票をもつ自公と共産の手がたさが際立つこと。

参院選立候補予定者数

       立候補予定者        現有議席
    選挙区   比例    計   改選  非改選    計
民主   36   20   56   44   42   86
自民   49   29   78   34   50   84
公明    4   17   21   10    9   19
みんな  18   15   33    3   10   13
生活    5    6   11    6    2    8
共産   46   17   63    3    3    6
社民    5    4    9    2    2    4
みどり   5    3    8    4    0    4
維新   14   31   45    2    1    3
改革    0    0    0    1    1    2
諸派   62   18   80    1    0    1
無所属  21    -   21    6    1    7
欠員    -    -    -    5    0    5
総計  265  160  425  121  121  242
(注)参院正副議長は出身政党に含めた

 これは、時事通信が掲載した、参院選の立候補予定者数と現在の各党の議席数を表した図です。

 IWJは、これまでも安倍政権の打ち出す憲法改正案や外交姿勢、歴史認識などに強い危機感を持ち、警鐘を鳴らしてきました。

 参議院議員の定数は242人ですが、今回の選挙で121人が改選されます。

 現在の改憲勢力と言えば、自民、みんな、維新です。改憲の発議要件は議員数の3分の2ですから、改憲勢力は162議員を集めなければなりません。自民党からは今回、78名が出馬します。都議選のように、全員当選したとして、128議員。3分の2を集めるには、残り34議席をみんな、維新で獲得しなければなりません。維新の勢いは下火になりつつあるとしても、みんなの党は昨年の衆院選から、順調に票を伸ばしています。厳しいとはいえ、改憲勢力が3分の2を占める可能性はゼロではないでしょう。

 公明党の出方も気になります。公明党が6月27日に発表した参院選公約、「当面する重要政治課題(http://bit.ly/1cHE7Jl )」によれば、憲法96条の改正に関しては「通常の法律の制定と比べ、より厳格な改正手続を備えた『硬性憲法』の性格を維持すべきである」としています。

 しかし、これを額面通りに受け止めていいものかどうか。もし、公明が言を翻し、改憲に賛成となれば、改憲勢力は優に3分の2に達するでしょう。

 それだけではありません。このままでも自・公が過半数を取ることはほぼ間違いありません。衆参の「ねじれ」は解消され、これまでIWJが警鐘を鳴らしてきた秘密保全法、日本版NSC創設法案などといった法案が次々と可決・成立することになります。

候補者にみる自民の描く社会

 参院選といえば、自民党から出馬する「ワタミ」元会長・渡邉美樹氏の動向も注目しなければなりません。ワタミといえば、月141時間もの残業を強いるなどして、社員を過労死に至らしめたことでも知られています。

 ワタミグループの全社員に配布されている「理念集」と称した冊子には、「365日24時間死ぬまで働け」などと書かれていることが、週刊文春などの週刊誌で報じられています。また、「ワタミ理念研修会( http://bit.ly/12BB2o3 )」という勉強会では、「営業12時間の内にメシを食える店長は二流だ」と話している姿が確認できます。さらに週刊文春は、ワタミグループの介護事業で発生した死亡事故の遺族トラブルに発展し、渡辺氏はワタミ本社で遺族と話し合った際、「1億欲しいのか」と言い放ったと報じられています。

 こうした一連の報道で、ワタミグループは「ブラック企業」と呼ばれることも少なくありません。事実、自民党本部には多くの苦情・批判が集まっている様子がみてとれます。

 週刊文春が報じた「〈スクープ速報〉1500人アンケートで渡辺美樹ワタミ会長自民党公認に反対が80%(http://bit.ly/19F8jFm )」によると、渡辺美樹氏の参院選出馬について、文春メルマガ読者の1500人中79.8%が「反対」と回答し、賛成の20.2%を大きく上回ったといいます。

 このアンケートの結果に、石破茂・自民党幹事長は「党や私のところにも批判のメールや手紙が山ほど来ています。本人にも(ブラック企業か否かについて)きちんと説明するよう何度も言っていますし、説明が十分でないとなれば私どもも考えます。その上で有権者が判断されることであり、選挙の責任はすべて私が負うべきことです」と答えたといいます。

 また、先月28日深夜に放送されたテレビ朝日「朝まで生テレビ」では、自民党の平沢勝栄議員が、「(渡邉美樹氏の)公認に関し苦情がかなり来ている」「(個人的には)擁立をやめる形に持っていきたい」などと発言し、自民党票が減ることを懸念しています。

 過重労働によって死に追い込まれた和民社員・森美菜さんのご遺族は、渡邉氏の出馬取り消しを求めるため、先月28日、自民党本部を訪れました。ご遺族は、選挙対策室の議員との面会を望みましたが、対応にあたったのは自民党本部で働く、一職員でした。

 「どうしてワタミを候補者にするんだ。私たちは5年間、毎日苦しんできた」――美菜さんの父、豪さんは、職員にそう訴えました。この様子は、今週のSTF、「『ワタミ会長の参院選立候補を許すな』東京東部労組らが自民党前で抗議 」でも取り上げています。合わせてご覧ください。

 渡邊氏は比例で立候補予定のため、今の自民党の勢いなら、当選する可能性はかなり高いと思われます。自民党はこのまま渡邉氏を擁立したまま公示日を迎えそうです。公示日は7月4日です。

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