政府TPP首席交渉官 「日本は『国として』一丸となって交渉に臨むべき」 TPP政府対策本部が本格始動 2013.4.5

記事公開日:2013.4.7 テキスト
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(IWJ・佐々木隼也)

特集 TPP問題

 「内容については申し上げられないが、日本は非常に厳しい事前交渉のさなかにある」。4月5日夕、甘利明経済再生兼TPP担当相は、内閣府でTPP政府対策本部の看板かけ後に行われたぶら下がりで、記者団に対し語った。安倍政権は、7月に開かれる可能性がある交渉会合への参加を目指し、米国など参加国との事前協議を進めている。意気込みを問われた甘利大臣は、「タフな交渉になると思う。まずは日本の国益をしっかり踏まえ、日本の国益が、参加国すべての国益だという理解をしっかり届ける。すべての参加国がウィンウィンとなるような仕上がりに向けて、最大限取り組んでいきたい」と語った。

 ぶら下がりの後、各省から集まった対策本部職員に対し、訓示式が行われた。その中で甘利大臣は、「この交渉を通じて、途中、非難や誹謗もあろうかと思うが、最終的にやって良かったと言える、国益を踏まえた交渉になることが大事」と職員を激励した。

 その後、新たに国内調整総括官に就任した佐々木豊成氏と、首席交渉官に就任した鶴岡公二氏による挨拶と、記者会見が行われた。意思決定のあり方を問われた鶴岡氏は、「対策本部として全員が一丸となり、一元的な交渉を行う体制を整えたうえで交渉を行うので、意思決定過程が不明瞭になることはありえない」と断言したうえで、「もちろん政府外にも関係者がいるので、国内対策調整官というポストをわざわざ設定したのも、この交渉の重要性と、国内の関心の強さを受け止めてのことだと理解している。従って、日本政府の中の意志決定が明瞭であるだけでなく、交渉に臨む以上、日本は国として一丸となった方針で臨むということが、結局は日本の見解を各国に対して説得的に示すために、不可欠なことだと思っておりますので、みなさんにもご協力をお願いしたい」と、記者団に語りかけた。

18時25分から内閣府本庁舎で行われた、対策本部の看板かけとその後のぶら下がり、訓示式とその後の佐々木・鶴岡両氏の記者会見の模様は、動画撮影がテレビ代表カメラ1社しか許されず、ハンディカムでの録画も禁じられたため、スチールと文字起こしで以下、お伝えしたい。

【18時30分~ 甘利大臣ぶら下がり】

記者:あらためて意気込みと抱負を

甘利大臣「ようやく対外交渉・国内調整について、優秀な二人を事務方トップとし、私が本部長として全体を指揮をとる体制がいよいよスタートした。タフな交渉になると思う。まずは日本の国益をしっかり踏まえ、日本の国益が参加国すべての国益という理解をしっかり届ける。すべての参加国がウィンウィンとなるような仕上がりに向けて、最大限取り組んでいきたい」

記者:甘利大臣は、7月の会合が行われるとしたら参加したい、と常々おっしゃっていますが、米国議会の90日ルールを踏まえるとあまり時間が残されていないが、今の見通しは?

甘利大臣「厳しいせめぎあいをしていると承知している。日本が参加するとしたら、日本の主張を正規の会員として、きちっと述べられる時間が長ければ長いほうがよい。今事務方を督促して、最大努力しているところ。内容については申し上げられないが、非常に厳しい事前交渉のさなかにあるということだけ、ご報告させていただく」

記者:先ほどまで官房長官の部屋で関係閣僚を集めていたが、まさに厳しい内容の事前交渉について意見を交わされたということか?

甘利大臣「現状の報告を受けて、それを関係閣僚と共有した。当然、この種の交渉は何度も経験している。最初からすんなりいくというものではない。それぞれの国が国益をかけて交渉するのであるから、厳しい場面は何度もある。それを乗り越えて、日本の国益、参加国の国益に資する仕上がりに向けて、努力していきたい」

記者:国益を最大化するための一番の鍵はどこにあるとお考えか?

甘利大臣「それは、最終的に国民が良かったと思っていただけることです」

 記者2人の質問で、ぶら下がりは打ち切られ、訓示式へ―。

【18時35分~ 訓示式】

 各省から集められた対策本部職員に対し、甘利大臣が訓示を行う。

甘利大臣「本交渉が始まろうとしております。いかなる時も国益を踏まえて、日本を背負って立って交渉に、調整にあたっているという気概を持って臨んでいただきたい。皆さんに交渉の全権を委任し、後ろ盾は私がなってまいります。そしてこの交渉を通じて、途中はいろいろあると思います。非難や誹謗もあろうかと思いますけども、最終的にやって良かったと言える、国益を踏まえた交渉になることが大事であります。長い闘いになると思いますが、健康に憂慮されて、胸を張って交渉に、国内対応にあたっていただきたいと思います。頑張りましょう」

【18時40分~ 佐々木国内調整統括官と鶴岡首席交渉官の挨拶と記者会見】


(左:鶴岡公二首席交渉官・右:佐々木豊成国内調整統括官)

 TPP広報企画官の中川周氏の司会進行で、質疑開始。

記者:佐々木さん、国内をとりまとめていく自信があるか? また抱負をお聞きしたい。鶴岡さん、タフな交渉になると思うが国益を守っていく自信があるか? また抱負を。

佐々木調整官「現段階で、各省から選りすぐりの人材を集めて、甘利本部長のもと65名の体制を立ち上げ、今後拡張させていく。政府一丸となって、縦割りを廃してやるというのが一致した方針。その方針のもとで、最大限我が国の国益を確保する。これは体制全体の職員全員に対しても徹底する」

鶴岡交渉官「これから交渉に日本国として参加が実現した後に、日本政府を代表して主席交渉官として参加していくことになりますけれども、まだ日本はTPP交渉に参加していませんので、どのような交渉が現実に行われているのか、ということは情報としては承知をしておりますけれども、自らの経験としてはこれからの事と思っております。

 日本は世界からも注目をされ、特に安倍政権のもとでの、経済政策が市場にも歓迎をされて、日本経済が明るくなっているときに、TPP交渉に参加するという、非常に時宜にかなった日本政府の政策は、世界各国から注目と歓迎をうけているということは、現時点でも私から申し上げられること。その中で、日本の経済が、より一層、強い経済となって再生していくことを実現していくようなTPP交渉とし、そしてその結果が、国民の一人ひとりの、幸せと、より豊かな社会創りに貢献していくことを目指すのが、TPP交渉に臨む、日本の基本姿勢だと思っております。各国に対しては、そのような日本の考え方を、明確に伝え、そして建設的な姿勢で交渉し、最終的に日本の国益を、そして世界の利益も、同時に目指していくような交渉にしたい。安倍総理のもと、甘利大臣を本部長として集まったこの体制は、今考えうる、最良最善の体制だと思っております」

記者:現状で、交渉の参加に向けての課題は?

佐々木調整官「国内調整の総括ということで、現段階では事前の段階なので、本交渉に向けた環境整備、色んな情報の収集、与野党の様々な会合でご説明、あるいは国会対応をするのが今の状況。あとは、交渉の進展に応じてそれぞれの課題をこなしていく」

鶴岡交渉官「課題と申し上げましても、まだ交渉自体の参加が、実現しておりませんので、交渉の課題として考えた場合に、日本の国益を守るために明確に対応しなければならない課題は、今の時点では表面化していないと私は考えている。もちろんTPPの交渉状況は、これまでも把握をしながらきておりますので、何が今後課題になるであろうかということについては、承知をしておりますが、より具体的な今現在どういう課題かと、より絞って対応していくのは、正式な参加が認められたうえで、公式かつ具体的な情報と根拠にもとづき、検討を進めるべきことだと考えている。

 では、今現在の課題は何かということになると思うが、交渉も人と人とで行われるものです。個人的に取り組まなければならない最初の課題は、他国の首席交渉官との間で、率直かつ建設的な、協議ができる人間関係を構築することではないかと思っている。今後、様々な場でそうした方々と会う機会があると思っているので、そうした場を最大限活用し、交渉準備を行なっていく」

記者:今、他国の首席交渉官でご存知の方、仲の良い方はいるか?

鶴岡交渉官「以前にも経済交渉を担当したことがありまして、そういう方がTPP交渉にも参加していることは承知している。具体的にどなたか、というのは相手もあることなので、この場で明らかにすることは控えさせていただく」

記者:米議会の90日ルールについて。その90日の間で、交渉官はどういった準備をされていくのか?

鶴岡交渉官「中々良い質問ですね。その間に英語を勉強する、と言ったら、みなさん、そんな事で(交渉が)できるか、とおっしゃるでしょうが(笑)。やはり、まず90日が始まるかどうかは別といたしまして、もう安倍総理の表明による、日本のTPP交渉参加というのは、内外に鮮明された確固たる方針なので、時間はまだわかりませんけれども、必ずやTPP交渉に我々が入ることは、疑いのないことだと思っている。であればこそ、本日TPP対策本部が立ち上がった。出来る限り情報を収集し、よく消化をし、いつ交渉が始まっても対応できるような体制を整えたい」

記者:現在の対策本部は65人体制で、今後は民間も起用するとのことだが、どういった人間を入れたいのか?

佐々木調整官「従来から、法律の専門家、各分野の実務経験がある方に参加をいただいているということもあるので、交渉チームにもそのような人間の起用を考えている」

記者:これから、特に本交渉に入ると、守るべき分野、それから譲歩すべき分野が出てくるが、その際の意思決定のあり方は?

鶴岡交渉官「この交渉には、政府が一丸となって臨む、と甘利大臣の言葉で指示をいただいたところであります。この対策本部はまさに、出身は各省庁であるかもしれないが、全員が一丸となり、一元的な交渉を行う体制を整えたうえで、今後交渉を行いますので、意思決定過程が不明瞭であるというようなことが、起きることはありえないと思っている。

 もちろん政府外にも関係者がいるので、国内対策調整官というポストをわざわざ設定したのも、この交渉の重要性と、国内の関心の強さを受け止めてのことだと理解している。従って、日本政府の中の意志決定が明瞭であるだけでなく、交渉に臨む以上、日本は『国として』一丸となった方針で交渉に臨むということが、結局は日本の見解を、各国に対して説得的に示すために不可欠なことだと思っておりますので、みなさんにもご協力をお願いしたい」

佐々木調整官「幸いなことに私は、今まで3年3ヶ月のあいだ、副長官補として各省と色んな利害調整をやってきたので、それを活かしながら、十分な調整をやっていきたい」

記者:先ほど、「TPP交渉は情報としては把握している」とおっしゃっていたが、現在目指している年内の妥結というのが、可能かとお考えか? 日本は相当遅れて参加するが、日本の主張する余地は十分あるとお考えか?

鶴岡交渉官「繰り返し申し上げるが、日本はまだTPP交渉に正式に参加していない。従って今の2つの質問には、一番正直なお答えは、わかりません、という答え。

 又聞きの情報を、自分なりに理解して、あたかも、自分が一つの結論に行き着くようなことを、無責任に発言するということは、それこそ建設的な交渉の参加の姿勢ではない。今おっしゃった論点は、重要な論点であります。ただそれは、マスコミを通じて、仕入れた情報をもとに、政府として判断するべきではなく、交渉に参加したうえで、自分自身、一義的な情報を、各国の交渉官とも協議をしたうえで、承知をしてから、判断するべき問題ではないかと思っております。従って現時点では、首席交渉官の立場としては判断を申し上げるのは差し控えることが、最も適切なご返事だと思っております」

 約20分の質疑の後、記者会見終了。会見後、集まった50名近くの記者らとの名刺交換が行われた。

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「政府TPP首席交渉官 「日本は『国として』一丸となって交渉に臨むべき」 TPP政府対策本部が本格始動」への1件のフィードバック

  1. pesca46 より:

    TPPのISD条項は、非常に危険であると、あちこちで報じられている。
    1。企業の利益が国に優先している。
    2。訴訟しても、アメリカのみ、有利なシステムになっている。他の条約でも、ISD条項は、あるが、アメリカが全戦全勝となっている。

    アメリカの国民も、議員さえ、中身を知らない。日本の議員も同様ではないか?そんな、秘密会議に中身も知らずに、入れて下さいと行く必要があるのか?

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