~築地市場移転の問題点要旨~
(作成:東京中央市場労働組合)
1.~土壌汚染問題~
・日本で最大面積・最高規模の土壌汚染の場所に、生鮮食品を扱う卸売市場を移転する事自体がそもそも問題である。都民の支持もない。
・土壌汚染調査は終わったわけでなく、現在も調査中である。
・汚染物質はベンゼン(発癌性物質)が環境基準の4万3000倍をはじめ、シアン(青酸カリ類似物質)・ヒ素・六価クロム・カドミウム・水銀・鉛・ベンゾ(a)ピレン等など・・・。
ちなみに茨城県神栖町でのヒ素による土壌汚染・地下水汚染での健康被害は、環境基準のたった45倍。豊洲では飲料に使用しないので状況は異なるが参考までに
・これらの土壌汚染について検討するために東京都が設置した『専門家会議』(平成19年5月~平成20年7月)、『技術会議』(平成20年8月)のメンバーは、すべて東京都が選任しており、「原子力規制委員会」などと全く同じ構図である。
※『専門家会議』については、マスコミを入れ傍聴の意見・発言に答えて平田座長によってかなりオープンな議論が展開された。当然提言の内容は東京都に厳しいもので、実現不可能と想われる内容があり、慌てて組織したのが『技術会議』である。『技術会議』ではほとんどが非公開(知的財産保護等の理由)で御用会議の極み。渡辺さんのいない原発断層調査と思えばよい。しかも「土壌汚染の専門家がいない」(土壌汚染問題の第一人者である畑明郎教授の談・都は専門家だとしている)。
・3.11の地震時には、江東区は震度5強で豊洲用地は大規模に液状化した。数百メートルにわたって汚染された地下水と砂が溢れだしているにもかかわらず(東京都は“噴砂”と称している)、東京都が行ったのは『技術会議』のメンバーのうち二人を現場に派遣し、“目視”で確認しただけ。後に砂の量などを計測したが汚染の分析すら行っていない。原発の断層調査でもこれよりは余程ましである。
土壌汚染対策法では、一度調査をした場所でも再汚染された場合は環境大臣指定の調査機関による『土壌汚染状況調査』を要する。地下水が流出しているのだから当然ボーリング再調査が相当だろう。その判断も法的には調査機関がする事になっている
・土壌汚染対策法に基づく『土壌汚染状況調査報告書』の一部が偽装されている。調査機関が東京都に納品したのが平成23年の3月25日、しかし「噴砂について」というページの日付は平成23年7月14日で、後から挿入されたことが分かっている。信頼性を疑わせる事案である。
・東京都は、Yc層(有楽町層)を『不透水層』だという無理な議論を展開し、基本的にそれより下の汚染を調査していない。また東京ガス豊洲工場の建設時に、建物を支えるために打ち込まれた杭が約18000本残置されていることも発覚している。当然、汚染は地下水を伝ってYc層より下に浸透し、調査もされずに土壌と地下水を汚染しているはずである。(その後の調査で一部が発覚)
・『専門家会議』の提言では「環境基準を越える土壌汚染は、ヒ素・鉛以外は汚染の態度にかかわらず全て除去、ヒ素・鉛については環境基準の10倍以外は全て除去、環境基準の10倍以下を自然由来と判定してAP2mより深部に限って特に除去しない」というものだが、東京都はここへきて10倍以下のヒ素でも「自然由来」などとして、汚染を残留させようとしている。明白な約束違反。
・土壌汚染対策法では「試料採取」は土壌ガスとされているが、東京都は「専門家」の提言により地下水を採取している。環境省ガイドラインでは「地下水の試験採取は」「土壌ガスが採取できない地点に限って実施する」となっており問題がある。
・土壌汚染調査を大急ぎで行ったためボーリング柱状図がデタラメで整合性がない。
・土壌汚染対策法で定める「帯水層の底面」の確認がいい加減である。
・土壌汚染対策法で定める「情報の入手・把握」の確認がいい加減である。
・以上の土壌汚染調査は、土壌汚染対策法に定める「土壌汚染状況調査」に該当し、最終的に『土壌汚染状況調査報告書』を作成した環境大臣の指定調査機関・応用地質株式会社の責任は重大である。応用地質は地質調査の最大大手の会社(上場一部)で、原発のち質調査・断層調査等も行っている。
・土壌汚染対策法に基づく『省令』では「土壌汚染状況調査」が不公正にならない基準として、「土壌汚染状況調査等の実施を依頼する者との取引関係その他利害関係の影響を受けないこと」を定めている。しかし調査機関である応用地質は、現在行われている土壌汚染対策工事で清水建設の“下請け”を受注しており「不公正」が疑われる。また土壌汚染対策法に抵触する可能性がある。
・土壌汚染対策法では都道府県知事の権限があまりにも大きく都知事が恣意的な判断のもと、どんな出鱈目をやろうとも事実上規制することができない。
2.~認可されない可能性、国・農林水産省~
・築地市場移転問題について国は平成19年に閣議決定(福田総理大臣)をしている。「中央卸売市場の移転について、市場関係者や消費者等の理解等を得ることは重要である」「食の安全性や信頼が確保されるよう科学的見地に基づき万全の対策を講じるとともに、消費者等に対して対策の内容等について十分な説明を行い、その理解を得るよう求めている」
・以上の閣議決定を受けて、移転(中央卸売市場の「位置」「免責」の変更・卸売市場法に基づく)の認可を所管する農林水産省は、第9次中央卸売市場整備計画の策定にあたっての審議会の場で「整備計画における新市場の記載は直ちに開設の認可を意味するものではなく、開設者が認可の申請を行ってから、卸売市場法第10条の認可の基準に適合しているかを判断することとしている」と、異例のコメント(食料・農業・農村審議会・食品産業部会 平成23年3月25日)。
・また部会では古谷由希子(消費生活アドバイザー)が「専門家会議、技術会議の委員の選出方法に問題があるかもしれない」「築地市場の移転に関して、安全性の確認においては、そのプロセスが大事である」と発言し、また山根香織(主婦連合会長)は、「国民の健康被害を防止するための慎重な検討・対策を講じることを求める」との見解を示すなど、慎重論。
部会長の山口規雄(味の素会長)は「認可申請の段階では卸売市場法に定める認可基準に合致するための対策をとることを前提に整備計画に記載することを認めるのであり、それが認可基準に合致することにならないのであれば、整備計画の対象から外れることを明確にすべき」「東京都の対策がきちんと行われていることを部会としても確認しておくことが必要ではないか」と、事実上の「移転計画の中止勧告」にまで言及。
これらは、現在東京都が行なっている対策工事の内容を部会に説明した上での発言であり、対策工事が終わったとしても、認可の基準をクリアしている保証は全くない。むしろ、農林水産省や審議会委員が東京都の行う対策に対して、不信感をもっていることが読み取れる異例の議事録である。
・「認可」の問題は、田中真紀子大臣の新設大学認可問題の“逆バージョン”で、豊洲の場合、認可される確証のない卸売市場の建設に、東京都は見切り発車で大金をつぎ込んでいるということになる。通常ならば卸売市場(大学も)のように計画・建設に時間のかかるものは、自治体と国との間で、連絡を取りながら(認可基準に適合する事を確認しながら)進める。しかし築地市場の移転についてはそうなっていない。「開設者が申請を行ってから」「判断する」というのは、「豊洲新市場が出来てしまってから、判断する」という事で、農林水産省は東京都を厳しく突き放している。
今現在でも東京都は「どこまで汚染処理を行えば認可基準に適合している事になるのか」農林水産省の確認が取れていない。(労働組合の要請交渉で国・東京都ともに認めている)
3.~合意形成~
・閣議決定では「市場関係者や消費者の理解等を得ることは重要である」とされており、農林水産省はそれを「認可」の用件の一つとしている。
・しかしこれまでマスコミ等で行われているどの調査でも、おおよそ7割の都民が移転に反対しており、「理解等を」得られているとは到底言えない。
・東京都は築地市場内の合意として、業界団体が合意している事を主張するが実態は団体の理事長・会長などの合意を取り付けているだけで、現実にはほとんどの関係者が反対している。また、ここへきて賛成を表明する業者も多々出ている(恐喝まがいの事も行われている)のは事実だが、それとて「しかたがない」という消極的賛成であり、本音は全く異なる。
このような不十分な合意形成(強引かつ消極的賛成)のもとに新市場を建設すれば、「国民生活の安定に資する」(卸売市場法第1条目的)ものとなるはずがない。事実、現在進められている施設設計について『食料流通新聞』『日刊食料新聞』等業界紙は厳しく批判している。
4.~土壌汚染対策工事~
・以上のように「認可」される確証のないまま、大金を投じて土壌汚染対策工事が現在行われている。
・平成23年8月に対策工事の入札が行われ、清水建設・大成建設・鹿島建設各JVが541億円で落札したが、同年12月4日の『しんぶん赤旗日曜版』が談合の疑いをスクープ。最高落札率97%。また清水建設の下請けに応用地質が入っているが、応用地質は対策工事の「実施設計」も作成しており(またもや!)、発注に係る重要な情報を知り得る立場にあった。これが清水建設の下請けなのだから、入札には不正が疑われる。
・土壌汚染対策工事費用541億円の内、汚染原因者である東京ガスが負担するのは僅か78億円に過ぎず、他は東京都中央卸売市場特別会計から支出されるという問題もある。
卸売市場特別会計は、会計がひっ迫すると施設使用料が値上げされるという関係にあり、最終的に築地市場の事業者は全く見に覚えのない土壌汚染の責任を、施設使用料の値上げという形で負担させられる事になる。土壌汚染の対策費用を負担するのは東京ガスではなく行きたくもない豊洲へ行かされる築地市場関係者なのだ。
対して東京ガスは汚染原因者であるのもかかわらず、ぬけぬけと豊洲用地を不当な高額で売り抜けている。都議会で虚偽答弁をし財産価格審議会にも虚偽の報告をして行われた不正は、現在一部の市場関係者と一般市民により『公金支出返還請求』裁判にまで発展し、争われている。
・この土地は既に一度東京ガスによって対策工事(平成19年完了)が行われたが、結局浄化処理に失敗している。この対策工事を請け負ったのが、今回の対策工事を努める清水建設で、清水建設は同じ地面から二度目の“売上”ということになる。
・清水建設広報は東京中央市場労働組合の電話での「今回の対策工事で豊洲の汚染はきれいになりますか?」という質問に対して、「東京都に聞いて下さい」と繰り返すばかりで「きれいになる」と明言できなかった。また前回(東京ガス・清水建設)の対策工事の後に、最大で環境基準4万3000倍の汚染をはじめ用地全般にわたって汚染物質見本市の様相を呈した理由についても説明できなかった。したがって、清水建設の対策工事を信用することは出来ない。また、汚染処理に失敗した場合の瑕疵責任がどうなるのかという問題がある。
・土壌汚染対策工事の着工にあたって開かれた『技術会議』(平成23年10月18日)では工事の進捗状況を「工事用ホームページに」「対象のメッシュ(10m四方)について」「視覚的に表示して」公表することが確認されたが、公表されているのは不足していた土壌汚染調査の追加部分だけで、東京都は対策工事の進捗状況について一切公表しておらず隠蔽している。
・東京都は対策工事の見学会を開催してはいるが、肝心の汚染処理プラント等について建物の外から見せるだけで全く意味がなく誠意もない。「何も見せない為に、わざわざ人を集めるな」と不評であった。
・そもそも土壌汚染の調査が不十分のまま土壌を移動・運搬することは、汚染の拡散につながり土壌汚染対策法上の問題がある。
・東京都は今年7月27日に『土壌汚染対策工事の情報を公表しておらず、何が行われるのか全くわからない』
・これら土壌汚染の調査・対策工事に関する問題は、「原発利益共同体」と登場人物が似通っており本質において同じである。
豊洲の土壌汚染調査を行った応用地質は、原発の地質・断層調査も行なっている会社である。また対策工事を受注した大手ゼネコンは、同時に原発の建設によって大きな利益を上げている。東京電力のところは東京ガスに変わるが、これらに官・政・学が加わり「土壌汚染利益共同体」の姿が浮かび上がる。
5.~都市計画法の問題~
・卸売市場は都市計画法の上では「都市施設」に該当し、平成23年7月29日に東京都は『東京都都市計画審議会』を開催し、都市計画決定をした。ところが、この法手続きにも大きな問題がある。都市計画法では、都市計画決定にあたって第17条に定める「都市計画の案の縦覧」をすることが義務づけられているが、実はこの「縦覧」が締め切られたのが7年以上前の平成19年2月16日にまで遡る。
平成19年2月16日と言えば、若林環境大臣が豊洲について「安全と言い切れる状況にない」と衆議院予算委員会で明言したその日であり、翌平成20年には環境基準の4万3000倍のベンゼンが検出され、赤松農水大臣が「安全が確認されなければサインしない」と述べたのが平成21年の9月。
これだけの状況の変化がありながら、住民は都市計画決定についての「意見を提出」をする権利を、4年も前に失っていた事になる。
東京都都市整備局も「都市計画の案の縦覧」について通常は都市計画決定の直前、長くても半年以上という事はないとしている。強引な都市計画決定であり違法か、少なくとも脱法である。
6.~立地条件の問題~
・築地市場は扇形に弧を描き、正門は遥か皇居に向かい、東京全体に開かれている。対して豊洲新市場は正門を施設の内側に抱え込み、三方を海に囲まれて、卸売市場というよりは牢獄に向いている。
・豊洲新市場は鉄道でのアクセスが明らかに悪くJRの最寄り駅が存在しない。また仮にJR新橋駅から通うと、“新交通ゆりかもめ”で『市場前駅』まで約28分、片道370円で往復740円にもなり、個人経営・零細小売店・飲食店の経営を圧迫する。因に370円あればJRなら築地市場の最寄り駅である新橋駅から、埼玉県まで行くことができる。
・豊洲新市場の最重要動線である環状2号線は、同時に築地市場を貫通する道路だが、当然、築地市場の営業中には大きな工事を行えず、新市場の開場時には築地市場内の旭冷蔵庫棟を壊して汐留交差点に繋がる2車線バイパスでの開通となる。ところが、汐留交差点は現在でも複雑で事故が多発しており、ここにさらに2車線なのだ。環状2号線が事故で不通になった場合、道路からのアクセスも極めて限られることになる。(東京都はこの道路について、ほとんど不可能に近いことを簡単に出来るように説明をしているのではないか。『日経ケンプラッツ』が環状2号線の本線開通について「オリンピック後」という見通しを報道している通り、環状2号線の本線開通には相当な期間を要するはずである。豊洲新市場は、鉄道のみならず幹線道路についても貧弱なアクセスのまま、数年間営業せざるを得ない可能性も含んでいる)
・東京都は新市場へのアクセスにシャトル・バスの運行を検討するとしているが、24時間営業を目指す豊洲新市場で、何時から何本運行するのか、どの駅から運行するのか、運賃はいくらか、運営費用はどうするのか等、現在のところ全く明らかにされていない。また、東京メトロ有楽町線の延長も議論されているが、どこに駅を作り、どのように新市場にアクセスするのか、こちらも具体化には程遠い。
・“新交通ゆりかもめ”や東京メトロは朝の始発電車が遅く、通勤・買いだしに問題が生じるが、問題の解決策の計画すらが存在しない。
・豊洲新市場の計画で、まったく無視されているのが徒歩・自転車でのアクセスである。ご存知のように現在の築地市場では、銀座・新橋・八丁堀をはじめ様々な場所から、徒歩・自転車での来場がある。この大事なお客さんが豊洲新市場では全滅となる危険性がある。
7.~施設設計の問題~
・東京都は平成22年10月の石原都知事による「移転決断」(法的に意味はない)を受けて平成23年6月に『基本設計』、平成24年6月には最終的な『実施設計』を策定し、平成24年度中に本体工事着工としていたが、全く進めることができずに現在『基本設計』すら公表できていない。
そもそも東京都は平成18年10月に『基本設計相当』を業界合意し図面を公表していた。しかし移転反対運動の大きな盛り上がりの前に、現実には着工に至らず頓挫している。その後6年もの間、東京都は業界団体とは個別に協議しているとしているが、実際には団体幹部だけであり、消費者・都民はおろか築地市場内の事業者・労働組合にすら一切図面が公表したことも説明したこともない。
しかしここへ来て東京都は、『基本設計』と『実施設計』を「一体のものとして」業界合意し、業界との合意機関である『新市場建設協議会』を開き(11月27日)最終的な設計図を策定するなどとしており問題である。これこそ密室での合意にほかならない。
仮に移転するのであれ、十分な議論のないまま施設を造ってもまともな卸売市場ができるはずはなく、『食料流通新聞』『日刊食料新聞』など業界紙が厳しく批判しているのは当然である。(本年10月16日~18日に仲卸向け説明会を開催したが、唐突で形ばかりのものである)
・上記のように東京都は『基本設計』と『実施設計』を「一体のものとして」などとしているが、実際にはいずれも高額でとっくに発注され、『基本設計』については既に納品も済み8610万円が支払われている。また『実施設計』の費用は総額12億2千万円にものぼり約3億円が前渡しされている。
これは東京都が業界の合意すら得ないまま独断で発注し、業界をねじ伏せたということになる。施設設計への業界の強い不満は今もくすぶっており、今後設計が変更になる可能性は高く、これら既に支払った費用はその場合無駄になる。
・また東京都は建築基準法に基づく『計画通知』(民間の確認申請にあたる)の申請を、これも業界の合意を得ないまま10月17日に既に行ってしまっている。設計が変更となった場合、この費用957万円も無駄になる。
・上記『建築通知』には、構造計算書などと共にボーリング柱状図の添付が義務づけられている(基礎構造部の強度の設計に用いる)が、東京都の説明によればこれがたったの8本しかない!築地市場の現在地再整備の時には約100本のボーリングをした事を考えると、あまりにも少ない。
土壌汚染問題も含めて、東京都は明らかに豊洲用地の地面の下の“何か”を隠蔽している。
8本しかない理由を東京都は「地層に穴を開けて土壌汚染を拡散させないため」としているが、環境省が業界に提供している資料等によればポーリング孔を塞いで汚染を拡散させない技術は確立されており様々な現場で当たり前に活用されている。したがって東京都の説明は成り立たない)
・3.11の地農で大規模な液状化を起こした事からもわかるように豊洲用地の地盤は極めて軟弱である(同じく3.11で液状化した浦安よりもさらに悪い)。
これについて東京都は、液状化対策として地盤改良工事を行うこととしているが、この地盤改良工事が想定している設計地震動は最低のレベル1となっている(情報公開請求資料より)。この設定は中地震にしか対応しておらず、護岸部の駐車場並で、桟橋等ですら許されていないもので(国土交通省資料)、ましてや中央卸売市場のような重要施設では絶対にあり得ない。
・東京都は2月28日に豊洲新市場建設工事の起工式を行ったが、実は豊洲新市場は『基本設計』が業界合意されていない。当然、正式に決定された設計図というのも存在しない。
東京都は『豊洲新市場建設工事施設計画の概要』を業界と合意したとしているが、これが表紙・能書きを入れてもたった10ページしかないガリ版刷りに毛が生えたような代物で、総工費2,000億円・移転総予算で5,500億円の図面とは到底考えられない。当然、施設整備費用の「甲(官)乙(民)負担区分」など重要な事項も欠落している。
したがって起工式は行ったものの東京都が一体“何”を発注し、何を建設しようとしているのか、全く不明である。卸売市場の開設者は確かに東京都だが、具体的事業を行うのは事業者なのであって、合意もされていない図面をゼネコンと密室で議論してもラチは開かない。東京都は勘違いをしているのではないか?
・豊洲新市場には設計図だけではなく、じつは『物流計画』も存在していない。物流施設なのに『物流計画』がないのである。昨年夏、東京都は『物流検討会』を立ちあげたが、本来は10年も前にやっておくべきことであり、起工式を行ってから物流を検討するというのでは、本末転倒も甚だしく『物流計画』は絶対にまとまらない。
・これも新市場建設協議会で伊藤裕康会長が指摘し判明したが、東京都は『ドッグ・レヴェラー』『垂直搬送機』の負担を、許しがたいことに民間に押し付けようとしているらしい。そもそもこれらの施設が必要になったのは、東京都が施設の立体配置、閉鎖型・高床式施設を強硬に主張したからにほかならない。その負担を業界に押し付けるなど言語道断で、伊藤会長の怒りは当然である。
因みにこれらが民間負担になった場合維持管理にも膨大な金額を要し、施設使用料に上乗せされる。
・現在、築地市場では一日に約1,000トンの濾過海水を使用しているが、この『濾過海水施設』についても東京都は民間に押し付けようとしており、このままでは世界最大の水産卸売市場に『濾過海水施設』がないという事態になりかねない。
豊洲新市場の場合、土壌汚染の問題があるので取水口をかなりの沖合まで延ばして取水する必要があり、この費用がバカにならないらしい。このような土地に移転する計画を進めてきたのは東京都なのだから、これこそ東京都が負担するのは当然ではないか。
・『東卸』では「面積あたりの施設使用料は変わらない」としているが、都議会など正式な場所で、東京都はこの問題について明言を避けている。また、豊洲新市場に固有な施設については施設使用料に上乗せされるが、それがどれほどになるのか、これも東京都は明言を避けている。したがって事業者はそれ相応の覚悟をしておいたほうがいい。
また豊洲新市場では施設は閉鎖型となり、東京都の説明では「高度な品質・衛生管理」等と称して「地域冷暖房」が導入されるが、このランニング・コストも明らかにされていない。3月の都議会・経済港湾委員会では「電機・水道などにつきましては使用料がこれまで通りであれば、かかる費用もこれまで通りとなります」などと、人をおちょくった回答をしており、許されない。
また22℃~25℃という温度設定にも問題があり、商品の品質管理のためには結局事業者が自前で施設の設置が必要になることは必至だとされている。その場合事業者は二重の負担を強いられる事になり、これをどうするのかについても業界との調整は全くついていない。
・東京都は一昨年3月から、珍妙な「仲卸のモデル店舗」なるものを作り、実寸法の模型を築地市場内に展示している。これが大変に不評である。移転費用は最低でも1,000万円以上などと言われるなか、これを見せられた事業者の“ガッカリ感”は、確かに想像して余りある。移転に協力してきたある事業者は「こんなもののために膨大な時間を使ってきたのか・・・」と呟いたという。当然である。
・豊洲新市場の設計は基本的に大手流通向けの閉鎖型・物流倉庫であり、一般入場者は制限されることになる。したがって豊洲新市場に「賑わい」は生まれない。物流倉庫が「賑わう」必要はないからである。当然、関連事業者の経営は厳しい見通しとならざるを得ない。また、千客万来施設がこれに追い打ちをかけることになる。
それから余計なことかもしれぬが、関連事業者のなかでも『物販』の“あの場所”に、一体誰が買いにくるのだろうか・・・?
8.~物流の問題~
・豊洲新市場用地には、環状2号線と補助道路315号線とにより十文字に三分割されているという根本的な問題が存在する。
6街区・7街区・5街区が、それぞれ水産仲卸・水産卸・青果と区分けされるが、問題なのは各街区は一階部分に穴を掘って『連絡通路』を作り、それで辛うじて接続されているに過ぎないことである。これはいわゆるボトル・ネックと言われるもので、巨大な施設である6街区棟と7街区棟の“全物流”の負荷がこの細い『連絡通路』にかかることになり、円滑な物流の妨げになることは明白である。また特に水産部と青果部の間にはその「穴」すらなく、“物流動線”自体が存在しない。笑ってはいけないが、豊洲新市場とは、恐らく歴史上初めて“物流動線”が全く存在しないという、世にも奇っ怪な卸売市場なのである。
また、連絡通路以外にもスロープ入り口、冷蔵庫入り口、外周道路、アンダー・パス等、様々なボトル・ネックが確認できる。特にエレベーターが連絡通路脇に設置される予定で、エレベーター待ちのターレーに小揚げ・仲卸が入り乱れ、最悪のボトル・ネックとなることは確実である。豊洲新市場は施設設計に労働組合等が参加しておらず、物流の実態が全く考慮されていない。中央卸売市場とは生鮮食料品が流通するそのまさに現場であり、東京都はこの問題をあまりにも軽視している。
因に、築地市場は水産仲卸・水産卸・青果が、“線”ではなく“面”として密着しており、あらゆる複雑な流通に、現に対応している。卸売市場とは“面積”ではなく“物の流れ”であり、“建物”ではなく“人”なのだ。
・以上のように、豊洲新市場は面積を継ぎ合わせただけの間抜けた卸売市場だが、卸売市場の“顔”といえる水産部・仲卸については、実はその面積すらが確保されていない。
東京都は豊洲新市場での水産部取り扱い数量を1日2,300トンとしているが、(築地市場は2,000トン)、水産部・仲卸の実質売り場面積(通路を含む)は29,430㎡しかなく、築地市場の3 1,673㎡よりはるかに狭い。以上の不合理は、豊洲新市場と築地市場とを比較することで容易に解明することができる。
築地市場の場合、敷地の中央に水産部・仲卸が位置し、その回りを卸・青果・関連事業者・駐車場が取り囲むように配置されており合理的である。対して豊洲新市場の場合、上記のように三分割されているために、水産部・仲卸を中央に配置できない。したがって6街区に仲卸を配置すれば、駐車場も関連事業者もと、6街区だけが“テンコ盛り”となり、5街区・7街区は“スーカスカ”という状態にならざるを得ない。(事実、5街区・7街区は当初計画よりかなりの面積を返上し、建物自体が大幅に縮小しているが、6街区だけは逆に“荷捌き場“を取りやめて仲卸店舗面積にあてざるを得ないという事態が生じている)
豊洲新市場は十分な仲卸売り場のスペースを取ることすらできない卸売市場なのである。したがって水産部・仲卸売り場が配置される6街区は、“築地市場の狭溢化”を解決するどころか狭隘化はより一層ひどくなり、卸売市場の円滑な物流それ自体が危ぶまれることになる。そして現実にこの問題を解決するためには、環状2号線と補助道路315号線とをどける以外の手立ては存在しない。
・東京都はこれまで都民や関係者に対して「豊洲新市場は広い」と説明してきたが、以上のようにこれはとんでもない大嘘である。彼らは十何年ものあいだ、我々を騙してきたのだ。
・物流動線がもっとも貧弱なのも6街区である。現在の築地市場には約150の茶屋があるが、仮に車が2台ずつ駐車しても300台をはるかに超えて収容してることになる。またそれ以外にも駐車場への直接の配達などが行われている。ところが、豊洲新市場では6街区・1階の駐車・積み込みスペースに、121台+91台の合計212台分しか用意されておらず、当然それ以外は4階駐車場への配達とならざるを得ない。
現在の築地市場では7つの大通路と8つの小通路、合計15の通路が配達用の物流動線となっている。しかし豊洲新市場の場合は、4階駐車場への動線は僅か数台のエレベーターとごく貧相なスロープが3つしかない!しかも1階の積み込みスペースから4階駐車場まで、卸会社からの小揚げによる配達も集中することになり、当然エレベーターとスロープだけで賄い切れるわけがない。
・また、豊洲新市場のバース(着車スペース)は6街区と7街区を足しても375台分しかなく(新市場建設協議会で伊藤裕康・卸売業者協会会長が指摘して明らかになった)、現在築地市場で確認されている600台には全く足りていない。したがって積み込み待ち時間は相当なものとなり、物流には大変な時間を要することになる。混乱は避けられず、解決の見込みもない。
・そのくせ豊洲新市場は40ヘクタールと無駄に広く、そのことによって経費が増大する。たとえばこれも6街区の水産部・仲卸が割りを食う話だが、とにかくセリ場が遠い。6街区から7街区までは最短で約100mもあり、築地市場に置き換えると岸壁の向こうまで行ける距離になる。したがって豊洲新市場で番頭などが「ちょっとセリ場まで・・・」と言っても自転車が必要ということになりかねない。とうぜん“引き取り”にも時間がかかり人件費も増大する。また水産部・仲卸から青果部までは700mから1,000mもあり、築地市場に当てはめるとJR新橋駅までに相当し、経費は増大する。また既に述べた通り、物流動線は存在せず、解決策も示されてはいない。
・豊洲新市場での物流には多くの困難が予想されるが、最も際立った例をあげると、まず水産部仲卸から青果部駐車場への荷物の配達に問題が生じる。6街区から5街区へはターレット(電動小型特殊車)で通行できる動線はなく7街区を経由しなければならない。この場合の走行距離はゆうに1,000mを越し、これは築地市場正門からJR新橋駅まで行ける距離ということになる。豊洲新市場の中途半端な面積の広さが事業者の経費を増大させる一例である。
・以上の根本問題の他に、豊洲新市場にはコストパフォーマンスの上でも重大な問題が未解決となっており、その最大のものは施設の立体配置の問題である。
荷物を運搬する場合、築地市場のように水平方向に移動するほうが垂直方向に移動するよりも時間・労力の点ですぐれていることが知られているが、豊洲新市場では各施設が立体配置にせざるを得ず、配達の人件費、『垂直搬送機』『スロープ』『エレベーター』などの施設整備費用、施設管理費用などが、施設使用料、物流コストを大幅に押し上げる。
これまで東京都は、豊洲新市場では『効率的物流』が実現すると説明してきたが、以上のようにこれも大嘘である。特に水産仲卸事業者は、相当な人件費増を覚悟すべきである。
9.~その他の問題~
・2月19日に正式に発表された千客万来施設は、報道によれば「多種多様な専門店約140店の場外市場」「首都圏最大規模の温浴施設」で、年間420万人の来場を見込むという。とうぜん豊洲新市場のただでさえ貧弱な外周道路に素人の車両が侵入し、物流の妨げになる。『物流計画』すら決まってないにもかかわらず、「露天風呂」の方が先に決定するあたりに、豊洲新市場の悲惨な現実が映しだされている。
・中央区が計画している鮮魚マーケット『築地新市場』については2012年2月に東京都と中央区で結ばれた『合意』文書をよく読むことをお勧めしたい。東京都はやんわりとした表現だが、豊洲新市場の「至近に卸売市場を整備することは適当でない」とし、さらに「勝ちど門駐車場などを暫定的に有効活用することについて検討を行っていく」としている。「暫定的」で、しかも「検討」なのだから、つまりこの駐車場は使えない可能性が高いという無責任な『合意』なのだ。豊洲への移転総予算は、既に5,500億円にも達しており、東京都は持てる全ての土地を早急に売却する必要がでてくる。応募されている事業者の方は中央区と、“そこ“をよく確認すべきである。
・3.11の震災時、築地市場の業界関係者は驚くほどの結束で救援物資を募り、被災地にむけてトラックを出した。ところが豊洲新市場の場合、地盤改良工事を行うとは言うものの、その設定地震動は僅か144ガルにすぎないことが情報開示請求で明らかになっており、これは前回同様の震度5強の地震が起った場合、トラックを出すどころか、豊洲新市場は救援をお願いする立場になり、数ヶ月にわたり営業を行えない可能性がある。
・今年7月、築地市場内の業界団体の代表者で構成する築地市場協会が移転問題の「検討特別委員会」を設置し、以上の問題を中心に防災・無線LANの設置、バイアフリー、パッケージ施設、冷蔵庫など、東京都に対して要望と質問事項を集約したが、これらについても東京都は明確な回答をしていない。
また特にこの中でも、「水神社」の移転要望を「政教分離」を理由に東京都が認めていない。迷信と言うなかれ、これは築地市場という世界にもまれに見る素晴らしいシステムを作ってくれた先人たちへの我々からの感謝の気持ちである。東京都の硬直化した姿勢に対する築地市場関係者の抵抗感は強い。
10.~まとめ~
・以上のように豊洲新市場には問題が山積しているが、そもそも豊洲新市場への移転が、バブル期に計画されたものであることを忘れてはならない。リーマンショックを経験した我々にとっては明らかに時代遅れの遺物なのである。これをそのまま、実現できると考える事自体がどうかしている。
石原慎太郎は都知事現職の頃、移転に反対する我々を「ノスタルジー」だと言って切って捨てたが、豊洲新市場こそ『新自由主義』へのノスタルジーそのものではないか。
・卸売市場法では、中央卸売市場を移転(位置及び面積の変更)する場合、開設者(東京都)は「開設に要する費用並びにその財源及び償却に関する計画」を定めるよう求められている。ところが、この償却こそが豊洲新市場整備計画の最大の問題として今後持ち上がってくることは確実である。
豊洲新市場の整備費用は、土地(土壌汚染のあのバカバカしい土地!)の購入費用に約2,000億円、施設建設費に約2,000億円(当初の990億円からぐっと増えている)、汚染対策費用に約760億円(本来は汚染原因者である東京ガスが負担すべきだ)・・・その他諸々を含めて、ついに5,500億円(しんぶん赤旗調べ)にも達しているのだ。これは既に『公営企業特別会計』を破綻させるのに十分な金額である。しかも、これで終わった訳ではなく、どこまで増えるかわからないのだ。これらの費用は最終的には施設使用料という形で事業者が負担することになる。その負担も、この移転を契機に廃業を選択する事業者が多ければ多いほど、移転する事業者の肩に重くのしかかってくることになる。
水産業の未来は、決して明るくはない。農林水産業の保護はもちろん、資源保護などを含めて、様々な問題にも取り組まねばならない。そうしたなかで、どうやってこの巨額を償却するのか?あまりにも過大ではないのか・・・?
以上のように豊洲新市場は、少なくとも現行の施設設計では卸売市場として全く機能せず、使いものにならない。特に『物流計画』もない、『設計図』も示せない、というのでは話にもならない。既に豊洲新市場の施設設計は“崩壊”している。
なお、本稿にも事実誤認が紛れこんでいる可能性はもちろん否定しないが、仮に事実誤認があったとしても、その責任は全面的に東京都にある。質問にも話し合いにも応じてこなかったからである。