【岩上安身のツイ録】まるで「ブラック部活」!? 「文武別学」学校における「特待生制度」の裏でひそかに進む人権侵害! 高校球児はリトルリーグの延長のような、エンジョイベースボールを! 2017.7.29

記事公開日:2017.7.29 テキスト
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(岩上安身)

 文武両道と、文武別学が、極端に分かれてしまった現在の高校野球。全国にスカウト網を持ち、小学校から目をつけて、金を全部学校で持つ「特待生」として入部。勉強はしなくてよし。練習が単位になる学校もある。怪我などして退部となったら自動的に退学。あげく無償と言っていた入学金、学費、寮費すべてを請求してくるケースすらある。

 関東のとある私立高校の、ある運動部の「特待生」が経験した実話である。ケガで練習に出られない日々が続いたら、退部と退学とそれまで無償だった約束のカネを請求されたのだ。とても払えない、と思ったので、ケガを押して必死になって「部活」にカムバックを果たしたという。

 そんなわけで、文武別学の一部の学校は、授業などろくろく出ないで昼間から夜遅くまで野球漬け。しかも、一般入試で通ってきた学生は入部させないところも。特待だけでハイレベルの練習をするので、一般学生は入れない。都内の、柔道で有名だったある私立高校は、別学の典型。

名物監督を招こうとしたら年俸3千万円!? ベンチ入りメンバーの父兄が金を出し合って「御礼」に100万円!?

 ある知人は中学まで野球をしていたが、その私立高校に一般入試で入ったら、野球部に入れてもらえなかった。

 特待生は特待生で固まってクラスを形成。進学クラスは、部活なんてとんでもない、お前らは東大を目指せとハッパをかけられる。勉強と部活の両立、文武両道などは許されない。隔離されていたので、運動部が全国大会に出ても一体感は全く感じられなかったと語る。

 こんな文武別学が、全国に広がってしまっている。ある大阪の私立高校を経営する学校法人の理事長さんが、僕に直接話してくれたのは、高校野球のプロ化の凄まじさ。優勝請負人と呼ばれる関西の名物監督を招こうとしたら年俸3千万円と言われたという。

 関西のトップの強豪校では、春、夏、秋など、シーズンごとにベンチ入りメンバーを発表するたび、ベンチ入りメンバーの父兄が金を出し合って御礼を持っていく。その金額100万円! これは、関係者から直接聞いた話だ。

 報徳OBで野球評論家の金村氏が、レギュラーは実力、あとのベンチ入りは父兄が監督に積む金次第と、ラジオで曖昧な言い方ながら、話していたことがある。これは僕の聞いた話とも符号するので、事実に基づいている話だと思われる。表沙汰にできない金なので、当然、裏金。ということは、脱税の疑いもある。

 高校の名前を売るのは、手っ取り早いのは甲子園だ。文武別学高校は、授業という足かせから自由になった上で、全国から野球エリートをスカウトして集め、丸一日近く練習をさせて、普通の高校の、授業後の部活でやっている野球部のチームと同条件で戦う。これはおかしくないか?

本質的には普通の文武両道の学校の部活に過ぎない、清宮幸太郎擁する早稲田実業 特待生中心の文武別学の学校はセミプロ集団と変わらない!

 清宮幸太郎の活躍で、今、注目を集めている早実は、僕の母校である。清宮人気はあるものの、高校野球ファンからすると、早実野球部は頼りない。「本物」の強豪校とは違う。鍛え抜かれた強さを誇る野球部ではない、と見られている。その通りだと思う。プロ志向の特別な選手が入ってこない。それは当たり前のことで、入試の偏差値74の高校であり、これは都内で6番目の高さ。早稲田学院と並ぶ。一芸に秀でた生徒を取る制度もあるが、成績の足切りは当然ある。野球だけの子は入れない。

 僕は高校入試で入学して、剣道部に所属した。普通に授業を受けてからの部活。だが厳しかった。当時、東京は国士舘さえ破り無敵。関東大会を二連覇した。物凄い厳しい練習の質と量の分だったなと思うが、普通に文武両道の部活だった。授業を休んでまで、練習していたわけではない。

 練習時間は、授業後、三時間。それでもきつくて大変だったが、運動部をやる生徒とそうでない生徒の間で何も垣根はない。野球部も一緒。僕の代は、春も夏も甲子園に出場したが、野球部のエースだった弓田とキャッチャーの栗島は僕と同じクラスだった。バレー部の主将の金沢もいた。バレーも強かった。

 野球部も剣道部もバレー部も、他の生徒と同様に最後まで授業を受けてから、部活に入る。野球部員はグラウンドのある武蔵関まで、大急ぎで向かって行って練習。猛練習だったとは思うが、文武別学の、特待生だけで構成される高校とは練習量が違う。

 早実は当時、早稲田鶴巻町にあったが、国分寺へ引っ越し、共学に。小学校も併設され、伝統の商業科がなくなった。この時、「早稲田実業」という名前を捨てて、「早稲田学園」とかなんとかいう名前に変えようという動きがあった。冗談じゃないと、OBの多くは大反対。

 なんとすべてのOBのもとにアンケートが送られてきた。僕はもちろん校名変更に反対と書いて投函した。かくて、商業科はなくなったが、「早稲田実業」の名前は残った。そして、今も文武別学ではなく、一般の生徒と清宮や野村のような超高校級の選手とが同じクラスで学んでいる。

 もちろん、練習は授業を受けてからだし、合同練習は放課後、3時間くらいしか取れない。あとは自主練だが、寮もないので帰宅を急がなくてはならない。要するに早実の野球部は、偏差値が少々高いが、本質的にはふつうの文武両道の学校の部活に過ぎないのだ。

 一部の文武別学では、勉強はそっちのけで、野球のみに打ち込む。これで同条件で大会に出るというのは、やはりおかしくないだろうか?特待生中心の文武別学の学校はセミプロ集団と変わらない。いっそサッカーのようにユースチームとして別大会にしたらどうなのか。ユースはユース同士で大会を行ったらいい。

ひそかに強化される「特待制度」 その陰でひっそりと進む人権侵害!

 特待生で構成される別学の、金の問題も透明化すべきだ。家が貧しいが優れた才能のある子供に、セミプロ球団が目をつけるのはいい。しかし、契約書に基づいて契約が行われ、人権が守られるべきだ。冒頭で書いたような、不当な請求は明らかに人権侵害である。これでは「ブラック部活」ではないか。

 あくまで高校生の部活という節度を守る野球部だけが集まり、学生の、部活というレベルで、野球を楽しむ。もちろん、そんな中に、早実のような普通の学校に清宮幸太郎のような選手がたまさか登場して甲子園を沸かせることがあってもいい。

 日本の野球システムは再考すべき時に差し掛かっている。地元の選手が全然いない野球部。授業に半分も出ない野球部員。一般入試の生徒と交流もない野球部。そんなセミプロチームが、甲子園で「活躍」し、プロ野球に優れた選手を輩出し、学校の名前を全国に轟かせる。かくて「特待制度」はひそかに強化され、その陰でひそかに人権侵害も進む。悪循環である。

 そうした特待生中心のセミプロチームが普通の部活として野球をやっている文武両道の高校生のチームと対戦して勝ち、優勝したとしても、それは高校生の野球の勝利を意味するのだろうか?たまたま早実には清宮というスラッガーがいる。けれども文武別学セミプロチームに勝つには投手力が足りない。練習量も何もかも足りない。でも、それは普通の部活である限り、当たり前の話ではないか。

 日大三校もまさかの予選敗退を喫した。早実も決勝まであと二試合(※この稿を書いたのは西東京大会準決勝の対八王子学園戦の前)。目前の試合ひとつひとつを勝ち抜いていかないと、甲子園の土を踏むこともできない。文武両道の部活の学校が、文武別学セミプロチームに挑み、勝てたとしたらそれはそれでドラマだが、どこかやはり無理がある、と思う。

主役はあくまで選手 楽しく、リトルリーグの延長のような、エンジョイベースボールを最後まで貫くべき!

 早実はとんでもない打力のあるチームと思われているが、3番の清宮と4番の野村を別格として、粘り強い打撃や出塁をしているのは、捕手から投手に転向したら雪山君、野田君、橘内君、この三人だけである。あとの4人のバットはすっかり湿っている。

 つまり、打棒早実を支えているのはこの5人だけ。あとの4人でアウトカウントを取って、5人の連続攻撃にならないように寸断していけば、大量得点にならずにすむ。調子を落とした4人の代わりのバッターもいないし、急造エースの代わりもいない。

 幻想を剥いでしまうと、早実は、人材不足のふつうの高校の部活のチームなのだ。凡プレイもしばしばある。それをドンマイと励ますエンジョイベースボールなのだ。主将の清宮自身がアウトカウントを間違えて走塁ミスを犯し、チェンジの際、円陣を組んで「アウトカウントは間違えないようにしよう」と自ら声をかけ、笑いを誘った、という話もある。笑顔でミスもエラーもまじえながら、乱打戦を勝ち抜く。それを楽しむファンもいるが、「あんな気の抜けたプレイではプロでは通用しない!」というお叱りを受けることもしばしばだ。たしかに「プロで通用するか否か」を絶対的なモノサシとすれば、その通りなのだが、本来、高校野球は、勉強が本分の学生の、アマチュア野球なのではないか。プロ野球のモノサシがすべてなのか。ちょっと見当違いな御批判と思えて仕方ない。金をもらって職業として野球をするならば、ミスは許されないだろうが、高校生がエラーやミスをするのは当然ありうることで、それを「ドンマイ!」と励ますことが、周囲が一番にやらなくてはいけないことではないか。

 高校野球は、プロ野球の二軍ではないはずだ。プロとは独立した勝負であり、イベントである。早実は、犠打などをほとんど使わず(おそらくは使う練習をろくにしておらず)、全員がバットのグリップいっぱいをもって、思い切りよく振り回す。それが当たる時も裏目に出る時もある。

 だが、全力スイングした選手は、バットを短く持つ選手より、気分がいいだろう。プロではないのだから、主役はあくまで選手。楽しく、リトルリーグの延長のような、エンジョイベースボールを最後まで貫いてほしい。対戦校の選手たちもだ。高校野球を楽しんでほしい。誰それはプロのスカウトに高く評価されているとか、低くみられているとか、そんな「商品価値」をあれこれと取り沙汰するような話は二の次で結構だ。主役はゲームをし、楽しむ球児たち自身であるべきだ。

 28日の準決勝の対八王子学園戦には、何とか仕事を片付けて神宮へ応援に駆けつけるつもりだ(※前述の通り、これは準決勝前に書いた記事であり、28日の準決勝、早実は八王子学園を4-1でくだし、決勝進出を決めている)。それが最後になるかもしれないし、もう一試合、神宮で楽しませてもらえるかもしれない。学校の勉強を両立させながらここまで健闘している後輩たちを誇りに思う。相手校選手も。

 両チームとも力を出し切った、ベストゲームが見られること、また、できれば、チャンスと得点ごとに歌う第一応援歌、紺碧の空を、何度も歌うチャンスがあることを祈る。

※ 2017年7月27日のツイートを並べて掲載いたしました。

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