加計学園による獣医学部新設問題で追及され続けていることが「頭にきた」のだという。だからもっと獣医学部をつくってやる、というのだ。これは獣医師の供給は十分足りているという見解を発表した日本獣医師学会への、最高権力者による「パワハラ」ではないだろうか!?
安倍総理は2017年6月24日、神戸市内で開かれた「神戸『正論』懇話会」で講演し、獣医学部を新設する国家戦略特区について、「(愛媛県)今治市に限定する必要はない。速やかに全国展開を目指したい。意欲があれば獣医学部新設を認める」と述べた。
翌日25日放送の日本テレビ「真相報道バンキシャ!」が報じたところによると、安倍総理はこの発言について、「あまりにも批判が続くから、頭に来て言ったんだ」と述べたという。
言うまでもなく、「加計学園」問題で安倍総理への批判が続くのは、国家戦略特区という制度を利用して政府が自分たちの「身内」にだけ便宜を図ったのではないかという疑惑が浮上し、それを裏づけるに十分な「証拠」が次々と出てきているからである。開き直るかのように、「他にも獣医学部新設を認めてやればいいんだろ」という乱暴で自分勝手な発想だ。
獣医師会や既存の獣医学部のある大学を「既得権をもつ抵抗勢力」とみなして次々と新規参入を認め、需給バランスをムチャクチャにしてしまう。暴力的ともいえる発想。何よりも、自分自身の権力の濫用がとがめられているのに、その批判の応答として、さらに権力を濫用してみせる。確信犯的で、幼児的な、独裁者然としたふるまい。もはや、国民は、言葉を失うしかない。
「『広域的に』獣医師系養成大学等の『存在し』ない地域に『限り』」――応募条件を加計学園1校に絞るよう指示したのは萩生田官房副長官?
「証拠」は、文科省の内部文書や、前川喜平・前事務次官、さらには現職の文科省職員の告発など、後を絶たない。中でも重要なのが、獣医学部の新設に応募する条件を、実質的に加計学園1校に絞った、以下の文書である。
▲手書きで「条件」が書き加えられた文書(2017年6月15日文科省公表)
文書には、「獣医師系養成大学等のない地域において獣医学部の新設を可能とする」とタイプされた文字に修正が加えられ、「『広域的に』獣医師系養成大学等の『存在し』ない地域に『限り』」(『』内は手書き)となっている。
ここに追記された「広域的」「存在しない地域に限り」といった文言により、加計学園と同様に獣医学部の新設を検討していた京都産業大学が条件から外れ、加計学園の岡山理科大学のみが特区制度に応募できるようになった。
▲岡山理科大学
後に、文科省が行った再調査によって出てきた内部メールには、この「書き換え」が萩生田光一官房副長官の指示であるとはっきりと記されていた。
▲「萩生田副長官」の名前がはっきりと書かれた文科省の内部メール(2017年
6月15日文科省公表、赤下線はIWJ
ところが、山本幸三地方創生担当大臣は、6月16日の参議院内閣委員会で、「『広域的に』、『限る』というのは、私の指示で内閣府で入れた」と述べ、萩生田官房副長官の関与を否定してみせた。また、文書中に登場する藤原豊審議官も、口裏を合わせるように、指示は「山本大臣からあった」と「訂正」したが、どう考えても不自然きわまりない。
この文書を作成したのは、文科省から内閣府へ出向した30代の女性課長補佐である。霞が関の中枢で働く、課長補佐が、間違いなく事務能力においては有能と思われる藤原審議官からの直々の「山本幸三地方創生担当大臣からの指示」という重要な伝達内容を「萩生田官房副長官の指示」と聞き取り間違えたなどということがありえるだろうか。いくらなんでもありえない話である。
ミスではなかったら、故意だった、ということになるが、その課長補佐に「山本」を「萩生田」とわざわざ置きかえて自分の古巣の文科省へ提示する動機も見あたらない。
「獣医師会等からこういう要請があった」…安倍総理の国会答弁を日本獣医師会・北村直人顧問が正面から否定
あからさまな加計学園への「優遇策」と映るこの「書き換え」をめぐり、野党は国会で追及を続けてきた。驚くべきことに――いや、もはや誰も驚かなくなっているかもしれないが、安倍総理は、国会で堂々と虚偽答弁を行なっている。
6月5日の衆議院決算行政監視委員会で、民進党の宮崎岳志衆議院議員は、「広域的に他の獣医学部がない地域に限る、あるいは一校に限る、こういったものは、ライバルであった京都産業大学を追い落とすために後からはめられた条件じゃないか、こういう疑惑があるわけですよ」と指摘。
それに対して安倍総理は、「1校に限るという要件は獣医師会等の慎重な意見に配慮したものでありまして、これは獣医師会等からこういう要請があったんですよ」と答弁した。
- 決算行政監視委員会 宮崎岳志議員質疑(2017年6月5日、衆議院インターネット審議中継)
安倍総理のこの答弁は真っ赤な嘘である。5月24日に民進党の「加計学園疑惑調査チーム」が日本獣医師会顧問の北村直人氏にヒアリングを行った際、北村氏は「獣医師会の要望があったから1校新設になったというのはまったく違う」と述べている。
また、山本地方創生担当大臣も6月9日の会見で、日本獣医師会から「広域的に存在しない地域に限る」という条件を求められたことはなかったことを認めている。閣僚からも訂正の発言を出さざるをえないほどの大嘘を、ペラペラと口にした安倍総理はその後、自分自身で謝罪や訂正を行っていない。その場限りの嘘をついてつきっぱなし。幼児以下の所業である。
- 山本大臣閣議後記者会見(平成29年6月9日、政府インターネットテレビ)
「全国的な獣医師総数は不足していない」――「国家戦略特区の全国展開」安倍総理の突飛な発案で獣医師の需給バランスはガタガタに!? 日本獣医師会の声明を全文掲載!
「ご友人」の学校法人の獣医学部新設をめぐり、これだけ無責任な答弁を繰り返してきた安倍総理に対し、野党や国民からの「批判(追及のこと)」が絶えないのは、当然のことである。
しかし、「あまりにも批判が続く」から、「頭にきた」安倍総理から飛び出したのは、前述したとおりの「獣医学部を全国につくる」という、支離滅裂でヤケクソとしか言いようのない「珍案」だった。「木を隠すには森の中」という言葉があるが、加計学園という「木」が問題をはらんでいると露見したあとで、事後的に次々と獣医学部の新設を認めてその「森」の中に隠してしまおう、というのはあまりにマヌケ過ぎる。
安倍総理のつく「許されざる嘘」については、弁明の余地はまったくないが、問題とすべきは、安倍総理の発言に、獣医師の「需給バランス」の観点が一切欠如している点である。
6月22日に総会を開いた日本獣医師会は、「国家戦略特区による獣医学部の新設に係る日本獣医師会の考え方について」とする声明を発表した。
そこには、はっきりと「地域・職域の偏在は見られるものの全国的な獣医師総数は不足していない」「獣医学部を新設し、教育資源の分散を招くことは、これまでの国際水準の獣医学教育の充実に向けた取組に逆行するものと言わざるを得ません」と書かれている。
獣医師の総数が不足していない中で全国に獣医学部を増設すれば、獣医師が供給過剰になることは火を見るより明らかだ。そうなったとき、政府は一体どのように責任を取るつもりだろうか?
供給を抑制するあらゆる規制を取り払って供給過剰状態を引き起こし、あとは獣医師同士、あるいは獣医学部同士の競争によって淘汰されればいい、という思考は、競争がすべて、弱肉強食を是とする市場万能主義、新自由主義の思想に通底するものである。安倍総理の狂気じみた発送の根底には、根深い毒がある。
岩上安身は、7月15日に日本獣医師会顧問の北村直人氏に、再びインタビューを行う予定である。
以下、22日に発表された日本獣医師会の声明「国家戦略特区による獣医学部の新設に係る日本獣医師会の考え方について」を掲載する。ぜひ、ご一読願いたい。
獣医師数が不足しているらしい、という話を聞いて、ネット検索していて、この記事を見つけました。「日本獣医師会の声明」を「ぜひ、ご一読願いたい。」ということでしたので、興味深く拝読しました。
そこで、質問があります。お答え頂けるとありがたいです。
(1)教育水準
「声明」の主筆者の方の主張をよりよく理解したく、検索したところ、下記がありました。
「OIEシンポジウム 日本の獣医師と獣医学教育;現状と今後の検討課題」http://www.rrasia.oie.int/fileadmin/Regional_Representation/Programme/O_others/2017_Dr_Eloit/Dr_Kurauchi_JP.pdf
これを見ますと、日本の獣医師教育は、未だ国際水準に至っていないようです。悲しいです。
一方「声明」を読むと、「半世紀にわたって国際水準達成に向けた教育改革に尽力してまいりました。」と書いてありました。
半世紀も尽力して、未だ国際水準に至っていないのであれば、申し訳無いのですが、獣医師会の皆さんや、文部省のやり方に何か問題があるように思います。彼らに任せてもダメなんじゃないか、と素直に思いました。
岩上様はどのようにお考えなのでしょうか。
(2)偏在
「声明」の6個目の「○」には、小動物に就業する人が多く、公務員は待遇が悪いから就業する人が少ない、と書いていあります。
「OIEシンポジウム 日本の獣医師と獣医学教育;現状と今後の検討課題」の「獣医大学卒業生の就職状況の変遷」というところを見ますと、実績ベースでは「声明」とはなんか違うように思いました。
どう解釈したら良いのでしょうか。どうなんでしょう。