【週刊文春による鳥越俊太郎氏スキャンダル報道】「問われるのは記事の真実性」元東京地検検事・落合洋司弁護士が指摘 2016.7.21

記事公開日:2016.7.21 テキスト
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 7月21日、週刊文春が都知事選候補・鳥越俊太郎氏のスキャンダル疑惑を報じた。「鳥越俊太郎『女子大生淫行』疑惑」と題する記事は、鳥越氏が過去に教え子だった女子大生を自身の別荘へ連れて行き、そこで強引にキスをした、という内容を、当時女子大生の恋人で現・夫の男性が証言する、という構成だ。

 この男性は記事のなかで、鳥越氏と女子大生を交えて3人で会って話したことや、その後、たまたま男性の関わるイベントに鳥越氏が出演することになった際に、鳥越氏に対して出演を取りやめるようメールを送ったエピソードなどを、赤裸々に語っている。では、仮にこの記事の内容が真実だったとして、鳥越氏はどのような問題・責任が生じるのか。逆に、当事者女性に話が聞けていない段階にも関わらず「淫行」と題する記事を出す文春側に問題はないのか。

 IWJは、元東京地検検事で刑事事件に詳しく、落合洋司弁護士に、話を聞いた。

落合洋司弁護士

落合洋司弁護士

――まず、鳥越氏の「強引にキスをした」というのが事実だとして、法的な問題が生じるものなのでしょうか?

落合氏「記事では具体的な状況がいま一つ分からないが、あくまで一つの可能性として刑事事件の観点でみた場合、強制わいせつ、強姦未遂罪で問題になる余地はある。余地はね。しかし少なくとも十数年前の事件なので、立件するのは無理。時効になっているのだから。

 だから仮に当時、女性が警察に相談に行ったと。で、告訴したとして、警察が一定の疑いをもって捜査の対象にしていく、というのはあり得ない話ではない(あくまで当時)。ただまあ具体的な状況によるんで、起訴される件だったかどうかというのは、この記事を見るだけでは分からない」

――記事によれば、この証言者の男性は鳥越氏に対し、「イベントをキャンセルして欲しい」メールを送っている。こうした行為に対し、鳥越氏が法的手段に訴える可能性はあるのでしょうか?

落合氏「イベントに出るな、と言ったことについて言うと、脅迫罪は一定の害悪を告知していくこと。わかりやすいのは『殺すぞ』というような身体的な害悪の告知。しかし脅迫罪には、名誉とか信用に対する害悪の告知も含まれます。『あなたについて世間に対してバラしていく』というのも一つの害悪の告知。この男性のメールだけでは分からないが、『イベントに出たらバラすぞ、公表するぞ』と言っていたら脅迫罪が適用されうる。

 また強要罪というのもある。これは義務のないことをやらせたり、行うことをやめさせる、というもの。(あくまでメールの中身を見ないと分からないが)中身によっては強要罪にあたる」

――この選挙戦まっただ中というタイミングでの文春の記事に対し、鳥越氏側は名誉毀損であり選挙妨害にあたると猛抗議をしている。確かに、見出しに「淫行」とまで書くのは問題があるのでは?

落合氏「うーん…個人の私生活上のことを取り上げてはいるが、記事は、これから都知事になろうとしている人の人としての資質とか人間性に関わるもの、とは言えると思う。違法性棄却といって名誉毀損じゃなくなる要件がいくつかある。公益性とか公共利害性とか。この点については否定しづらい。

 だから問題は真実性。どこまで真実かどうか。仮に真実でないとした場合に、文春が記事にする場合に、それ相応の根拠、裏を取ったうえで書いているのかが大きく問われる。記事では、その辺、どこまで根拠をもっているかが今ひとつわかりにくい。

 裁判になった時に文春にとってプラス面は、女性から証言は取れなかったが、女性の夫、しかも当時女性から話を聞いている立場の人、という人から証言をとっているのは大きい。真実ではないという認定を受けたとしても、真実であると信じるに足る根拠だと認められるというのも、方向性としてはある

 文春にとってマイナス面としては、女性から直接話を聞けてない、また聞きになってしまっているので。

 メールのやり取りについても、どこまで入手したか。真実と信じるに足る相応の根拠を立証していくのに大きい役割を持つ。

 過去の判例を見ると、名誉毀損の被害者だと言う側(今回で言えば鳥越さん)の人に対して、きちんと取材をしたかどうか、その人の言い分を聞いたかどうかが問われるが、本件の場合はそれも(文春側は)しっかりやっているみたいなので。

 文春としては、『やれることはやっている』と裁判で申し開きができるほどの裏はとっているのではないかなと思える。最終的に裁判でそれが認められるかどうかはもちろん微妙さはありますよ」

――選挙妨害かどうかについては?

落合氏「日本は表現の自由が保障されている国ですから、選挙期間中とはいえ、きちんと裏は取ったと、名誉毀損にならないという判断のもとにマスコミが記事を出す、ということに対して、『選挙妨害だからいけません』とはなかなか言い難いものはありますよね。『選挙の時はどの候補のスキャンダルも報じてはいけません』みたいなルールでもればまた別ですけどね。そんなものはないし。だから即、選挙妨害なのでいけません、表現の自由とは認められません、とはいえないでしょうね。

 もちろん悪意のある中傷記事はいけませんが、(今回に記事は)そうだと即断はできない。それなりの取材をした形跡はあり、それなりに具体的な記事を書いているし、てきとうに噂話をつなぎあわせて書いているわけではない。そのうえで、候補者の資質を問うという記事に対して、そのこと自体が表現の自由を超えている、選挙妨害だからいけません、とは言えないんじゃないですかね」

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